広瀬"孝"一<エコーズ>   作:ヴァン

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投稿できるうちにちゃちゃっと投稿。


HsEP-01 バンデット

全てが、白い煙一色に染まっていた。この煙には催涙ガスが含まれているらしく、

辺りでは、通行人の悲鳴や、咳き込む音、怒鳴る声、様々な音が聞こえて来る。

 

孝一自身もそうだ。さっきから目が痛くて、開けていられない。

その孝一の視界に、黒く巨大な人影が移りこみ、やがて目の前にその姿を現した。

 

それは一機の駆動鎧(パワードスーツ)であった。ダークグレーで塗り固められたその機体は、孝一の3倍近い身長を誇り、見下ろしている。特徴的なのは、右腕の上腕部に装備されている巨大なシリンダーの様な武装だ。そして左腕には機関砲を持っており、その銃口を孝一の方に向けている---

 

 

◆◆◆

 

 

「ゴホッゴホッ…。こいつら、正気ですの?陽も明るい、こんな街中で、襲ってくるだなんて…」

 

「…目的は、エルちゃん?そんな、それだけの為に…」

 

佐天は、エルを煙から庇うようにして抱きしめ、そうつぶやく。

 

「初春、佐天さん!そこでエルさんを守っていて下さい!なにか、来ますわ!」

 

白井は、前方に黒い大きな人影が現れたのを見て、敵が来たのだと警戒する。

そして、独特の機械音を発しながら、それは現れた。

 

 

◆◆◆

 

「…バンデット、目標と接触しました」

 

徳永製薬の敷地内。

そこの指揮者領内で、オペレーターが「佐伯」にそう告げる。

 

「さて、先程監視カメラから、照合したデータと照らし合わせると…相手はレベル4の空間移動能力者が一人、あとはレベル1の低能力者が一人、無能力者が二人…。うーん。バンデットの初陣を飾るには、いささか期待外れかな?」

 

「佐伯」は、さもガッカリしたように、肩を落として見せる。

 

「個人的には、レベル4の人には巻き返しを期待したいところですけど、この状況じゃあ望み薄ですかね?」

 

そして「佐伯」は目標に対し、攻撃命令を出した。

 

 

◆◆◆

 

「…来る!」

 

駆動鎧がローラーダッシュで、孝一に向かい、機関砲を発砲しようとする。

 

「!?」

 

だが、孝一に照準をあわせたとたん、突如地面が爆発し、駆動鎧が転倒する。その右脚部は、まるで地雷を踏んだかのように大きくひしゃげている。

 

『ボオゥンッ!!!』

 

エコーズアクト2が地面に貼り付けた文字を回収し、孝一の手のひらに、新しい文字を貼り付ける。

その間孝一は、転倒した駆動鎧に向かって、ダッシュで接近する。

 

(攻撃なんか、させるもんか!何も分からず、混乱しているうちに、吹っ飛べ!!)

 

そして孝一は、転倒した駆動鎧に触れた。

 

 

◆◆◆

 

 

「…!?バンデット01、沈黙しました」

 

「なんと!?」

 

「佐伯」は思わず、モニターを覗き込んでしまう。

 

「おかしいな?彼は無能力者のはずでは?」

 

「…はい書庫(バンク)のデータではそうなっていますが…」

 

 

「佐倉」は少し驚いたあと、にやりと笑う。

 

「…おもしろい。そして非常に興味深い。ひょっとしたら、彼は音石君と同様の能力を持っているのではないかね?…バンデット03は?」

 

「後方で、待機中ですが…」

 

「至急、彼の方に向かわせたまえ。もう一度、彼と戦わせたい。その際"バンカー"を使用したまえ」

 

 

◆◆◆

 

「こ…これは!?」

 

白井は、駆動鎧が突如発生させた能力に、驚いていた。

 

バチッバチッ…

 

駆動鎧の体が光り輝き、周囲に放電現象を発生させているのだ。

そして右腕を白井に向けると、その電気を一転に集中させ、白井めがけて発射した。

 

「!?」

 

白井は体をひねり、何とかその電撃をかわす。しかし、完全というわけには行かなかった。

 

「あぅ!」

 

電撃の一部が、体に接触してしまったのだ。たまらず白井はその場に崩れ落ちる。

 

「うう…この煙…本当に厄介ですわ…。視界は最悪。この状況では、空間移動が使えない…」

 

周囲がまったく見えない。空間移動能力者にとってそれは、最大の弱点でもあった。

しかも場所は、人通りの多い遊歩道。当然、標識や車などの障害物は多数あり、人もいる。もし、この状況で無理やり空間移動を行えば、確実に何かに接触してしまう。

空間移動を駆使した得意の戦術は、完全に封じられたのだ。

 

(でも…能力自体を封じられたわけではないですの…敵は、わたくしに止めを刺すために、近づいてくるはず…もっと近くにきなさい…その時が、あなたの最後ですわ…)

 

そういって白井は、太ももに仕込んだ金属屋をそっと取り出す。

 

その時、駆動鎧の上腕部に装備されていたシリンダーが、ガシャンと回転する。

 

「…っ!?なんですの?頭が…!」

 

急に発生した頭痛が白井を襲う。

 

(まずいですの!能力が、使えない!)

