広瀬"孝"一<エコーズ>   作:ヴァン

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ようやくここまでこぎつけたって感じです。




対決前夜

「・・・では、作戦会議を始めます。議題は謎の怪人"R"についての傾向と対策。

皆さんの率直な意見、疑問、質問など、よろしくお願いします。」

そういって司会進行をかって出る初春飾利。

 

ここは、とあるファミレス。

窓際にある大人数用のテーブルで、孝一たちは"R"事件について話し合うことにした。

そう提案したのは遅れてやってきた御坂美琴である。

その際、孝一も犯人確保に協力したいと同行を求め、

急いで退院手続きを済ませたのである。

 

時刻は午後四時。一日は、まだ終わらない。

 

「まず、現時点で分かっていることを確認しましょう。一つ目、怪人"R"は

電撃使い(エレクトロマスター) に準ずる能力を所有しているという事。

そしてその力はレベル4以上であるということ。」

 

書記を務めることになった佐天涙子がさらさらと

メモ帳に白井の発言を記入する。

 

「二つ目、"R"は学生であるらしいということ。

最も、総人口の約8割が学生であるこの学園都市において、この情報は

砂漠で金の粒を見つけるのと同じくらいの価値しかありませんけど・・・

話がそれましたわね。

三つ目、犯人の姿は一般の人間には認識することが出来ないということ。

ただし電撃使い(エレクトロマスター)である美琴おねえさまには認識可能であるということ。

その意味するところは?」

その黒子の質問に

「・・・電気、もしくは電磁波・・ですかね?」

と初春が答える。

「私もそう思う。きっとあいつの能力は電気と同化し、操ることが出来る能力なんだわ。

だとすると・・問題は"R"がどの程度、どの範囲まで電気と同化することができるのか・・・」

今まで白井たちの話を聞いていた御坂美琴が口を開く。

その顔は少し、くらい・・・

 

「ま、まさか、学園都市中の・・・!」

白井が信じられない、といった表情を浮かべる。

だが、常識にとらわれてはいけない、現にココに

エコーズという能力を持った少年がいるのだ。

どんな突拍子のないことでも、可能性がある以上否定はできない。

だが、もしそうだとしたら・・・

 

「私たちは、学園都市そのものと戦わなければいけないことになる。

もしそうなら、勝率は、果てしなく、低い・・」

そうはき捨てるように美琴はつぶやいた。

 

 

 

「・・・よし!相手の能力についてはこれで分かりました。後は

どうやって"R"を捕まえるかだけです!」

暗くなりそうだった場の雰囲気を、佐天涙子の一言が制した。

 

「皆さん勘違いしているようですけど、私達の最終目的は敵を倒すことじゃない。

どうやって犯人を特定し、逮捕するかです。

今度はそっちの線から考えて見ましょう。孝一君!意見はない?」

 

急に意見を求められ、孝一はとまどう。

孝一を見る佐天の目は、この場で発言しないことは許さないとばかりに

睨みを利かせている。

そんな、とにかくなんでもいいから会話を繋げろ的な視線をうけて

孝一はおずおずと発言する。

 

「そ、そういえば、犯行予告の手紙で『私に重症をおわせた』って一文が

あったと思ったけど・・・もしかして犯人も病院へ通っていたのかなぁ・・・

なんて・・・。まさかね、犯人がそんな迂闊なことをするわけが・・・・」

「『あ!!!!』」

四人が同時に叫んだ。

「そうだ!広瀬さん、犯人に重傷を負わせたんですよね!

音による攻撃で!」

「ダメージを受けたら本体にもそのダメージがフィードバックする。確かそうでしたわね。

この能力は普通の人間には見えない。おそらく犯人も安心して

普通に病院に言った可能性が、高いです!」

「孝一君!知ってるんならどうして最初に言わないの!!」

初春が、白井が、そして佐天がそれぞれに口を開く

「え?いや・・・その・・」

いったよな?と孝一は突っ込みたかったが、言うと倍以上になって返ってくる気がしたので

そのまま黙ることにした。

 

 

