今回のお話では、ストーリー中にグロテスクな表現が含まれている箇所があります。そういう話しが苦手だという方は、閲覧を控えて頂く様、お願いします。
孝一達が、徳永製薬会社に突入する少し前…
銀色のメタルカラー配色の機体、グライムは中央制御室にいた。良く見ると、右腕は血にまみれ、研究所の職員が数人ほど倒れている。その周りはべっとりと、血の池が出来上がっている。
「…」
やがてグライムはメインコンピュータ前にたどり着くと、右腕からケーブルの様なものを取り出し、コンピュータにアクセスする。
「…」
2,3秒の後、グライムの顔に当たる部分から、わずかな光点が点滅を繰り返し、やがて止まる。
「…データノコピーカンリョウ。テンソウヲカイシスル…」
◆◆◆
同時刻。製薬会社の実験施設内。
「やめろぉ!この!この!!エルちゃんに触れるなあ!!!」
佐天涙子はガラスの壁を叩き、職員達に叫び続ける。しかし、まるで佐天が始めからそこにいないように、その声に、誰も、何も反応を示さない。ただ黙々と、器機の類をエルに取り付けている。
佐天と安宅は、実験用のガラスの檻に入れられていた。その様子は遠くから見たら、まるで巨大な水槽に佐天達が閉じ込められているようだった。そのガラスの檻の周辺では、研究職員たちが、様々な計器類をチェックしている。その様を見ていると、本当に自分たちが実験動物になってしまったようで、佐天は薄ら寒いものを感じていた。
その佐天のいるガラスケージの向こう側で、やはり同じガラスケージがあり、そこでエルは一糸まとわぬ姿で、手術台に寝かされていた。両方の手と足は、ベルトで固定され、唯一動く頭も、先程取り付けられたセンサー類でまったく動かせなくなってしまった。エルの体には、様々なチューブの様なものや心電図様の器機などが取り付けられ、まるで機械がエルの体から生えてきたようだ。
ガラガラガラガラ
全ての取り付け作業が終わった後、最後に、キャスターに乗った機械が運ばれてくる。そしてその機械から出ているチューブの先端と、エルの体に取り付けたチューブの先を繋ぐ。
…これで本当に作業が終了したらしい。職員達は、手術台の周りから姿を消し、扉を閉める。
「やめろ!やめろぉ!!この鬼!悪魔!!人でなし!!」
佐天が諦めずにガラスを叩き続ける。だが…
「これより、第20次投薬実験を開始する」
機械的に実験開始を告げられる。本当に、なんの感情もなく、ただの"もの"みたいに…
やがて佐天は力なく、その場に崩れ落ちた。
「…やめて…やめてよぉ…。なんで、こんな酷いことができるの…」
その佐天の問いに答えるものは、誰もいない…
手術台に寝かされたエルは目を閉じ、運命の時を待った。
気が付くと、先程まであった恐怖心は、消えていた。
あるのは、ある種の達観した心と、疑問だけ。
("死"とはどういうものなのでしょう…。自分という自我と肉体が、この世から消えてしまい、後には何も残らない。まったくの"無に還る"ということ?それとも「かあさま」の聞かせてくれた本のように、魂が転生し、新しい命を得るという”生まれ変わり・新たな生の始まり”ということ?
…分かりません…。でも、もしどちらかを選べることが出来るなら…エルは後者がいいです。生まれ変わって、もう一度…皆さんの友達になりたい…。)
そんなエルの脳裏に、ふと、孝一の顔が浮かぶ。
(孝一様。エルに名前と、暖かさをくれた、とても優しいお方…。エルの最初の、お友達…。大切な人…。…孝一様。エルは、最後にもう一度、孝一様の作ったオムライスが食べたかったです…)
ブゥゥゥゥゥン
キャスターに乗った機械から、どす黒い液体がチューブに乗り、エルの体内に運ばれていく。
それはまるで、この世の全ての醜さを象徴したような、悪意の色。
それにエルが犯されていく…
「…やめろ!やめろ!!…いや…やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
佐天の絶叫が辺りに木霊した。
◆◆◆
「…グライムから、研究用のデータが送られてきました」
敷地内で待機中の指揮車輌の中で、オペレーターが「佐伯」にそう告げる。
「おほー。出てくる出てくる。我々の知らない研究データがいっぱいだあ♪」
そういって「佐伯」は暢気そうに笑った。
「徳永さん。やっぱりあなた、我々に黙って新薬の開発を行っていましたね。ゆくゆくはこのデータを他国に売却する予定だったのでしょうね…。実に抜け目のない人です」
そういって目を細めて笑顔を作る。しかし、その目はまったくといっていいほど、笑っていない。
「ですが、それは我々も同じ事。こうして、あなたの研究成果は、すべて頂きました。…あなたがもう少しお利口なら、生かして差し上げても良かったのですがね…」
「…アンチスキルの無線を傍受。『宵の明け星』活動支援、及びに犯人隠避などの容疑で、徳永製薬会社に急行中とのことです」
「はあ?」
しばらくの間をおいて「佐伯」が大笑いする。
「ぷっ…あっはっはっはっ…。いやあ、どうやら我々と同じような事を考え付いた人達がいたようですねぇ…こんなことを考え付くのは、誰かな~?」
「!?アンチスキル車輌、一台が正門を突破し、敷地内に進入しました!」
(…早すぎる。まるでこの状況を見越したみたいに…。ん?グライムが言っていた人質とかいう少女…。なあるほど。さっき見逃してあげた、子供達か?なんと友達思いの子達だろうねぇ…。捕まっている彼女達からしたら、さしずめ第七騎兵隊参上!といったとこでしょうか?ですが、果たして間に合うかなぁ~?)
