デート・ア・ライブ―精霊喰いは精霊に恋する―   作:ホスパッチ

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第三五話『或美マン爆誕』

 「夕騎、突然いなくなるから心配したのよ! 怪我はない?」

 「いやぁ色々あったが怪我はしてないな、心配性だな零弥たんは」

 「わたくしも心配しましたのよ夕騎さん」

 強風から激しい嵐に変わり天候が荒れていたが突如として今までの悪天候が嘘のようになり、資料館にいた零弥たちは行方知らずになった夕騎を探しに行こうとしていたがけろっと帰ってきたので零弥は心配そうに夕騎の身体に怪我がないか見たり、乱れた髪を直したりと大忙しだ。

 狂三も心配してくれていたのか零弥に合わせて夕騎の身体を色々と確認している。

 あまりにも心配性な二人を夕騎は両手でがばっと抱きしめれば屈託のない笑みを向け、

 「大丈夫だって、突然いなくなって悪かったな。あれだ、大人の事情ってヤツだ」

 「とにかく無事で良かった……ん?」

 「……あらあら」

 納得したように頷く零弥は突如として怪訝そうな声を上げる。狂三も何か訝しいように夕騎の顔を見上げる。急に雲行き怪しくなった二人に夕騎も不思議そうな顔をし、

 「ん、どした?」

 

 「……他の女のにおいがするわ」

 「……他の女性のにおいがいたしますわ」

 

 「…………」

 「どうして明後日の方角を見るのかしら夕騎」

 「浮気は極刑、ですわよ」

 多分エレンが空中艦に連絡を取る際に盗聴しようとして引っ付いたときに残り香がついてしまぅたのだろう。ありのまま説明すれば零弥や狂三は納得してくれるだろうが言ってしまえば余計な心配をかけてしまうどころか事態は複雑になりそうでどうにか誤魔化さなければならない。

 しかし、零弥には嘘をつかないと決めている。どうすればいいのか、夕騎は迫る二人の顔に引き下がりながら士道の方へ視線を向ける。

 「五河くん、現地の女の子ナンパしてコスプレプレイ? バカなの、死ぬの?」

 「そんなお前にいいバイトがあるぞ。『一分一○○○円で殴りたい放題』、同時進行で一日もすればお前は家を建てれるぞ」

 十香を背負った士道の両腕には耶俱矢、夕弦が腕を絡ませて誘惑している。これは耶俱矢が提案した決闘方法で二人のどちらに『魅力』があるか競うものらしい。

 先に士道を自分の魅力で落とした方が勝ちらしく、士道は完全に巻き込まれてしまった。

 それを見たクラスメートが何やら嫉妬というか殺意というかとにかく負の感情をそのままダイレクトにぶつけていてある意味修羅場のようだ。助けを求めてもとても助力になるようには思えない。いや『魅力』勝負と決まったときに士道からのヘルプコールを聞いていたものの見捨ててしまった夕騎はこれで同じだろう。

 あまりにも追い詰められた夕騎はどうにか嘘をつかずに穏便に済ませるためにお腹に手を当て、

 「ぐ…………」

 「「…………ぐ?」」

 「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……きゅ、急にお腹がアイタタ、あれ? 超お腹痛くなっちゃったか、な? というわけで俺はその、トイレに行ってくる! 二人共修学旅行楽しめよ!!」

 追及される前に全力ダッシュ。とにかく走る。

 今回ばかりは零弥たちに構っていられない事情が出来てしまった。

 空中には神無月率いる<フラクシナス>が待機している。<アルバテル>の相手は<フラクシナス>に任せるにしても地上には普段はポンコツだが戦闘になれば人類最強の魔導師(ウィザード)であるエレンやよくわからないが<バンダースナッチ>という兵器まであるそうだ。

 それと<ベルセルク>をずっと追っているDEM社の魔導師(ウィザード)二人がこの島に向かってきている。

 士道には八舞姉妹に集中してもらいたい。

 ならば夕騎は何をするべきか。色々なことが浮かんでくる。

 一つ目に、エレンの精霊捕獲作戦を失敗させる。

 二つ目に、<ベルセルク>を狙っているDEM社の魔導師(ウィザード)を撃退する。

 三つ目に、DEM社の内部事情を知り続けるためにエレンや他のDEM社の者に裏切りを知られてはならない。

 四つ目に、これらを実行するにあたって零弥たちを心配させないこと。

 「何だかんだで四つ目が一番難しそうな気がするが……やるっきゃねえ。この地上で戦えるのは俺しかいねえしな」

 やる気に満ち溢れてきた夕騎は天高く拳を掲げたのだった。

 

