Fate/Double Rider   作:ヨーヨー

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後半は批判覚悟となっております。

それでは、72話です!


第72話『約束のために』

崩落が続く空洞の中、満身創痍のシャドームーンはベルトの損傷がさらに悪化している状態にも関わらず、聖杯を背後にし、宿敵へ言い放つ。

 

「ブラックサン…俺と戦え」

「……………………」

 

間桐光太郎は無言のまま宿敵へ視線を逸らさないまま、自分の背後に集った仲間達へと告げる。その言葉に、慎二の肩を借りている衛宮士郎は驚きを隠せず大声を上げずにいられなかった。

 

「みんな…先に戻ってくれ。俺はシャドームーンと決着を付ける」

「何を言ってるんですか光太郎さんッ!!」

 

光太郎を除き、全員の視線が士郎へと注がれる。士郎を支えている慎二など、突然響く大声に顔を顰めながらも、次に友人が言うであろう言葉が余りにも予測通りであった為か、止める事すら面倒に思えてしまっていた。

 

「もう創世王はいないのに、あんた達を縛るものは何もないのに、何で闘う必要があるんですかっ!?」

 

あまりにも、正しすぎる疑問。

 

士郎の言う通り、創世王が消滅した今、ゴルゴムという組織は壊滅したも当然だ。世界中にいるゴルゴム怪人への指揮系統は完全に崩れ、光太郎と志を同じくする戦士達が殲滅に当たってくれているだろう。

 

ならば光太郎とシャドームーンが戦う理由はない。

 

だというのに、なぜ2人が…親友同士が戦わなければならないのか。

 

光太郎の過去を知った士郎にはどうしても納得が出来なかった。

 

幼き日の自分達の話をあんなにも楽しく、悲しげに話していた姿を見てしまっては…

 

 

「ありがとう。衛宮君」

 

やはり光太郎は振り返ることなく、いつもの調子で告げた。

 

「君の言う通りだ。もう、俺とシャドームーンの間では戦わなければならない理由も、その元凶もいなくなった」

「だったら、なんでッ!?」

「もし、今から始める戦いに理由があるとするなら…」

 

 

 

 

 

「ただの…約束だよ」

 

 

 

ただ、空洞が崩れ続ける音だけが響いた。

 

「…行くぞ、衛宮」

「お、おい慎二ッ!?」

 

慎二に引きずられる形で士郎は光太郎達から離れていく。抵抗しようにも立つことがやっとである士郎が敵うこともできず、必死に自分の身体を引っ張る友人へと呼びかけるが、答える様子はまるでない。

 

「慎二ッ!お前はいいのかよッ!?」

「…黙って歩けよ。怪我人の分際で」

「離せッ!こんな意味のない戦いなんて――」

「先輩ッ!!」

「…桜?」

 

力の入らない手で慎二を押しのけようとした士郎と強引に出口へ歩き続ける慎二に大声で仲裁に入った桜は士郎の手を取り、懇願するように俯いた。

 

「…お願いします。光太郎兄さんを、止めないでください」

「お前は…いいのか?」

「…よく、ありません」

 

段々と小さくなっていく桜の声は、震えていた。それだけではない。見れば、彼女の足元には一つ、また一つと雫が落ちている。

 

「でも、約束してしまったんです。約束は…守らなきゃ、行けないんです」

「桜の言う通りです」

「ライダーまで…」

 

光太郎に背を向けたライダーも、慎二同様に出口へ向かい歩き始める。共に支え合ったサーヴァントが隣からいなくなっても、光太郎は宿敵しか見ていない。

 

「コウタロウ…ご武運を」

「ああ…」

「……………」

 

短く答えたマスターへもう一つ伝えたいことがあったが、ライダーはその言葉を飲み込む。今、彼には他の懸念を与えてはいけない。だから、自分の事など二の次であると言い聞かせ、ライダーはそれ以上マスターの方へと振り向かずに出口へと向かった。

 

「シロウ。我々も続きましょう」

「セイバー…」

「2人の間には、私達が立ち入れないものがある。ライダーや、サクラ達すらも立ち入れない程の…」

「………………」

 