「…状況が変わりました。これ以上この現場にとどまるのはやめときましょう。我々は、撤退します」
「佐伯」が部下の男達に、そう告げる。
「…グライムはどうするのですか?起爆時間は30分に設定したありますが…」
部下の一人がスイッチを差し出す。
「そうですねぇ…。彼は最後の最後まで、私たちの研究に貢献してくれましたしねぇ…個人的には、彼に最後の花道を歩ませてやりたいのですが…」
そういって「佐伯」は部下からスイッチを受け取り、押した。
「まあ、それはそれ。この際だから、全員あそこで死んでもらいましょうか♪出来ればアンチスキルなんかも巻き添えにしてくれたら、うれしいなあ」
そういって、にこやかに答えた。
◆◆◆
グワシャァァァァァァァァン!!!!!!
正門を破壊したアンチスキル車輌は、勢い良く正面のビルを目指し、入り口前で停車する。
「徳永製薬所のメインサーバーにアクセス!…やっぱりです。ビル内部はダミー。実験施設は、地下にあります!地下3階です!」
初春がパソコンを操作し、実験施設のある場所を孝一達に告げる。
「中の様子はどうなっていますの?監視カメラの映像は?」
「待ってください。いま、接続します!……え!?これは…ひどい…」
白井の言葉を受け、監視カメラの映像をモニターで確認した初春が息を呑む。
「どうしたんだ?初春さん。一体何が…」
この様子に不振なものを感じた孝一がパソコンを覗き込む。
…そこには人が倒れていた。いや、倒れているだけではない。体から血を流して、絶命している。そしてそれは一人ではなかった。地下一階、地下二階…カメラが映る所は、至る所、研究職員の死体だらけだった。
そしてその死体を作り出している原因がカメラに映りこんだ。
…それは一体の駆動鎧だった。メタルカラー配色の、孝一達は見たことのない機体。ソイツが左手に持ったガトリングガンで、研究職員達を血祭りに上げている。
ガトリングガンが一瞬光ったかと思うと、そのたびに研究職員達は踊るようにして痙攣し、倒れこみ、ただの肉片へと変わっていく。
「ひどい…」
孝一は思わず呻く…。
「うっ…」
初春が口元を押さえ、思わずえずく。良く見ると、白井もジャックも顔面が蒼白している。無理もない、自分もそうだ、誰が好き好んで、こんな殺戮の現場に行きたいものか。だが、あそこには、佐天達がいる。友達を、あんな地獄に、一秒だって、いさせたくはない。孝一はそう思い、初春にこう告げる。
「初春さん。ジャックさんはここで待機していてください。初春さんは、ここで僕たちに指示を出す指令係。ジャックさんは、迅速に僕たちを回収する運送係。僕と白井さんは、エルと佐天さんの救出係を担当します。白井さん、いけそうですか?」
「…愚問、ですわね。いつでも準備、オーケーですわ」
孝一の問いに、白井はそう答える。しかし、かなり無理をしているのが分かる。痛めたわき腹のダメージが、かなり酷いのだ。
「…本当は、私も行きたいです。一緒に、佐天さん達を助けたい。でも、私では必ず足手まといになってしまいます。だから、お二人に託します。必ず、エルちゃんと、佐天さんを、助け出してください!」
涙は後にとっておく筈だったのに…気が付くと初春の目には大粒の涙が零れていた。
そんな初春を、白井は優しく抱きしめる。
「大丈夫ですわ…。必ず、二人を助け出します。そうしたら、皆でエルちゃんのお買い物に行きましょう?色んなお洋服を買って、色んなおしゃれをして…おいしいものを食べて…。わたくし達はエルちゃんと、まだ、どこにも遊びに行っていません。あの子にはもっともっと、色んな物を見せてあげたい。色々なもの事を、経験させてあげたい。あの子がこんな所で死ぬ道理などありませんわ」
「はい…よろしくおねがいします…」
気が付けば、お互いの頬から、涙が零れ落ちていた。
◆◆◆
「…正面ドアのロック、解除しました…。広瀬さん、白井さん。お気をつけて!」
ガシャン
正面の電子ロックが外れる音がする。
「じゃあ、いってきます」
孝一と白井は、そう初春達に告げ、中に入る。
「…」
中は、元々人などいないかのように静かだった。
しばらく進むと、とたんに錆びた鉄の匂いがしてくる。中は薄暗くなっていて、良く見えない。
「う!?」
「白井さん!こっちを向いちゃ、だめだ!!エレベーターの方まで、まっすぐ、何も見ないで進みましょう!」
孝一は白井の肩を抱き、右側を向かせないようにする。
「ちょ!?広瀬さん?」
「いいから、行きましょう?お叱りなら、後で受けますから!」
