広瀬"孝"一<エコーズ>   作:ヴァン

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前回の話で、やっぱりグロイ展開は止めておけばよかったかナァ・・・っと、後悔。
もっと少年漫画風に爽快感ある展開にすればよかった…
不快に思われた人。どうもスミマセン。


悪意の双曲線

頭が…くらくらする…

心臓の動機が収まらない…

何も、考えられない…

 

孝一はその場にへたり込んで、うつろな目で一点を凝視していた…

その瞳に映るものは、何もない…

 

「…さん。…せさん…!…ひろせさん!!」

 

白井がしきりに孝一の肩を揺すって話しかけるが、孝一は何も反応を示さない。

ただ瞳からからぼろぼろと涙をこぼし、ずっと自分を責め続けていた。

 

--僕が…僕が、もっと強かったら…。あいつらをやっつけていれば…こんなことにはならなかった…

エル…。エル!!

…悪いのは誰だ?それは僕だ…何も出来なかった、弱い自分だ…。僕が…僕が…僕が…

 

そこから先で、思考が止まってしまった。何度も何度も、同じ後悔を、グルグルと思考続けている。

 

「孝一さん!!!」

 

バシッ!!

 

白井が孝一の頬を思いっきり叩く。

 

「…ぁ…」

 

そこで孝一は、少し意識を取り戻す。

 

「しっかりしなさい!!あなたには、まだ出来ることがあるでしょう!?作戦を忘れたのですか!?佐天さんと、エルちゃんを、助けるって!エルちゃんの亡骸を、このままにしておくつもりですか!?」

 

「…える…。そうだ…ここは、寒すぎる…。えるを、助けないと…」

 

孝一は、ゆっくりと立ち上がり、エル入っているガラスの檻に手を触れる。

 

ビシッ!ビシッ!!!!ビシッ!!!!!

 

エコーズact2のしっぽ文字を手のひらに貼り付け、ガラスの壁を破壊しようとする。

 

「…邪魔だ…。もっと…もっと凶暴な音を…この邪魔な壁を破壊するくらい、凶暴な音を!!!」

 

ビシッィ!!!バキバキバキ

 

ガラスの壁に次第に亀裂が入っていく。やがて---

 

「くだけろ」

 

ぐッシャぁぁぁぁアん!!!

 

強化ガラスが完全に砕け散った。

 

 

 

「…すごい…」

 

白井がおもわずつぶやく…。だが、途中ではっとし、佐天達に目を向ける。

 

(こうしてはいられません。はやく、佐天さんを助けないと!)

 

そういって、ロックがかかったドアに目をやる。

 

(いきます)

 

そして、そこら辺に落ちている、研究資料の束を手に取ると--

 

「…!!」

 

それらをドアの間に挟まるように転移させる。

 

シュン、シュン、と僅かな音がしたかと思うと、ドアが何かに切られたかのように切断され、破壊される。

 

「佐天さん!」

 

白井が駆け寄り、中にいる佐天に声を掛ける。

 

「うっ…うっ…うっ…」

 

佐天は膝を抱え泣いていた。

無理もない。目の前で、友達が殺される瞬間を見せられたのだ。今すぐに立ち直れというには、あまりにも無茶というものだ。だが、今はここでこうしているわけには行かない。

 

「佐天さん!さあ、ここから脱出しますわよ。立ち上がって!」

 

そういって白井は、佐天の腕を掴む。だが--

 

「…」

 

その手を佐天に振り払われてしまう。

 

「私は、情けないです…友達が目の前で殺されるって言うのに、何にも出来なかった…。何でなんだろう…どうして、私は無能力者なんだろう…。私は、自分が許せない…弱い自分が、許せない…」

 

「だから、ここで腐っているって言うんですか!?それで何か解決しますか!?エルちゃんが生き返るとでも!?それとも一緒に死ぬつもりですか!?…悪いですけど、あなたを死なすつもりは、毛頭ありませんわ!たとえあなたに恨まれようとも、無理にでも、あなたを連れて帰ります!」

 

そういって、佐天の肩を担ぎ、無理やり立ち上がらせる。

…だが、佐天の足には力が入らない。

すぐにでも、座り込んでしまいそうになる。

 

「佐天さん!」

 

そんな白井の励ましを、佐天が恨みがましそうな目で、否定する。

 

「…白井さんは、強いなぁ…でも、分かってくださいよ。皆が皆、あなたみたいに強い人ばかりじゃないんですよ?こうやって、傷ついたら、立ち直れない人間だって、いるんです。私は、あなたみたいに、友達が死んだのに、涙一つ流さない、冷血漢じゃないんです!そっとしておいてくださいよ!私は…私は…」

 

自分の感情が抑えきれない。何かを話すたびに、自分の心がどんどん黒く染まっていって、相手を傷つけるような言葉を投げかけてしまう。でも、今の佐天にはその言葉を抑える手段を持っていない。まるで決壊が崩れたダムのように、次々と、辛らつな言葉を白井に投げかけてしまう。それが分かっているのに、止める事が出来ない。

