ハリー・ポッターと暴食の悪魔   作:普段は読み専用

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前の投稿から一ヶ月以上も空いてしまいました。
忙しくて休みがもらえず、すみません。


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 進級試験最終日。今夜ダンブルドアが魔法省に出張して不在であることを知ったハリー達三人は、グラッドが禁じられた廊下の奥に隠された何かを狙うだろうと考えた。その後の調べで隠されたものが賢者の石であるとハーマイオニーは推測している。錬金術における伝説級の代物で、そのようなものがあの悪魔のような男の手に渡れば最悪なことになる。その危険性をそれとなくマクゴナガルなどの信用のおける教師数人に話せてみるも、あの男が食べること以外に興味を持つとは思えないと聞き入れてもらえない。こうなった以上は自分達がダンブルドアの代わり石を守るしかないと考えた。

 

「よし、いくよ」

 

「うん」

 

 皆が寝静まった夜、寮の部屋で他のルームメイトが寝たのを確認したハリーとロンはベッドから抜け出すと時計を確認する。ハーマイオニーとの待ち合わせ時間まであと10分。ちょうどいい時間だ。彼女の見立てでは、グラッドが動き出すのは他の教員も寝静まるだろう日の変わる時間帯とのこと。現在は23時で寮の中ではすでに起きているものの気配はない。生徒は皆眠っているようだ。部屋から抜け出してハーマイオニーと合流するために談話室を目指す。その背中を一匹の虫が暗闇から覗いているのには誰も気がつかなかった。

 

「ん?」

 

 談話室が近くなるにつれ、誰かが話す声が聞こえてきた。ハリーとロンは扉から談話室を覗き込むと、ハーマイオニーと何故かネビルが対峙していた。どうやらネビルが談話室の出入り口の前に立ちふさがって彼女が夜の学校へ外出するのを拒んでいるらしい。

 

「なんでネビルがここに?」

 

「……やっぱりハリーとロンも一緒だ。また君達は夜の学校へ行く気だろう?」

 

 どうやら三人が夜の校舎へとまた外出する計画を立てているのを偶然耳にしたらしいネビルは、友人たちの企てを阻止しようと談話室で待ち伏せていたらしい。普段は弱気なネビルが頑として譲らないので、ハーマイオニーも戸惑っているらしい。

 

「なぁネビル。そこをどいてくれないか?」

 

「僕達は何も遊んでいるつもりはないよ。真剣なんだ」

 

「そうよネビル。私達しかダンブルドアが不在の今、あの男を止めることはできないの」

 

 彼が心優しいのは知っている。しかし、ハリー達はネビルが非常に鈍くちょっとしたミスを繰り返すことも知っている。ここから先は命がけになるかもしれない危険が待っているかもしれない。そんな場所へネビルを連れて行くという選択肢はなかった。彼には今は黙って通してもらうしかない。しかし、ネビルは譲ろうとはしてくれない。

 

「僕だって、君達が皆がいうようなふざけて寮の点を下げる奴じゃないことくらい知ってるさ」

 

「だったら……」

 

「だからこそ、遊びじゃなくて本気で君達が危ないことをしようとしているのは解るよ」

 

 ハリー達がネビルを知るように、ネビルもまたハリー達のことを知っていた。意味もなく校則を破ってまで遊びで夜の校舎を徘徊するような人間ではない。少なくとも以前にそれでグリフィンドールに減点を喰らっており、彼ら自身罰則で禁じられた森の巡回までさせられているのだ。そんな目に遭いながら同じ愚行を繰り返す人間ではないとネビルは思っていた。では今、再び校則を破って夜の学校へと赴こうとする彼等は一体何をしようとしているのか? 遊びじゃないのは理解している。ダンブルドアが不在という現状、禁じられた森でハリーが何か怖い目に遭った事、同じ目に遭ったマルフォイが転校してしまったほどの恐ろしいこと。ハリー達が何と戦おうとしているのかはわからないが、ここ最近のことを総合して考えれば、それがひどく危険なことなのだろうというのは想像がついた。正直、こうやって彼等の前に立ちふさがるのはネビルにとって怖いと思えることだ。喧嘩になれば、ネビルに勝ち目などないだろう。いや、喧嘩になるだけならばまだいい。悪ければ関係が悪化し、彼は数少ない友人を失うことになる。だがその可能性を考慮しても、友人をこのまま行かせるという事を許せなかった。危険と知りながら友人を行かせることを許容する自分が許せなかった。だからネビルはハリー達の前に立ちふさがるのだ。