 

頭痛で能力が使用できなくなった白井に、駆動鎧が機関砲で狙いを定め、発砲した。

 

 

◆◆◆

 

 

「なんだコイツ!?どうして駆動鎧が能力を!?中に能力者が乗っているのか?」

 

再び現れた駆動鎧に、孝一は驚いていた。

先程、装備されているシリンダーが回転したかと思うと、突如機体から放電現象を発生させたのだ。

しかも孝一の能力を警戒してか、一定の距離を保ちつつ、電撃を放ってくる。

そのたびに、周囲の建物から爆発音がして、回りの被害を拡大させている。

 

(まずいぞ…このままじゃあ、いたずらに被害を拡大させるだけだ!なんとか、アイツに接近戦を仕掛けないと…)

 

しかし、ああ見えて敵はすばやい。孝一が近づけば、その分だけ後退する。何か良い方法はないか?

孝一がそう思案していると、またもや駆動鎧のシリンダーが回転し、赤く輝きだす。

 

「え?」

 

その瞬間、駆動鎧はその身に炎を纏い、孝一めがけ炎の球を吐き出した。

しかしそれは孝一自身にではない。孝一の周囲全体に、囲うようにして火の玉をばら撒いたのだ。

 

「う!?…ぁ…ぁぁ…」

 

空気中の酸素濃度が極端に少なくなっていき、孝一は呼吸をすることが出来なくなってしまう。

体からは力が抜け、立っているのがやっとの状態だ。

その瞬間を駆動鎧が見逃すはずもなく、再びシリンダーを回転させ、孝一めがけ、突進してくる。

だが、今の孝一には逃れるすべがない。

そして、駆動鎧が孝一の目前で右腕を伸ばし、孝一の体に触れた。

 

「!!!!?」

 

とたんに凄まじい風圧が孝一を襲い、孝一は周囲のビルの壁に叩きつけられ、やがて意識を失ってしまった。

 

 

◆◆◆

 

「ターゲット。二名とも沈黙しました」

 

オペレーターが戦闘が終了したことを「佐伯に」告げる。

 

「うん。貴重な戦闘データが取れたね。ところで、倒れた彼、12号と一緒に回収できないかな?私は、彼に俄然興味が出てきたよ」

 

「それは、可能ですが…。!?待ってください!待機中の"グライム"が起動しました。12号の方に接近中です」

 

「なんとまぁ…。まさか、暴走しているのかね?」

 

「分かりません。停止コマンドを一切受け付けません」

 

「…」

 

「佐伯」はしばらく思案すると、オペレータに質問する。

 

「…ガスの効果がなくなるまで、後何分?」

 

「約3分です。それ以上は、この場にとどまるのは危険が生じます」

 

オペレーターの答えを聞き、「佐伯」は頭をかく。

 

(まさか、バグが発生したのかな~?完全に消去したと思ったんだけどな~。まあ、なったものは、しょうがない、彼のことは諦めますか…二頭追うものはといいますし…)

 

「・・・しょうがない。12号を回収したら、おとなしく撤収しちゃってください。グライムのほうは…まあ、信号を出してやれば、付いてくるでしょ」

 

そういってオペレーターに指示を出した。

 

 

 

◆◆◆

 

 

「白井さん!しっかりしてください!お願いです!目を覚まして!!」

 

初春が白井に駆け寄り、その体を何度も何度も揺さぶっている。しかし、白井はその瞳を開くことは、ない。

 

「白井さん!!」

 

なおも白井を起こそうと、初春は強めに呼びかける。その瞬間、煙の中からマスクをした男数名が、初春に襲い掛かる。

 

「あ…」

 

初春が声を掛けるまもなく、男の一人が彼女の後頭部を殴りつけ、昏倒させる。

 

「初春!!」

 

エルと共にうずくまっていた佐天が、初春に駆け寄ろうとするが、それは叶わなかった。

男達が彼女の周囲を取り囲んでいた為だ。

 

「あ…あんた達、こんなことをして、ただで済むと思ってんの?こっちには、ものすごい能力者が居るんだからね!見てなさい!あんた達なんか、孝一君がケチョンケチョンに…」

 

そのセリフを最後まで言うことなく、佐天は男達によって、気絶させられてしまう。

後には、そんな彼女達を見つめるエルだけが残った。

 

「…涙子さま…飾利さま…黒子さま…」

 

そうつぶやくエルを尻目に、

 

「…12号を発見。これから捕獲する」

 

無線で、男達が上司に連絡を取り、エルを捕獲する。

 

…エルは抵抗しなかった。抵抗しても無駄だと、感じたのだ。

 

「…短い間でしたが、あなた方の友達にさせていただけて、とてもうれしかったです。それと、このようなことに巻き込んでしまって、本当にスミマセン…さようなら…」

 

そういい残し、彼女は男達と共に、何処かへ消えていった。

 

後に残されたのは、昏倒し、気を失う彼女達だけであった。

 

 

 

 

「…」

 

…エル達が去ったしばらく後。

銀色のメタルカラー配色の駆動鎧が姿を現す。

 

「…」

 

やがてこの駆動鎧は一人の少女に目を止める。

 

気を失っている佐天涙子だ。

 

「…」

 

やがてこの駆動鎧は、彼女を掴み挙げると、そのまま男達の後を追って、白い煙の中に姿を消した…

 

 

 




駆動鎧の設定を考えるのが、結構楽しかったです。
俺ならこうするみたいな。中二心をくすぐられます。

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