広瀬"孝"一<エコーズ>   作:ヴァン

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オーシャン・ブルー ―孝一編その③―

見渡す限りの人。

 人。

 人。

 人の波。

 

 

 買い物カバンを持った年配のお年寄りから、制服姿の学生まで、千差万別の人間がこの施設に集まり、ワイワイガヤガヤとにぎやかな音を発生させている。

 

「すごい、人の列だ・・・・・・」

 

 僕は思わず感嘆の声をあげる。

 

「今日は一体何なのだ? 皆、何故にこのように集まってきているのだ? 祭りか?」

 

 隣で人ごみに飲まれまいとジャックさんに抱きついていたサルディナさんが、戸惑いと驚きの声をあげる。

 それもそのはずだ。

 ここ一週間は閉店セールと称してほぼ全ての商品が投売り状態になっているんだから。

 出来れば僕もそちら側に客として参加したかったなあ・・・・・・

 

『さあ、早速盛り上がっていきましょう! オープニングを飾る最初の一発。みんな大好きマスコットキャラ。ゲコ太48による華麗なダンス! 張り切ってどうぞ!』

 

 一階のラウンジに設けられた特設ステージ上では、大量のゲコ太達が華麗なダンスを披露していた。48体の息のあったダンスはそれだけで見るものを圧倒する。

 訂正。

 一体ほど、タイミングが遅れているゲコ太を発見してしまった。

 これは残念だなぁ。

 たぶん、アルバイトの人か何かだろう。

 おっと、こうしちゃいられない。とりあえず、ここから動かないと。

 僕達は、はぐれないように必死に人ごみを掻き分け、前へと進む。

 

 

「ふうっ。疲れた」

 

 何とか二階の食品売り場まで到着出来た。

 しかし二階も、すごい有様だ。

 買い物カゴいっぱいに荷物を放りこみ、カートを引くお客が大量に要る。

 店内にはエアコンが効いているはずなのに、ちっともそんな感じがしない。

 これだけ人がいると、やっぱり熱気がすごい。

 

「おい。サルディナ。後何階だ?」ジャックさんが尋ねる。

 

「わからん。だが、この階ではない」とサルディナさん。腕の文字(ルーン)には反応が無いらしい。

 

「今日中にカタをつけたい。迂闊だったぜ。今日でこのビルが閉店だって事、すっかり忘れてたぜ」

 

 そうだ。今日が終わればこのビルは建て壊される予定だ。そうなれば、商品をここに隠したアハドという男も、人目を気にせず商品を回収できる。ガナンシィが闇のルートで売り捌かれてしまう。

 この薬品は、無能力者の人達にとっては喉から手が出るくらい欲しいシロモノだ。例えば、『服用するだけで能力が身に付く』なんて誇大広告で売りに出したなら、服用する人間はきっと出てくるだろう。

 そういう事態は回避しなければいけない。

 

 ――昨日の深夜。ジャックさんから電話がかかってきた。明日――。つまり今日のことだけど―― もしガナンシィを回収する事が出来たなら、人知れない場所で破壊してしまおう。という内容だった。

 

 ――サルディナが抵抗するかもしれんが、そのときはお前のエコーズで取り押さえといてくれ――

 

 電話越しで顔は判らなかったけれど、どこか沈んだ感じだったのは分かった。

 「いいんですか?」とは聞かなかった。僕もその方がいいと思ったからだ。

 サルディナさんを泣かせることになるけれども、この学園都市の人間に被害が及ぶ可能性があるのなら、それは止めなくちゃいけない。

 だから僕は二つ返事で「わかりました」と答えた。

 

「――いらっしゃいませ! いらっしゃいませ! 本日は最終日となっております。今回は出血大サービス! なんと、今月誕生日を迎えられたお客様には、最大8割引きで商品をご購入いただけるサービス券を配布しております! 御入り用の際は受付のカウンターにて、身分証明となるものを提示下さーい!」

 

 店員の人が拡声器で大声を張り上げ、持っていたベルを鳴らす。

 それに即座に反応したお客の波が、受付のほうへどっと向かう。

 

「うおっ、とっと」

 

 人の波が、僕達を押し流す。

 その力は凄まじく、僕達はたちまち離れ離れになってしまった。

 

「ちょ、ちょっ!? まっ!?」

 