 

「…それでも…あなたを連れて帰ります…。このままここにいたら、確実に死が待っているだけです。だから、あなたを連れて帰ります…」

 

そんな佐天の言葉を受けても、白井は支える力を緩めない。佐天をガラスの外に連れ出そうとする。

 

「なんで…?なんで、そこまで…強いんですか…?わたし、こんなに酷いこと、言っているのに…」

 

「…だって、あなたは、わたくしの大切な友達の一人だから…。どんなに酷いことを言われても、それが本気じゃないって、分かっていますから…。だから…だから…お願いですから、わたくしの言うことも、分かってください…。今は本当に、危険な状況なんです。このままここに留まれないほどに…。これで、もし、佐天さんが死ぬようなことがあったら、きっと、わたくしは立ち直れませんわ…。ですから、お願いです。今だけでいい、わたくしに、力を貸して…」

 

白井は泣いていた…。あのいつも冷静沈着な白井がだ。そうだ…傷付かないはずがない。彼女だって、エルが…友達が死んで、悲しくないわけがない…。冷血漢?自分は何て酷いことを言ってしまったのだろう…。佐天は自分の心無い言葉が、どれだけ白井を傷つけてしまったのかを悟り、後悔した。そして、そのことが原因で、少しずつだが、彼女の瞳にも生気がもどり始めた。さっきまで、入らなかった足にも力が入る。

 

「今は…まだ頭の中がグチャグチャで、正直、何から始めたらいいのか、分かりません…。ですから、まずは立って歩いて、ここから逃げる事から始めようかと思います。ここから逃げたら、たぶん、また泣いちゃうと思います。落ち込んじゃうと思います。でも、それでも、私は生きなきゃいけないんですよね?死んじゃった、エルちゃんの分まで…」

 

そういって、白井の肩に力を入れ、自分で、ゆっくりと、歩き始める。まだ、その顔は青ざめていたけれど、それでも、彼女は、前へ進むことを決めたのだ。

 

「大丈夫ですわ。泣くのも、落ち込むのも、あなた一人じゃ、ありません。帰ったら、皆で一緒に泣きましょう。皆が泣き止むまで、ずっと…そばにいます。そして、エルちゃんをきちんと、弔いましょう…。」

 

そういって、白井は涙目で、佐天にそう告げる。そして、佐天と一緒にいた女性に目を向け、佐天に「あの方は?」と、佐天に尋ねる。

 

「…あの人は、エルちゃんの教育係をやっていた人で、エルちゃんを逃がしてくれた張本人です…。酷い暴行を受けたみたいで、意識がありません…」

 

「そうですか…なら、彼女も、助け出しませんと…問題は、四人分のテレポートを行う体力が、今の私に残っているか、ですわね…」

 

傷ついたわき腹にそっと手をやり、白井はそうつぶやく。

 

その時、ボシュっと、何かが破裂する音がした。

それは花火のように、あたり一面を輝かせ、きらきらとした粒子を辺りに散布する。

 

「!?」

 

その瞬間、白井がその場に倒れこむ。

 

「し、白井さん!?」

 

「ぐ!?こ、これは…。この感じは…!?ジャマー!?それとも、キャパシティ・ダウン!?あ、頭が…」

 

その白井たちの目の前に、メタルカラーの駆動鎧が姿を現した。

 

 

◆◆◆

 

 

「エル…」

 

孝一は、エルの亡骸と対峙していた。辺りは血だらけで、酷い惨状だった。何より酷いのが、エルの体を覆っていた、無機質な医療用具の数々。それが、あの純真無垢なエルの体に、あまりにも不釣合いで、行われた実験の残酷さを際立たせていた。

 

「…」

 

孝一は、エルに取り付けられた医療教具を全て丁寧に取り外すと、裸のエルの体に、自分が着ているアンチスキルのジャケットをそっと掛けた。

 

「…」

 

そして、そっとエルの体を抱きかかえようとしたとき--

 

「オ友達ガ死デ、悲シイカ?」

 

孝一の背後で、無機質な機械音がした。

 

「!?」

 

 

孝一はバッと後ろを振り返る。そこには、メタルカラーの覆われた駆動鎧がいた。そしてその右手には--

 

「う…。こ…孝一君…」

 

 

佐天が喉元をつかまれた状態で、立たされていた。

 

「お前は!…何をしているんだ!!」

 

孝一は思わず激高し!エコーズを出現させる。だが駆動鎧はそんな孝一の怒りなど、さほど気にせず、言葉を発する。

 

「佐天涙子。コノオンナガ攫ワレタ時、ドンナ気分ダッタ?悔シカッタカ?悲シカッタカ?憎ラシカッタカ?ダガ、コンナモンジャネェ。コンナモンジャ、俺ノ受ケタ痛ミヤ憎シミハ言イ表セネェ」

 

そういって、右腕に持った佐天の喉元に力をこめる。

 

「グ…!が…!」

 

