広瀬"孝"一<エコーズ>   作:ヴァン

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 再び手にした君の温もり

 突入したビル内は正面から見た外観とは異なり、かなり小奇麗だった。

 フロア内には電気が行き渡っているため明るく、散乱しているガラクタも殆んど無い。

 最近まで生活していた痕跡も見られる。

 恐らくストレンジの連中が、このビルを根城にしているためだろう。

 この場所に涙子がとらわれ、双葉が待ち受けているのだ。

 エコーズを飛ばしながら、孝一は周辺の音を拾わせる。

 周囲に複数の足音。

 身長は孝一より高く、体重も重い。

 カラカラとした金属音を地面にこすり合わせ、目的も無く周囲を徘徊している。音の正体は金属バット。明らかに双葉に操られた男達のものだ。

 ――まだこんなに伏兵を隠していたのか。

 このビルに突入した時点で、自分達の事はばれている。ならもう下手な小細工は必要ない。

 一階一階周囲を散策するのも面倒だ。双葉を一気にあぶりだす。孝一はそう決意した。

 

「響かせてやる」

 

 階段を一気に駆け下り男達の真正面へと踊り出る。目の前に異物が現れたことで彼等は一瞬ぎょっと身を固まらせるが、すぐに各々の武器を手に、孝一へと襲い掛かる。

 

 

「エコーズ」

 

 act1が文字を丸め、男達に向かい投げつける。孝一はすぐさま耳を塞ぐ。

 

『双葉ぁ!!』

 

 そのシンプルな単語は張り付いたとたん音の凶器へと変貌する。

 なにしろ拡声器を数倍高めた音量を、相手に投げつけたのだ。その衝撃は尋常ではない。

 ビリビリとした音の衝撃が密封された空間に、恐らく全ての階層へと響き渡る。

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・ァ・・・ガ・・・」

 

「・・・・・・ゥ・・・」

 

 攻撃対象となった男達は白目をむき、口から泡を吐きながら地面に崩れ落ちている。

 ぴくぴくと体を振るわせ、失禁しているものもいる。

 これで戦線には復帰できないはずだ。孝一はエコーズで再び音を拾わせる。

 こちらのいる場所は双葉には分かったはずだ。自分に執着している双葉なら、必ず自らの姿を見せる。

 

「来るなら、こい」

 

 エコーズをact3に切り替え、周囲に注意を払う。すると、

 

「――そんなに大音量でボクの名前を呼ばないでくれよ。照れてしまうじゃないか」

 

 どことなく鼻につく、少女の声が響き渡る。

 

「双葉っ」

 

「やあ、孝一君」

 

 双葉はその場に現れた。どこと無く人を見下した、優雅な笑みを孝一に向けて。

 

「期待していたよ。君は絶対にボクを追いかけてここにやってくると。やはり君とボクは巡り会うべくしてめぐり合った運命の2人なんだね」

 

 ポジティブ思考もそこまで行けばたいしたものだ。孝一は半ばあきれ果てながらも、双葉との距離をジリジリと縮めていく。

 

「もうお前に何も期待しない。何も頼まない。ただこのまま、おとなしく再起不能にされろ。その後で皆を元に戻し、佐天さんを探す」

 

「それは困るな。再起不能にされちゃ、非常に困る。これから彼女に関わる全ての人間の記憶を消しに行くんだからね」

 

 双葉はパチリと指を鳴らす。

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

 次々と、下の階層から男達が顔を出してくる。ガリガリと金属バットを地面にこすらせ、角材を引きずらせ、意志のない目をした彼等は孝一を包囲していく。

 

「出来れば君の記憶は弄りたくない。人形になった君を愛しても何の感慨も沸かないからね。でももし邪魔をするというのなら・・・・・・」

 

 台詞を最後まで言わせない。孝一は一直線に、act3を伴い双葉の元へと駆け出す。

 

「何を言っても聞く気なしかい? 仕方ない。やれ」

 

 双葉が号令をかけると、男達は一斉に孝一へ向け攻撃を開始する。

 大量の30人以上の男達が孝一へ向けてなだれ込む。

 

 

「来い!」

 

