広瀬"孝"一<エコーズ>   作:ヴァン

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わかりあえない

「・・・・・・これが今回使用された爆弾、その模型です。現場に散乱していた破片から、我々が復元したものです」

 

 そういって溝口(みぞぐち)がバッグから復元した爆弾を机に置く。その瞬間、後方の人間にも見えるようにパッとモニターに同様の爆弾が表示される。

 

 ――――小さい。

 

 それがこの爆弾を見た全ての人間が同時に思った事だった。これなら周囲の人間にも不審に思われず、持ち運びが可能だ。

 爆弾の模型はスケルトン型の小箱に入れられ、中身が見えるようになっている。勿論、現物がそうなっているのではなく、解説用にワザと透明にしているのだ。

 

「――――犯人は、この小箱を恐らくポケットに忍ばせ、任意の場所に設置したのでしょう。これなら周囲の人間に不審に思われませんからね。よって、モーション・ディテクタ(振動探知機)の類は設置されていないと予測されます」

 

 モーション・ディテクタとは、よく爆発物を取り扱う映画などで登場する、蓋を開けたり振動を与えると起爆スイッチが点火し、爆発する装置のことである。溝口たちの見解では、今回使用された爆弾は、それらの類は装備されておらず、単純な時限爆弾であるとの事であった。

 

「爆弾の構造を説明します。バッテリーとタイマー、そして起爆スイッチで成り立っている初歩的な爆弾です」

 

 爆弾の中身は、きわめてシンプルだった。左に四角い形の時計が一つ。その右側に小型のバッテリーが二つ。その下にスイッチが一つ。それだけだ。あとは時計を中心にして赤やら黄色やらのコードが巻きつけられている。その様子はさながら、時計を生かすために繋がれた生命維持装置のようだった。

 

「爆弾の原理はこうです。まず対象者が蓋を開けることによって、光学センサーが作動し、時計のスイッチが起動。爆発までのカウントを開始します。被害者達の証言と合わせると、およそ2、3分の猶予があったと思われます」

 

(・・・・・・2,3分・・・・・・。それだけの猶予がありながら、被害者達は逃げる事が出来なかったのか・・・・・・)

 

 孝一は溝口の説明を聞きながら、その情景を思い浮かべる。話を聞いた限りではやはり『スタンド能力』の可能性が濃厚だ。だが、どうも腑に落ちない。

 これまでの話から推察すると、犯人は遠距離操作型のスタンドを所有しているものと思われる。しかし、被害者の体を逃げられないくらいに押さえつけていると言う事は、かなり力の強いスタンドということになってしまう。これは矛盾しているように思う。

 疑問に思う事はまだある。

 遠距離方にしろ近距離型にしろ、犯人は被害者が箱を開けるまでその場に留まる必要が出てくる。何故ならスタンドとは使う人間の意志によって操作するからだ。つまり、誰かがその箱を開封し、爆弾を作動させるまで、その場所に留まる必要があるのだが・・・・・・。犯行現場はいずれも、人通りの多い場所や隠れる所のない大通りなどである。だとしたら犯人はどこに潜伏して被害者達の様子を伺っていたのだろう?

 

(うーん。難しい。この犯行はスタンドによるものなのか、そうでないのか・・・・・・)

 

 孝一はメモ帳に、「人の犯行? それともスタンド? 遠距離? 近距離?」と記入し、やがてそれをシャーペンでグシャグシャと塗りつぶしてしまった。

 

「――――この時計の部分を見てください。長針がありません。短針のみです。短針が0時の位置まで進み、接触することにより、微量の電流が発生。それにより爆弾が起爆する作りです。解除方法は、時計に接触している赤、青、黄色のコードを順に切断し、起爆スイッチをオフにする必要があります。ですが心配要りません。ごく初歩的な爆弾ですので、知識のない皆さんでも、参照の資料どおりに作業を行えば、解除する事は可能です。――――もっとも、皆さんがそのようなことを行う機会はまずないと思われますが、あくまで念のためです」

 

 そこで照明がつき、周囲に明かりが戻ってくる。

 

「――――以上で説明は終わります。何か質問はあるでしょうか?」

 

