朽木家のご令嬢と知り合い?!どんな関係ですか!?まさか恋人?などとヒソヒソ囁きあう班員を尻目にさっさと薫はルキアがいる懺罪宮に向けて歩き出した。
「あっ班長行っちゃった」「おいてかないでくださいよお!」
という言葉を背中で聞いた薫は、
「今回は花太郎だけでいい後の奴らは適当に手伝いに行け」
とだけ言うと歩調を緩めず歩いて行った。
「待ってくださいよぉ~」
新米隊士と変わらぬ反応をする花太郎の将来に不安を感じながらも薫は懴罪宮を目指した。
「久しぶりだな、朽木」
ルキアの牢に入ったかと思えばすぐにルキアの世話――といっても部屋の掃除程度だが――を丸投げした薫はその部屋の主に気さくに話しかけた。ルキアはふいと顔を上げると、
「ああ、あなたですか」
「おいおいずいぶんとご挨拶だな、久しぶりに会ったってのに」
そもそも私にとってあなたは海燕殿の友人というだけですしとルキアがつぶやく
「ああそうだな」「それだけの関係だ」「だが、それを理由に普段の仕事内容をさっきいきなり変更されたこっちの身にもなってみてほしいもんだ」
驚いたルキアが俯いていた顔を跳ね上げ説明を求めるように視線を送ると薫は涼しい顔で話し始めた。
「俺たちは四番隊特別補給班だ。その名の通り主な任務は各隊の隊舎への補給だ」
ルキアの椅子の周りをゆっくりと歩きながら薫は続ける。
「勿論、四番隊のさだめとして様々な雑用を押し付けられることもある。が、さすがに無関係の罪人―しかも四大貴族当主の妹―の部屋の掃除を任されるなんて――」
「おかしいだろ?」
逆光で表情が見えないがだぶん憎たらしい顔をしているんだろうなとルキア思った。
「何が言いたいんで―」
「つまりだ」「俺とお前があいつを通した知り合いだと知っている誰か」「しかもしょぼい役どころとはいえ、護挺十三隊の人間の仕事内容を即日変更できる誰かが、俺をここに送り込んだ」
なぜだ?いったいなぜこの男を私のもとに――
「ではなぜ俺をここに送り込んだのか?」
心を読んだようなタイミングで薫が続ける
「朽木ルキア」
薫が先ほどの書類をめくりながら告げた。
「お前は双極により処刑されることが決まった」
ルキアは何日か前にこの部屋――壁の代わりに鉄格子の付いた素敵な――を出て行った男の言葉について考えていた。あろうことか男は自分に助けてほしいか?などと聞いてきたのだ。
「まああれだ、親友が特に大切にしていた部下ってのもあるし、お前は俺が嫌いみたいだが、まあ、知らない仲じゃないしな」
言葉もないルキアに真面目な顔をして薫は続けた
「それに今回の処刑はどう考えてもおかしい。四十六室のお偉方の考えなど俺にはわからんがね」「しかしこれだけは言える。死神の力の譲渡が重罪にしても、お前は仮にも四大貴族の当主の妹だ。罪が軽くなるなり、ともすればなかったことにされてもおかしくはない。」
大貴族の人間として扱われたせいで友人ができなかったり幼馴染の恋次と疎遠になったりと何かと嫌な思い出のあるルキアだ。しかも自分が重罪を犯したと自覚し最後は自分から捕まりに行ったルキアとしては自分の決意が踏みにじられたような気がした。感情のままルキア自分の処刑のことも忘れ抗議の声を上げる。
「私は――」
「まあ最後まで聞け」「しかしお前は処刑されることになった。貴族同士の謀略にても血のつながってないお前じゃ《朽木家》にダメージを与えることはできない」
ルキアはイライラした様子で薫が言いたいことを察して先に言おうとする。
「つまり――」
「つまり朽木ルキアの処刑が決定されたことの裏には何者かの、それこそ四十六室に強い影響を与えるか彼らの決定を捻じ曲げるほどの力を持っている何者かの意思が介在している」
何度も何度も言葉を遮られイライラが頂点に達しかけていたルキアはとうとう怒りが爆発しその言葉の内容を理解しようとすらせず薫を追い出した。
「ええい、うるさいうるさい!!貴様の勝手な推理など知ったことではないわ!掃除が終わったならとっとと帰れ!」
今冷静になって薫の言葉を思い出してみると確かに自分に対する処刑という罰には違和感を覚える。しかしルキアはその考えが一度罪を受け入れた――死刑になるとは予想していなかったが――自分がいまだに何かに縋り付いているようで嫌だったのでこのことに関する思考を放棄していった。懴罪宮の窓から見える双極の丘を見つめながらさらなる死に対する覚悟を決めていった。