…広瀬孝一との戦いに敗れた音石アキラを待っていたのは、執拗な人体実験だった。
意識がある状態で、体中の器官を切開され、臓器を取り出され、体のパーツを少しづつ、少しづつ、切り刻まれていった。しかしそれでも、音石は意識を失うことを許されなかった。
…やがて、体はなくなり、ただのパーツとなり、唯一残された脳髄が培養液の中に浸されて、彼の人格は完全に崩壊した。だが…。それでも彼は、死ぬことを許されなかった…
脳髄は電極に繋がれ、新しい実験に使われることとなった。それが今の音石の新しい体、"グライム"である。
実験は、音石の脳髄に指令を伝え、それをグライムに正確に伝達できるかどうかという事からスタートした。
勿論その際、音石自身の記憶は、完全に消去されてだが…
だが…それでも、残るものはあった…それが、"憎しみで"ある。これはどんなに頭の中を初期化しても、まるで意志を持っているように、へばりつき、残った。
かつて『音石だったもの』は考える…自分をこのような状況に追い込んだものの原因を、正体を…
そしてある一つの名前が浮かんでくる。
…ヒロセコウイチ…
こいつが、全ての元凶だと…
その思いは、まるでウイルスのように脳の中に増殖し、グライムの制御機能を乗っ取ったのだ…
それが、人間を止めてしまった音石の、新たな再誕であった…
◆◆◆
「死ネッ!死ネッ!死ネッ!!」
ドンッ!ドンッ!ドンッ!
25ミリの機関砲が次々と発射され、それが全て孝一に被弾する。
胸に!肩に!肋骨に!
だが--
全ての弾が、弾かれてしまう。
『ビィヨォォォォン』
それは、漫画やアニメなどで、ゴムが伸びたときなどに使用される効果音。それを孝一自身の服に貼り付けたのだ。当然、全ての弾は、その文字の効果を体験し、デタラメな方向へ弾け飛んでいく。
「うおおおおおおおお!!!act2!!!!!」
孝一はそのまま音石の方に駆け出し、ビーカーを投げつける。
「!?」
音石はそのビーカーを済んでの所で機関砲で打ち落とす!
その瞬間!
凄まじい効果音と共に、爆風の衝撃が二人を襲った。
『ドッゴオオオオオン!!!!!』
これは、限りなく凶暴な音をイメージし、作りだした孝一の、最大攻撃だ。孝一は、要塞を攻撃する時に発生する、ミサイルが目標に着弾する音イメージしたのだ。
「アブネェナァ!!!」
間髪いれずに、音石が機関砲で、孝一を攻撃しようとする--
「? イネェ?」
爆音と煙が発生している間に、孝一は音石のすぐ隣にまで接近していた。
そして、いつの間にか、手のひらに、先程と同じ文字を貼り付け、音石に触れようとする。
「音石ぃぃぃぃ!!!!うおおおおおおおおお!!!!!」
その瞬間、ずいっと音石が右腕を、孝一の方に向ける。その先には首筋を握られた状態の、佐天涙子がいた。
「うう…」
「!?」
その瞬間、孝一はビタッと攻撃を中止してしまう。その瞬間を、音石が見逃すはずもなく…
「甘エェ!!!」
機関砲の先端で、孝一を殴りつける!!
ゴス!という嫌な音がして、孝一がその場に倒れこむ。
「ぐはぁ!!」
「ハハハハハハ!!」
音石が孝一にさらに攻撃を仕掛けようと、近づこうとする。だが--
ピタッとその足を止める。
「…アブネェアブネェ。ヤッパリヌケメネェ野郎ダゼ、オ前ェハヨォ!」
音石が止まった足元には、
『ドッグァァァァァァァン!!!!』
という音が張り付いていた。
「コレハ地雷カナンカダロ?踏ンダラ俺ハ大ダメージヲ追ウ所ダッタ…。ダガヨォ。種サエ分カッチマエバ、オ前ノ能力、ソレホド大シタモンジャネエ!!」
そういって、右腕に掴んだ佐天をその文字に近づける。
「や…やめろ!!act2!能力を解除しろ!!」
その瞬間、文字が浮かび上がり、act2の尻尾に戻っていく。
「ソウダイイコダ。ソノママ立チアガレ」
そして、ぐいっと機関砲の先端を、孝一の服に絡ませ、無理やり孝一を立ち上がらせる。
「クライナ」
そういって機関砲を孝一に向け発射する。
ドンッ!ドンッ!ドンッ!!!!