「コノ女ニハ、トラウマヲ植エツケタ。友達ガ死ヌ瞬間ヲ、ハッキリト見セテヤッタ。コレカラコイツハ一生コノ光景ヲ思イ出シテ過ゴスンダ」

 

駆動鎧がなおも力をこめる。

 

「やっ…やめろ!!!」

 

その瞬間、ピタッと佐天の首を絞めていた手が止まる。

 

「安心シロヨ。広瀬孝一。コノ女ハ殺サネェ。イヤ、殺シチャイケネエンダ。…殺スノハ簡単ナンダ。デモソレジャ一瞬ダ。ソレジャダメダ。生キタママ、生活ノスベテヲ破壊シテヤル。死ンダホウガマシダト思イナガラ、コレカラノ人生ヲ生キサセテヤル」

 

そして、左に装備したガトリングガンを取り外すと、腰に装備していた機関砲を左腕に装備し、孝一に向け発砲してくる。

 

ドォ!!!!

 

「お前ヲ殺シテナア!!!」

 

「が!?」

 

孝一の体がガラスの壁に吹き飛ばされ、叩きつけられる。だが、孝一は死んでいない。胸を撃たれたのに?何故?

 

「25ミリノプラスチック弾ダ。弾速モアエテ落トシテアル。何故ダカワカルカ?」

 

ドンッ!!ドンッッ!!

 

なおも孝一に向け発砲してくる駆動鎧。その全ての弾が孝一の体にヒットし、孝一は血反吐を吐き倒れこむ。

 

「簡単ニ殺シチャ、ツマラネエダロ?マア、プラスチック弾トイッテモ、当タリ所ガ悪ケリャ、ソノウチ死ヌイダロウガヨォ!!オ前ニハソレハシネェ。最後ノ瞬間マデ、苦シマセテ、死ンデイケ」

 

「…お前は…お前は…誰なんだ…。お前は、一体…」

 

床に這い蹲りながら、孝一は駆動鎧に問いかける。何故だ?何故コイツは、これ程までに悪意を僕にぶつけてくる?

 

「…マダ分カラネェカ?ソリャソウダロウナァ。俺程度ノ存在ナンテ、お前カラシタラ、取ルニ足ラナイモンダカラナァ。ダガ俺ハ忘レネェ。オ前ト出会ッテセイデ、コンナ姿ニサレチマッタ…。俺ノ美シイ髪。美シイ顔。美シイ指!!指ハギタリストノイノチナンダゼェ!!!ソレガ、コンナ有様ダ!!!コンナンジャ、モウ、ギターヲ弾ク事モ出来ヤシネェ!!!全テオ前ノセイダ!!!」

 

駆動鎧は叫び、当たり構わず機関砲を乱射する。周囲の器機が粉々に砕け、孝一の周囲に散乱する。

 

「お…お前…。もしかして…音石アキラ…か?」

 

そういって孝一はヨロヨロと起き上がる。

 

音石アキラ。アンチスキルに逮捕されて、そのまま少年院に収容されているものとばかり思っていたのに…

それが何故こんな姿になってしまったのだろうか?

 

「ヤット気ガ付イタノカ?馬鹿ガ。ダガ、分カッタ所デドウシヨウモネェ。オ前ハコレカラ俺ニイタブラレナガラ、死ンデイクンダカラヨォ!!」

 

ドンッ!!ドンッ!!!

 

そういって、孝一にさらに機関砲を打ち込む音石。だが--

 

孝一の腹部にヒットするはずだった攻撃が、全て、弾かれてしまう。まるで、ゴムにでも弾かれたかのように。

 

『ビィヨオォーン』

 

孝一の服に貼り付けてあった文字が、act2に回収される。

 

「ソウイヤソウダッタ…。オ前ニハソンナ能力ガアッタンダッタ…」

 

「…お前がどうしてそんな姿になったのかは知らないし、興味もない。だけどあの時も言ったよな?『お前なんかに殺されてたまるか』って。」

 

そういって駆動鎧。…いや、音石と対峙する孝一。

 

「…それに…この惨劇を作り出したのがってのが、お前のせいだと言うのなら…僕はお前を許さない!!お前を、徹底的に、破壊してやる!!」

 

「コイヨオ!!ヤッテミロ!!広瀬孝一ィィィィィィ!!!」

 

…消えてしまいたかった。エルを助けられなかった自分が、許せなくて、ずっと悪いのは自分だと思っていた。でも違う…悪いのは、実験を行った大人達。そして、実験に加担していたヤツラだ。そして目の前に、その張本人がいる。…ちょうど良かった。怒りを、悪意を、誰かにぶつけたかった。

 

「音石ぃぃぃぃぃいいい!!!!!!」

 

広瀬孝一と音石アキラ。互いに悪意を持った二人が、三度激突する。

 

 

 




音石を出すのは、最初から決まっていました。
ただどうやって出したものかナァ…っと思っていたところ、フランケンシュタインの映画を見て、
「あっサーボーグ的な存在にしてみよう」と思い、こんな感じになりました。

それと改めて、前回の小説を見て、不快に思われた方。本当にすいませんでした。

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