そういってその場を進む。
…孝一達の去った現場。右側には、頭をつぶされた、職員の死体があった…
エレベーター乗り場まで来た。
すると「チン」といって、ドアが開く。恐らく初春がエレベーターを動かしたのだろう。
耳につけたインカムから初春の声がする。
<広瀬さん!あの駆動鎧は現在3階です!3階で銃を乱射しています!だんだんと、佐天さん達の方に向かっています!このままじゃ、佐天さんが!>
「佐天さんが見えるの?じゃあエルは?エルの姿は確認できないのか?」
<…佐天さんの姿は確認できます。大きな水槽のようなものに入れられているのが遠目で確認できます!エルちゃんは…すいません。カメラが壊れているのか、確認することが出来ません>
「初春。今なら、エレベーターで降りても、あいつに気づかれませんのね?」
<はい。アイツはエレベーターからどんどん遠ざかっています。>
孝一と白井は互いに顔を見合わせ、コクンと頷く。そして、二人とも、意を決して乗り込んだ。
ガチャン
エレベーターが閉じ、下降していく。
そこに待っているのは、恐らく地獄だ。だけど、退くわけには行かない!
ウィィィィィィィ
しばらくの沈黙の後、エレベーターの扉が、ゆっくりと開いた。
「う!?」
「この、匂い…は」
広がっていた光景は、まさに地獄絵図だった。かつて職員達だったものは、物言わぬ肉片へと変わり、辺りに血の池を作り出している。そこから発生する独特の鉄の匂いが、あまりに強烈で、孝一と白井は、お互いにえづずいてしまう。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「う…はぁ…ハァ…」
二人は、なるべく死体を見ないように、薄目で、口元に手をやりながら、前へと進む。
辺りには至る所にに銃弾の後が広がり、壊れた計器類や、ビーカーなどが散乱している。
(二人は…どこだ…?どこにいるんだ?佐天さん!エル!)
「…初春さん。佐天さんの居場所は?このまま通路を真っ直ぐでいいの?」
<はい。そのまま直進です。でも気をつけつけて下さい!駆動鎧の姿が、見当たりません!>
「なんだって?」
<すいません。カメラの死角にいるのか、それともカメラ自体が壊されてしまったのか…。とにかくここでは確認できないんです>
(くそ!なんてこった!まずいそ、いきなり襲ってきたら…)
孝一は心の中で毒づく。そうこうしている内に、巨大な水槽が孝一達の目の前に姿を現す。
(これが、初春さんの言っていた水槽。ということは…。いた!)
ガラスに覆われた、檻の中に、佐天はいた。しかし、いたのは佐天だけではない。見知らぬ女性も一緒だった。女性は体を動かせないのか、仰向けになり目を閉じている。
「佐天さん!佐天さん!僕だ!孝一だ!助けに来たよ。まってて、今すぐここから出してあげるから!」
そういって孝一はエコーズを出現させ、ガラスを破壊しようとする。
「?」
だが変だ。さっきから佐天の様子がおかしい。佐天は両膝を立て、そこに頭をうずめ、泣いている。孝一達の顔を見ようともしない。
「どうしたんだ?もしかして、ヤツラに何かされたのかい?…ちくしょう!なんて酷いことを…」
その孝一の言葉をさえぎり、佐天が右手の人差し指で、孝一を指差す。
「?」
…いや、違う。孝一ではない。孝一の後ろの同じようにガラスに覆われた部屋を指しているのだ。
孝一は思わずその方向を見る。
…ドクン。
最初は、分からなかった。そこに何が寝かされていたのか…
だって、体中から血が吹き出ていて、床がありえないくらい血にあふれていて…
機械に表示された、彼女のバイタルを示す表示は0になっていて…
ドクン…ドクン…
あの可愛らしいエルの表情とは、似ても似つかない表情をしていて…
彼女が、物言わぬ骸になっているのが、信じられなくて…
ドクッドクッドクッドクッ
心臓の鼓動が早まる。頭がぐるぐると回る。
ありえないありえないありえないありえないありえない!
「あ…あ…あ…」
うそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだ!
そんな現実をを受け入れられない孝一に、佐天が絶望的な言葉を突きつける。
「…孝一くん…。エルちゃんが…死んじゃった…」
自分の稚拙な文章では、あまり気にする必要がないような気がしますが、
それでも、そういう表現を不快に思われる方も存在します。
なので、前書きに警告文を表示させて頂きました。