ドッッッゴオォォォォン!!!
あたりにもうもうと土煙が立ち込める。副隊長クラスが満身の力を込めてはなった斬撃は石畳を粉々に砕きあたりに強烈な霊圧を撒き散らしていた。
(ありゃりゃ。こら死んだかな・・・って霊圧消えてないし、躱したか?)
先ほどから一護と恋次の戦いを見ている薫はもう観戦モードであった。ポップコーンがあればボリボリ貪っていただろう。
(しっかし躱しはいいが所詮風前の灯。やっぱり一人でルキアちゃん助けるしかないのかねぇ)
そう、この男席官でもないくせに四十六室の決定に反してルキアの処刑を止めるつもりであった。とはいえ一人では厳しいものがあるため旅禍達をおとりにでも使えないかと
に張っていたのだが、彼らの目的もルキアの奪還と知り協力するつもりだったのだが・・・
(いい勝負してたように見えるしたぶん更木隊の三席と連戦なんだろうけど・・・さすがに副隊長レベルでこのざまじゃあねぇ。期待外れだったかな)
一護は肩で息をし、斬月を杖代わりにして何とか立っている状態だった。
「とことんしぶてぇ野郎だな」
(いやまったく・・・ん?)
と、ここでつい今の今まで半死人状態だった一護の雰囲気が変わった。荒れていた呼吸が急速に整い、霊圧が斬月に集まり急速に圧縮され発光する。その様はまるで
大瀑布の前に立たされたかのようなイメージを周囲の人間に抱かせた。そしていつの間にか目を閉じていた一護が目を見開き、斬月を肩に担ぐような構えをして
恋次に言った。
「待たせたな、恋次」「覚悟だ」
(雰囲気が変わった?あいつ、何をやるつもりだ?)
奇しくもこの時恋次と薫の考えが一致した。
「今度こそだ、てめぇを斬るぜ」
ゴオォッッ!!
そう一護が言うと風すら起こすほどの霊圧が一護から放出され始めた。その瞳には先ほどまではなかった落ち着きと、覚悟があった。
「ハァ!!」
気合の声とともに一護が斬月を振り上げ空へと飛びあがる。
(そうだ)
一護は浦原に修行の時に言われたことを思い出していた。
「ラァ!!」
恋次が蛇尾丸を伸ばして迎撃する。一護は斬月を振り回すことによって慣性の反作用を受けこれを躱した。
(躱すのなら、斬らせない)
「オラァ!!」
恋次のすぐ近くに着地した一護を今度は伸ばした蛇尾丸で横薙ぎにする。
「オオオオ!!」
ギギガガガガガギギギィィィ―――!!!!」
構えた斬月で蛇尾丸を受け止める。鋸をかけられているかのごとく連続した振動と火花が一護を襲う。
(護るなら、死なせない!!)
「――オオオ!フン!!」
―――ガガガガッッギギイィィン
いまだ斬りつけてくる蛇尾丸を大きく弾き飛ばすと一護は斬月を大上段に構える。
「攻撃するなら・・・斬る!」
ゴォ!
そう言って放たれた一撃はとっさに恋次が割り込ませた蛇尾丸ごと恋次を切り裂いていた。
バッキィィン
ブシャァァ
一護の攻撃で20mは吹き飛ばされた恋次は戦いで生じたがれきに背中をぶつけて止まった。
「グハッ」
恋次の体から真っ赤な液体がぼたぼたと零れ落ちる。髪紐が解け、彼の赤い髪がまるで血のように背後に広がる。勝負はついた。一護が勝ち恋次が負けた。恋次は
斬魄刀も砕け腕も上がらず意識も朦朧としている。さっきと同じ構図だ。しかしさっきとは立場が逆転していた。だが、それだけでは終わらないのもまた一緒だった。
恋次は残り少ない体力を使い一護に詰め寄るとその胸倉を乱暴に掴み叫んだ。
「お前のせいで、ルキアは懴罪宮に囚われた!そう思うと、腸が煮えくり返った!」「だが、そうじゃねぇ!!」「俺が、ルキアを止めなかったからだ!」
「俺はあの時ルキアを死刑囚にするために朽木家に行けと言ったんじゃねぇ!ルキアが幸せになれると思ったから!!そう、信じたから・・・」「朽木隊長は
強すぎる。あの人に勝ちたくて六番隊に入った。そのために死ぬ気で修練してきたが、結局一度も勝てねぇままだ!!」「力ずくでルキアを取り戻すなんて、
俺には、できなかったんだ!!!」
恋次の血を吐くような叫びがあたりに響き渡る。あれほどまでに強かった男の嗚咽交じりの声が。
「黒崎!!恥を承知で、てめぇに頼む!ルキアを!!」「ルキアを助けてくれ!!!」
「ああ・・・」
一護は悲しそうな眼をして簡潔に、しかし恋次の想いを受け取るように返事をした。
届かぬ牙に火を灯す
あの星を見ずに済むように
この喉、裂いてしまわぬように