敵の明確なビジョンを涙子達は持っていない。

唯一美琴だけがその姿を認識できたので、

その証言から、「敵は恐竜人類もどきである」という認識しか持っていないのだ。

その為それが本体であると思い込み、操っている人物がいるという事を失念していたのだ。

「まいったな、あたしも失念していた・・・」

そういって美琴はポリポリと頭をかく。

だが、これでようやく反撃のきっかけをつかめた。

あとはどうやって犯人と対峙し、捕獲するか。そこが問題だった。

 

 

 

「分かりました。音石アキラ。ジャッジメント第一七七支部襲撃事件の翌日に

耳鼻科で音響外傷と診断されています。」

 

早速ジャッジメント支部に戻った黒子たちは、都内全ての病院の診断記録を、事件翌日から

調べあげる。

音響外傷。

無能力者。

その条件にあった人物はあっさりと見つかった。

「ビンゴ、ですわ。」

白井の頬が緩む。

犯人を、特定できた。

後はこの事実を上層部に報告すれば、事件は早期に解決できる・・・はずであるが・・

「・・・・白井さん、ちょっと、いいですか?」

一緒に同行した広瀬孝一と美坂美琴が白井に話しかける。

その表情はある決意を秘めていた。

 

「犯人と、対峙したいですって?」

「そう。音石が殺される前に、どうしても捕まえたいの。」

美琴がそう白井に話しかける。

「殺される?どうしておねえさまはそう思うんですの?」

「言ったでしょ。音石には電気と同化できる能力があるって。

そのパワーはおそらくアンチスキル数十人が束になっても叶わないでしょう。

それどころか逆上した音石がそれを機に人を殺めてしまうかもしれない。

人質をとったり、学園都市の重要施設を破壊してしまうかもしれない。

そうなったら、きっと上層部は音石に対し殺害命令を下すでしょう。」

「・・・・・・」

 

その考えは白井の頭の中にもあった。腹いせにジャッジメント支部襲撃を行っている

くらい思考が幼稚な犯人である。

もしアンチスキルが音石の捕獲に失敗したら・・・美琴がいったような結末が待っているに違いない・・

それは正義感の強い白井自身も望むことではないが・・・

 

「わたくしに・・・いったいどうしろと?」

「わたしは、音石にも死んで欲しくない。だから少しだけ時間を頂戴。あいつを誘き出し、

必ず捕まえて見せるから。」

「おひとりで、ですか?」

またひとりでいかれるのですか?とは白井は聞けなかった。

「一人じゃありません。」

そういって孝一が話しに加わる。

「これは僕と美坂さんで話し合って決めたんです。僕もあいつを、音石を止めたい。

あいつは僕なんだ、選択を誤ったもう一人の自分なんだ。あいつにとって不幸だったのは

強大な力を持ってしまったことです。あいつはもう、自分で自分をとめることが出来ない。

だから僕が、僕たちが止めてやらなきゃならないんです。」

 

ゴホンゴホン

孝一の背後からわざとらしい咳払いがする。

「二人より三人、三人より四人だと思いません?」

「びっ、微力ながら私達にも協力させてくださいっ。」

「あっ、あなたたち?」

佐天涙子と初春飾利がそこにいた。

その瞳は、戦う闘志に満ちている。

「二人とも、本当にいいの?」

美琴が二人に尋ねる。

「もちろんです!ココまできたら、もう一蓮托生ですよ!」

ニッコリと佐天達が笑う。

 

「・・・おねえさま・・・」

美琴の顔はいつの間にか白井自身に向けられている。

黒子はその表情に期待をする。

 

(わたくしを頼ってください、おねえさま・・・

そしてどうか、あの言葉を、言ってください・・・

そうしたら、わたくしは・・・)

 

「黒子。こんなこと、言えた義理じゃないのかもしれない。これからのことは

本当に独断専行。私達のわがままだ。でもそれでも、言わせて。」

「・・・・」

 

「私達を、手伝って。」

 

(やっと・・・言ってくださいましたのね。その言葉を・・・)

 

そういって胸が熱くなる白井。

しばらくして

「・・・まったくもう、それだけ大口をたたいたんですもの。

音石を捕獲するプランは、ちゃんと考えているのでしょうね?」

そういって美琴に詰め寄る白井。

「プラン?えーっと、その・・・」

さっきの威勢はどこへやら。次第にその声を細めてしまう。

「・・・・そんなことだろうと思いましたわ。」

やれやれと肩をすくめる白井。

 

「あの、そのことなんですけど・・・実は私、一つ思いついたことがありまして。」

そういって初春が発言する。

「個人的には結構な確率で、音石さんを捕獲できるんじゃないかと・・・」

その顔は自信にあふれている。こういうときの彼女は役に立つ。

白井は一緒に仕事をやってきた経験上、そう確信する。

 

「その作戦っていったいどんな?」

たまらず聞き返す美琴。

 

「・・・罠をしかけます。」

自信たっぷりに初春は言い放った。

 

 

 

 

 

 

バチバチバチバチッ!

