張りつき前提では社会人は厳しいと思うのですわい・・・
ところで運営はいつ頃人員を増強するのでしょうかね。
夏イベがあったのだから強化してからイベント来ると思ってました。
「ども! 恐縮です、青葉ですぅ! 一言お願いします!」
青葉型Ⅰ番艦『青葉』は、今日も今日とて愛用の手帳を片手に鎮守府を駆けずり回る。
鎮守府で一番のうわさ好き。誰が呼んだか、ついた渾名が「重巡型パパラッチ」
フラッシュあるところには青葉在り。ともすれば出撃するよりネタ集めに奔走する時間の方が長いかもしれないほどの記者根性の持ち主だ。
「青葉取材……あ、いえ出撃しまーす!」
もはや艦娘ではなく新聞記者と言った方がしっくりきそうな彼女は、今日も一日、あたらしい噂とネタを求めて鎮守府を疾走するのであった。
「困りましたねぇ、今日はいいネタがなさそうです」
ある日の昼下がり、青葉は椅子の背にもたれ掛りながら呟いた。
提督の目を盗んでひそかに発行している「青葉通信」の最新号、その執筆にあたってのネタが無くて困っているのだ。
「はぁ、なんていうかこう、皆さんの度肝を抜くようなクレイジーでショッキングなネタはないですかねぇ……」
外で行われている演習などには目もくれず、あーでもないこーでもないと唸る青葉。
ネタだ。ネタが必要だ。それも並大抵のものではない。
自分も周りも驚き爆笑するような面白おかしい珍事奇譚が必要なのだ。
「いつぞやのボーキサイト行方不明事件はそれなりに反響がありましたが、先週の加賀さんの下着特集はまるで手応えがなかったですねぇ。う~ん誰の下着ならいいんでしょうか……」
方向性そのものがもはや致命的なまでにアウトなのだが、青葉は一向に気にしない。
命より大切なネタ帳をめくりつつぶつぶつと独りごちる。
「え~と、『金剛のBurning Love!』も先月で連載終わっちゃいましたし、新任艦娘のインタビューはもうやっちゃいましたねぇ。あ、『夕張の一押し秋アニメ!』のコメントを頂くの忘れてました……」
と青葉は言って手帳を閉じる。
連載コーナーはいいとして、やはりこのままでは一面を飾る記事が無い。
「やっぱりお馴染みのネタが多すぎるんですね。鎮守府暮らしの艦娘なら、爆発オチだって日常茶飯事ですし」
ならばここで目新しくインパクトのある記事を書かなくてはなるまい。
そう決意した青葉はしばし目を閉じて黙考し、ややあってから妙案を閃いた。
「そうです! 解決策なんてすぐにできるじゃないですか!」
かの王妃は言った。『――パンがないならケーキを食べればいいじゃない』
そして青葉は言った。『――ネタがないならネタを作ればいいじゃない』
そうとなれば早速ネタを作るべく奔走するのが青葉である。
ステマ炎上バッチ来い。すべては面白い記事の為に――とパパラッチ根性丸出しで青葉は自室に隠していた秘中の秘を開封する。
「ふふふ……青葉、見ちゃいました♪」
古めかしい木箱に収められていた秘中の秘。そこに収められているのは、日々の任務で得られる俸給をはたいて買った至高の逸品だ。これをつかえばネタの一つや二つすぐだろう。
「いつか必要になると思った超高性能望遠レンズ付きカメラ。いやぁ、買ってよかったですよ」
傷一つなくピカピカに輝くフレームを撫でさすりつつ、青葉はほうっとため息を漏らす。
このカメラを買うのに何度MVP取った事か……その苦労がついに報われるのだ。
「問題はこれで〝なにを〟撮影するかですね……」
パッと思い浮かんだのがスッポンポン状態。入浴シーンを激写するのはどうか。
しかし青葉は冷静に思考を冷ます。
「いえ、女所帯ではさしてインパクトがありませんね。いまさら珍しい物でもありませんし……」
さらりと世の男性を憤死させかねない発言を零しつつ、青葉はさらに思考する。
あらゆる艦娘を虜にして止まないインパクトある写真とは何か。