 溝口は持っていたマイクを机に戻して、周囲を伺う。すると、その説明を黙って聞いていた白井が挙手をし、机から立つ。

 

「白井黒子ですの。早速ですが、質問させていただきます。この爆弾の部品から、製造元を特定する事は可能なのでしょうか? この中に、特定の製造元でしか出回っていない部品がある場合、そこから購入者を特定する事が可能だと思うのですが」

 

 白井の問いに、溝口は頭(かぶり)を振ると申し訳無さそうに返答する。

 

「・・・・・・残念ですが、爆薬に使うアスベスト・ワイヤの類でも含まれていれば、その可能性もあったのでしょうが・・・・・・。今回使用された爆弾は、いわゆる『IED』と呼ばれるタイプの爆弾です。そこから犯人を特定するのは、困難だと思います」

 

「IED?」

 

 聞きなれない単語に、白井は思わず聞き返す。すると、今まで黙っていた五井山(ごいやま)が腕組みをしたまま、白井の問いに答える。

 

「IEDってのは、日本語に訳すと即席爆発装置って意味だ。名前の通り、有り合わせの部品から爆弾を製造可能で、海外の内戦でゲリラ共が好んで使用している」

 

 五井山はそこで一端区切ると、周囲をじろりと見渡す。その鋭い眼光は、まるでこの中に犯人が紛れ込んでいるようである。

 

「IEDが攻撃手法として好まれる理由の一つが、その製造の容易さだ。・・・・・・『中学生程度』の知識があれば、『誰』でも容易に製造することができるからなぁ」

 

「・・・・・・聞き捨てなりませんわね。あなたのその発言。そしてその態度。まるでわたくし達の中に犯人がいるような口ぶりですのね」

 

 五井山の敵意のこもった視線に、白井も負けじとにらみ返す。そんな白井を、「ガキがっ」と五井山は吐き捨て

 

「ああ、そのとおりさ。俺はな、犯人はお前らガキだと思っている。当然だろ? ここは学園都市だぜ? ここに何千人、お前らのお仲間がいると思っている。何か事が起これば、真っ先に疑われるのは当然だろ?」

 

 白井たちを見渡しながらはっきりと悪意のこもった視線を投げかける。

 

「んな!?」

 

 あまりの暴言に、白井は開いた口が塞がらない。白井だけではない、周囲にいる学生達も、ざわざわとどよめきだつ。

 

「・・・・・・なんの科学的根拠もなしに、わたくし達をお疑いになるのは止めていただきたいですわね。捜査とは、仮説に基づき目的意識を持って・・・・・・」

 

「うっせえなあ。お前にいちいち捜査の鉄則をご高説賜る謂(いわ)れはねえんだよ。化学薬品なんて学生が『実験を行う』とでも言えば、比較的簡単に入手できるし、そもそも、学園都市の犯罪者の多くは十代のガキ共なんだ。疑ってかかるのが鉄則だろ?」

 

 五井山は白井の発言をさえぎり、わざと彼女を挑発する。

 

「この・・・・・・」

 

 白井はギリッと歯を食いしばり、怒りを必死に抑える。

 

 

「あのー」

 

 その時、おずおずと挙手をする人物が一人。少々白髪の混じった中年男性、S.A.Dの四ツ葉だった。

 四葉は挙手をする手を下ろすと、ゆっくりと机から立ち上がる。隣にいた孝一と玉緒もそれに続く。

 

「なんだ、お前ら?」

 

 思わぬ横槍が入ったため、五井山の機嫌は最高に悪かった。その態度は、チンピラかヤ○ザのそれである。

 

「失礼。S.A.Dという組織に所属しております、四ツ葉と申します。スタンド事件の捜査のため、こちらにお邪魔させていただいております」

 

 四ツ葉は物腰柔らかに、五井山に挨拶をする。

 

「スタンドぉ? なんだそりゃ? 電気屋か何かか?」

 

(やっぱり、そうなるよな・・・・・・)

 

 孝一は心の中で大きくため息をつく。というか、これから「スタンド?」と聞かれるたびにいちいち説明しなきゃならないのか。そう思うと非常に憂鬱になってくる。

 

「ええっと、スタンドっていうのは・・・・・・」

 