 

「なぁ、お願いだよネビル。今は黙ってそこをどいてくれ、時間がないんだ」

 

「どかないよ、僕は君たちの事を友達だと思っているから」

 

 談話室に取り付けられた時計の秒針が立てるカチカチという音が、悪戯に時間を消費しているように感じさせる。それはハリー達の焦燥感をかきたてた。ネビルの想いは解るが、ハリーたちにはここでぐだぐだとしている時間はない。彼等もこの場を譲る気は無かった。互いに譲らない膠着状態が続くと思われたが、その場を動かしたのはハーマイオニーだった。

 

「ステューピファイ……ごめんねネビル」

 

 彼女は杖を抜くと、ネビルに向かって失神呪文を放つ。赤い閃光がネビルに着弾すると、彼の意識は急激に薄れていき前のめりに倒れこんだ。まさか友人に向かって呪文を放つとは思っていなかったハリーとロンはこのことに少なからず驚いた。三人の仲で唯一の女の子であり、他でもない一番優しい性格をしているだろうハーマイオニーがそれを行使したということに二人は一層驚いた。

 

「さすがにやりすぎじゃぁ……」

 

「私もネビルには悪いことをしたと思っているわ。でもここで時間を悪戯に潰すわけにはいかないの。賢者の石がラトニーの手に渡ったら、ネビルも失神じゃすまないかもしれないのよ?」

 

 ハーマイオニーは三人の中で最も今回のことを危惧していた。きっとあのグラッド・ラトニーという男はダンブルドアがいるから大人しくしているだけで、賢者の石を手に入れて校長よりも強い力を手に入れたら生徒や教職員もその手にかける……否、その胃袋に収める気だ。そう彼女は考えている。別にグラッドは賢者の石を狙ってなどはいないが、あながち間違っていない。グラッドが自由に振舞える力を手に入れれば、ここに失神して倒れているネビルも食べられて死んでしまうかもしれないのだ。大事の前の小事。背に腹は代えられない。ここは割り切るしかないと自分に言い聞かせ、無理矢理納得して前へと進む三人。

 

「……」

 

 その靴音を薄れいく意識の中、ネビルの耳は捉えていた。あぁ、結局僕は友達を止めることができなかった。なんで僕は何も守ることができないんだ。愚図で鈍間で、何かを成し遂げることも、友達が危ないことをしているのを止めることもできない。ましてや代わりに自分がその危険なことを行うこともできなければ、同行するだけの実力も勇気もない。僕は駄目な奴だ。

 自身の不甲斐なさに嘆き、こんな自分は嫌だと反発する声が夢の中へと溶けるように消えていく。意識と記憶があいまいになっていく中、ネビルの脳内にある言葉が浮かび上がった。

 

 

『使い魔のやることは主のやることだ。ロングボトム、今は力がないお前でも悪魔を使い魔とすればできることも増えるぞ?』

 

 

 それは悪魔の囁き。かつて廊下で出会った新しいホグワーツの教師の言葉。そうだ、僕が弱いなら強い使い魔を手に入れれば……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それより少し前、校舎の4階にある禁じられた廊下を一人の男が歩いていた。

 冷たい空気が充満する廊下に、カツカツと靴音が響いては消えていく。彼の視線の先には、ダンブルドアが何かを隠したと思われる部屋へと続く一枚の扉。以前、クィリナス・クィレルが覗こうとしていた部屋だ。

 

「さて、何が出てくるのやら」

 

 つい先ほど、周囲を警戒しながらも扉を開いて中へと入っていったクィレル。その姿を思い浮かべて舌なめずりをするのはやはりグラッド・ラトニーであった。あの闇の魔術の防衛術の教師が何かを狙っているのは解っていた。今夜ダンブルドアが魔法省への出張で外出しているこのタイミングを逃すとは考えられない。案の定、ダンブルドアがホグワーツを出てすぐにクィレルは行動を開始した。ハープを手に例の扉から部屋に入っていった彼を見て口角を吊り上げる。

 

「成程、音楽でケルベロスを眠らせるわけか。さすが教師だけあってよく知っているじゃないか」

 

 隠された何かを守る番人であるケルベロスを出し抜くための術もきっちりと用意しているわけだ。これはもしかするとダンブルドアのこのタイミングでの魔法省からの呼び出しも、あの男の工作なのかもしれない。そんなことはグラッドにとってはどうでも良いことであったが。