 

 

 一八時五○分。

 旅館の通路を一人の男が歩いていた。

 全身をライダースーツで身を包み、容貌はフルフェイスのヘルメットを被っており正体は謎に――包まれていない。中身は当然夕騎である。修学旅行の寝間着として持ってきていたものだがまさかこういうところで役に立つとは。

 「うおっヒーロー!?」

 だが荷物を置いた部屋から歩いていたので通路で当然生徒たちに見られる。そのたびに持っていたプラカードを見せて納得させる。

 プラカードに記されているのは『或美島の平和を守る正義の味方、或美マンです』の文字。それを見れば生徒たちは納得してくれるが、その背中に背負っている物にはあまり納得してくれていない。

 背中に背負っているのは様々な武器の数々をしまったコンテナのようなもの。これはASTの倉庫にあったものを色々と借りてきたのだ。それを修学旅行の前日に一旦<フラクシナス>に送っておいて先に或美島の旅館の庭に転送してもらっていた、さすがにこんなものを荷物として飛行機に乗せようとすれば間違いなく荷物検査で引っかかる。

 そんなことを考えながら夕騎はふと士道たちのことを考える。

 今頃八舞姉妹二人は士道を落とそうと躍起になっている、それを考えると自分はどうしてこんな何も褒美のないことをしようとしているのだろうかと一瞬頭によぎってしまうが仕方ない。士道も自分にしか出来ないことをしているのだ。夕騎も自分にしか出来ないことをするだけだ。

 例え見返りがなくても零弥たちが「修学旅行は楽しかった」と言ってくれればいい。

 「……夕騎?」

 声を掛けられ、或美マンの肩は大きく震える。

 目の前に現れたのは零弥と狂三、二人共手にはタオルと着替えを持っていてどうやら今から入浴に向かうらしい。何だかんだ言ってこの二人仲が良いわけであるが出来るなら今は話しかけて欲しくなかった。

 とりあえず誤魔化しきれるかわからないがプラカードを見せてみる。

 「正義の味方……」

 「……或美マン、ですか」

 二人共プラカードを見てみれば不審そうな視線で或美マンとプラカードを見比べて目を細める。

 ライトノベルの主人公のように鈍感キャラではないこの二人に対して或美マンの中の人、夕騎はまだ何もしていないというのに冷や汗が流れる。

 もうここでバレてしまえばすぐさま四つ目が破綻してしまうのだがまた走って逃げれば自ら中の人が夕騎だと認めてしまうことになる。

 無言で見つめ合うこと数十秒、不毛な時間が過ぎ去るのだが狂三はポンと手を叩くと。

 「零弥さん、これは俗に言う『ご当地ヒーロー』というものではありませんか?」

 「『ご当地ヒーロー』?」

 「そうですわ、本で見ましたが各県にはこういった『ご当地ヒーロー』というものがいるらしいですわ。或美マンさんもその中の一人なのでしょう」

 狂三の発言に或美マンの中の人、夕騎も首を傾げてしまいそうになるが狂三は片目を閉じてこちらに何か合図を送ってくる。おそらく合わせろ、と言いたいのだろう。

 或美マンはとにかく頷いておく。

 それでも零弥は不思議そうに或美マンの姿を見るが狂三はその背中を押し、

 「早く温泉に行きましょう零弥さん、絶景らしいですわよ。わたくし、楽しみですわぁ」

 「あ、ちょっと!」

 有無を言わさず零弥の背中を押していく狂三は去り際に或美マンに小声で、

 「――頑張ってくださいまし、夕騎さん」

 どうやら精霊にはどこまでも敵わないようだ、そう思いながらフルフェイスの下で夕騎は笑みを浮かべて夕騎は改めて歩き始めたのだった。

 

 

 

 「はっはっはー!! ワンナ、今までずっと追いかけてきてようやく捕獲出来そうやんけ<ベルセルク>!!」

 或美島近海の上で機械の鎧を身に纏った一人の魔導師(ウィザード)が高笑いをしながら背中に乗っている魔導師(ウィザード)に向けて陽気に話しかける。

 「そうよねぇ、帰還命令もなしにずぅぅっといつまともに戦えるかわからない<ベルセルク>を追ってとうとうここまでやってきたから目標が一つのポイントに留まってくれてるのは嬉しいことよねぇ、ヨマリ」