セイバーの観察眼は間違っていないだろう。今ですら宿敵から視線を逸らさず『外野』である自分達がこの場を去るのを待ち続けているのだから。それが今の家族である慎二や桜であっても…

 

 

「…行くぞ」

「わかった…」

 

慎二に頷いた士郎は一度だけ背後を振り返る。変わらず、光太郎は宿敵と向き合っているだけだった。

 

 

 

 

 

ライダーや慎二達に続き、他のマスターやサーヴァント、そして主人の意思を尊重し自動走行するバトルホッパーとロードセクターは次々と空洞を後にする。ただ1人、その場で足を止めていた人物は背後の空間を歪ませ、取り出したものを光太郎に向けて放り投げる。

振り向かないまま自分に向けて飛んでくるものを掴み、手を広げた光太郎は、それが紐に繋がれた小さな水晶だと気付く。光太郎へ水晶が手に渡ったことを確認したギルガメッシュは踵を返し、ライダー達と同じく出口へと向かいながら水晶の詳細を語った。

 

「それはクジラ共が認めた相手にしか渡さぬという命の水の結晶体。持ち主を加護すると言われているそうだ」

「そうか。クジラ怪人達が…」

「この世に一つしかないものを貸してやったのだ。詰まらぬ結果を出すのではないぞ」

 

そう言って、黄金の光と共に姿を消したギルガメッシュに向かい、光太郎は微笑みながら水晶に繋がった紐を解き、自身の首の後ろで結び直した。胸元で輝く水晶を一度指で撫でると、光太郎は改めて宿敵へと視線を向ける。

 

「待たせたなシャドームーン」

「…別れは済んだようだな」

 

光太郎の腹部にキングストーンを宿した銀色のベルトが出現。ベルトの中央から赤い光が宿り続けたと同時に、光太郎は両手を右頬の前まで移動し、両拳を強く握りしめる。

 

 

「違う…みんなは俺とお前との約束を優先させてくれたに過ぎない」

 

 

ギリギリと音が響くほど強く握る力を解放するように、右腕を左下へと突き出す。

 

 

「だから、俺はみんなの元へ絶対に戻る」

 

 

素早く右腕を引き戻し、腰に添えると同時に左腕を右上へと突き出す。

 

 

「そして、今度はみんなと交わした約束を守るんだ…」

 

 

扇を描くように突き出した左腕を右から左へと旋回し…

 

 

「その為にも、俺は負けない」

 

 

両腕を右上へと突き出した。

 

光太郎を包む赤く眩い光は細胞組織を変換し、彼をバッタ怪人へと姿を変えた。だがその変化も一瞬。キングストーンの光は光太郎をさらに強い光と共に強化皮膚『リプラスフォース』で全身を包む。

 

余剰エネルギーとして関節部から噴き出した蒸気の中…変身を遂げ、姿を現した黒い戦士、仮面ライダーBLACKの姿もシャドームーンと同様に傷だらけの姿であった。

 

しかし、互いにそのような事で手を抜くことは決してしない。

 

これが最後の戦いになると、理解している故に…

 

 

「ブラックサン…勝負だッ!!」

 

「望むところだッ!!」

 

 

 

 

 

外にたどり着いた慎二達を出迎えたのは、待機していたクジラ怪人の一族と、大雨であった。

 

打ちつけられる雨粒が傷口へ沁みわたるが、誰もが構うことなく洞窟の奥を見つめている。あの闇の奥…崩壊を続ける空洞で戦いを始めた光太郎とシャドームーンの勝敗の行方。もう、その結果しか関心が行き届いていないのだろう。

そう察したクジラ怪人達は調達してきた廃棄された傘やベニヤ板等をマスターとサーヴァント達の頭上に掲げ、今以上に雨水に晒されないように行動を始めた。

 

「ん…ありがとね」

「本当に、律儀な者達だ」

「…ねぇ、アーチャー。貴方は…」

 

手ごろな岩へ背を預ける凛はお礼を言われ頭を上下させて喜ぶ幼態のクジラ怪人に微笑みながら赤い外套のサーヴァントへ尋ねようとした。あの時、士郎が投影によりサタンサーベルを生み出そうとした際に、自分と同じく補助に回っていた。だが、補助が出来ること自体が有り得ないことなのだ。