 

「ハリー・ポッターは……動き出したか」

 

 彼の護衛の為につけていた監視のイナゴが、ハリー達が行動を開始したことを告げる。このイナゴの使い魔は一匹一匹の戦闘力は弱くとも、グラッドの肉体を分離して作り出したものでもあるために、こうして離れた場所の景色をリンクさせてみることができるのが最大の利点であった。何故かは知らないが、ハリーとその友人達はクィレルではなくグラッドが何かを狙っていると勘違いしているらしい。直接彼らに危害を加えたこともなければ、契約に縛られている今のグラッドには危害を加えるどころか彼らを守る義務すらあるのだが、何故に怪しまれているのかはいくら首をひねったところで理解できなかった。首をひねりすぎてありえない状態になっていることが生徒に恐怖心を植え付け、猜疑心へと繋がっているのだが人の感情の機微にはあまり興味のないグラッドには与り知らぬことである。

 だが、この状況は彼にとっては都合の良いものである。契約により学校の教師であるクィレルを食べることができないわけだが、最重要護衛対象であるハリーに危害を加える人物と成れば話は別である。ハリーを守るために攻撃するも、攻撃対象に手を出してはいけないとなれば難しい。その矛盾を解消するために契約の項目に盛り込まれている。グラッドがダンブルドアとの契約で決められた内容は以下のものだ。

 

1 グラッド・ラトニーは契約者であるアルバス・ダンブルドアの願いを叶えるものとする。

 

2 願いはハリー・ポッターが成人するまでの間、あらゆる外敵から彼を守護することである。

 

3 護衛環境のためにグラッド・ラトニーはホグワーツ魔法魔術学校にて教師の任に就く。

 

4 教師である間は学校の教師、生徒など学校関係者に危害を加えてはならない。

  (特例としてその人物がハリーに危害を加える危険人物である場合は別とする)

 

5 学校の敷地内からは許可なく一歩も出てはいけない。

 

6 対価としてグラッド・ラトニーの食事を毎日3食用意すること。

 

7 ハリー・ポッターを守りきったと判断された時、アルバス・ダンブルドアは対価としてその命を差し出すこと。

 

 以上が二人の間で取り決められたことである。禁じられた森の動物なども危害を加えない対象として盛り込んでおけば良かったとダンブルドアは嘆いていたりもするが、完全に後の祭りである。グラッドを起用しようと考えた時点でそこまでの考えに至らなかったあの老人が悪いとしかいいようがない。

 閑話休題。つまり、グラッドはクィレルを食すためにハリーを襲わせるつもりであった。13年前に食べた死喰い人と同じ臭い、否、それ以上に美味しそうな穢れた魂の臭いをしている彼ならば、条件さえ揃ってしまえばハリーを襲うであろう事は計算できる。あぁ、早く食いたい。かつて食べたあの味を思い出すだけで恍惚とした表情を浮かべそうになる。抑えていた空腹感からグルルルル……と腹の虫が騒ぎ出す。

 

「そろそろアレを通過したころか」

 

 クィレルが扉を通過して数分、頃合だろうと扉を開ける。するとどうだろう、確かに彼は第一の関門であるケルベロスを無事通過したようである。実際、三頭犬の背後にある扉は開いていた。だがクィレルのハープの奏でる音で寝ているはずのケルベロスが起きていて、こちらにうなり声をあげて犬歯を剥き出しにして威嚇している。

 

「おやおや、てっきりオネンネしていると思っていたんだがねぇ」

 

「……フン、貴様のその耳障りな音がする中でのんびり居眠りなどできるはずもなかろうが」

 

 三つの首のうち、中央の首が流暢な人間の言葉で話し出した。そのことに驚きを表すどころか実に楽しそうな表情を見せるグラッド。普通は巨大な犬が、それも神話に出てくるケルベロスが言葉を喋ったとなれば驚くものだが、グラッドからすれば当然といえた。なぜならば目の前の巨大な犬は単なる冥界の番犬ではない。グラッドの推測が正しければ地獄の侯爵の一柱であり、19の軍団を率いる大悪魔ナベリウスの別の姿だ。ダンブルドアの命で番人をするにあたり、それに見合った姿になっているにすぎない。

 

「そうかい? 子守唄代わりにゃあ丁度いいんじゃねぇの?」

 