 「千載一遇のチャンスってわけ!! エレン執行部長とも全然連絡取られへんけど今は気にすることないし!」

 活発そうに関西弁で話す少女――ヨマリと間の伸びた口調の女性――ワンナが纏うCR―ユニットはまるで形状が違った。

 片方は機動性にしか特化していない<ヴァルバンテ>、装甲は薄いがその分推進機(ブースター)を身体中に装備しており、大きく開いたウィングもまた特徴的だった。だが、武器は何もない。何も装備していないがそれを補うのがワンナが着ているCR―ユニット<ファルバンテ>。

 機動性しか重視していない<ヴァルバンテ>とは反対に<ファルバンテ>は火力しか重視されていない。操縦者の負担を減らすために機動性なんて皆無。その代わりに重厚な装甲、それにありとあらゆる重火器を装備しており、<ヴァルバンテ>の装備不足、武器不足を補っている。

 互いに互いを補うように設計されたそれこそがこれらのCR―ユニット<ヴァルバンテ><ファルバンテ>なのである。

 「てか通信機の調子悪すぎ、せっかく捕らえてもこれじゃあ報告出来ひんやん」

 「まぁもしかしたら逃げられるかもしれないしぃ下手に報告すると危ないから良かったんじゃないのぉ?」

 「やめーやそのフラグ建てんの」

 そんな冗談を言い合ってクスクス二人笑う二人の前に或美島が見えてくる。

 「あれが目標の或美島か、てかここって観光地じゃなかったっけ? 精霊でも観光ってするもんか?」

 「んー、私に聞かれても精霊のことよく知らないしぃ」

 「まあいっか、他の観光客には申し訳ないけどとりあえずブッパかましておびき出そっか」

 「おっけーって……敵ぃ? あ、ヨマリ回避し――」

 「もうしとるっちゅうねん!! 言うのおっそいわ!!」

 ワンナが言い切る前にヨマリは回避行動に移っていた。何故なら彼女たちに向かってミサイルの弾頭が何発も迫っていたからだ。

 随意結界(テリトリー)なら近くさえすれば簡単に返すことが出来るだろうがこの場は回避を選択した。追尾するものではなく直進的に進むミサイルの数々をまるでツバメが飛ぶように躱したヨマリは舌打ちする。

 「気分いいときに誰や!!」

 視界をズームし、見てみればちょうど海岸あたり煙を吹く砲口のミサイルランチャーを持った者が立っていた。

 全身をライダースーツで包み、顔はフルフェイスのヘルメットで隠している。こちらが侵入してくるのを予め知っていたのか視界をズームしているというのも知っており、空いた手でプラカードまで見せている。

 「『或美島の平和を守る正義の味方、或美マンです』って何やそれ!! 何でそんな輩が邪魔してくんねん!!」

 「とにかく邪魔する人は撃滅滅殺、排除しましょおぉー」

 <ファルバンテ>の両肩の装甲から或美マンが使ってるようなミサイルランチャーの数倍にも及ぶ重火器の砲口を向ければ躊躇いもなく全弾発射する。砲口が火を吹き、夥しい量のミサイルが或美マンどころか島に向かって放たれる。

 「正義の味方や言うても所詮ただの人間、ウチらの攻撃に――」

 「あらぁ?」

 ワンナが見たのは飛来する誘導ミサイルに或美マンは自ら走り跳び、ネコのようなしなやかさでミサイルの上を駆ける。接近する或美マンに思わずヨマリは目を丸くし、

 「ただの人間ちゃうやんけ!!」

 「回避回避ぃ」

 或美マンの手には鉄製の棍が握られており、上から下へ相手の随意領域(テリトリー)など関係なしに力で叩き潰そうとする。

 「はんっ! こっちの速度舐めんなや!!」

 軽々と一撃を躱したヨマリ、ワンナはその隙に砲口を或美マンに向け放とうとするが――

 「ちょ、それは……」

 或美マンの腕は砲口の中に突っ込まれていた。そして手に持っていたのは拳銃、何発撃ったところで砲身に傷を出来ることは敵わないが砲弾は別だ。発射寸前の砲弾はそのまま爆発し――