 

投影魔術は自分自身の心を映し出して創造する術。別人2人が同じ剣をイメージし、共同で投影したとしても術者の抱く心象の微かな違いが生まれ、形とならず崩壊してしまう。その為、投影魔術に別人の補助が入ることで成功することなど限りなくゼロに等しい。だというのに、アーチャーと士郎は投影を成功させた。桜の魔力を制御することで精一杯であった凛にそれを気にする余裕など無かったため、今になって聞き出そうとした。

 

貴方は、何者なの? と…

 

 

「いえ、なんでもないわ」

 

大体の察しは付いている。あの分からず屋の半人前に、まるで過去に見てきたかのように的確な指示を与え、自分以外が知るはずのない短剣を生み出した自分のサーヴァント…

 

ならば、彼から言う出すまで待とう。そして、そんなの見抜いていたと偉そうに言うつもりである。自分ばかりが驚いてばかりだと、なんだか癪だ。

 

「その時間が、残されていたらの話だがね」

「…やっぱり、そう思う?」

 

自分の考えを見透かしているアーチャーへ驚くことなく、尋ねたのは光太郎が勝利した場合の事。

 

光太郎が聖杯戦争へ参加した本来の理由。冬木の街で起こる聖杯戦争を終わらせる為に、大聖杯を破壊する。それはつまり、聖杯によって存在するサーヴァントを消滅させる事と同意意義だ。

今回の聖杯戦争で一番最初に聖杯へと触れた者…事実上勝者となった光太郎が聖杯の破壊を望むのならば、触れることすら出来なかった凛達に反対などできるはずがない。

 

凛やアーチャーと同様に、光太郎の目的を聞いていた他のマスターやサーヴァントも意見する者はいない。

 

しかし、後悔しているサーヴァントが1人いたようだ。

 

 

 

「ライダーさん…」

「サクラ…」

 

クジラ怪人の雨除けを遠慮し、ただ一人雨に当たり続けているライダーに背後から声をかける桜。以前光太郎に助けられた個体のクジラ怪人から渡された傘を持って、義兄のパートナーの隣へと移動した。気配で彼女が隣にいることはわかっていても、その目は洞窟の奥しか向けていない。

 

「本当に…駄目ですね。私は…」

「…………………」

 

ライダーの独白に、桜は黙って聴き続けた。

 

「もう最後かもしれなかったのに…光太郎に伝えるべき事を…言えませんでした」

 

濡れた顔に彼女の涙が混じっていたと気づいても、桜は口を開かない。

 

「お礼も…別れも…私との約束を破った文句も…本当に、言いたいことがたくさんあったのに…」

 

桜の隣で泣いているのは、神話へ登場する人々を脅かす存在などではなく、愛する人と別れを惜しむ一人の女性。

 

マスターである光太郎に余計なことを考えてほしくないというサーヴァントとしての役目が本心に勝ってしまい、本来伝えたい思いに蓋をしてしまった。そんな後悔に浸るライダーの頬をハンカチで桜は優しく拭う。

 

「ライダーさん。一つ…訂正してもいいですか?」

「…………はい」

「ライダーさんの言う…破った約束は多分シャドームーンさんとの最初の戦いの前に、したことなんですか?」

 

無言で頷くライダー。あの時は必ず勝ち、自分との取り交わした約束を守ると光太郎は宣言。しかし、光太郎は一度命を失ってしまう結果となってしまったのだった。

 

「なら、その約束はまだ経過途中ですよ」

「え…?」

 

桜の言う事に思わず目を向けたライダーは、微笑みながら自身の言ったことを否定する少女へと問いかける。

 

「し、しかし光太郎だって…」

「破ったって認めますよね。光太郎兄さんなら。でも、ずっとあの戦いを見ていた私と慎二兄さんから見たらあれは無効です。あんな乱入があったら仕切り直しして当り前ですよ」

 

