浄罪の炎   作:ナレイアラ

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第3話

あれから数日、ルキアの減刑の目処は立っていなかった。そもそも特別補給班班長という肩書こそあっても所詮は平隊士の薫にできることは限られていた。席次だけなら花太郎の方が高いくらいであるが特別補給班の仕事は薫の能力あってこそのものであありまた薫は四番隊の古株であることもあって班長の職に就いていた。とはいえ、もう一度言うが所詮薫は平隊士、四十六室はおろか隊長格にすら意見できる身分ではない。とはいえこの数日間薫も遊んでいたわけでは無い。ルキアの牢の掃除を花太郎に押し付け方々の伝手を当たってはみた。見たのだが、薫の同輩はドイツもこいつも平隊士か引退したか死んだかで上層部につながるつてが見事に一つもなかった。死んだ同輩の一人である海燕が副隊長まで上り詰めていたのが奇跡に感じられる。

 

(これはいよいよまずいかもしれんなぁ」

 

「よく分かりましたねえ班長?」

 

数日間ほったらかしにした班員が青筋を立ててひきつった笑いで薫を睨んでいる。そう、さすがに数日間も職務を放棄したのはマズかったのか、いよいよ特別補給班に普段補給している先の部署から催促の書状が来たのである。当然その時薫はおらず、班員たちは運べる分だけ手運びで補給物資を届ける必要があったのだ。特別補給班はほとんど新人たちで構成された班であり班員は体力も腕力も少なく瀞霊廷の道筋を覚えていない者も多くいた。そのため作業は困難を極め、班員たちは諸悪の根源たる薫にものすごく怒っていた。

 

「よう、班員諸君。あー、その、まあ、何だ、・・・・元気だったか?」

 

「―――」

 

顔を赤くするもの、青くするもの、無表情になる者、反応はさまざまであったが次にどんな反応をするかはなんとなく分かったので薫は声をかけた時の薄っぺらい笑顔のまま耳に指を突っ込んだ。

 

「元気だったかじゃないでしょうが!班長であるあなたが新人の僕たちを置いて何日も連絡もなしってどういうことですか!勝手を知ってそうな花太郎さんもつれてっちゃうし!挙句の果ては補給業務が滞っているとかで催促の書状も怖い顔した人が持ってくるし、って聞いてるんですか班長?!!」

 

続いて地味顔やいい加減男、万年平隊士などと聞こえてくるが耳を塞いだ薫にとっては右から左であった。

 

数分間耳を塞ぎ目を閉じ黙っていた薫であったがとうとう飽きたのかそれをやめ班員たちに右手を大げさに降って合図した。

 

「あー、やめやめ!お前たちの不満は大体分かった」

 

ずっと耳塞いどいて何言ってんですかという野次が飛ぶが薫は無視して続ける。

 

「なぜ俺がお前たちの面倒を見てやれなかったのか、俺には君たちに説明する義務があると思う。しかしだ、新米隊士たる君たちには開示できない情報や知ってはならない情報に関連しているので説明は不可だ」

 

顎に手を当てた真面目くさった顔に「何を言っているんだこの平隊士は?」とでも言いたげな視線が人数分突き刺さるが、薫はそれを無視した。相変わらずの厚かましい態度とふざけた時に出る芝居がかった口調で補給任務の再開を提案すると時間がないのか班員たちは驚くほど素直に従った。

 

「でもその代りいつも通り荷物を班長の黒い羽織に入れさせてくださいよ」

 

「だから、羽織なんて言うなって。こいつの名はーー」

 

薫が徐に空中に突き出した手に襟の部分が収まるように、虚空から羽織が取り出された。厚手に見えるが風に靡く様は湖面の波を想像させ、その色は満月の出ている日の夜空のような薄い黒だ。

 

「夜笠」「っていうのは何度目だっけ?」

 

「いいからちゃっちゃと仕舞っちゃってくださいよ」

 

先輩にして上司である薫への対応としてはあんまりといえばあんまりな対応である。両手を地につけそうなほどテンションを下げながら薫は左手の夜笠を広げた。

 

ゴォッ!!!

 

快速の電車が駅に停車せず通り過ぎる時を想像するとわかりやすいだろうか。まるで目の前で巨大な物体が高速で通り過ぎる時のような音を立てて班員たちの持っていた物資が次々に夜笠の中に吸い込まれていった。

 

「入れる時と出す時が乱暴なのがこの夜笠の欠点ですよね」

 

「余計な御世話だ」

 

「そもそも夜笠は便利な収納グッズじゃないの」

 

軽口をたたく班員を適当にあしらいそういえばどこに行けばいいんだっけと思い班員に聞く。

 

「で、結局たった数日で我慢が出来なくなった早漏はどこの部署だよ」

 

「ハイ、ええっと十二番隊の・・」

 

「っかぁー!よりにもよってあそこかよ!」

 

薫が若干オーバーリアクションな反応を返すとやはり新米隊士にも十二番隊のイカレっぷりは伝わっているのか詳しく聞きたそうな顔がちらほら見える。

 

「やっぱり、十二番隊ってろくでもない連中ばっかりなんですか?」

 

「「やっぱり」ってことは噂くらいは聞いたことがあるってわけか。ああ、特に席次が上の奴らはといつもまともじゃない。どいつもこいつもマッドサイエンティストの気があるサディストばっかりでね。」

 

薫が頭をぼりぼり掻きながら答えると

 

「それってやっぱり―――――――――――――――

 

 

 

 

 

瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

ッッドォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

打ち上げ花火を近くで上げられたかのような巨大な和太鼓を真後ろでいきなり鳴らされたかのような彼方まで響く遠雷の様な重く、大きい全身を貫く、ともすれば衝撃波ともとれるような音が天から降ってきた。


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