浄罪の炎   作:ナレイアラ

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第11話

「ハアッハアッ・・・っクソ!いったい何段ありやがんだこの階段は!」

 

「三百飛んで八段だ」

 

「ハッハッ・・岩鷲無駄口叩いてる暇があったら走れ!!薫も!真面目に答えなくていい!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

今薫たちは昨日の懴罪宮の前の階段をひたすら上っている。恋次が一護を待ち構えていた階段だ。ルキアのいる懴罪宮をめざし長い長い階段を上っているのだが

、岩鷲はもう階段の長さにうんざり、一護も息が切れ、花太郎に至ってはしゃべる気力もないほどのグロッキー状態だ。薫は一人平気そうな顔をして走っている

が若干眠そうだ。そうこうしているうちに階段を登り終えた。半分が息を切らした一行は階段の上で少し立ち止まる。

 

「ゼーハー、こ、この先に牢屋があるのか?」

 

「ああ、この先に朽木がとらえられている懴罪宮四深牢がある。しっかし一護君はともかくお前ら大丈夫か?この程度で息を切らしてるようじゃ――」

 

 

 

 

 

 

ゾクッ

 

 

 

 

 

瞬間。

その場の四人に恐ろしいまでの重圧がかかる。

まるで重力が三倍になったかのような感覚。

呼吸すらままならないほどのプレッシャー。

正体不明のそれが四人を襲った。

 

「なん・・・だよ・・コレ」

 

「ふん・・・これは、十一番隊隊長の霊圧だね。覚えがある」

 

「何だって?!じゃあ・・」

 

「無駄口をたたいてる暇はないぞ。幸い、近づいて来ない所を見ると見つかった訳では無さそうだ。まああそこの隊長は霊圧の扱いが隊長格とは思えないほど

下手だしな。兎に角、見つかるにしてもそれまでに少しでも距離を稼いでおこう」

 

有無を言わせない様子の薫に全員「おう」「はい」と返すことしかできなかった。

 

薫たちが焦って懴罪宮向けて走っていると先ほどまでそこらじゅうに撒き散らされていた霊圧に指向性が与えられたように感じた。その微細な変化は「殺気」や

「いやな予感」として薫たちに降りかかり、一護と薫にその霊圧の主の存在を気付かせるに至った。

 

(左斜め上、いやー――)

 

「おい」「いつまで後ろ向いてやがる」

 

(前か)

 

こちらが霊圧を認識した瞬間、相手、十一番隊隊長更木剣八は振り向いた自分たちの死角になる位置に瞬歩で移動してきた。花太郎は論外、岩鷲と一護も反応できず

剣八の動きを捉えていたのは薫ただ一人だった。

 

「よう、旅禍」「お前が黒崎一護だな?」

 

「な、あ・・」

 

だが、一護は反応できない。剣八の強烈な殺気に当てられ、一瞬固まってしまっていた。

 

「アンタが、一角の言ってた更木剣八か。俺と戦いに来たってわけかよ」

 

その言葉を聞くと剣八は野獣のような笑みをニィとさらに深くした。

 

「解ってんじゃねぇか。どうやら一角が俺のことを教えておいたってのは本当みたいだな」

 

一護が剣八に威圧されて黙っているとその肩からピンクの何かが現れ、一護が反応すらできない速度で今度は一護の肩に乗っかってきた。

 

「おー、後ろの二人辛そうだね?剣ちゃんの霊圧に当てられちゃったんだね、かわいそー」

 

「な、」バッ

 

あわてて一護が腕を振ると何でもない事のようにトンボを切って剣八の前まで降り立った。

 

「怒られちった」

 

「当たり前だバカ」

 

「おい、」

 

一護が呼びかける。

 

「なんだ」

 

「お前じゃねえ、そっちのちっこいのだ」

 

「私ぃ?」

 

八千流が自分を指さし聞く。

 

「お前何もんだ?」(殺気に速さはただ事じゃねえ。しかもこの霊圧の中涼しい顔してやがる)

 

「私はねー」

 

「十一番隊の副隊長だ。腕に紋章の入った板がついてるだろ。あれはな、副官章と言ってその人物が副隊長であることを示すもんだ」

 

自分のセリフを盗られたのが気に食わないのか八千流は薫をふくれっ面で睨み付ける。

 

「むー!わたしのせりふとらないで!!あなた、えーと・・・」

 

「初石薫だ」

 

「じゃあかおるん!かおるんは――」

 