確かに決着が付く寸前、創世王の横槍によって光太郎は絶命する結果となってしまった。結果から見ればシャドームーンの勝利となるが、桜達はそう思っていない。だからこそ最初は気持ちを沈んではいたが、すぐに光太郎を捜索するために動き出したのだろう。

 

「ライダーさん。だから、今でも光太郎兄さんとライダーさんの約束は目下継続中です!」

「しかし、それでも光太郎が勝っても…」

 

自分はこの世界に存在していない。もう、会う事が出来ないからこそ別れる前に約束をした。それでもと、桜は続けた。

 

「光太郎兄さんなら、守ってくれると思いません?」

 

全く否定できないのが、悔しかった。伊達に彼の妹を10年以上続けている事はあった。

 

「…やはり、敵いませんね」

 

どうして、彼らは人の気持ちをこうも簡単に塗り替えてしまうのだろう。今の天候のように曇った心に、一条の光明を受けたライダーは再び洞窟へと目を向ける。なら、もう一度待とう。彼が、約束を守ってくれることを…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハアアアァァァァァッ!!」

 

「オオオオォォォォォッ!!」

 

 

瓦礫が降り注ぐ中、光太郎とシャドームーンの拳が交わる。

 

以前の決闘と同じく、全く同じ軌道を描いて打ち出された攻撃がぶつかり、衝撃が体を走る。だが、万全の状態ならばともかく両者とも創世王との戦いで大きなダメージを受けいるためにその衝撃がさらに悪化を進行させる結果となった。

 

「ぐっ…ァアアアアァァァッ!!」

「ヌオォォォッ!!」

 

それでも、引くことだけはしなかった。

 

もはや自分が拳をしっかりと握っているかも認識出来ずに腕を振るっている。

 

蹴りを繰り出し、当たったという判断も相手が受けた時に漏らす声でしか分からない。

 

光太郎のひび割れた皮膚から動く度に血液が舞い、シャドームーンのベルトからは火花だけでなく、煙が絶えることなく噴き出している。

 

互いに必殺技を打ち出す余力がなく、残る攻撃手段は自身の体のみ出あった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…」

 

光太郎は距離を置いたシャドームーンの腹部へと視線を落とす。緑色の輝きが徐々に失われつつあるキングストーンを見て、思った。

 

(あと…どれ程持ってくれるんだ…?)

 

 

キングストーンを維持するベルトが損傷したその時から、シャドームーンに命が無いということは分かっていた。まだ動いていなければ基地にある設備でどうにか出来た可能性はあったが、創世王を足止めする為に攻撃を繰り出した致命的となってしまった。もはや、自分のキングストーンの光を当ててもどうすることもできない。

 

もう、彼を救うことが出来ないのなら、せめて彼が望む戦いを受ける。

 

 

しかし、光太郎は攻撃を打ち出す度にかつての記憶が蘇ってしまった。

 

 

 

 

『光太郎―ッ!!』

 

 

 

 

『テストどうだった?俺、まーた父さんに怒られそうだよ』

 

 

 

 

 

『次の試合、絶対に勝とうぜ!』

 

 

 

 

(頼む…もう、出てこないでくれ)

 

 

押し留めても、次々に呼び起されてしまう彼との思い出。

 

 

ようやく決心したのに。引かないと、決めたのに。

 

 

心が揺さぶられる中、光太郎にとって最大の好機が訪れた。

 

「ぐッ!?」

「っ!?」

 

天井から降り続けた瓦礫の一つがシャドームーンの背中へと落下し、体のバランスを大きく崩したのだ。光太郎の動きは本能的に握った拳を打ち出す。狙うは、腹部のベルトにあるキングストーン。微かな衝撃を与えるだけで機能は停止し、シャドームーンの命は終わる。それで終わるはずだった。

 

「くっ…」

 

光太郎の拳はベルトまであと数センチと距離が迫ったところで止めてしまう。脳裏に浮かぶ親友の無邪気な笑顔。それを打ち砕くことが、光太郎には出来なかった。だが、その行為は相手にとって怒りを買う以外の何物でもなかった。

 

「何の…つもりだ貴様アァァァァァァッ!!」

「ガアアァァァァァァッ!?」

 