青葉は己の脳味噌をフル回転させ、遂にある秘策を思いついた。
――数日後
提督は困惑していた。それというのも、最近一日中誰かに見られているような気配があるのだ。
朝起きて、艦隊の指揮を執り、書類を片付け、一服して床に就く。
その一秒一瞬に至るまでの全てを誰かが見ているのではないか。そんな気がしてならない。
無論、気の所為であればそれに越したことはない。ないのだが……
「Hey! 提督ゥ。意外と寝顔がCuteデスネー! ますますLoveになっちゃいマース!」
「司令官さん、枕が変わると寝られない人なのです?」
「提督、そんなに私の中で火遊びしたいの? それはちょっと困るから第三砲塔には……って何してるの?」
「おっそーい! 提督、夜更かしなんかしてると島風に追いつけなくなっちゃうよ?」
とまあこのように、顔を合わせるたびに本来知りえる筈のない自分の行状まで見てきたかのように話すのだ。大体寝顔なぞどうやったら見られるというのか。
これは何かがおかしい。しかし、その違和感の正体を掴む事ができぬまま、提督は悶々とした日々を過ごすのだった。
「ヒャッホウ♪ まさかここまで発行部数が伸びるとは思いませんでした!!」
青葉は歓喜していた。部屋には刷り上がったばかりの最新号が山と積まれ、乾ききっていないインクの匂いが充満している。カーテンを閉め切った自室で青葉は会心の笑みと共にガッツポーズを決めた。
「ここまで簡単にスクープをモノにできると拍子抜けしてしまいますねぇ!!」
果たして刷り上がった新聞には、こんなロクでもない見出しが躍っていた。
【激撮!! 我らが提督の一日!! 秘められた提督の素顔を今ッ!!】
つまるところ、青葉の見つけたスクープと言うのは提督のプライベート写真大特集だったのである。花も恥じらう乙女たち、その中にあってただ一人のオトナの男。これが気にならないはずはない。
青葉の計略は功を奏し、表だって話題になることはなくとも着実に発行部数を増やしていたのだ。昨夜、ひそかに顔を赤くした加賀が新聞を買いに来た時など、青葉は笑いを噛み殺すのに必死だった程である。
と、そこへ――
「青葉、ちょっといい? なんだかヘンな匂いがするのだけれど……」
「むむ? この声はもしや……」
歓喜に体を震わせる青葉を現実に引き戻したのは、ドアの向こうから聞こえた声だった。
声色から察するに古鷹だろう。さてはインクの匂いが漏れていたか。青葉にとっては至福の香りでも、慣れぬ者にはただの異臭である。
いったん出直してもらおうと青葉は考えたが、それよりも早く古鷹が部屋の中まで押し入ってきた。当然部屋の中は写真と新聞の山なワケで、
「うわ、すごい匂い……って、え? これは提督の写真じゃない!! 青葉、これはどういうことなの?」
「あ~、これには色々と事情があってですね……」
この通り、あっさりとバレてしまったわけである。
発行者が自分であることは既に周知の事実だが、姉ともいうべき古鷹に見つかるとどうにも居心地が悪い。微妙に目を逸らしつつ後退するも、古鷹も負けじとにじり寄る。
「ダメじゃない青葉。これは立派な盗撮。ばれたらタダじゃ済まないんだよ?」
「盗撮とは人聞きの悪い。〝たまたま〟〝偶然〟そこにカメラと私が居合わせただけなんですよ!」
「青葉、あのね……」
腰に手を当てて諫める古鷹。がしかし、この場に限って言えばそれは逆効果だったようだ。
窮鼠猫を噛むの言葉のまま、青葉は古鷹を押し倒す。
「フフフ……こうなっては仕方ありません。少し大人しくなって貰いましょう……」
「あ、青葉? なんだか目が怖いよ……?」
「さぁさぁ、大人しくしてくださいね?」
「~~~~~っ!?!?!?」
一体どこから取り出したのか、青葉の手には立派な麻縄が一巻。
パシンと小気味よい音を立てて縄を鳴らすと、青葉は素早く古鷹を縛り上げて部屋の隅に転がしてしまう。もうこうなってくるとただのテロリストと大差ない。