 それを受けてたつ孝一。

 一番乗りした男2人をact3の拳で撃退する。顔面をぶち抜かれ、血反吐を吐きながら男2人は崩れ落ちる。

 

「がぁ!」

 

 新たな男達が角材を振り上げ、孝一を狙う。

 だがスタンド能力の無い彼等など、たいした脅威ではない。

 角材をへし折られ、顎を砕かれ、たちまち沈黙させられる。

 

「何をしている! 進め!」

 

 双葉の号令で男達は一斉に飛び掛る。たとえ1人2人が犠牲になろうとも数で押し切る作戦のようだ。

 

「act3!」

 

「ウリャアア!!」

 

 act3の拳が唸りをあげる。丞太郎のスタープラチナには及ばないものの、それでもスピードはかなりある。その連続攻撃を男達に叩き込む。

 

「がはっ」

 

 男の1人は鼻を折られ、その後顔面を強打し、その場にうずくまる。

 

「ぐへっ」

 

 違う一人は鳩尾を打たれ、悶絶する。

 そうして一人ひとり、敵を打ち倒していく。

 だが、30人という数は流石に多い。そして彼等は恐れるという感情を奪われている。

 双葉の命令に忠実に前進し、act3の攻撃を突破するものが現れてくる。

 

「グゥ!?」

 

 背後から孝一を襲う強烈な痛み。act3の攻撃から逃れた男が木刀で思い切り殴りつけたのだ。

 

「ぐへっ!?」

 

 act3がまわし蹴りを放ち男を弾き飛ばすが、すぐさま他の男達が孝一を狙う。

 角材を持った男が2人。

 木刀を持った男が3人。

 金属バットを持った男が4人。

 孝一目掛けて武器を振り上げ襲ってくる。

 

「・・・・・・くっ」

 

 焦るな。冷静に対処するんだ。

 孝一は向ってくる男達に対処するため、エコーズを切り替える。

 

 

「act1!! 喰らわせろ!!」

 

 連続攻撃が可能なact1を呼び出し、攻撃を仕掛ける。

 男達の顔に、サイレンや飛行機の轟音を具現化した文字を貼り付け、能力を発動させる。

 

「!!!?」

 

「~~~~!!」

 

 男達は突然発生した爆音に絶叫をあげ、地面を転げまわる。両耳を押さえつけ必死に音が鼓膜に入ってこないようにするが、それは頭の中まで染み渡り逃がさない。やがて男達はガクガクと前進を痙攣させ、その後まったく動かなくなった。あまりの衝撃で意識が飛んでしまったらしい。

 孝一を取り囲む男達は、その数を半数以下にまで減らされていた。残った男達は攻撃をやめ、双葉の命令が下るまで待機している。

 

「どうした? もう諦めたのか?」

 

 肩で息を切らせながら孝一は一歩前へ、双葉の元へ進む。動くたびに振動で肩口が痛むが、そこは気合でカバーする。

 

「・・・・・・そこまで、嫌かい? そんなにあの女の事が好きなんだ?」

 

 表情を暗くし、妬みの感情をまったく隠そうともしない双葉。自身のスタンド『ザ・ダムド』を出現させ、恨みがましい瞳で孝一を見る。

 

「孝一君は選ばれた人間だ。スタンドという、すばらしい力を持った新人類だ。ボクと同じ人種だ。なのに何故、旧人類であるあの雑種のような女に固執するんだい? それがボクには理解が出来ない」

 

「何度も、言ってるだろ? 嫌いな人間だけを排除して、自分が許可した人間だけをそばに置く。そんなのはただの独裁だ。狂信的な宗教と同じだ。そんな自分勝手な理想郷を作って、何になるんだ?」

 

「・・・・・・・・・」

 

 孝一の問いは、双葉の心に届かない。目を閉じしばらく何かを思考していた彼女は、やがてニッコリとした笑みを作る。その笑顔の意味が分からず孝一はいぶかしげな表情で双葉を見る。

 

「――予定を変更。孝一君の記憶も奪うよ」

 

 そう告げると双葉は『ザ・ダムド』を孝一に向ける。

 双葉の影が歪み、一直線に伸びていく。黒い触手を出し、今にも孝一に切りかかりそうだ。

 

