広瀬"孝"一<エコーズ>   作:ヴァン

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何だかんだで三話まで投降することができました。
まさかこんなに続けられるとは…


追跡

「やられた…アタッシュケースを取られちまった…」

 

「この携帯、お気に入りだったのにぃ…」

 

走り去ったバンを遠巻きに眺め、思い思いが落胆の色を隠せない。

しかし

 

「今ならまだ後を終えます。ジャックさん。あなた、あのピッキングの腕前からしたら

車の配線を接続して動かすって事、出来ますよね?あそこにある、止めてある車を失敬しましょう」

 

「え?あ?そりゃ…出来ないってこともないが…だがよぅ、車は走り去った後だぜ?

どこにいるかもわからねぇんだ。後なんか追えるはずが…」

 

そのジャックの言葉をさえぎり、孝一は説明する。

 

「さっき僕のエコーズで、ここにあるペンキ缶を、奴らの車の後部にぶら下げときました。

当然穴を開けて。その垂れたペンキ後を追えば、奴らを追うことが出来るはずです」

 

「エコーズ?良くわからねぇが…。分かった、とにかくやってみよう。」

 

「おお、孝一君が燃えてる…」

 

佐天は今まで見たことのない孝一の様子を見て感嘆の声をもらす。

 

「……」

 

孝一の胸は熱く燃えていた。

それは、純粋なテロへの怒りだった。

 

(大統領を殺す?そんなこと、絶対にさせやしない!

この学園都市は、僕たちの街だ!その街で、好き勝手やらせるもんか!)

 

 

 

 

                    ◆

 

「なぜ奴らを始末しなかった?」

 

高速道路。

助手席で頬杖を付いて景色を眺めていたサーレに、男は話しかける。

 

「…殺しは、俺の流儀じゃねぇ…」

 

それはサーレの信念・誇りとも言うべきものだった。いままでどんなムカツク依頼をこなしてきたとしても、可能な限り人死には避けてきたのだ。どんな薄汚れた、汚い仕事に手を染めようとも、殺しだけはしない。

それだけで、心のどこかにキレイな部分を残しておける。自分はまだ、純粋に悪に染まっていない。

そう錯覚させることで、自分は救いのある人間だと思い込ませてきたのだ。

 

だが、そのサーレの信念など男が気づくはずもなく、一笑に付す。

 

「甘いな。それでよく今までこの仕事をやってこられたもんだ…。だが、まあいい。こうして目的のものは手に入ったのだ。後は時間まで、これを守り通せば、それでいい」

 

「だがよぉ…そうはいかねぇみたいだぜ?場合によっちゃあ、ここでアンタとはお別れだ」

 

サーレが何を言っているのかわからず、男が「何?」と聞き返す。

 

「後方の白い軽自動車。さっきからぴったりとくっ付いてきやがる…」

 

 

 

 

                      ◆

 

 

その黒いバンの後方二十メートル後ろ。そこに盗んだ軽自動車に乗り込んだ孝一達がいた。

 

「おお、垂れてる垂れてる。こっちの尾行にも気づかないで、バカな奴らめ」

 

そういって、車を運転しているジャックが笑う。

その後ろのシートには孝一と佐天が座っている。

 

「あいつら、一体どこに向かうつもりなのかな?確かこの方向は第三学区がある方向、だったよね?

まさか!奴らこのまま大統領のいるホテルに突っ込むつもりなんじゃ?」

 

「分からない、奴らがどんな方法で、大統領を狙うのか…とにかく、あいつらを見失っちゃ、行けない…」

 

孝一と佐天の会話を聞いていたジャックが「あ、そういえば」、と懐にしまっていたレポート用紙を取り出し、孝一たちに投げてよこす。

 

「そういや、すっかり忘れてたぜ、こいつはあの銀のアタッシュケースと一緒に入っていたんだ。

あの薬品についてのレポートかも知れねぇ…」

 

孝一と佐天はそのレポートを見る。それは確かにあの薬品についてのレポートだった。

 

 

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この薬品、『パープル・ヘイズ』は、ABC兵器におけるB兵器(Biological Weapons)にあたる。

この兵器が通常の兵器と異なる点は、スタンドと呼ばれる概念を元に製造された点である。

アリゾナ砂漠に存在する土地・通称悪魔の手のひら、ここに訪れた人間は、一定の確率で特殊能力を発現させる。その特殊能力を我々は便宜上スタンドと呼称している。

スタンドの呼称の由来は…

 

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…スタンド?悪魔の手のひら?