「グハァ!!」
そのたびに孝一は、まるで踊るように体を跳ね上がらせて、やがて倒れる。
だが、孝一から飛び出したエコーズact2は、そのまま音石の方に直進し、音石に攻撃を仕掛ける!
「遅セェ!!!」
そして、ぱっと佐天の体から手を放したかと思うと、右腕の先端から、何か突起物のようなものを出現させ、エコーズの方に、その手を向ける。
バリッ
一瞬、プラズマが走ったかと思うと、巨大な電気の束がact2に襲い掛かった。
「ぐわああああああああああ!!!!」
その衝撃に、孝一自身から煙が噴出し、軽く痙攣しだす。
「ククックク!!チリペッパーノ能力ハ失ワレテモ、コウイウ隠シ武器ガイタル所ニ内臓サレテイルンダゼ!?直撃ヲ食ラッタナ?コレデチョコマカト動ケネェナァ!!!」
そういって音石は孝一の前まで歩み寄る。もう攻撃される心配がないからだ。その証拠に、孝一のエコーズが先程の電撃で、床に這いつくばって動かない。
「フフフフッ。思イ出スナァ。アノ時モコウヤッテ、オ前ヲ追イ詰メタンダ。ダガ、モウアンナ奇跡ハ起コラネェ。オイ、佐天涙子。ヨク見ルンダ。オ前ノ大事ナ広瀬孝一君ガ、コレカラ無残ニ死ンデイク所ヲヨォ!!」
そして、佐天の体を無理やり孝一の手前まで持って行き、目を開けさせる。
そこには、息も絶え絶えな孝一が、虚ろな目をして、仰向けに倒れていた。
「はぁ…。はぁ…。孝一君…しっかり…。…やめて…お願い。殺さないで…。孝一君を、助けて…」
佐天は音石に必死に頼み込む。だが、無情で残酷な答えが返ってくる。
「…ダメダ。オ前ニハ地獄ヲ見セテヤル。心ニ深イ傷ヲ、立チ直レナイ位深イ傷ヲ追ッテ、残リノ人生ヲ生キルンダ。待ッテロ。孝一ヲ殺シタラ。次ハ、白井黒子ヲ殺ス。ソノ次ハ、初春飾利ヲ殺ス。全テ、オ前ノ見テイル前デ、処刑シテヤル。オ前ハ一生、コノ光景ヲ忘レル事ハ出来ナイダロウ。ソレデイイ。ソレガ俺ノ復讐ダ。…ククククク。ハハハハハハハハッ」
「ウッ…。うっ…。うっ…」
不気味な電子音の笑い声と、鳴き声だけが、辺りに響き渡った。
◆◆◆
…気が付くと、何もない、真っ白な空間だった…
本当に何もない。自分の意識はあるのに、体はない。だけど、とてつもない開放感がある…
まるで全てのしがらみから、解き放たれたかのよう…
ああ…これが死後の世界なんだろうか…。
だとしたら…。あの世というのも、案外悪いものじゃあないのかもしれない…
…でも、心残りが一つある…
それは、佐天さんだ…
エルの死を見た瞬間…音石と対峙した瞬間…。自分の心が漆黒に塗り固められそうになるたびに、心の片隅にいたのは、彼女の姿だった。
…彼女を、守りたい。その強い決意があったから、僕は踏みとどまれたんだ…
だけど…
それも、もう出来そうにない…。それだけが、本当に、心残りだ…
--孝一サマ--
そんなことを孝一が考えていると、どこからか、孝一を呼ぶ声がする。
誰だろう?聞いたことのない声だ…
--孝一サマ。私ヲ呼ンデ下サイ…。私ノ名前ヲ--
名前?だれの?それより、君は?