「君には純粋にボクのことを好きになってもらいたかったけど仕方ない。多少強引でも、君の記憶を再構築させてもらうよ。その為にはまず、佐天涙子の記憶を君から追い出す!」

 

 触手が地面を伝い、孝一の元まで伸びる。

 

 

「この! 分からず屋がぁ!!」

 

 孝一はact3を出し、迎え撃つ。両目に怒りの表情を浮かべ、この決して分かり合えない人種と決着をつけるために。

 

「!?」

 

 だがその一騎打ちに横槍が入る。

 金属バットが回転しながら孝一に向け投げ込まれる。

 見ると遠巻きに眺めていた男の1人が、投擲し終えた姿勢をとっていた。

 ――この男が? 双葉の指示か?

 孝一はact3で回転する金属バットをガードし弾き飛ばしてしまう。

 しまった。

 そう思ったときには双葉の『ザ・ダムド』は牙をむき、孝一に切りつける寸前だった。

 思い切って体を倒すが間に合わない、足の付け根から真横に『ザ・ダムド』の触手が切りかかった。

 シャボン玉が切りつけられた箇所から大量に吹き上がる。

 

《――え? 佐天さんと初春さん? どうしてここに?》

 

《やほー。孝一君。何か面白そうだから、後、つけてきちゃった》

 

《あははは。どうもー》

 

 それはS.A.Dの撮影会初日の記憶。

 玉緒の提案に賛同を示すメンバー達。そこでエレベーターが開き、涙子と初春が顔を出した――

 

「あ・・・・・・ああ・・・・・・」

 

 奪われた。涙子に関する記憶の一部が、孝一の心の中から消えていく。

 周囲に漂うシャボン玉。これに記憶が閉じ込められている。

 思わず手を伸ばしてしまうが、孝一に触れることは叶わない。

 

「孝一君。手元がお留守だよ! ボーっとしてて良いのかい?」

 

 記憶を奪われ呆ける孝一に、『ザ・ダムド』がなおも攻撃を加える。

 今度は左腕の部分を切りつけられる。

 

《・・・・・・なら、いいじゃん。やりなよ。しない後悔よりした後悔ってね。正直、今の気持ちのままで鬱屈した毎日を送るくらいなら、その方がいいって。いざとなったら、あたし達がサポートしてあげるからさ。だから、元気だして? 沈んだ顔は、君には似合わないよ》

 

 噴き出したシャボン玉。今度の記憶は涙子にS.A.Dに入る事を相談している場面だ。

 彼女に電話することで心が軽くなった孝一は、大事な決断を下すのだ。

 ――大事な記憶が。

 涙子との思い出が、次々と消えていく。

 

「全部! 消してやる。あの女の記憶を全部! 一欠けらも残すものか! そしてその後に、ボクの記憶を植えつける! 大丈夫。記憶の改ざんはお手の物さ」

 

 双葉は高笑いをしながら男達に命じ、孝一を取り押さえさせる。そして鞭で撃つように孝一の体を何度も何度も切りつける。

 不思議な屋敷での一夜。

 エルとの出会い。研究室にさらわれた涙子。

 パープルヘイズを巡る攻防。

 R事件。

 その出来事で共に戦った涙子の記憶がすべてシャボン玉となり、孝一の体から消えていく。

 部屋一面に広がっていくシャボン玉の数は数百を越えている。それもそのはず、奪われたのは涙子に関する記憶だけじゃない。この学園都市に来た辺りからの記憶が、仲間たちの記憶がごっそり奪われていく。

 

「――ついでだから、残りの記憶も奪わせてもらうよ。君の交友関係は女性が多すぎる」

 

「・・・・・・・・・」

 

 押さえつけられ項垂れる孝一は何も答えない。

 誰かが、自分に声をかけているのは分かる。だけど、その人物が誰で自分が何故男達に押さえつけられているのか、孝一にはもはや理解できなかった。

 孝一に残されたのは自分の名前と、スタンド能力のみ。

 広瀬孝一。

 エコーズ。

 それが全てだった。

 

