広瀬"孝"一<エコーズ>   作:ヴァン

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第二部開始。
オリジナル設定、オリジナルキャラ登場です。
この際だからと、以前からやってみたかったことを作品に入れてみました。



第二部
壁の外から来た男


学園都市。周囲を高さ五メートル、厚さ三メートルの壁で覆われている科学の街。

そこで暮らす住人は大半が学生で、日夜、脳の開発を行っているという…

 

 

とあるビルの一室。

その学園都市を遠巻きに眺め、四人の男女が会話をしている。

 

 

「これが学園都市における、君の身分証明書。それと、当面の資金だ」

 

そういって黒服にサングラスの男達が、一人の男に必要書類が入ったかばんを手渡す。

手渡された男は、口ひげを蓄えた小太りの中年男性で、

まるで映画に出てくる小悪党みたいだった。

 

「へへっ。オーケーオーケー。確かに受け取ったぜ」

 

そういって男はポンポンと、嬉しそうにかばんをたたく。

 

「それとこれも忘れるな。」

 

もう一人の黒服が、銀のアタッシュケースを男に突きつける。

 

「分かってますって。こいつを指定された日時、場所で、待ってる男に渡せば、

これで俺の仕事は完了。はれて学園都市の住人になることが出来るって寸法だろ?

分かってる。よーく分かってるよ」

 

そういって男は嬉しそうに、これで俺も学園都市の住人…と口の中で何度も反芻する。

よほど嬉しいのだろう。黒服たちがいなければ小躍りしていそうだ。

 

「後の案内は彼女がやってくれる。学園都市に侵入するまでは、彼女の指示に従うんだ」

 

そういって、フードを被った小柄な女性に目をやる。

彼女はとある魔術結社に所属する魔術師である。

それも他の組織とは異なる、特殊な組織に…

 

彼女が所属する組織はいわば裏家業・運び屋と呼ばれる仕事をメインに行っている。

金さえ払えば、どのような物や人物でも、目的地にまで送り届ける。

それこそ、核物質や国際的政治犯まで、彼女が運んできたモノや人物は数限りがない。

 

「へへっ、よろしくな。お譲ちゃん」

 

そういって女性に挨拶する男。

 

「……」

 

彼女はしゃべらない。送り届ける商品のことなどどうでもいいのだ。

 

「では我々はこれで失礼する。君が無事任務を遂行することを祈っている」

 

「そっちこそ、色々ありがとなー。こいつは責任を持ってオレ様が届けてやるぜ」

 

男と女性が学園都市に向かう。これから彼女の魔術で、侵入を果たすのだ。

 

それを遠巻きに眺め、黒服の一人はこうつぶやく

 

「せいぜい短い夢を。ジャック・ノートン」

 

 

 

 

 

「あっ、初春さんだ」

朝、自室のテレビでニュース番組を見ていた孝一は、

かじっていたせんべいの手を止めこうつぶやいた。

テレビでは初春達ジャッジメントの学生が、忙しそうに交通整理や歩行者の通行規制などを行っている。

 

 

実は今、学園都市ではある出来事で厳戒態勢がとられていた。

中米に位置するサマルディア共和国の大統領が、現在学園都市に来日しているためである。

期間は三日間で、すでに予定の二日は消化し、残す所今日だけとなっていた。

 

学園都市は基本的に外部の人間の出入りは出来ない。しかし例外もある。

学園都市の関係業者や学生の肉親などである。

今回の場合、大統領の一人娘が学園都市に留学中しているということ、

かねてから大統領が、学園都市に来日を希望しているという事。

その二つの条件が重なり合い、異例中の異例としてだが、

こうして訪問が実現したのである。

 

とはいえ、学園都市側も大統領訪問など、初めての経験である。

車両や歩行者の通行は制限され、大統領を一目見ようと集まる見物客の対応に、アンチスキルは対応しきれていなかった。その為、初春や白井達ジャッジメントにも声がかかり、様々な雑務をこなしている。

 

今映っている映像は昨日のものだが、この様子では最終日の今日も、彼女たちは大忙しだろう。

 

などとぼんやりと考えていた孝一。

 

その時、孝一の携帯が鳴る。

 

誰だろうと見ると、相手は佐天さんからだった。

 

「おはよう、佐天さん。こんな朝からどうしたの?」

「おはよっ、孝一君。さっきのニュース、見た?初春が映ってたんだよ~」

 

ニュース番組で親友の姿を見かけて、うれしかったのだろう。

そういって佐天さんがうれしそうに報告してきた。

 

「あははっ。僕もちょうど同じ番組を見てたんだよー。大変そうだったね」

 

「なに他人事みたいにいってんの、孝一君?私達もいくよ!

初春達を手伝いにいくの!」

 

そういって口調がちょっと荒くなる佐天さん。

 

「ええ?で、でも僕たちジャッジメントじゃないし…かえって邪魔になるんじゃ…」

「孝一君?孝一君にとって、初春は、なに?