--分カッテイル。アナタハ心ノ中デハ分カッテイル…。私達ハ、ズットアナタヲ見テキマシタ…。アナタガ怒リ、悲シミニ溢レテモ、決シテ折レナイ、不屈ノ心ヲ…黄金ノ様ナ輝キヲ持ッテイル事ヲ。私達ハ知ッテイル。ソシテ、困難ヲ乗リ越エルタビニ、アナタノ心ガ成長シテイクノヲ、ズット見テキマシタ。アナタハ今、成長シタノデス。デスガソノ前ニ、憎ラシイ"アンチクショウ"ヲ倒サナケレバ、ナリマセン。ダカラ呼ンデ下サイ。私ノ名前ヲ--
なまえ…お前の、名前は…
◆◆◆
「音石アキラ!卑怯者!!孝一君を…皆を殺してみなさい!そうしたら、私がアンタを殺してやる!!どんな所にいても、絶対に見つけ出して、殺してやるから!!」
佐天は涙を流しながらも、それでも強い意志で音石の顔(に当たる部分)を睨み付ける。
「ハハハハハ。ヤレルワケネェダロ!テメェミタイナクソガキガヨォ!!イイカラジット見テナ!コレカラコイツノ脳天ニ、大量ノ弾ヲブチ込ンデヤルンダカラヨォ!!」
そういって、孝一の頭に、銃口を定める。
「やめてぇ!!!」
思わず佐天が、両手を広げ、孝一の前に躍り出る。
その瞬間、プラスチック弾が、佐天の顔面に向け、放たれる。
「あっ!?」
いかにプラスチック弾といえども、至近距離から、しかも顔面に被弾したとなれば、ただでは済まない。
佐天は両目を閉じ、来るであろう衝撃に身構える。
「?」
だが、いつまでたっても、衝撃がこない。一体どうしたんだろう?不発?そう思い、佐天が目を開けると--
「え?何コレ?」
放たれた弾が、地面にめり込んでいた。まるで、何か重石をつけられたかのように…
「バッ…バカナ…。タテルハズガ…」
音石が動揺している。佐天にではない。佐天の後ろにいる、仰向けに倒れているはずの人物にである。
「…」
その時、ポンッと佐天の肩に手がかかる。そして--
「…前にも言ったよね?佐天さんは、僕が守るって…」
後ろの方で声がする。
--いつも、いつでもこの声に、私は励まされてきた。辛いときでも、悲しいときでも、とても立ち向かえない困難な敵が相手の時でも、彼は決して諦めず、前を向き続けて、私を、私達を照らしてくれた。太陽のような人。…とても大事な、わたしの、私の大切な人!!--
「…孝一君!!」
「…やあ」
佐天が涙を浮かべ、孝一の方に振り返る。その顔はいつ倒れてもおかしくないほど青ざめて、体からは至る所から血が滲んでいた。そんな状態なのにも関わらず、孝一は戦うことを止めなかった。
「佐天さん。少し、離れてて、今すぐ、コイツを倒すから」
「…うん。信じる」
佐天はそういって孝一から少し距離をとり、戦いの行方を見守る。
「オ前。何テイッタンダ?倒ス?俺様ヲ?満身創痍ノソノ体デカ?…ハハハハハハハ!!!」
そういって音石は銃口を孝一の目の前に、突きつける。
「クタバレ。コノ至近距離ジャア、絶対ニ助カラネェゼ?」
音石は自身の勝利を確信していた。だが孝一はその言葉に対して不適に笑う。
「もう、無理だ。もう攻撃は出来ない。だって、もう攻撃は『完了』しているんだから。僕の新しい『エコーズ』がな」
「エコーズダトオ!?オ前ノエコーズハアソコニ…」
そういって音石はエコーズのほうを見る。
「ナ!?」
そこには確かにエコーズがいた。だが、それはまるで脱皮した蝶のように、背中が大きく裂け、抜け殻のようだった。
「コッチダ。son of a bitch!(糞野郎)」
そういって何かが音石の顔面を殴りつけた。
「ガァ!?」
突然の衝撃に、音石は地面に倒れこんでしまう。
「何ダ!?イッタイ、何ガ!?」
そこには、音石が見たこともない物体がいた。体格は孝一と同じくらいで、小柄の人間のような形態をしている。だが顔は、まるで宇宙人の様であり、表情が読み取れない。コイツは腰当のようなものを纏っており、そこには『3』という文字が刻まれている。
「エコーズの新しい形態『エコーズ・act3』お前はもう僕には勝てない」
「勝テナイダトオ!?オマエゴトキガ!!ナニホザイテヤガ…」
ギギギギギギギギギギギ
おかしい…左腕が持ち上がらない。照準が、孝一に定められない!