またしてもセリフの途中で、今度は剣八が八千流の頭を押さえつけ黙らせる。

 

「お互い自己紹介も終わったことだし殺りあおうぜ」

 

剣八が獰猛な笑みを浮かべ一歩踏み出す。それだけで威圧感は増し、一護は冷や汗を浮かべ斬月を握る手に余計な力が入る。

 

「そっちは動けるのは二人だけみてぇだが、こっちはお前と戦うために何日もお前らを探し回ったんだ」「二人でかかってこいよ」

 

相変わらず獰猛な笑みを浮かべ剣八は言うが、一護はそれ所ではない。動けるのは二人、という剣八の言葉に驚いて後ろを振り返ると花太郎と岩鷲が倒れ伏していた。

すでにさっき八千流が一度指摘していたのだがあっさりと肩に乗られた事に動揺していた一護はその言葉に反応できなかった。

 

「岩鷲!花太郎!大丈―――」

 

叫ぶ一護の肩に手が乗せられる。

 

「立てるかい?岩鷲」

 

「ああ、何とかな」

 

薫の問いかけに反応した岩鷲は膝に手を突きながらなんとか立ち上がった。

 

「悪いが花太郎を背負って先に懴罪宮まで行ってくれ」

 

「あんたはどうすんだよ」

 

「・・・向こうも二人だからな」

 

「ッ何言ってんだよ!向こうは隊長と副隊長だぞ!!一護もあんたもどうにかできる相手じゃ「悪いが」」

 

「つべこべ言ってる暇はない」「行ってくれ」

 

「クソっ」

 

そう言うと岩鷲は花太郎を背負うと走り出した。

 

「岩鷲!!」バサッ

 

走る岩鷲とその背中の花太郎に夜笠が巻き付く。すると、二人の霊圧が消失した。

 

「そいつを体に巻いておけ!」

 

岩鷲は片腕を上げて走り去っていった。

 

 

 

 

「へえ」

 

剣八から感嘆の声が上がる。

 

ォォォォオオオオオオオアアアアアア

 

物理的圧力すら伴うほどの霊圧が一護をたたいた。使用者と外界を霊圧的に遮断する結界を生じさせる夜笠を使っていた岩鷲たちには感じられなかったが、薫が

夜笠を岩鷲に渡した瞬間強大な霊圧が薫から立ち上っていた。それは苛烈にして強烈。強大にして重厚。剣八の霊圧が重力が増したように感じさせる重圧とする

なら薫の霊圧は近くにいるだけでやけどしそうな熱を感じさせるものだった。夜笠を脱いだ薫の霊圧は恋次すら比較にならない。その霊圧に気圧されて一護が固

まっていることに気付いた薫は霊圧を静めていった。

 

「なん・・・だよ、その霊圧は・・」

 

「あの夜笠は霊圧を遮断する結界を出すんだ。お前が感じていたのはその結界から漏れていた俺の霊圧の一部だ」

 

薫は顔を剣八に向けたまま一護を横目で見て答えた。

 

「ハハハハハハハ!!ハハハハハハ!!今日はなんていい日だ!お前らみたいな強え奴らが二人も!!俺と戦ってくれるなんてなあ!!」

 

「更木さんよ、悪いが俺は戦わねえぞ。増援なんか呼ばれちゃ敵わねえからな。そこの、副隊長さんを見張らせてもらう。アンタは一護と戦ってくれ」

 

「えー?私そんなことしないよぉ」

 

「敵のセリフなんか信じられる訳ないだろう?」

 

そんな薫に一護が焦った表情で聞く。

 

「なんでだよ!どう考えてもアンタの方が強いだろ!」

 

薫が耳打ちをする

 

(だってお前あの副隊長の速度に反応できなかったじゃねえか。それに、あの隊長はいわゆる戦闘狂だ。戦いを楽しむようなタイプだから付け入る隙はあるって)

 

「オイ」ガガァン!!ギギギギギッ!!

 

いきなり斬りかかってきた剣八を炎を押し固めたような大太刀が受け止め鍔迫り合う。

 

「いい加減はじめようぜ!!ナア!」ギィン!!