深夜。

誰もいない銀行内に、放電現象が起こる。

しばらくは静寂が戻ったが、

 

ドオォン!!!!

とてつもない衝撃音が発生し、金庫のドアが醜くゆがむ。

もしこの場に、事件を知っている人間がいたのなら、

だれでもこう思うだろう。

---怪人"R"が現れたのだと-----

 

ココ最近"R"は退屈になっていた。ここ一週間毎日のようにジャッジメント支部を襲撃し、

銀行を襲い、警備ロボットを壊し、現金を盗む。それの繰り返し。

要するに刺激がなくなってきたのだ。

(・・・そろそろ別のこともやってみるかぁ・・・なにがいいか?

学園都市のメインシステムに侵入して都市機能を麻痺させようか・・・

それとも病院の入院患者を人質にして身代金を要求しようか・・・

金でスキルアウトを雇って、街中を破壊させるのもいいかもしれない・・・

とにかく時間は無限にある。やってやれないことなどなにもない。)

 

---ああ、そういえば、

 

"R"は唐突にあることに思い至った。

 

---人が死ぬ所を、見たことがねぇ-----

 

・・・危険な思考が芽生え始めていた。

 

 

いつものように現金を持ち去ろうと金庫内に入った"R"はある違和感を覚える。

その正体はすぐに分かった。

現金がないのだ。

「?」

そして代わりに一枚の封筒が置かれていた。

「なんだ?こりゃ?」

疑問に思いながらも、その中身を確認する。

そこにはこんな文章が書いてあった。

 

---------------------------------------------------------------------------------

 

"R"へ。

現金はここにはない。私が全部預かった。

あんたがこの銀行に来ることは、

過去一週間の襲撃状況から予測算出して簡単に割り出せた。

あんたに要求することは、ただひとつ。

私と勝負しなさい。

私の名前は御坂美琴。常盤台中学所属。

能力名は超電磁砲(レールガン)。

戦う日時は明日の午後17時、場所は第七学区の取り壊し予定のビル。

(詳しい場所は同封の地図参照。)

 

追伸、私は逃げも隠れもしない。

もしこなかったら、臆病者として笑ってやる!

 

----------------------------------------------------------------------------------

 

ひらりと封筒から写真がこぼれる。

手に取ると、封筒の中には現金の前で両腕を組み、不適に笑っている御坂美琴がいた。

 

「ククククククウククク・・・アハハハハハハハハア!!!」

笑いがこらえきれず"R"が身をよじらせる。

 

「・・・待ってたぜぇ!お前みたいなヤツをヨォ!!」

バチバチバチバチッ

気分が高まり、思わず放電してしまう。

「いいぜぇ!なぶり殺しだ!レベル5!!ククククッ!

御坂美琴!!てめぇを、八つ裂きにしてやる!ヒャーッヒャッヒャッ!!」

"R"が歓喜の雄たけびを上げながら放電の光をさらに増していく。

そして心の中でこう思っていた。

(生でみてぇ、「チリペッパー」越しじゃなくて自分の目で、御坂美琴が死ぬ瞬間を!)

 

冷静に考えれば、これが明らかに罠であろうことは明白である。

しかしすでに彼、音石アキラは増大する破壊衝動を制御できなくなっていた。

 

 

一日が終わり、また新しい一日が始まる。

おそらく、ここですべてが終わる。

音石アキラ。広瀬孝一。御坂美琴。

三人の運命が、廻る。

その先に待ち受けているのは果たして、生か死か。

刻一刻と対決の時は迫っていた。

 

 

 




あと残すはラストバトルですけど、
勢いのまま推し進めようかなと思案中です。
考えすぎるとまったく先に進めなくなってしまうので・・・

多少矛盾を含んでいてもそのほうがいいかと思うので。

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