ただのクラスメイト?違うよね、友達でしょ?

友達が大変そうなときに、そばにいてあげないで、なにが友達かと、ワタクシは思うのですよ」

 

何か芝居がかったセリフで話す佐天さん。

彼女達と友達になって一ヶ月経つが、こういうときの彼女は

いたずらを考えている時だと孝一には分かるようになった。

つまり、初春を冷やかしに行きたいのだ。

そして、スカートをめくりたいのだ。

 

ボッ

 

そう考えて、孝一の顔は赤くなってしまった。

 

「とにかく、初春の所に行こう、今すぐ!孝一君、急いで支度しなさい。以上」

 

そういってブツンと携帯が切れる。

 

ツーツー…

 

「ええ~?支度しろっていったって、どこで待ち合わせすればいいんだ?

佐天さん、場所も、時間も、何も言わなかったぞ?」

 

(とりあえず、パジャマから私服に着替えなおして、それから…それから、どうしよー)

 

焦る孝一。そのとき

 

ピンポーン

 

玄関のチャイムが鳴る。

開けると、そこには佐天さんがいた。

 

「……」

 

「実は、いたりして」

 

そういって佐天さんは、にこやかに笑った。

 

 

 

 

                      ◆

 

 

公園

 

初春に会いに行く前に、孝一たちは差し入れを持参するため、

とてもおいしいと評判の移動販売を行っているクレープ屋に向かっていた。

ここのクレープは持ち帰りも行っており、若い女性にとても人気があるそうだ。

 

当然佐天もそれを初春の手土産にしようと考えていたのだが…

 

「アレ?こんな屋台、あったっけ?」

 

見るとクレープ屋の真向かいに、屋台がポツンとある。

そして、店主がいかにも暇そうにイスに座って新聞を読んでいる。

店主は口ひげを蓄えた小太りの中年男で、映画の中の小悪党を連想させた。

 

その屋台の看板には

 

『ジャックのフィッシュ&チップスの店』

と書かれていた。

 

「おっ、フィッシュ&チップスだって、なんか面白そう。

孝一君、ちょっと行ってみようよ」

 

この辺りでは見かけない食べ物に興味を覚えたのだろう。佐天は孝一を伴い、

屋台に近づく。

 

「すいませーん。フィッシュ&チップス二つ下さーい」

 

「ん?おおお!?」

新聞を読みながら半分居眠りしていた店主が、ガバッと起き上がり、

佐天の手をがっちりと握る。

 

「へ?」

 

「おおお!いらっしゃい!うちのフィッシュ&チップスは本場ロンドン仕込みの本格派!

衣はさっくり、中はフワッと臭みもない!一度食べたら病み付きだよ!」

 

男はすごい速さでまくし立てると、孝一たちにフィッシュ&チップスを手渡す。

 

「御代は結構。オレ様のおごりだ。その代わりといっちゃ何だが、一つ、この店の

宣伝なんぞをしてくれると、大変うれしい。出来れば、ネットの口コミサイトなんかで

褒めちぎってくれると、大助かりだ」

 

「は、はあ…」

 

二人は店主の勢いに飲まれ、空返事をする。

そして手渡されたフィッシュ&チップスをなんとなく口に含む。

 

「あ、おいしいかも」

「うん。ホントにサクサクしてて食べやすい」

 

二人はそれぞれ正直な感想を言う。

 

「そうだろう、そうだろう!じゃあ帰ったら、早速感想を…」

 

そういいかけ、男は何か大変なことを思い出したのか絶叫する。

 

「お、おい。お譲ちゃんに兄ちゃん。すまないが、今何時だ?」

「えっと…九時十五分ですけど…」

 

孝一が携帯の時計の時刻を確認するや、

 

「すまねえ。二人とも、ちぃーっとばかし頼まれて欲しいことがあるんだが…」

 

「え?」

 

 

 

                       ◆

 

「ヘ?」

「じゃーすまねえな!チャチャッと用事を済ませたらすぐに戻ってくるからよ!

それまで店番たのまぁ!」

 

そういって二人にエプロンを手渡す店主。

本当に大事な用事があるのだろう。

銀のアタッシュケースを大事に抱え、大急ぎで走り去っていく。

 

「ええ~!?」

 

後には絶叫する二人だけが取り残された。

 

 

                       ◆

 

 

「ヤバイヤバイヤバイ!」

男、ジャック・ノートンは急いでいた。

 

(うっかりしてたぜ!今日が約束の日じゃねぇか!)