「コ…コレハァ!!」
ベキィ!!!
音石の左腕が、まるで関節が外れたプラモのように引きちぎられ、床にたたきつけられる。
ベコォ!!バキッバキッ!!!
叩きつけられた腕は、なおも重さを増し、床にめり込んでいる。そして、やがて完全にコンクリートに埋まり、見えなくなってしまう。
「これでもう、機関砲は撃てないな」
孝一は冷静に、音石に宣言する。
「オ前!?ナニヲシタ!?オマエノコノ能力ハ!?」
「act3!」
その音石の言葉を無視して、孝一はエコーズact3に攻撃を命じる。
「ハァァァ!!!」
act3が拳法のような構えを取り、目標に狙いを定める。そして--
「必殺『エコーズ 3 FREEZE』!!」
そういって、パンチの連打を音石に浴びせかける。
グシャァ!音石の顔面が次第に砕け散る。
そして--
ベゴオッ!!!
顔面がコンクリートの床にめり込む。
「act3の能力…それは殴った人や物体に、重力を発生させ、動けなくする」
「ソシテソノ重サハ、孝一様ノ精神力次第デ、ドコマデモ重ク出来マス。今ノ孝一様ノ精神力ナラバ…」
グシャア!!!
「ァァァァァ…」
顔面が次第に地面にめり込み、砕けていく。
(何デダ…ドウシテコイツトヤルト、イツモコウナル?何デ勝テナイ!」
バキッッバキッッ!!!
「音石。お前は、僕の…僕たちの大事なものを、傷つけ、奪おうとした…。だからお前に同情はしない…」
メキッッ!ベキィィ!!グシャァァァ!!!!
「…1t。このまま押しつぶれろ」
「!!」
バキョッ!!!
そして、音石の顔面は引きちぎられ、地面に埋没していった。残されたのは、頭から分離した体のみである。
「…」
「か…勝ったの?音石を、倒したの?」
「ああ…終わったよ…これで全て…」
そういって、孝一は佐天の方に向き直り、笑顔を向けようとする。
パン
乾いた音がしたのは、その直後だった。
一体何の音がしたのか佐天は最初、分からなかった。
「…ゲボッ!!」
だがその直後に孝一が血反吐を吐き、倒れこむ様子を見て理解した。これは…拳銃だ。拳銃で撃たれたんだ…と。
ドサッ
孝一が倒れこんだ床からは、血が大量にあふれだす。
「嫌…孝一君…うそ…うそだ!!言ったじゃない!死なないって!私をちゃんと、守ってくれるんでしょ!!孝一君!!」
そういって佐天は孝一を抱き寄せる。
「…ハァッ。ハァッ。よくも、よくも私の大切な実験を!!金のなる木を!!台無しにしてくれたな!!!」
良く見ると、拳銃を構えた男が、こちらに銃口を向けている。この男は、研究所の所長・徳永だ。彼は、あの音石の虐殺行為から何とか生き延びていたのだ。だが、所々、白衣が血に染まっている。完全に無傷とは行かなかった様だ。その顔は、怒りを湛え、孝一達を睨み付けている。
「おしまいだ…もうじきここに、アンチスキルの大部隊が押し寄せる…はははっ。今までの研究が、水の泡だ…。お前らのせいだ!!お前らがアンチスキルに通報したせいだ!!おまけにこの駆動鎧まで操作して、我々を攻撃したな!?末恐ろしいガキ共だ!!だが、ただでは死なんぞ!!!お前らも、道ずれにしてやる!!お前ら全員、皆殺しにしてやる!!そこのガキはもう死ぬ!!次は女!!オマエの番だ!!」
そういって拳銃を発射する。
ダンッ。ダンッ。ダンッ。
「!? はずれた?」
佐天は三度も弾が外れた幸運に感謝する。だけど何故外れたのだろう?