「――さて、それじゃあ。改ざんを行おうか。大丈夫。怖がることはない。君はこれから、まったく新しい世界感でボクと共に生きていくことになるんだ」

 

 まるで聖母の様に孝一を慈しみ、双葉が歩み寄る。男達は無言で孝一を解放し、のろのろと下がっていく。双葉がもはや脅威はないと判断したため下がらせたのだ。

 

「・・・・・・・・・」

 

 孝一は意志のない表情で虚空を見て、それから双葉を見た。

 まったく知らない女だった。

 その女が何か黒い物体を自分の影から出すのが見える。

 ――スタンド。

 スタンドに関する記憶だけは残された孝一は、その影の正体に瞬時に理解する。

 だがそれだけだ。それを使い彼女がなにをするのかまでは、今の孝一には理解できなかった。

 

「安心して、ボクに身を任せるといい。たった数秒で全てが変わるから」

 

 双葉は孝一を胸元に抱き寄せ、その頭をやさしく撫でた。

 

 

「ずっとこうしたかったよ。こうして君を抱き寄せて、触れたかった」

 

 母親が子供を甘やかすように、包み込むように、双葉は自愛の表情で孝一を見つめる。

 

「――よく分からないけど・・・・・・。あんたは()、なんだな? そういう解釈でいいんだな?」

 

「え?」

 

 胸元に抱き寄せた孝一が双葉をジッと凝視している。その表情は、記憶を抜かれた男のそれじゃない。明確な意思をもって、双葉を敵と認識している。

 

「な、なんで・・・・・・?」

 

「・・・・・・声が聞こえるんだ。自分の頭の中に、直接響いて僕に訴えかけているんだ。お前が敵だって」

 

 双葉は孝一の背面部を見てはっとした。何かが張り付いている。

 

「文字? まさか、これは君のエコーズの?」

 

 孝一の後頭部辺り、そして背中にかけて、エコーズact1で作った文字が張り付いていた。

 

『目の前の女は敵ダ』

 

『近付き、油断したラ』

 

3 FREEZE(スリー・ フリーズ)をぶち込め』

 

「馬鹿なっ!? 予め、こうなることを予想して、ワザと攻撃を受けたってのか? ボクにこうして近付くために?」

 

 双葉は孝一を振りほどき距離をとろうとする。だが遅い。孝一のスタンドはact3に変化し、既に攻撃を放っている。完全に射程距離内だ。逃げられない。

 

「奥義! 3 FREEZE(スリー・ フリーズ)!!」

 

 act3の攻撃が双葉の体にヒットし、彼女の右手が地面深くめり込んだ。

 

「ぐあぁ!?」

 

 数tにも及ぶ重力が右手にかかり、骨や筋肉がブチブチと音を上げ破壊されていく。

 それでも彼女にかかる圧力は収まらない。次第にその重さを増し完全に右腕を押しつぶそうとする。

 

「~~~!?」

 

 双葉は、あまりに激痛が勝ると声すらあげる事が出来なくなるということを、今始めてしった。このまま右腕が引きちぎられるのは嫌だなと思ったが、孝一の表情を見る限り止めてくれそうにはなかった。

 そのまま、その時が訪れるのを大人しく待つしか出来ない。だが、それは訪れなかった。

 

「・・・・・・こーいち君。もういいいっすよ」

 

 そういって自分の体を庇うように抱きしめてくれた玉緒が現れたからだ。

 

「同じ、顔!?」

 

 記憶を奪われた孝一は驚きの表情を浮かべ、玉緒を双葉を交互に見比べる。

 

「ああ。そうか。記憶。奪われたんでしたっけね。すぐに解除するっす」

 

 玉緒はパチリと指を鳴らす。『ザ・ダムド』は大きな口をあんぐりと開け、今まで吸収したシャボン玉達を全て解放する。

 これは玉緒の能力交換(リプレイスメント)だ。双葉に触れた瞬間に、能力が発動したのだ。

 シャボン玉はまるで意思を持つように周囲を飛び回り、やがてボーゼンとする孝一の体内へと戻っていった。

 

「・・・・・・あ? 玉緒?」

 

