広瀬"孝"一<エコーズ>   作:ヴァン

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すんごい気軽に書いてみました。


少女、わが道を行く
ようこそS.A.Dへ


「・・・・・・ふんふんふんふーん。ッタカタッカッターン♪」

 

 セミロングの髪を揺らし、少女が鼻歌交じりに街道を歩く。その足取りは軽く、まるでこれから楽しい事が始まるかのようだ。人通りが無かったら、スキップでもしていたかもしれない。そんな彼女は、とあるビルを目指していた。

 

 

 

 

「ここが、S.A.Dかぁ」

 

 都心の外れ、人通りも少ない所にある、かなり立派な建物を目の前に、広瀬孝一は、感嘆の声をあげた。

 

(けっこう、大きいな)

 

 孝一は名刺に書いてあった番号に電話をして、四ツ葉に見学をする旨を伝えていた。正直、組織に入るにはまだ抵抗があるので、どのような所か、実際に見てみることにしたのだ。時刻は9時。もうすぐ、四ツ葉が案内にくるはずである。

 

「広瀬さん。こっちこっち」

 

 待ち合わせの時刻に四ツ葉はキチンと来ていた。だが、何故だろう? 建物の隙間から顔を出し、こちらに向かって手招きをしている。

 

「何してんです? なんでそんな所から顔を出してんです?」

 

「いやあ、良かった。時間に間に合って。・・・・・・みんな最初は間違えるんですよねぇ。さ、こっちですよ。こっち」

 

 孝一の質問には答えず、四ツ葉はグィッと孝一の手をとると、そのまま、強引に隙間の中を歩き始めた。

 

「ちょっ!? 一体どこ行くんですか?」

 

「まあ、いいからいいから」

 

 薄暗い裏道をしばらく進むと、そこに見えたのは薄汚れた、小さな5階建てのビルが見えた。このビル、概観はかなりくたびれており、まるで、築40年くらい経過しているようだった。そしてそのビルのプレートには『S.A.D』と記されたあった。このプレートだけ、急遽取り付けたみたいに新品で、この薄汚れたビルとあまりに不釣合いだった。

 

「は?」

 

 孝一は頭の中で思った単語をそのまま呟いた。・・・・・・すごく、嫌な予感がした。なんというか、キャッチセールスに声をかけられてついて行ったら、そこはヤーサンの事務所だった的な、激しく騙された感が、このビルからはほとばしっている。

 

「さあさあ、そんなところに突っ立ってないで、ビルに入りましょう。詳しい話はそれからという事で・・・・・・」

 

「・・・・・・ちょっとまて・・・・・・」

 

 思わずタメ口になってしまったが、そんなことはどうでもいい。とりあえず、このあふれ出る怒りを、この男にぶつけなければ気がすまない。

 

「何考えてんだよあんた!? なんだよこのビル!? 話とずいぶん違うじゃないか! どうみても、廃ビルだろこれ!? あの時の口ぶりだと、すごい組織みたいな感じだったのに、どこにいんだよ、そんな人間っ!?」

 

 何か、我々の組織に協力、とか言っていたが、その我々がこのビルの中に存在するとはどうしても思えなかった。

 今この場所には、孝一と、四ツ葉と、このくたびれたビルしか存在しない。

 

「あははは・・・・・・。あれは、その・・・・・・。嘘は言ってないよ? 一応・・・・・・。これからそうなればいいなって言う希望と、多少の誇張はあったかもしれないけれど・・・・・・。そもそも、組織の定義ってさ・・・・・・」

 

(詐欺だ、これ・・・・・・)

 

 言い訳をし始める四ツ葉を無視してそう結論付けた孝一は、くるりときびすを返すと「帰ります」と言い、その場を離れようとする。しかしそれを四ツ葉が許すはずも無かった。四ツ葉はガシッと孝一の体に抱きつき、羽交い絞めにする。

 

「まって! まだ来たばかりじゃない!? 中にはいろうよ! お茶も出すしさ!? 話を! とにかく話をしようっ! な!」

 

「うげっ!? は、離せよ!? せっかくの休日を、こんなことで潰されてたまるか! ・・・・・・帰る! 帰るんだぁぁっ!」

 

 少年と中年男性との絡みは熾烈を極め、お互いがマウントポジションをとろうと、体を入れ替えあっている。そんな不毛の争いに、女性の声が割って入る。

 