 あっという間に、ジャックさんを見失ってしまった。これはマズイ。サルディナさんは大丈夫だろうか。

 辺りを見渡すと、サルディナさんを発見した。だけど、様子がおかしい誰かともめているようだ。

 

「――ご、ごめんなさい。前を見てませんでした。あの。怪我とかはしてませんよね?」

 

「そんなもの。見れば分かるだろう? お前のそのもやしみたいな体で、ワタシが怪我を負うとでも思ったか? タワケが」

 

 小柄な僕と同い年位の男の子に、サルディナさんは文句を言っている。その後ろでは彼女らしきおさげの女の子が心配そうに様子を伺っている。

 マズイ。

 余計なトラブルはマズイ。

 僕は何とかサルディナさんのところまでたどり着き、彼女の手を掴む。

 

「――――あっ。ごめんなさい。この子ちょっと口が悪くて。でも、悪気があったわけじゃないからね」

 

 どっちが悪いのかは知らないが、とりあえず謝っておく。

 相手の少年もそれ程憤慨してはいなさそうだ。

 僕達は『これからは、お互い気を付けましょう』といってその場を離れた。

 

 

「おい、孝一。今のはあの男が悪いのだ。何故に誤る必要がある?」

 

 サルディナさんは膨れ面だ。

 

「今、余計なトラブルはマズイ。今は『ガナンシィ』を回収することが重要じゃない?」

 

「むぅ」

 

 サルディナさんは、まだ納得しきれて意ないと言った顔をしているが、ここは折れてもらう。

 ジャックさんと早く合流しないといけない。

 

「おい。孝一。ちょっとまて」

 

 サルディナさんが後ろから僕の服を掴む。

 どうしたんだ。こんな時に。

 

「あれは、両親とはぐれたのではないか?」彼女は一人の女の子を指刺す。

 

 泣きべそをかいた5~6歳くらいの女の子が、周りをキョロキョロ見渡しながら誰かを探すようにして歩いている。

 あの様子は、完全に迷子だ。

 

「ほっておけない。少し待て」

 

「ええっ!?」

 

 サルディナさんはそういうと女の子の方へと歩み寄る。

 そりゃあ放っては置けないけど、今はそんなことをしている場合じゃないってのに。

 しょうがないので僕も、後を追う。

 

「おい。子供。はぐれたのか?」

 

 サルディナさんが泣いている少女に声を掛ける。

 だけどあまりに唐突に声を掛けたので、女の子は目をパチクリとさせて驚いている。

 

「・・・・・・まじょ、さん?」

 

 彼女の黒いローブの姿がアニメや絵本に出てくるキャラに似ていたのだろう。女の子はサルディナさんをじーっと見上げ、ポツリと一言零した。

 

 

 

 

「おいおいおい。何やってんだよ、お前等は」

 

 合流したジャックさんが女の子を連れてきた僕達を見て、心底呆れたように言った。

 女の子はサルディナさんのローブの端を持ち、不安そうな表情で僕達を見ている。

 まあ、こんな怪しい中年男性の前につれてこられちゃ当然な反応だろうなぁ。と僕は心の中で呟いた。

 

「すまない。どうしても放ってはおけなかったのだ」

 

 サルディナさんが肩を落とし謝る。その表情は、少ししょんぼりとしていた。

 

「こういうのは迷子センターにでも頼めよ。ったく」ジャックさんが悪態をつく。

 

 その言葉を聞き、サルディナさんが虐められているとでも思ったのだろうか、女の子がジャックさんの前まで歩み寄ると、唐突にすねの部分を蹴り上げた。

 

「ぐわっ!?」

 

 突然の出来事にジャックさんは大声を上げる。というか、あそこは痛い。痛すぎる。

 

「お姉ちゃんを、いじめんなっ!」

 

 続けてもう一発、今度は逆のすねを思いっきり蹴り上げる。

 

「~~~~~っ!?」

 

 あまりにも痛かったのだろう。ジャックさんは今度は叫び声さえあげることも出来ず、その場にうずくまった。

 

「こ、の、くそ、ガキっ」

 

 かろうじて、そう悪態をつくだけで精一杯のようだ。

 

「おい。少女よ。これ以上は止めるのだ。ジャックも反省をしている」

 

 サルディナさんが女の子を諌める。

 