「貴様にどれだけの我が同胞が食われたと思っている? その耳障りな音を聞くたびに我等の腹が煮えくり返るわ!」

 

 怒りの表情を向けてくる相手に対し、にやにやと厭らしい笑みを浮かべるグラッド。彼は楽しくて仕方がないようだ。

 

「俺としてはさっき通った男を追いかけたいんだがね。今は同じ契約主に仕える身だ。大人しく通しちゃあくれないか」

 

「我は手順を踏んで通るものは通して構わぬといわれている。あの男は相応の音色を奏でた」

 

 その言葉にふむ、と少しばかり考える。何者も通すなという命令ではないようだ。おそらくダンブルドアはハリーがこの場にたどり着くことを想定している。そしてクィレルのこともお見通しなのだろう。これはあえてハリーに対して1つの試練として見逃している節がある。グラッドはそのことを聞かされていないが、これは一体いかなることか。事について考えようとするも、まぁクィレルがハリー・ポッターを襲うなら食べてしまっても文句は言うまいと早々に結論付けてしまった。

 

「へぇ……なら俺のこいつも十分音色になるんじゃねぇの?」

 

「ほざけ」

 

 グラッドのおどけた言葉に、ケルベロスはにやりと口を歪ませる。三つ首の1つが突然天に向かって遠吠えをした。ビリビリと狭い部屋の中に反響すると同時、ケルベロスの足元から青白く光る魔方陣が部屋の床全体を飲み込むように広がった。

 

「……ほぅ」

 

 一瞬の浮遊感の後、彼等が佇んでいたのは広いドーム状の空間だった。先ほどまでの5平方メートルの小さな立方体の部屋ではない。広さにして約1000平方メールはありそうな円形の部屋であり、天井は半球状でステンドグラスが張り巡らされている。まるでどこぞの教会のような雰囲気を醸し出しているが、ステンドグラスに描かれているのは天使でなく悪魔達である。どうやら先ほど目の前の大悪魔が唱えたのは空間に干渉する魔法の一種らしい。一瞬で別の場所に瞬間移動した―――というよりも、一瞬で別の異空間を作り出してそこに引きずり込まれたといったほうが正しいだろう。契約で学校の敷地内から出ることのできないグラッドが、こうして平然とたっているのがその証拠だ。このような場所はホグワーツには存在しない。つまり、敷地内にこの異空間を作り出したということになる。壁に沿うようにしてたっている幾本もの柱の影からぞろぞろと眷属らしき悪魔達が姿を現した。二つ首の犬、黒い巨犬、禍々しい嘴の烏に多数の亡者達。それらがグラッドを取り囲む。

 

「音色が仮に奏でられていたとしても我等に貴様を見逃す理由はありはしない」

 

「ずいぶん大きく出たもんだなぁ……たかだか侯爵の分際で王を殺せるとでも思っているのか?」

 

「黙れ、貴様を王と認めるものなど存在せぬわ!」

 

 ケルベロスの肉体が膨張し、その背中の皮膚が内側から弾け飛ぶ。中から漆黒の翼が広がり天井を覆った。翼を動かすだけで半球状の空間に暴風が吹き荒れる。三つ首の巨犬の肉体から翼に遅れて溢れ出した闇が凝縮し、鳥の胴体を象っていく。

 

「このナベリウスが今この場で貴様に引導を渡してくれる」

 

 真っ赤に光る双眸が憎しみの篭った視線でグラッドを貫く。しかし、それに対峙するグラッドの瞳もまた、狂喜に染まりらんらんと輝いていた。口角は三日月のように吊り上り、噛み合わされた乱杭歯の隙間からだらだらと涎が垂れ流され床に小さな水溜りを形成している。これからのことも思ってか、腹部からは大音量で地響きにも似た音が流れている。その音の影響か、天井のステンドグラスがビリビリと小刻みに震えていた。

 

「ここで死ね――――××××!!」

 

「やってみな!! ぎゃはははははははははははははははは!!」

 

 ハリー達が禁じられた廊下に到着した頃、異空間にて悪魔達の戦争が始まった。

 

 

 




お待たせしました。待っててくれる人がいたら幸いです。
時間が経過してしまい、内容は頭にあるのに書けない日々。
しかもあまりに書けなさ過ぎて脳内で他のアイデアまで出てきてしまい・・・・・・
これと平行して今度ペルソナ4の二次創作も書きたいなって欲望ががががが

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