 

「フッ」ザザザザ

 

鍔迫り合いの状態から強引に剣八が薫を振り払う。その気配を察知していた薫は自分から後ろに跳んで地面をすべって剣八から十間ほどのところで止まった。

 

「ハア!」

 

薫を弾き飛ばすために大振りになった剣八の隙を突き一護が斬りかかる。いきなりの出来事であったがしっかりと薫が作った隙にうまく合わせた一護であったが――

 

ブシュッ

 

血が滴る。剣八ではなく一護の手のひらから。剣八の左肩に振り下ろされた斬月は羽織すら切り裂けずに止められていた。

 

「どういう、事だよ」

 

「簡単な話さ」

 

「薫・・・」

 

「死神の戦いは霊圧の戦い。水圧、電圧と同じで圧が高い方から低い方へ流れる」

 

「オラァ!」

 

「フンッ」ガガン!

 

剣八が一護に向かって繰り出した振り下ろしを横から一瞬で近づいてきた薫が一護を押しのけつつ左手に逆手で持っていた大太刀で受ける。そのまま刀の背に

肘を押し当て全身のばねを使って上に刀を跳ね上げる。

 

「ハアッ!」ガッギイイィィィン!!!!!!!

 

剣八の開いた体に大量の紅い霊圧を込めた右の拳を薫はたたきつける。

 

「ォォォォラアアアアアアアアア!!!」ズドッッッドコオオオオオン!!

 

「おおおおおおおおおお???!!!!」

 

薫の拳が剣八に叩きつけられた瞬間、右手に込められた霊圧が一気に解放。指向性を持った爆発が剣八の全身をたたきはるか後方まで吹っ飛ばした。

 

「ふう、大丈夫か?一護」

 

「ああ」

 

「ハアッさっきの続きだが、簡単に言うとお前の斬魄刀に込められた霊圧より更木隊長の垂れ流してる霊圧が高かったから霊圧が逆流してお前を傷つけたんだ」

 

息を切らしつつ薫が言う。

 

「つまりもっと気合入れて斬りかかれってこった」

 

「いや気合って・・」

 

「ほらそんなこと言ってる暇はないぞ」

 

薫の拳を食らっても全く揺らがなかった霊圧が急速に近づいてくる。

 

「オラァ!」「オオ!」ガガン!

 

一護と剣八が再び鍔競合う。但し、今度は一護の手は無事であった。

 

「何だぁ!?今度は二人でかかって来ねぇのかよ!!」ギチギチギチギチ!

 

火花を出しながら一護と鍔競合う剣八が薫に叫ぶ。

 

「一護があんたに負けたら戦う事になりますよ」「それまで俺は、あんたの副隊長と観戦してます」

 

「そうか、よ!」ギィン!!

 

そう言って一護を吹っ飛ばした剣八は一護を追って道の奥の方へ走り去っていった。

 

 

 

「えー?かおるんけんちゃんと戦わないの?」

 

不満そうな顔をした八千流が話しかけてくる。車輪の付いた刀を引きずったその姿はとても一隊の副隊長には見えない。

 

「・・・一護が負ければ否が応でも戦いますよ」(まあ本当に負けそうなら止めの瞬間に不意打ちで一気に殺すけどな)

 

「ふーん、ならいいや!」

 

あっさりと機嫌を直した。そして本当に観戦モードなのか薫と肩を並べて一護と剣八の方を眺める。

 

「あのね、剣ちゃんは戦うのが大好きなんだよ!」

 

「はあ、まあ見たまんまですね」

 

視線の先では剣八が一護にかわされた勢いのまま建物の壁を大きく抉り取っていた。

 

「だからね、今日はいっちーとのかおるんとも戦えるから剣ちゃんすごく機嫌がいいんだよ!」

 

「いや、だから俺は一護が負けないと戦いませんってば」

 

「えー?いっちーが剣ちゃんに勝てるわけないじゃん!」「いっちーの剣なんか剣ちゃんにとっては刃がついてないのと一緒だよ?」

 

「まあさっきのを見ればそう思うのも仕方ないですが」

 

「そうだよ!かおるんの方が強そうだし早くかおるんが剣ちゃんと戦ってほしいなー」

 

「まあ一護もさっきはビビってましたけどなかなか侮れないと思いますよ?昨日阿散井副隊長と戦った時も土壇場で強くなって・・・・ほら」

 

今度は一護の斬撃が薄くだが剣八の胸を切り裂いていた。

 

「ほんとだー !いっちーすっごーい!」「ね?かおるん。もうちょっと近づいてみようよ」

 

「・・・それもそうですね」

 

「けんちゃんうれしそう・・・」

 

そう言ってふたりは逃げ回るのをやめた一護と追いかけるのをやめた剣八に近づいていった。

 


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