「なにをやっているのですか?」

 

 S.A.Dのビルの入り口から、二つの影が現れる。一つはジャージ姿の若い女性。彼女は、頭に頬っ被りとはたきを持って、呆れた顔でこちらのやり取りを見ている。もう一人、いや一体は学園都市の街中でよく見かけるお掃除ロボだった。

 

「堅一郎。お遊びはそれくらいにして下さい。この方が、新しい隊員の方ですか?」

 

 このお掃除ロボットは女性の声で、孝一を羽交い絞めにしている四ツ葉に声を掛ける。どうやらさっき割って入った声の主はこのロボットのようだ。

 

「ああ、ごめんごめん。ハルカちゃん。ちょっとね、広瀬君がね、緊張しちゃってるみたいだから、リラックスさせようと思ってね。 ほら、広瀬君~。スマイル、スマ~イル」

 

 そういって四ツ葉は孝一の口に手を突っ込んで、無理やり口を吊り上げた。

 

「新しい隊員・・・・・・。年下・・・・・・。でも、そんなの関係ない・・・・・・。ブツブツ」

 

 もう一方の、頬っ被りをした女性は、孝一たちを引き離すとおもむろに孝一の両手を握り目を輝かせてこういった。

 

「はじめまして。黛纏(まゆずみまとい)といいます。広瀬さんっ! メールアドレス交換しましょう。お友達になってください!」

 

「へ?」

 

 いきなり過程も何もかもをすっ飛ばして、黛と名乗った少女は、孝一に友達になろう宣言をしてきた。

 

 

 

 

 

 

「え~っと。まずこのビルについて説明します。このビル全部が我々S.A.Dの所有物です。でも、1階から3階は基本的に使いません。・・・・・・こら、そこ。物置部屋だとかいわないように」

 

 エレベーターを上りながら、四ツ葉は孝一にビルの説明をする。孝一は半ば強引にビル内に連れ込まれ、ふてくされ顔だ。そんな孝一の肩を、さっきから笑顔でもみしだいている黛が不気味だった。もしかしてリラックスさせようとしているのだろうか。

 

「四階は第一支部。でも、彼らには会うことはまずありません。彼らは諜報活動をメインとしており、基本的に学園都市の外に、スタンドについての情報を集めてもらっています。メインは5階。ここが我々第二支部の活動拠点です」

 

 チーンというベルが鳴り、エレベーターの扉が開く。このビル。エレベーターの開いた先が、そのままオフィスと直結している構造をしている。つまり、扉を開けば、すぐに第二支部の仕事場なのだが・・・・・・

 

「うわあ・・・・・・」

 

 孝一が感嘆の声をあげたのは、関心したからではない。ビルを見たときに感じたイメージどおりの光景がそこにあったからだ。おそらく倒産したビルの備品をそのまま流用しているのだろう。ホワイトボードやオフィス用の机が並んでいる。その机の上や床には、よくわからない資料や、パンフレットだとかが所狭しと置かれていた。そして、汚い・・・・・・。拭けばほこりが舞うような感じだ。

 

「大丈夫っ! ここら辺は”今”はまだ汚いけどっ! 今必死で掃除中だからっ! 綺麗になるからっ! だから、そんなゴミを見るような目で私を見ないで~!!!」

 

 孝一の侮蔑の視線に気が付き、四ツ葉は顔を覆って泣きまねをする。・・・・・・嘘泣きだと丸分かりである。

そんな四ツ葉を、掃除ロボットのハルカが優しく慰める。

 

「大丈夫ですよ。堅一郎。堅一郎はやれば出来る人だと、ハルカは信じていますから」

 

「ありがとぉぉぉお! ハルカァアアア! 私に優しくしてくれるのは、やっぱり君だけだぁああああ!!」

 

 機械に慰められる中年男性は、はたから見るととても哀愁があった。

 

 

 

 

「・・・・・・とりあえず、説明してくださいよ。S.A.Dってなんなんですか? 本当にスタンド能力を扱った専門機関なんですか? 正直、上層部の人たちは本腰をあげて対策に当たっているとは思えないんですけど」

 

 とりあえず孝一は、疑問に思ったことを四ツ葉に尋ねてみた。というよりも、質問することなどそれ以外ない。話を切り上げてさっさと帰りたかった孝一は、それだけ聞いて帰るつもりだった。

 