 呆けた声を上げ、孝一が周囲を見渡す。

 全てがはっきりと分かる。ここがどこなのか、目の前の相手が誰で、敵が誰なのか、全て分かる。

 失われた記憶が全て、孝一に戻ったのだ。

 

「っ?」

 

 ふいに孝一の背後から、柔らかい丸みを帯びた何かが抱きついてくる。

 

「え? ちょ・・・・・・」

 

 これは明らかに女性だ。それもかなりふくよかな・・・・・・

 もしかして、と孝一は思った。

 

「――佐天、さん?」

 

「良かった。孝一君が無事で・・・・・・。そして信じてた。絶対、助けに来てくれるって・・・・・・」

 

 声の主はそういって孝一を背後から抱きしめ、しばらく抱擁を繰り返していた。

 その声、そしてこの感触。彼女は確かに自分が知る佐天涙子だった。

 だが疑問が残る。彼女を助け出した人物は誰なのか。

 

「双葉を捜している途中で自分が見つけたっす。ご丁寧に鍵付きの部屋に閉じ込められてましたけど、スタンドで難なくこじ開けたっす」

 

 孝一の表情から察したのだろう。玉緒が事の成り行きを説明する。

 

「・・・・・・そうか、ありがとう」

 

 玉緒に感謝をしながら孝一は目を閉じ、しばらく感慨に耽っていた。

 涙子を救出できたこと。双葉を倒す事が出来たこと。

 それが出来たのは皆のお陰だった。

 やがて自分に抱きついている涙子の手をそっと握り返すと、

 

「君が好きだ」

 

 と自分の正直な気持ちを涙子にぶつけた。

 

 

 

 

「――さて、これで終わりじゃないっすよ」

 

 再会を喜び合う孝一達を他所に、玉緒は双葉を羽交い絞めにし地面に押し付ける。

 

「ぐっ! 何をする気だい? ボクの邪魔を散々してくれて、この落とし前は必ずつけさせてやる」

 

 双葉が憎しみのこもった目で玉緒を凝視する。だがそれは玉緒も同じだ。表情には出さないが双葉を見下ろす彼女は、明らかに眼が据わっている。

 

「双葉。あんたはただ一人の家族だから、このまま殺したりなんて事はしないっす。だけど、落とし前はきっちりつけさせてやるっす。もし、今度こーいち君達の前に現れて悪さをして御覧なさい? あんたにはきつーい。罰を与えるっす」

 

 玉緒は「こーんな風にね」というと、後ろに控えていた人物を招きよせる。

 それは丞太郎だった。

 丞太郎はスタープラチナを出現させ、双葉を見下ろしている。

 

「・・・・・・いいんだな? きっちり、ぶちのめしても、かまわねぇんだな?」

 

 ボキボキと腕を鳴らしながら丞太郎が前へ歩み出て、双葉を無理やり立たせる。

 玉緒は「どーぞどーぞ」と笑顔で双葉を差し出す。

 

「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらって――」

 

 双葉が青い顔をしながら、玉緒を見る。「た、たすっ――」手を伸ばし助けを求める彼女を玉緒は突き放す。

 そして丞太郎のお仕置きタイムがやってきた。

 

「オラオラオラオラオラオラオラっ!」

 

 最初の一撃で宙を待った双葉は、スタープラチナの連打(ラッシュ)で地面に落とされることも叶わず、パンチの圧力だけで浮かび上がる。

 そのまま何度もスタープラチナのパンチを全身に浴び、最後の一撃で地面にめり込むように叩き付けられる。だがこれで終わりではない。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!」

 

 再び襟首をつかまれ無理やり立たされると、今度は真正面から何発も叩き込まれる。

 顔面は砕かれ、肺は潰され、肋骨は砕け散る。

 まるで全身を車で撥ね飛ばされたような衝撃を何分もその身に受け、双葉は意識を失いかける。

 しかしそれをスタープラチナは許さない。

 意識を失いかける寸前、再び新たな激痛みが発生し、それをさせない。

 気絶することすら許されず成すがままにされ、やがて双葉は何も考えられなくなりそのまま無の極致へと誘われた。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!!!!!!!!!!」