「わ、わかった。このガキ・・・・・・。いや、お穣ちゃんは、俺が責任を持って両親の元へと送り届ける。だから、お前等は先に行ってくれ。これ以上、トラブルを持ち込むな」

 

 ジャックさんは痛みをこらえて立ち上がり、女の子を抱え挙げる。

 

「うわあん。ろくでなし、悪者、ひとさらいいぃぃ」

 

「おい。縁起でもねぇこというな!」

 

 暴れる女の子を無理やり押さえつけるようにして、ジャックさんは僕に向き直る。

 

「いいんですか? なんなら僕が連れて行きますけど」

 

「いいや。時間がねぇ。この人ごみに溢れた混乱した時間が、物取りには最適なんだ。とっとと品物を見つけねぇと、それだけリスクが跳ね上がる。それに、もしも場合、スタンドを持っているお前がいた方が、何かと都合がいいだろ?」

 

 そういうとジャックさんは僕に向かって懐のポーチを投げてよこす。

 

「何が入っているんです?」

 

「使わないに越したことはねぇが、いざという時のためだ。中に銃が入っている。もしもの時には脅しに使え」

 

「銃!? い、いやですよ。何かあったらどうするんですか? 僕は持ちませんよ」

 

 銃なんてとんでもない。

 僕はそれをジャックさんに返そうとする。

 

「慌てんな。銃と入っても麻酔銃だ。中を見てみな」

 

 そういわれて、僕はポーチの中を覗きこむ。

 中には、小型の銃と長細い箱が入っている。

 小型の銃のほうは映画で見た事がある。たしかデリンジャーって言うんじゃなかったっけ?

 

「デリンジャー銃を俺好みに改造したものだ。コイツは銃弾じゃなく、別のものを込めて使用する。箱を開けてみな」

 

 ジャックさんに言われて箱の中身を改める。

 箱の中には、注射器。もしくはダーツを連想させるものが12本入っていた。

 先端部分は注射器の様に尖り、後ろには赤い羽根のような飾りが付いている。

 

「麻酔銃用の(ダート)だ。大型動物なんかを眠らせるときに使う、強力なやつさ。使うか使わないかは、お前の判断に任せる」

 

 それだけ言うと今度こそ女の子を担いで、ジャックさんは姿を消してしまった。

 

 

 

 

「すまなかったな。迷惑をかけて」

 

 ジャックさんと別れてから僕達は、ガナンシィ捜索を再開した。

 3階のファッションセンターを越え、現在4階の家電フロアへ向かう途中だ。エレベーターは混雑しているので、ホーム階段を使用している。

 そんな時に、サルディナさんが僕に謝罪の言葉を言ったのだ。

 

「あの年頃の少女が泣いているのが、気になったのでな。私の妹分を思い出したのだ」

 

「妹分?」

 

「泣き虫でな。良く私の後ろをついては、ピーピー泣くやつだったよ。だが技能は優秀で、私より早く試験に臨むことになったのだ」

 

「へえ、すごいですね。その妹さんは合格できたんですか?」

 

「ああ、優秀だったからな。私も鼻が高かった。・・・・・・だが、死んだ」

 

「え?」

 

 サルディナさんの声のトーンが落ちた。暗い、悲しみのトーンだ。

 

「言ったろう? 闇討ち、強奪は当たり前の世界だと。商品の受け渡し時に潜んでいた敵に気づかず、囲まれ、そのまま殺された・・・・・・。なぶり殺しだ」

 

「そんな・・・・・・」

 

「遺体は回収されず、そのまま打ち捨てられた。もとより我々は流浪の民、墓石すら持てぬ。『全ては胸のうちに刻め。肉体は、風の瞬きとともにいずれ朽ち、消滅するもの』それが『アジャンテ』の教えだ」

 

 唐突に、

 サルディナさんが歌う。

 誰にともなく、口ずさむ。

 これは『アジャンテ』の歌だろうか。

 とても不気味で、

 おそろしく、

 そして悲しい歌だった。

 

 

 人を殺して旅をして。

 旅をしながら巡礼し、

 巡礼しながら許しを請い、

 許しによって清められ、

 清められれば人殺す。

 

 

「――小さい頃は、この歌の意味が分からず、口ずさんでいた。でも、今ならわかる気がする。これは、人の業の歌だ」

 