 「ぁ――」

 爆風に煽られたワンナは体勢を崩し、ヨマリの背中から足を踏み外し海へ真っ逆さまに落ちていく。

 「ワンナ!! このアホよくもやってくれたな!!」

 随意結界(テリトリー)で或美マンの動きを止め、ワンナから取っておいたレイザーブレイドでその首を断ち切ろうとするが、或美マンの動きは何も止まらなかった。身体を回転させヨマリの顔を蹴り飛ばす。

 「げほぁ! くっそ何やねんホンマにお前は!!」

 蹴り飛ばしたヨマリにさらに『或美島の平和を守る正義の味方、或美マンです』のプラカードで殴打する。

 「どうなっとんねんアイツ!! ほらワンナしっかりせえ!!」

 「ありがとぉ」

 殴り飛ばされたついでに今にも海面に沈みそうだったワンナを拾うとまた浮上する。ヨマリにはわけがわからなかった。随意結界(テリトリー)は確かに作動していたはずなのにどうして効かないのか。

 「……ヨマリ、あれ見てぇ」

 「…………あれは注射器か?」

 落下している或美マンの腕に刺さっていたのは一本の注射器、中身は半分ほど残っているがおそらくその中身が随意結界(テリトリー)に対する耐性を作るのか、はたまた――

 「まあええわ撃て撃てぇ!!」

 「りょぉかい」

 <ベルセルク>の相手をする前にまさかご当地ヒーローに行く道を阻まれるとは思ってもなかったがこれで終わりだ。両手両足両肩全てから砲身を出し、その全てを発射する。

 しかし、勝算がないというのに飛び込んでくるわけもない。いくら爆発しても身体のパーツが飛び出してくるわけでもなく二人は疑問に思うがそれもすぐに払拭される。

 「はぁ!? 随意結界(テリトリー)やて!?」

 爆炎が取り払われた或美マンを包んでいたのは結界。ASTやヨマリ、ワンナが使うものと同じ随意結界(テリトリー)だった。

 「……まともに魔力処理されてない人間が魔導師(ウィザード)と同じようなことぉ? ありえなくない?」

 「ありえへんけど今目の前で起きとんのが事実やろ!! チッ、あの注射器の中身が身体を改造してんのか!? 作った魔力で無理矢理領域作ってんのか!!」

 「そんなの私にはわからないしぃ」

 「ワンナに聞いてへんわ!!」

 「でも、私たち今ピンチだしぃ?」

 「…………は?」

 ヨマリは気付いてはいなかったが驚いているうちに彼女たちの周りには自分たちのものではない随意結界(テリトリー)が張られている。その濃度は自分たちのものよりも上で相殺することも出来ないまま拘束される。

 見れば或美マンの腕に刺さっている注射器の液体はすべてなくなっていた。つまりあの注射器を注入すればリスクはあれど一時的に魔導師(ウィザード)と同等またはそれ以上の力を得るということ。

 「マジで何やねんコイツは!!」

 動けない二人に或美マンはその前に立ち、人差し指と中指を立てクロスすれば照準を定め――

 

 「【四動(しどう)瞬閃轟爆破(しゅんせんごうばくは)】」

 

 瞬く光に轟く爆撃、クロスさせた指から放たれた一撃はヨマリとワンナを巻き込んで遥か彼方まで飛んでいく。瞬く間にその姿は見えなくなり、或美マンも海面に落ちる。海面に落ち、身体の浮力で浮き上がれば夕騎はヘルメットを取ると笑い、

 「はっはっは……あーいってぇ、下手をすりゃ精霊化よりも酷いぜコレ……」

 注射器を抜いて捨て笑えば口端から血を流す。この注射器はオーシャンプールの件から目覚めてすぐに琴里や<フラクシナス>のメンバーにも内緒でラタトスク機関に直接頼み込んで作ってもらっていたものだ。届いたのは修学旅行前日だがこれはこれで役に立つものだ。

 「ぐ……紙やすりで内臓全部削られた気分だな。でもこれなら何本か服用すりゃあエレンのババアにも対抗出来るか」

 それにしても【天地鳴動】の最後、【四動】のネーミングは酷すぎた。

 瞬閃轟爆破は士道が若かりし頃に練習していた必殺技、それを士道の中に封印されてる霊力を使ってやってみたが笑えてくる。

 「あー……もうちょい休憩しないと戻れんな」

 けけけ、ともう一度だけ笑って夕騎は海面で浮かびながら目を閉じた。


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