世の中にはお人好しという物が存在する。
普段は素っ気ないクセに、なんだかんだで面倒見がいいのである。
そう、例えば今まさに遠征から帰って来た「彼女」のような――
「やっと作戦完了で艦隊帰投かぁ。遅ぇなぁ、ちゃっちゃとやれよ」
「な、なによ! 駆逐艦だからって子供扱いしないでよね!」
「ボーキサイトのバケツが意外と重たいのです……」
資材を満載したバケツをこれでもかと抱えて帰って来たのは第六駆逐隊の面々。
鎮守府の懐事情を救済すべく、今日も今日とて資材改修に励んでいるのだ。
それを率いていたのが彼女――『天龍』である。今回の遠征は相方の『龍田』も一緒だった。
「ったくしょうがねぇな。ほら、片っぽ持ってやるからついて来い」
「ありがとうなのです!」
いかにも仕方がなく、といった表情を装った天龍が電からバケツを取り上げる。
かなりの重さがあるであろうバケツを片手で持つと、天龍はそのままズンズン歩いていく。
遠征から出撃まで、水雷戦隊を束ねる姐御肌な天龍だが、その実かなりのお人好しであることは鎮守府の皆が知るところである。
「提督も待ってんだからさっさと行くぞ」
「……了解した。はやく資材を搬入しよう」
口は悪くとも頼れる姐御。こと年下の駆逐艦には天龍を慕うものも多い。
ある噂によれば、青葉型Ⅰ番艦(匿名希望)によって撮影された秘密写真集まで出回っているらしい。
「あらあら~、天龍ちゃんってやっぱり優しいのね~♪」
「なっ!? べ、別にそんなんじゃねぇよ!! 世界水準越えとして当然の事をしたまでだ!!」
「照れてる照れてるぅ~♪」
「うるせえっ!!」
相方である龍田に弄られるのもすでに見慣れた光景だ。
そのたびに顔を真っ赤にして怒鳴り返すわけだが、疲れて眠ってしまった電を負ぶった彼女が言ったところで説得力など欠片もない。
その姿はさながら保育園の保母さん――にしてはやや威勢が良すぎるか。
「ほら、起きろ電。お風呂に入ったら寝るぞ」
「ん……はいなのです……」
「こらこら、暁もウトウトするな。一人前のレディーなんだろ?」
すでに寝ぼけ半分の駆逐艦ズの世話を甲斐甲斐しく焼く天龍。
艤装を下ろして服を脱がせると、そのまま両脇に二人を抱えて湯船に入る。
「ちゃんと肩まで浸かって100数えるんだぞ」
日々の大変な遠征とキツイ演習。その一日の終わりに訪れる至福の時間。
頼れる姐御肌たる天龍を慕う艦娘が多いのを、知らぬは本人ばかりなり。
「うふふ♪ せっかくならわたしも一緒に抱きつこうかしらぁ♪」
「ちょ、おま! やめ、やめろ! 一体どこ触って……ひゃん!?」
「イイ声で啼くのね、天龍ちゃん♪」
そのあと、妙に悔しそうな顔をした龍田に弄ばれまくったのはナイショである。