 孝一はやれやれと思い、五井山にスタンドについて説明しようとするが、先を越されてしまう。口を開いたのは玉緒だった。

 

「――――スタンドって言うのはこの学園都市の能力者とは違う、第三の能力のことっす。いうなれば、人間の持つ生命エネルギーが具現化したものと捉えてもらっても構わないっす。・・・・・・今回の事件には、そのスタンドを悪用した可能性があるので効して捜査に来たって訳っすよ。・・・・・・理解しましたか『ゴリ山』さん?」

 

「プッ」

 

 五井山の語呂と外見をかけての発言だろう。それがあまりにもマッチしていたので、学生の誰かが思わず吹き出してしまう。

 

「だぁれが『ゴリ山』じゃ、コラァッ! そして誰だ今笑ったやつは! 出て来いや!」

 

 五井山はギラリと睨みを聞かせて、声のしたほうを凝視するが、もちろん「はい、自分です」なんていう馬鹿はいない。皆、視線を合わせまいと目をそらしている。

 

「あんたの発言には多大な矛盾と歪んだ先入観が含まれているっす『ゴリ山』さん。まず第一に、『中学生程度の知識があれば製造可能』と言われましたけど、それって裏を返せば『爆弾は誰にでも製造する事が出来た』とも取る事が出来るっす。それで大人が容疑者リストから外れたと考えるのは安直過ぎませんかね? それ位、ちょっと考えれば誰でも行き着く推理っすよ? 『ゴリ山』さん?」

 

 玉緒はまるで出来の悪い子供に教えるような口ぶりで五井山に問いかける。

 

「こ、この・・・・・・」

 

 五井山は青筋をビキッと立てて玉緒を睨みつけている。心なしか体が震えているようだが、武者震いとかの類ではなく怒りを必死に押さえつけているようである。

 

「第二に、科学用品の入手経路っすが、これは学生より、むしろ大人のほうが入手しやすいといえるっす。よく考えてくださいよ? もし『ゴリ山』さんのいうように、学生が実験を行う名目で化学薬品に接触したのなら、必ず申請記録が残るはずっす。犯人は今まで『四回』犯行を重ねてるッす。それだけの量の薬品を、学生がくすねたとは考えにくいっす。仮にくすねられたとしても、いきなりそれだけの量の薬品が消えたら、どんな人間だって怪しいと思うはずッす。発言は感情的にならずに、もうすこし考えてからしたほうがいいっすよ? 『ゴリ山さん』?」

 

「この、ガキャァ・・・・・・」

 

 ビキビキ、っと、青筋の数が先程よりも多くなっている。その憤怒の表情は玉緒が『ゴリ山』と称したように、まさしく野獣のそれである。

 

「あわわわわわ・・・・・・」

 

 先程からしきりに『ゴリ山』と連呼し、挑発する玉緒と、今にも噴火寸前の五井山。

 孝一は二人の一触即発のやり取りを、緊張した面持ちで見守っている。というか、見守ることしか出来ない。とてもあの場に仲裁に入るなんて勇気は、持ち合わせていない。

 

 

 そんな時孝一は唐突に、先ほどの玉緒のセリフを思い出した。

 

 ”――――例え体格面で叶わなくっても、一矢報いなければ気が治まらないっす! 離せーっ! ”

 

(そういうことか・・・・・・。まったくなんでこんなことに・・・・・・。爆弾のやり取りとしているこの二人こそ、爆弾そのものだよ・・・・・・)

 

「――――第三に、あんたのようなカチカチのクソ石頭のおっさんには、この事件は解決出来ないっす。ゴリラはおとなしく動物園にでも帰って、バナナでも食べろっす」

 

 その一言で、『ゴリ山』・・・・・・。もとい、五井山は切れた。怒りの導火線に、火がついた。もう誰も彼を止める事は出来ないだろう。

 

「上等だッ! かかってコイや、コラァ!!」

 

「望むところっす!!」

 

「うわぁッ! まてまてまてまてっ!!」

 

 あわてて孝一と四ツ葉。それと、彼らのやり取りを見守っていた、その他大勢の学生達が止めに入る。

彼らを取り押さえる様子は、さながら棒倒しの棒のようであった。

 