ついでとばかりに床に転がっていた手拭いで猿轡を噛ませると、
「逃げたらダメですよ? 黙って協力するなら良し、もし反抗するなら……」
ぬかりなく青葉は手持ちのカメラであられもない姿を晒す古鷹をパシャリ。
もうこれで古鷹は青葉に反抗できなくなったわけだ。
「この写真が鎮守府中にばら撒かれてしまいますよ?」
「ムムン……」
猿轡を嵌められてまともに喋れる道理もない。そんな古鷹を見下ろしながら、
「ふっふっふ。分かればいいのです。さぁて、思わぬ収穫ですねぇ……」
怪しく微笑む青葉の横顔に、古鷹は戦慄しつつ縛られた体を揺らすのだった。
その時、提督は鎮守府のあちこちを歩き回りながら古鷹を探していた。
というのも、今月の秘書艦担当は古鷹なのだ。彼女無しでは仕事が進まない。
だというのに、今日は何故か定刻になっても姿が見えない。根が真面目な古鷹に限ってサボりはあるまいと部屋の前まで来た提督は、ふと向かい側――つまりは青葉の部屋から聞こえてきた物音に耳を澄ませた。ドタンバタンという騒々しい物音がドアの向こうから響いてくる。
はてこんな昼間からいったい何の騒ぎかと、提督は僅かに空いたドアの隙間から中の様子を覗き見る。
と、そこには――
「フフフ……古鷹お姉ちゃんはこう言う格好も存外サマになってますねぇ?」
「~~~っ!! ~~~っ!!」
「暴れちゃダメですよ。さて、今度はこういうアングルにして……」
「~~~っ!? ~~~~~~っ!?!?!?」
果たしてこの光景を何と形容すべきか、提督はとっさに思いつかなかった。
姉妹同士の仲睦まじい交流と取るべきか、姉妹同士の禁断の交流(意味深)と取るべきか――
そのわずかな思考の堂々巡りが、青葉と古鷹に異変を気付かせる隙を生んだ。
「て、提督……いつからそこに……?」
「………………」
扇情的なポーズで縛り上げられた古鷹に馬乗りになったまま、表情を凍りつかせた青葉が訊いた。
部屋には大量の盗撮写真。刷り上がったばかりの新聞。そして姉を縛り上げ馬乗りになった格好はどう頑張って解釈してもいろんな意味でアウトだった。
「こ、これはその……姉妹同士の些細な行き違いと言いますか、いえ決して姉妹仲の果てに新しい世界を開拓しようとかそういうことではなくてですね……」
しどろもどろになって虚しい弁明をする青葉の下では、涙目になって縛られたままの古鷹が、
「ムン……ムン……」
と言葉にならない声を洩らしている。
その様子を見て、これ以上二人を問い詰めるほど提督も野暮な人間ではなかった。
そのままの姿勢でそっと優しく微笑むと、生暖かい視線を二人に向けつつ部屋をあとにする。
「待って! 待って提督! 話せばわかるんです! そんな目で見ないでえぇぇぇ!!」
悲しいかな、青葉渾身の叫びが提督に届く事はなかった。
己が罪状と醜態を観られた青葉は、そのままガックリと肩を落とすのだった――
――数日後
「ちょっと!! 親切そうなそこのアナタ!! 助けてくださいよぉ……」
平和を取り戻した鎮守府には、入渠ドックの入り口にある柱に縛り付けられている青葉がいた。彼女の首にはプラカードがかけられており、『私は盗撮をした悪いパパラッチです』と提督直筆で書かれている。
「あら、ずいぶん可愛い格好をしているわね」
「加賀さん!! お願いだから解いてくださいよ~!!」
「そうね、貴方が勝手に下着を盗撮しないと誓ってくれるのなら考えてもいいのだけれど……」
と、言いながら加賀は通り過ぎてしまう。この分だと十数時間は入渠だろう。
他の艦娘たちの反応も似たり寄ったりで、「フフ、恥ずかしいか?」だの、「精々がんばりなさい」というばかりであった。
「誰か……誰か私を助けてくださいよおぉぉぉぉぉ!!!!」
今日も鎮守府は平和です(ニッコリ)