艦これ@SS文庫   作:ゆめちゃん

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Google先生の翻訳は信用してもいいのじゃろうか・・・?


目が覚めたら

 国境の長いトンネルを抜けると雪国であった、とは彼の文豪が遺した名文だが、たまさか目が覚めてみれば本当に雪国が目の前にあるとは思わなかった。

「えっと、響ちゃんなのです?」

 

 灰色の雲が空を覆う師走の鎮守府。

 炬燵の猫よろしく布団に包まっていた電が目を覚ますと、目の前に雪国が居た。

 

(はわわ、真っ白い響ちゃんなのです!?)

 

 一体どうしたことだろうか、目を覚ました電の前には、冬の白さに全身を染めた響がいた。

 昨日の任務ではいつも通りだったのに、髪の色から装備に至るまで激変しているではないか。

 

「お、おはようなのです。その、本物の響ちゃんですよね……?」

 

 自分が寝ている間に何があったのか、それとも提督のドッキリなのか。

 恐る恐る姉に向けて声をかけた電は――

 

 

「……Доброе утро」

 

 

「響ちゃんが知らない言葉を喋っているですぅ――――!?!?!?」

 

 師走の早朝に、電の叫び声が響き渡ったのだった。

 

 

 

 響の身に起きた異変は瞬く間に鎮守府中に広まった。

 単純に改造を受けたのではないか? と言う者もいたが、噂は尾鰭をつけて一人歩きし、朝食の時間になるころには、地球外からの電波を受信しているに違いない、とまで言う者が現れたほどだった。

 

「響ちゃん、一体どうしちゃったのです!?」

「Хорошо, не волнуйтесь」

「なによ! 心配してるんだから答えてくれたっていいじゃない!」

「Я ответа.」

「長女として見過ごせないわ。そんなんじゃ一人前のレディにはなれないのよ!」

「……Ни для кого не ваше дело.」

 

 おまけに万事この調子で会話が一向に成立しない。

 気だるげに帽子をかぶったままボーっとしているだけなのだ。

 

「おいおい、いったい響の奴はどうしちまったんだ?」

「さぁ、さすがに分からないわねぇ~」

 

 騒ぎを聞きつけた天龍や龍田もお手上げのようで、肝心の提督は生憎の留守と来た。

 秘書艦である赤城に事情を話しても首を振るばかりで埒が明かない。

 

「ごめんなさい、提督からは何も聞いていないの。それにしてもどうしたのかしら……」

 

 外観が変わったのみならず姉妹からの会話に応じようとしないのはどういうことなのか。

 

「Sorry, I don’t have good idea. でも響の言葉はどこかで聞いたことがある気がするデース」

「本当ですか、お姉様!!」

「ウーン、でも思い出せないデース……」

 

 と、これは同じく騒ぎを聞きつけた金剛の弁。

 しかし有効な手立てを思いつく事の出来ぬまま時間が過ぎ、そろそろお昼になろうかという頃。

 

「うわぁぁぁん!! 響ちゃんが……グスン……電とお話してくれないのです……」

 

 ついに電が泣き出してしまった。

 

「ちょ、ちょっと電!? ああもうしっかりしなさいってば!!」

「コラ!! お姉ちゃんが自分の妹を泣かせてどうするんだ響!!」

「これはちょっとイケナイと思いマース!!」

 

 これはちょっとお灸を据えてやらねばなるまい、と天龍が腕まくりをしたその時だった。

 

 

「――その辺でやめてあげたらどうですか、ヴェールヌイさん」

 

 

 全員が驚いて振り返ると、其処に居たのは湯呑の載った盆を持った雪風であった。

 

「もう、せっかく改造されたからって悪戯しちゃダメじゃないですか」

「「「???」」」

 

 何が何だかわからない、と言った表情で固まる全員に、雪風はネタばらしをしてみせる。

 

「実はですね、響さんは昨日提督に改造されて生まれ変わったんですよ! その名も『Верный』ロシア語だそうですよ?」

 

 事の背景はこうだ。

 戦後、生き残った艦の中には他国へと譲渡された艦が存在する。

 そのうちの一隻が響――のちのВерныйである、というわけである。

 余談ではあるが、同様の経緯を雪風も持っている。

 

「ははぁ、つまり改造を受けて生まれ変わって来たって事か。ビビらせんなよなぁ」

「い、雷はとーぜん最初からわかってたわ!! 嘘じゃないんだから!!」

「あらあら、そういう改造もあるのね。だったら教えてくれればよかったのに」

 

 ネタばらしをされた響改めヴェールヌイはというと、気恥ずかしげに頬を搔きながら足をブラブラさせている。

 

「……いや、少しビックリさせてやろうと思っただけなんだ。ただ、気がついたらやめるにやめられなくなっていてな……」

「うわぁぁぁん!! 響ちゃんが元に戻ったです――!!!!」

「その、なんだ。驚かせて済まなかったな、電。あとで間宮のアイスを買ってやるから許してくれ……」

「……羊羹も一緒じゃないと嫌なのです」

「なっ!?」

 

 雪の如きクールさから一転、一気に頬を赤くしたヴェールヌイに笑いが弾けた。

 互いに信の置ける姉妹だからこその悪戯だったのだろう。悪気はないのだ。

 

 

 ――『Верный』

 北の大地で「信頼」の意を持つその言葉は、なるほど響に相応しいのかもしれない。

 


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