 

何か良く分からない単語が出始め、孝一たちはとりあえずレポートを読み飛ばす。

 

 

 

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…この『パープル・ヘイズ』は、悪魔の手のひらの土地にいるウイルスを培養し、スタンド能力のある人間に寄生させ、品種改良を行ったウイルスである。試験管の中に入っているウイルスはそれ自体では無害だが、一端外部の空気に触れると、活動を活性化させ、本来の姿である人型形態へと変異する。

『パープル・ヘイズ』は試験管が割れた時点で自立的に稼動し、目の前の生命体が消滅するまで破壊活動を繰り返す。

特徴は両手の拳に付属している六つのカプセルである。そのカプセルの中のウイルスは猛毒であり、周囲十メートル以内にいる生命体全ての活動を停止させる。また手の平のカプセルは、一日を過ぎると元の状態に復元される。

 

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爆弾じゃなく、毒殺でもない…これは…

 

「バイオ、テロ…」

 

孝一が、ポツリと口を開く。

 

「な、何かない?弱点とか!ウイルスをとめる方法とか!」

 

佐天が必死にレポートを読み漁る。

そこである文章を見つけ、読み、そして凍りついた。

 

 

 

 

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…このウイルスにも難点は存在する。光に極端に弱いということだ。一瞬でもウイルスが日光に触れた瞬間、ウイルスは死滅する。ただし、それはカプセルが一つ割れた場合である。

これは仮説であるが、『パープル・ヘイズ』のカプセルが六つ全て割れた場合、ウイルスは突然変異を始め、

日光に耐性のある抗体を自ら作り出し、急速に増殖する。その場合、時間にして約十二時間で、都市ひとつが壊滅、約2万7000時間後には地球上全ての生命体が死滅するものと考えられる。

 

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「う、そ…でしょ…世界が…滅ぶ?」

 

レポートを読んだ佐天はガタガタと震えだす。それは孝一もジャックも同じだ。

 

(ヤバイ…ヤバスギル…とても僕たちの手には負えやしない…)

 

ちらりと前方の黒いバンを見る。

 

(ヤツラは分かっていないんだ、このウイルスの恐ろしさに…なんとしても、止めなきゃ…)

 

その時

 

「?あいつら高速を降りていくぞ?目的地に着いたのか?」

 

前方のバンが高速を降りる。

 

終点はとある廃ビル。

 

そこでサーレが銀のアタッシュケースを持ちこちらを待ち構えている。

黒いバンがいない。すでにどこかに走り去っている。

 

キキィ

 

孝一たちの乗った軽自動車が、サーレの前方で止まる。

 

「罠だぜ、こりゃ。あのアタッシュケースにゃあ、何も入っちゃあいないぜ?」

 

ジャックがそう宣言する。確かに誰がどう見ても、罠だ。

おそらく試験管だけを持って男が逃走し、その間の時間を稼ぐつもりなのだろう。

 

「でも、逃げた男の居場所は、あの人だけが知っています。どうあっても、聞き出さないといけない。

そうしないと、世界が、滅ぶ」

 

そういって、佐天に何かをつぶやくと、孝一は車から降りる。

 

「佐天さん達は待機してて。あいつは、僕が倒す!」

 

「…忠告、したんだぜ?後を追うなってよぉ…」

 

そういってサーレが自身の体内から人型の物体を出現させる。

 

「クラフト・ワークって俺は呼んでいる。お前もだしな」

 

孝一もそれに従いエコーズact2を出現させる。

 

「あなたは、分かっているんですか?あの試験管の中身を?

それがどんな危険なものかを?」

 

「…何かやばいものだとは思っていた。だが、それでも仕事は全うする。

今後の信頼に関わるからな…それが大人ってもんだ」

 

(…馬鹿な!世界が滅んだら信頼どころじゃないって言うのに!)

 

まだ少年である孝一にはサーレの考えなど理解できるはずもない。

それどころか、これが大人のすることだって言うなら、僕は大人になんか、なりたくない!

本気で、そう思った。

 

「あなたを、倒します。そして逃げたバンの行方を、しゃべってもらいます」

 

「オーケー。大人の約束だ。俺を倒したら、教えてやるよ」

 

 

時刻は十三時三十分。大統領暗殺の時間が、刻一刻と近づく…

 

 

 

 

 

 

 




原作でも扱いが難しくて途中退場させられたスタンド『パープル・ヘイズ』が登場。
思い切って、ウイルスそのものになってもらいました。

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