「離せコラァ! このガキッ! 一発しばき倒さなきゃ気が治まれねぇ!!」

 

「やるならやって見ろっす! その代わり! 何倍にもしてやり返してやるっす!!」

 

 もみ合い、押し合いの状況なのにも関わらず、二人はまだ いがみ合いを続けている。というよりあの体制で、お互いに蹴りを入れているのは、ある意味感心物だった。

 

(・・・・・・爆弾どころか、地雷も一緒に踏んじゃったみたいだな・・・・・・。つくづく厄日だよ、今日は・・・・・・)

 

 他の学生と一緒になって五井山の体を押さえつけていた孝一は、ハルカと一緒に待機している纏(まとい)を思い浮かべ、『あっちが正解だったよなぁ』と後悔するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・イテテテっ。あのゴリラっ! 一発多く蹴りやがったっす。今度会ったら、ボコボコのギッタンギッタンに、倍にして返してやるっす」

 

「・・・・・・」

 

 帰り道の路上にて、玉緒は五井山に蹴られたわき腹やひじをさすり、そう悪態づく。その様子を彼女の背後からついてきていた孝一は黙って眺めている。

 先程から孝一は、玉緒とまともに口を利いていない。彼女の後姿を追ってただ眺めているだけだ。

 

 

 ――――あれから、会議は中断を余儀なくされた。ケンカの張本人である玉緒と五井山は、別室に連れられ、固法にこっぴどくしかられていた。やがて、会議は玉緒と五井山抜きで再開される事になった。争いの火種となった二人はおそらくもうこの会議には呼ばれないだろう。二人には退室が命じられた。

 

「孝一君。私はあそこの溝口さんにまだ聞いてみたい話があるから残るけど、君は玉緒君についてあげて? あの様子じゃ、また何を仕出かすか分かったもんじゃないから」

 

 彼女の事が心配だった孝一は、四ツ葉の素直に従い彼女と一緒に帰路につくことになった――――

 

 

「・・・・・・どうしたっすか? こーいち君。 さっきからずっとだんまりで・・・・・・。自分に何か聞きたいことでもあるんすか?」

 

 玉緒は勘の鋭い子である。さっきから孝一が何か言いたげにしているのを察して、逆にこちらから孝一に問いかけた。

 

「・・・・・・そこまでわかってるなら聞かせてもらうけどさ・・・・・・。君の言動はおかしすぎる。変に白井さんに絡んだり、揉め事を起こしてみたり・・・・・・。一体どうしたんだ? 何かあった、どころじゃない。今まで気が付かなかったけれど、それが君の本質なのか?」

 

 孝一は今まで胸の奥に沸き起こっていた疑問を、玉緒にぶつける。それに対し、玉緒はぴたりと歩みを止め、孝一を流し目に見る。その瞳はどこか狂気をはらんだ印象を受けた。

 

「何言っているんです。自分は自分ですよ。何も変わってないっす。・・・・・・こーいち君は今まで自分の事をどんな目で見てきたんですか?」

 

「・・・・・・最初は、にぎやかな奴が入ってきたなって思ってた。そして変なヤツだって。でも、その突飛な行動も、皆のためを思ってやっているって分かったから、理解する事が出来た。だけど、今は理解できない」

 

「自分は、ただ外敵を排除しようとしただけっすよ。別に他意はない。生物なら当たり前の行動っす」

 

「外敵? 何を言っている? 一体、敵って誰なんだよ?」

 

「・・・・・・敵は敵っすよ。『自分達』以外の全ての人間の事っす」

 

「な!?」

 

 一体コイツは誰なんだ? こうも簡単に他者を排除しようとする、二ノ宮玉緒という人物は何なんだ? 玉緒は表情を崩さずに、淡々と、孝一の質問に答えていく。それがどこか、人間的ではなくて、孝一は思わず身震いを起こす。

 

「・・・・・・この組織に入ったのは、何のためだ?」

 

 孝一はゴクリト唾を飲み込み、目の前の少女に問いかける。少女は、

 

「自分のことを必要だと、たいちょーが言ってくれたからっすよ・・・・・・」

 

 そういって嬉しそうに答えた。その時の玉緒の表情は、先程までの機械的な顔つきではなく、ごく普通の十代の少女の笑顔だった。

 

