浄罪の炎   作:ナレイアラ

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穏やかな風が丘の上を撫でていく。風に揺らされる花は茎に螺旋を描いて寄り添う薄紫。その花の名前は捩花。先日永遠に私のもとを去った親友の刀と同じ名前だ。寄り添いあうように建てられた二つの墓の前で一人の青年がつぶやいた。

 

「海燕・・・」

 

声は風に溶けて消える。志波海燕は死神であった。護挺十三隊は十三番隊副隊長にして志波家の長男であった。人柄はおおらかで多くの人に好かれたし、何より青年とは親友といっても差し支えない間柄であった。

その志波海燕が死んだ。先日死んだ妻の後を追うように、否、事実後を追って彼女と同じ場所で彼女と同じ相手に殺された。

 

「俺は・・・」

 

どうしたらいい?などとは言えない。なぜならその問いをしていた相手はもういないのだから。ゆえに青年は今度こそ一人で決める。自分がすべき事したい事そして進むべき道を。

 

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青年、初石薫は短髪にした黒い直毛をかき上げ長い廊下を歩いている。薫が所属するのは四番隊。護挺十三隊の中でも治癒霊力を駆使して他者の傷を治すいわば病院的な部署であり、また補給の仕事も担っている。その特性上平均的な隊士の戦闘力は低く他の隊からは「雑用係」などと言ってバカにされるのが常である。しばらく歩いていると男にしてはやたら長髪の少年が走ってきた。しかも、薫を見た途端スプリンターのロケットスタートのように急加速し薫の土手っ腹目掛け突っ込んできた。

 

「かぁぁぁぁぁおるさぁぁぁぁぁん!!!!」

 

「うおっ花太郎?!」

 

腐っても護挺十三隊は戦闘集団である。当然のように花太郎を躱した薫はギギィィィーーと音を立てて廊下に顔面でブレーキをかけるハメになった部下を微妙な顔でいたわった。

 

「だ、大丈夫か?」

 

「「だ、大丈夫か?」じゃないですよ薫さん!」

憤慨したような顔で花太郎が詰め寄る。

 

「今日は朝一で会議だっていうのに班長のあなたがいなくてどうするんですか!」

 

それを聞くと薫は眠たげな眼のまま前髪を半ばまでかきあげ、

「あーそーいえばそのよーな事があったよーな気がしないでも・・・」

とここまで言ったところでそのセリフは花太郎の「あるんです!!」という半ば悲鳴とも取れなくもない叫び声にかき消された。

 

「とにかく!隊舎までいきますよっ!ただでさえ遅刻してるんですから班長は!」

文字通り背中を押す花太郎にせっつかれて隊舎まで向かう薫。

「でもどーせ補給する品の数の確認程度だろ?」

「そりゃそうですけどっ」

「それに俺が遅刻なら花太郎、お前も遅刻だろう?」

「ぼ く は っ あなたを迎えに来たんです!!」

といつもの掛け合いをして二人は隊舎まで向かっていった。

 

 

 

 

 

「んん!みんなまじめに集合してるなっ感心感心!」

その場にいる全員が「お前が遅刻しただけだろうがっ」とでも言いたげな目をして薫を睨みつけるが、当の本人は意に介さずに後ろのホワイトボードに「十月十五日 四番隊特別補給班早朝会議」と書きつけた。「早朝」などとは書かれているが現在は朝は朝でも昼に近づいた十時半でありその文字を目にした瞬間全員が心の中で「なめとんのかこらっ」と叫んだ。

 

「えーでは会議を始める。本日もいつも通り大量の補給物資を「俺」の能力で運搬しぃ、お前らは金魚の糞にたいについてくるだけの仕事が待っている筈であったがぁ――」

お前は運搬以外の事務も納品作業もやってないだろうがっという念のこもった視線を無視しつつ進める。

「この度罪人として御帰還あそばれた四大貴族の朽木ルキア様の世話をしろとの命が下った」

たった今花太郎受が持ってきた指令書をめくりながら薫はのたまった。当然、班員の不満が噴出する。

「ええっ」「ちょっ待ってくださいよ!」「俺たちの仕事は補給じゃなかったんですか?!」

 

「ええい!だまれだまれ!」

声を振り払うように実際手を振りながら薫が声を上げる。

「そもそも俺の特性上大量の物資を一気に運ぶことができるからどこも運搬すればいいだけのものはどこも余り気味なの!大体俺たちは四番隊だから雑用が回ってきやすいし、お前らは花太郎以外簡単なことしかできない新米のペーペーだし」

「それに今回はちょっと事情があるんだよ!」

 

「事情?」「なんですかそれ?」

 

「うるっせぇなあ。ちょっと知り合いってだけだよ」

 

「知り合い?」「誰とです?」

 

「たから、朽木ルキアとだよ―――」

 

 

 


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