 それは、永遠に終わらない業。

 アジャンテが商品を売り、その商品で誰かが傷付き、その誰かがまた誰かを傷つける。

 そしてまたその誰かが、赤の他人を――

 

 報復

 強奪

 狂気

 怨嗟

 宿業

 

 それは未来永劫に終わらない負の連鎖だ。

 

「ジャックに言われた言葉、『お前には向いていない』。その意味を私はやっと理解したよ。私はきっと、その業に耐えられない。きっとどこかで、心が壊れてしまうだろう。だから、今は、恐ろしい。ただ、恐ろしいのだ・・・・・・。このまま、試験を終えるのが、たまらなく、怖いのだ」

 

 サルディナさんの体が震える。

 業。

 まだ十代の女の子が背負うには重過ぎるものを、彼女は背負おうとしている。

 僕にはそれがとても痛々しく見えて、声を掛けてしまう。

 目の前で、こんなに苦しんでいる女の子がいるのに、放っておく事なんて出来なかった。

 

「だったら、耐えなきゃいい」

 

「え?」サルディナさんが僕のほうを見る。

 

「そんな業なんて、背負う必要ないよ。捨ててしまえばいい。逃げればいいんだ」

 

「・・・・・・簡単に、いってくれるな」サルディナさんが自虐的に笑う。「無理だ。私は『アジャンテ』以外に生き方を知らぬ。行き場が無いのだ。裏切ることなど、出来ない」

 

「自分で自分の可能性を否定するな!」僕の叱責にサルディナさんの体が震える。

 

「こういち・・・・・・?」

 

「人間の生き方って、一通りじゃないんだ。色んな選択肢があってしかるべきなんだ。だから、逃げるっていう選択肢だってあるし、逃げた先にだって、新しい生き方はある。そこから始まるものや、出会う人だっているんだ。でも――」

 

 サルディナさんと向き合う。

 

「諦めて、何もしないでいるのは思考の放棄だ。可能性の芽を自分で潰している」

 

「だが、どうすれば良いのだ? 一人で一体何ができると?」

 

「一人じゃない」

 

「な、に?」サルディナさんが目を見開き僕を見る。

 

「僕やジャックさんもいる。他にも友達がいます。一人ひとりは頼りなくても、それが集まれば何かが出来るはずです。特にジャックさんはああ見えて意外と頼りになるんですよ? だから、望んでください。助けを求めてください。あなたさえ望めば、僕達はいつだってあなたの手をとる事が出来るんだ」

 

「・・・・・・なぜ、そこまでして、私の為に?」

 

「理由なんて無いです。強いてあげるなら、サルディナさんが、困っていたからかな? あなたがさっきの子を助けたみたいに、僕もあなたを助けたくなったんですよ」

 

「変なヤツだな、お前は。お前等は・・・・・・」

 

 サルディナさんが目を閉じ苦笑する。

 

「・・・・・・ありがとう。そこまで私の為に怒ってくれて」サルディナさんが礼を言う。「だけど、今はまだ心の整理が付かない。だから、保留にさせてくれ。この件が片付いたら、必ず答えを出すよ。だから、しばらく待ってはくれないか?」

 

 サルディナさんがそういって、少しはにかみながら笑う。

 その顔は先程までの重苦しい表情ではなく、少し気が晴れたようだと僕は思った。

 

「わかりました。とりあえず、『ガナンシィ』を回収してしまいましょう。話はそれからです」

 

 僕達はそういうと再び上の階層を目指すのだった。

 

 

 

「ここですか」サルディナさんに尋ねる。

 

「ああ。反応はこのフロアからしている。間違いない」

 

 右腕に触れ、サルディナさんは反応を確かめている。

 4階の家電フロア。

 ここに『ガナンシィ』が隠されている。

 周囲は買い物客で溢れかえり、レジに長蛇の列を作っている。

 常識的に考えてこんな所に品物は置かない。つまり、フロアの奥。商品保管庫の可能性が高い。

 僕達はその場所を目指し歩を進める。

 

「――反応が強くなってきた。間違いない。『ガナンシィ』はこの奥の部屋にある」

 

 サルディナさんが指差す先には、思ったとおり商品保管庫のネームプレートがかけられた部屋があった。

 人気はない。運び出すなら今がチャンスだ。

 