「うれしかった・・・・・・。初めて自分のことを見つけてもらえたような気がして・・・・・・。だから、自分は・・・・・・」

 

「・・・・・・自分の気に入った人間だけを、あの組織に入れて、異物は排除しようとしたのか? だからあれほど過剰に外敵を排除しようとしたのか?」

 

「・・・・・・」

 

 玉緒はそれ以上何も言わなかった。話はこれでおしまい、話すつもりはないらしい。

 

「・・・・・・先に、帰るよ」

 

 玉緒にこれ以上かける言葉が見つからない。孝一はこれ以上この場に留まるのに抵抗を覚え、一人、先に歩き出す。

 

「・・・・・・こーいち君」

 

 その孝一の後姿に、玉緒が声を掛ける。孝一は何も言わず、玉緒の言葉に耳を傾ける。

 

「自分、こーいち君の事、一番の味方だと思ってます。だから、これからも同じでいてください。敵には、ならないで下さい。こーいち君とは、戦いたくありませんから・・・・・・」

 

(・・・・・・『味方』か、そういう場合は『友達』って言って欲しかったな・・・・・・)

 

 孝一は玉緒の言葉を聞きながら、その場を後にした。

 

 人間は、他人のことを完全には理解できない。どんなに言葉を重ねても、どんなに触れ合っても、それは解消されることはない。他人とは、完全に分かり合うことは不可能なのだ。だが、それでも、人は言葉を重ね続ける。いつかは自分の言葉の意味を理解してくれるという『希望』があるからだ。希望があると信じられるからこそ、人は前に進む事が出来る。だとしたら、二ノ宮玉緒という少女とも、いつかは分かり合える日が来るのだろうか・・・・・・。そういう『希望』を持ってもいいのだろうか。

 帰り道の路上で、孝一はそんなことを思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだこりゃ!? 箱?」

 

 深夜。

 

 路上にポツンと転がっている白い小箱。それをを見かけた会社員の男性が拾い上げる。

 

「何が入ってんだろ?」

 

 ひょっとしたら、金目のものでも入っているのかもしれない。そう思った男性は、思い切ってその箱を開けた。

 その瞬間――――

 箱がまるで、意思を持ったみたいに中に浮かび上がる。

 

「え? え?」

 

 男性はあっけにとられながら成り行きを見守る。だが、その箱の中身を見て凍りつく。カウントを始めるタイマー。そしてバッテリーに、たくさんのコードのようなもの。それを見ただけで、これが何であるのか想像がつく。

 

「ば、ばくっ・・・・・・」

 

 ――――爆弾だ――――

 

 そう判断した瞬間、男性はその場所から逃げ出そうとする。

 

「あ? なんで? 体が、うごかな・・・・・・」

 

 いつのまにか男性は爆弾から離れる事が出来なくなっていた。それはまるで見えない何かに体を捕まれているようである。

 時計は11時57分から時を刻み始め、次第に短針が0時に近くなっていく。たぶん、これが0時になったら、爆発するのだ。

 

 男性は思い切って爆弾に近付く。なぜか今度は体が動く。

 

「くそっ、止めてやる! こんな爆弾! コードを、コードを抜くんだ!」

 

 しかし爆弾の知識のない男性には、どの順序でコードを切断すれば良いのか分からない。また、その道具も持ち合わせていない。

 

「そ、そんな・・・・・・」

 

 そうこうしている内に、短針が0の文字に触れる。男性が「あ」と叫んだ瞬間。男性を中心として爆発が起こった。

 

 周囲の建物は破壊され、黒煙が舞っている。ガラスは割れ、コンクリートは砕け、小さな火の手が上がっている。

 

「う・・・・・・。あ・・・・・・う・・・・・・」

 

 男性は生きていた。だが、死に体、虫の息である。やがて誰かが通報したのか、サイレンの音が遠くから聞こえてくる。その男性の付近に、白い箱がまたもや無傷で転がっていた。その箱の底には

 

 x+12=5

 

 と記入されていた。

 

 プロメテウス、第五の犯行が起こなわれた瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 




GWが今日で終了するので、更新が不定期になるかもしれません。
ご了承下さい。

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