「くそ!!目が!!」
徳永が悪態をつき、叫ぶ。
良く見ると、両目が酷く出血している。そのおかげで、狙いがそれたのだ。
「なら、近づいて撃てばいい!!この距離なら、はずさん!!!」
そういって、徳永は佐天の方に近づき、銃口を佐天のこめかみに押し当てる。
「死ね」
そういって拳銃の引き金にてをかけ--
バチィ!!
「!!!!!!」
突然発生した電流に、徳永がたまらず悶絶し、その場に倒れこむ。
「…なんで?何で次々と、こんな事が…」
次々と、自分たちを襲う不幸に、佐天がたまらずつぶやく。
「殺サセネェ…ソノ女ハ、殺シチャイケネエンダ…生カシテ、苦シメネェト…」
ギギギギギギギ
頭部のない状態の駆動鎧が、嫌な動作音を発しながら起き上がる。
「殺ス…。殺サネェ…。殺ス?殺サネェ?殺/殺さ…殺★殺?殺♪殺/殺〇す殺…!★」
なんだか良く分からない電子音を発生させながら、音石が佐天に近づいてくる。
(狂っている!そうまでして、私たちが憎いのね…。でも、悪いけど、私達は死ぬわけには行かないの!あなたの思い通りになんか、ならない!)
そうして、佐天は、孝一の体を担ぎ、少しずつ、その場から立ち去ろうとする。
「孝一君!大丈夫!!助かるから!!今度は私が、君を助けてあげるから!!だから、しっかり!!」
ギィィィィィ、ガシャン!ギィィィィィ、ガシャン!!
音石が四つんばいで、佐天達を追いかける。そして、右腕から、電流を発生させる!
バチィ!!
「く!!」
その攻撃は、手加減なんてしていない。本当に当たれば死ぬような攻撃だ。
「コ*ロ?サ/ナイ?::安心*コロ♪ス…/」
そういって、音石は何度も何度も、電撃による攻撃を繰り返す。
やがて、その攻撃が、孝一達の真後ろに迫ってきた。
「危ない!」
その攻撃に気づいた佐天が、孝一を突き飛ばす!そして自身も、倒れこむ!
「う!?っ~!!」
足に激痛が走る。どうやらさっきの拍子に、足を挫いてしまった様だ。これではもう、孝一を担いで、逃げれない。そうこうする間にも、少しづつ音石が迫る!
「だ、だめ!!音石!こっちよ!!こっちに来なさい!!」
佐天は、少しでも孝一を逃がそうと、孝一とは反対の方向に、這って進み、大声を出し、自身を囮にする。
その声につられて、音石が佐天の方向に進む。
(孝一君!!お願い!!今のうちに、逃げて!!)
「…」
一方の孝一は、虫の息だった。体中の力が抜け、意識が朦朧としている。そして、さっきから体が、寒い。
「…」
ちらりと、孝一は周囲を見渡す。その目はぼやけ出し、まともに物を見ることが出来ない…。だけど、それでも、このガラス張リの部屋だけは認識できた。この部屋は、エルがいる部屋だ…。
(ははっ。最後の最後で、エルと一緒の場所で死ぬのか…神様も粋なことをしてくれるなぁ…)
そんなことを、ぼんやりと考えていた。
--チュチュッ--
すると、孝一の耳に、幻聴が聞こえだしてきた。
(この鳴き声は…ネズミ?…実験室のネズミかな?)
--チュッチュッ--
だがこれは幻聴ではない。さっきから孝一の顔を、白いネズミが舐めているのだ。
(これは…。はつかねずみ?でも、なんで?)
--キュー。キュー。--
やがてネズミは甘えた声を出すと、孝一の周りをくるくると駆け回り、エルのいる部屋へ消えていく。
(なんだ?やけに人懐っこいネズミだったなぁ…)
そう思って、エルのいた部屋を見た孝一は、青ざめる。
何かが、部屋から湧き出していたのだ。その正体を知った幸一は--
「あ…あ…あ…」
声にならない声をあげた。
エコーズact3の登場です。能力は、原作のエコーズより1.5割り増しの強さとなっています。