「よし――」

 

 僕はゴクリと唾を飲み込んで、ドアノブに手を伸ばす。その時だった。

 

「おまえら、そこで何をしている?」

 

 しまった。

 そう思ったときには既に遅かった。

 ここの清掃員の服装を着た男に声を掛けられてしまったのだ。

 

「あ――」

 

 言い訳が思いつかない。『ドアノブに手をかけて中に入ろうとする子供』を見たとき、大抵の大人はどう反応するのだろう。それは十中八九、こう思うはずだ。『ドロボウ』と。

 

「聞こえなかったのか? お前等、ここで何している。中に入ろうとしてんのか? まってろ、今警備室に――」

 

 男が無線機に手をかけたときだった。

 

「おまえ、は・・・・・・。『アハド』・・・・・・」

 

 サルディナさんが目を見開き、男を凝視している。

 

「なに?」

 

 その声に反応した男が、サルディナさんに視線を向ける。そして、彼女が纏っている黒のローブと服に入っている刺繍に気が付き、凍りついたような顔になる。

 

「ま・・・・・・まさか、お前、『アジャンテ』の人間か!? 俺を追ってきたのか!?」

 

 男が動揺している。まさかこの男が『アハド』だったとは。だけどそれなら好都合だ。薬品と一緒にこの男も捕まえてしまおう。

 僕がそう思い、エコーズを出そうとした時だった。

 

「アハド。探したぜぇ。こんな所まで逃げやがって。てめえ、覚悟は出来てんだろうなぁ」

 

 その声がした瞬間。男――アハド――の足に、氷で出来たツララのようなものが突き刺さった。

 

「ぐはぁ!?」

 

 アハドは衝撃でその場に崩れ落ち、その場に倒れこむ。

 

「テメエには聞きたい事が山の様にあるんだ。ちょいと楽しいおしゃべりをしようじゃあねえか?」

 

 声の主は白い髪をオールバックで固めた男だった。

 いかにも近寄りがたい雰囲気を醸し出すこの男。白いスーツに白いクツ、全てを白一色できめている。

 後ろには、10人くらいの彼の部下と思われる男達がこちらを正視している。

 しかし僕が驚いたのはそれだけじゃなかった。

 この男の体から、鳥のような形をした像(ビジョン)が視えたからだ。

 

 この男。スタンド使いか?

 だとしたらマズイ。

 こんな所で戦ったりなんかしたら、周りに被害が及びすぎる。

 しかも、敵は一人じゃない。複数いる。

 コイツラ全員倒すのは、僕のエコーズじゃ無理そうだ。

 それに今回はサルディナさんもいる。彼女を庇いながら戦うのはあまりにも無謀だ。

 

「このガキ共。どこのどなた様だぁ? まあいい。見られたからにゃあ仕方ねぇ。お前等、攫え」

 

 男の号令で、部下達が一斉に僕達を羽交い絞めにする。

 

「ぐぅっ」

 

「おい。おまえ! どこを触っている! はなせっ」

 

 サルディナさんは激しく抵抗するが、僕はあえてそれをしなかった。

 今行動に移すのはあまりにもリスキーだと思ったからだ。

 

「ここじゃ騒がしいな。おい。11階に会議室があったな? そこにいくぞ」

 

 男の命令で、僕達は無理やり立たされる。後ろにはゴツリとした重い感触が伝わってくる。恐らくこれは拳銃だ。逆らえば容赦なく撃ってくるだろう。

 最もそんなことをしなくても、この男にはツララを飛ばしたさっきのスタンド能力がある。それで僕達を串刺しにすれば済むと思っているのだろう。

 だから、今。

 僕がスタンドを見ることが出来るという事実を、こいつ等に悟られてはいけないんだ。

 

「歩け」

 

 男の命令で僕とサルディナさん。そしてアハドは先頭を歩かされる。後ろには彼の部下達がピッタリとマークしている。

 今は、いい。

 こいつ等の目的を知るのが先決だ。

 人を一人始末するには、かなり時間がかかるし、後処理も面倒だ。

 きっと隙が生まれる。

 それまで、無力な被害者を装っておこう。

 反撃するのはその後だ。

 

 僕はそう思いながら、男達とともに上の階へと進むのだった。

 

 

 

 

 

 


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