「・・・・・・まあねぇ。喫茶店でも言ったけど、上層部の連中は、スタンド能力について懐疑的だ。無理も無いだろ? ここは科学と超能力の街だからね。いきなりふって湧いた未知の能力に、はいそうですかって認定してくれるほど甘くは無い。大体スタンドで物を持ち上げるとか壊したりするとかなら、超能力であらかた出来てしまうしね。」

 

「じゃあなんで?」

 

 孝一の質問に答えるように、「だがそれは確実に存在する」といい、四ツ葉は話を続ける。

 

「例えばさ、君が虐められっこで、殺したい人間がいるとする。そこでちょうど拳銃を拾った。使ってみるかい?」

 

「・・・・・・使いませんよ。仮に使ったとしたら、すぐに特定されてしまうでしょうね。監視カメラとか、指紋とか」

 

「じゃあ、その拳銃が、使っても証拠が残らなかったらどうだい? 一度ロックしたらどんなに離れていても相手に当たるようになっていたり、拳銃自体が自分にしか見えなかったり、撃っても、罪に問われないなんて銃だったら? まあ、大抵の人間は倫理観ってもんがあるから、使わないかもしれないけど、でも、使うかもしれない。そんな危険な代物が大量に出回っているのを、お偉いさんが知ったら、眉唾でも対策に乗り出そうとするだろ?」

 

「それがこの組織ですか・・・・・・」

 

 スタンド能力を有している人間は、学園都市でも大体2割弱。だがそれでも現在は目立った被害報告は出されていない。それは、2割のうち1割の人間はこの能力を悪用しようと考えていない善良な市民だからである。

しかし残りの1割も表立ってスタンド能力を悪用していない。彼らは知っているのだ。目立つという行為は自分達の首を絞めることに繋がるのだと。必ず自分達に仇名す存在が現れることを。その仇名す存在というのが、彼らS.A.Dという事になるのだが・・・・・・

 

「存在は多少は認められても、それ程目立った被害も見受けられない。そもそもスタンドなんて胡散臭い能力がホントにあるのかどうかも疑わしい。それなら別の所に金と予算を組み込んだほうが有意義だ。上のお考えはまあ、そんな所かな・・・・・・」

 

 四ツ葉が「はははは」と自嘲気味に笑う。そして次第に背が丸くなり、ブツブツと独り言を言い出す。なにかのスイッチが入ったようだ・・・・・・。その姿は、すごく不気味だ。

 

「・・・・・・スタンド能力をね? 証明しろっていう上官がいましてね? 私の能力を使って証明することにしたんですよ。私の能力は、まあ力は弱いんですが、隠密行動に特化したものでね。その上司の周辺を探ってみたりしたんですよ。・・・・・・そしたらまあ、出てくる出てくる。横領、不正の雨あられ。それでね、それを告発しようとしたら・・・・・・左遷させられちゃったんですよ・・・・・・。・・・・・・な~にが”新しい職場でも、部下の能力を引き出すような指導をしてください”ですか・・・・・・。こんなボロビルでね。何が出来るって言うんですか」

 

「堅一郎。あなたの正義感。人としてのすばらしさをハルカは知っています。ですから、そんなに落ち込まないで下さい。」

 

「それでも隊長は立派ですっ! 立派に不正と戦いましたっ! これがその結果なら、甘んじて受け入れましょう!」

 

 必死に中年男性をなだめる、ジャージの少女と、ロボ一体。なんともシュールな光景だ・・・・・・

 

「かえろ・・・・・・」

 

 二人の意識が四ツ葉に向いている今のうちにと思い、孝一はそろりそろりとエレベーターの方まで進んでいく。そしてボタンを「開」のボタン押そうとするが、突然エレベーターのドアが開いたためそれが叶わなかった。そこにはセミロングの少女がいた。少女は、クリクリとした瞳をこちらに向けると、大きな声で挨拶をする。

 

「はじめましてっす! 今日からS.A.Dに入る事になった二ノ宮玉緒(にのみやたまお)といいますっ! よろしくお願いするっす!」 

 

 そして彼女は敬礼の真似事をしてニカッと微笑んだ。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 あまりの突然の出来事でその場にいる全員が固まってしまったが、しばらくすると正気に戻った四ツ葉がこう呟いた。

 

「・・・・・・来る日にち、間違えてない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




たぶんこの話短いです。2話か3話で終わりそう。
でも更新頻度は落ちそうです。

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