 

 やっと解放された時、双葉は白目を向き、口から泡撒き散らして失神していた。

 その様子を見た丞太郎は、

 

「――やれやれ。これで、こいつの心に『敗北』の二文字を刻み込め、仲間の記憶も戻った。俺自身もすっきり気分爽快でぶちのめせた。全て解決。メデタシメデタシってとこかな?」

 

 そういって帽子を被りなおした。

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 双葉がピクピクと痙攣し、口から泡を吐き出す。

 

「あちゃー。やりすぎちゃったっすかね?」

 

 玉緒は頭を掻き、しまったと呻いている。

 ――先程まで、双葉が体験したことは真実ではない。

 玉緒が『ザ・ダムド』で双葉に植えつけた偽りの記憶だ。

 彼女に反省を促すために行った処置だが、刺激が強すぎたようだ。

 双葉は、瞳から涙を浮かべながら、何やらうわごとを言っている。

 

「――おいおい。どうやら、決着がついちまった様だな」

 

 先程の偽りではない、本物の丞太郎が到着した。

 周囲を見渡し、横たわる双葉を確認すると、「やれやれ」とため息を吐く。

 

「丞太郎さん。申し訳ないっす。先にやっつけてしまいました」

 

 玉緒が少しばつが悪そうな表情をして謝る。

 

「かまわんさ。俺が先だったら、こいつを半殺しどころか全殺しにしていたかもしれんからな」

 

 その言葉を聞いて玉緒は心の中で「やっぱり間に合って良かったっす」と胸をなでおろした。

 

「こいつはどうする? というかどうなったんだ? こいつ」

 

 丞太郎は地面に倒れこみ、痙攣している双葉を指し示す。

 

「ちょっと精神的にダメージを与えすぎたようで、たぶんもう二度と悪さは出来ないと思うっす。当分の間は入院生活っすね」

 

 そういうと双葉を担ぎ、そのまま歩き出す。周囲では「俺は、一体・・・・・・」「何で俺等、血を流してんだ?」というストレンジの住民達の声が戸惑い気味に聞こえてくる。

 

「双葉の能力が解除されたから、皆元通りっす。黒妻さんも、きっと元通りになってるっすよ」

 

 その時「おーい」と玉緒達を呼ぶ声が聞こえる。それはビッグスパイダーの面々だ。

 玉緒がビルに突入するために足止め役を買って出た彼等が、笑顔でこちらに手を振り走ってくる。

 顔や服に所々血の跡があるが、命に別状はないみたいだ。

 その様子を見た丞太郎は、口元を吊り上げ笑みを浮かべる。

 

「どうやら、嬢ちゃんの言う通りみたいだな。これで黒妻に顔向けが出来るぜ」

 

「だけどこれからが大変っすね。スタンドの存在が証明出来ない現状では、全ての実行犯は丞太郎さん達だって思われてるっよ」

 

 柵川中学襲撃の犯人は、いまだ丞太郎達だということになっている。いずれアンチスキルの追っ手がやってくるかもしれない。だが玉緒の心配を他所に丞太郎は「かまやしねぇさ」と笑みを浮かべる。

 

「今までもこうしたトラブルは日常茶飯事だったんだ。それが一つ増えただけよ。俺等はアウトサイダー。社会不適合者だからな。まあ、何とかして見せるさ。それより――」

 

 丞太郎は涙子と抱擁を続ける孝一を見ると、

 

「今は悪い魔女にさらわれたお姫様を救出できた事を、素直に喜こぼうじゃあねえか」

 

 そういって帽子を被り直した。

 

「――そうっすね」

 

 口元に笑みを浮かべる丞太郎に吊られ、玉緒も自然と笑みを浮かべて返すのだった――

 

 

 

 

 

 アウトサイダー END

 

 




アウトサイダー編。
これにて完結です。
本当は後日談も考えたんですけど、ここで切った方がきりがいい気がしたので止めました。
さて次回ですが、結構しんどい話になるかもしれません。
作者的にもストーリ的にも。まあ構想だけで全然まとまっていないんですが。
終盤に向けて舵を切るには必要な話だと思うのでご了承下さい。

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