 

そう、今日は荷物の受け渡しの日。荷物とはジャックが抱えるこの銀のアタッシュケース。

この中に何が入っているのか、興味が尽きない所だが、詮索はしない方がいいだろう。

おそらく、なにかヤバメのものが入っているに違いない。

 

 

(オープンカフェの『リンクス』ここで間違いねぇな)

 

ジャックは店員にホットコーヒーを注文すると、とりあえずイスに腰掛ける。

 

(リンクス・九時三十分待ち合わせ。そこで男に銀のアタッシュケースを渡す。完了。)

 

そう心の中で確認し、目当ての男がいないか辺りを見渡す。

 

(しまったぜ、相手の顔となりを確認するの、忘れてた)

 

心の中で舌打ちをする。こうなったら、相手が自分を見つけてくれるしかない。

 

そんな時、ヒソヒソと話し声が聞こえるのをジャックは聞いた。

相手は二人組みで、自分と背をむけ、なにやら話している。

その風貌となりで、ジャックは直感的にこの二人が目当ての人物だと確信する。

だが、なにかおかしい。

心の中で、警告音がする。

なにか、ヤバイ…

それは彼らの雰囲気だけじゃなく、話の内容からもうかがえた。

もっと意識を耳に集中し、話の内容に耳を傾ける。

 

「…本当に後悔しないのか?お前の考えは、俺にはわからねぇ…

正直、自分から命を捨てる行為ほど、愚かなことはねぇぜ…」

「それはお前の考えだ。命を捨てるだけの価値が、我々にはあるのだ。

我々は、変化を望まない。ここで大統領が死ねば、体制は覆り、

再びわれらが政権に返り咲く」

 

なんだって?なんていった?

大統領を、コロス?

 

「その為にも確実に大統領には死んでもらわなければならない。

まもなく運び屋から品物が届く。それと私を護衛すること。

それ以外は考えるな…」

 

ジャックは戦慄した。

 

(ヤバメのものだと思っていたが…

コイツは爆弾…か?

命を捨てるとかいったな…

まさか、自爆テロ?)

 

冗談じゃない。そんなものの片棒を担いで溜まるか!

 

そういって彼らに気づかれないよう、ゆっくりと立ち上がる。だが、焦っていたのだろう。

銀のアタッシュケースをイスにぶつけてしまう。

 

その音に二人組みは気づく。そしてジャックの風貌と銀のアタッシュケースを確認し…

 

「~!!!!」

 

ジャックは大急ぎでその場を離れた。

相手は追ってきているのか?分からない、怖くて後ろなんか振り向けるか!!

とにかく逃げなくては!だが、どこへ?どこに?

 

 

 

                      ◆

 

「ありがとうございました~」

 

そういって孝一は客に挨拶する。

現在売り上げは順調で、ぽつぽつと人が入ってくるようになった。

 

「孝一君。在庫がもうないけど、どうしようか?」

 

一番の功労者は佐天さんだろう。

作業の邪魔だからと、ポニーテールにした佐天さんに見とれてこのお店に入ったお客も少なくない。

 

「とりあえず、いまあるヤツで、打ち止めかな」

 

このまま行けば、真向かいのクレープ屋と売り上げで対決できる日もそう遠くはない。

 

 

 

(…って)

 

違うだろ!っと孝一は心の中で突っ込みを入れる。

 

(あの店主はどこにいったんだ?すぐに帰ってくるといったけど、あれからもう一時間は経っている。

それより、この仕事をいつまでやればいいんだ?というか初春さんは?

彼女を励ましに行くんだろ?もう十時だぞ!)

 

頭の中でそんなことを考えていると、

 

「ハァ、ハァ、ハァ…」

 

「あ、アンタは!」

 

茂みの中から店主が現れた。

走ってきたのだろう。顔からは汗が滴り落ち、服にシミを作っている。

 

「ひどいじゃないですか!いきなりいなくなるなんて、こっちがどれだけ大変だったか…」

 

そういって男に食ってかかろうとすると…

 

「すまねぇな、少年。ちょっと、トラブルに巻き込まれてな…

命からがら逃げてきたんだ…」

 

そういう店主の顔は、どこか、蒼い。

そのただならぬ様子に孝一が疑問に思っていると、

 

「探したぜ?ジャック・ノートン。鬼ごっこは、もう仕舞いだ。

手に持っているブツをさっさと渡しな」

 

そういって男が立っていた。

それはさっきオープンカフェにいた男の片割れ。

 

「あ…あ…あ…」

 

ジャックは声が出なかった。追い詰められて絶体絶命。自分はもう助からないと覚悟を決めた。

 

この男に何か不審なものを感じ、孝一は二人の間に割って入る。

 

「あっ、あの…この人が何をやったのか知りませんけど、とりあえず暴力行為は…」

 

「邪魔だぜ、ボウズ」

 

そういうと男は自分の体内から何かを出現させた。

 

(え?これって、まさか…)

 

その手が孝一の体を掴もうと襲い掛かった。

 

"R"事件から一ヶ月。

孝一に再び最悪が降りかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




とりあえず、今回の物語の背景説明とオリキャラ説明に終始した回。
導入部です。うまく完結できるか不安ですが、なんとか頑張りたいです。

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