光太郎の体に緑色の電撃が襲う。もう打つことが出来ないはずの力が光太郎の全身に駆け巡り、仰向けにゆっくりと大地に沈んでいく。

 

「ブラックサンッ!!なぜ止めを刺さなかったッ!?俺の…俺達の戦いを侮辱するつもりかッ!!」

 

シャドームーンの怒号を聞きながら、光太郎はゆっくりと立ち上がる。先程の鬼気迫る迫力などなく、ぼそりとか細い声を発しながら。

 

「…いよ」

「………………」

「出来ないよ…『僕』に、信彦を殺すなんて…」

 

 

フラフラと体を揺らす光太郎の頬をシャドームーンは全力で殴りつける。その一撃を放つことすら、命を削る行為だというのに、シャドームーンは続けて殴り続けた。

 

「出来ない…でき、ないよ」

「貴様はどこまで…ぐっ!?」

 

殴られながらも、拒否を続ける光太郎へさらに力を込めた拳を叩きこもうとしたシャドームーンだったが、ベルトの一部が小規模な爆発を起こしたと同時に膝を付いてしまう。

 

「の、信彦ッ!?」

「触れるなッ!!」

 

手を貸そうとする光太郎に対し、シャドームーンは右腕のエレボートリガーを向ける。これ以上近づくなと、言わんばかりに。

 

「ブラックサン…失望したぞ。この期に及んで情に流され、止めを刺さないなどと…」

「無理だ…親友を、家族を殺すことなんて、僕には…」

 

彼の目に映るシャドームーンは、完全に秋月信彦であった。

 

幼き日を共に過ごし、共に競い合った兄弟であり、親友。共に人間でない者へと変えられたとしても、こうして目の前で生きている。その親友を自分の手で殺めるなど、出来るはずがない。

一度は決意した覚悟が脆くも崩れた光太郎の心を現しているかのように、キングストーンの輝きも失われつつあった。

 

胸にぽっかりと穴があいたように全てを諦めかけて、膝を付く光太郎に、宿敵の声が響いた。

 

 

 

 

 

 

「ならば、なぜ貴様は『仮面ライダー』を名乗っているッ!!」

 

 

 

 

 

 

「…ッ!?」

「貴様は、今まで何の為に戦い続けてきた…何のために、貴様の言うおぞましい力を振るってきたッ!?」

 

 

 

望んでもいなかった人知を超えた力。そんな恐ろしい力でも誰かを助ける為ならばと、光太郎は戦ってこれた。

 

 

「ここで貴様が全てを投げ出すというのならば、これまでの戦いも、貴様を信じこの場を去った者共を裏切ることになる…そんな事を認めるというのかッ!!仮面ライダーというのはッ!?」

 

 

…違う。『仮面ライダー』はそんな軽い名前ではない。自分のような存在を生まないように、覚悟を持って借りた名前なのだ。そんな自己満足の為に、信じてくれた仲間達の思いを無駄になんて、出来るはずがない。

 

 

 

「…違うというならば、証明して見せろッ!!俺と言う『悪』を倒して、その名に相応しい存在かを、俺に見せてみろッ!!」

 

 

振るえる手が止まっているのが分かる。

 

腹部のキングストーンが、輝きを取り戻しているのが分かる。

 

立ち上がり、宿敵と向き合って構えていると、はっきりと分かる。

 

 

「…来るがいい、仮面ライダーBLACK!」

 

 

 

 

…信彦

 

 

 

 

 

「ウワアアァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

 

 

 

光太郎の複眼から一筋の涙が流れた直後。

 

関節部と複眼だけではない。全身が赤い輝きに包まれたと同時に残る力を全て振り絞り、大地を強く蹴って跳躍する。

 

 

「そうだ…それでこそだブラックサン」

 

シャドームーンも全身を緑色の輝きで覆い、跳躍すると先に上がった光太郎に向けて両足を突き出して上昇していく。

 

 

対する光太郎も右足を突き出し、自分に迫るシャドームーンに向けて落下を始めた。

 

 

 

 

 

 

(ありがとう信彦)

 

 

(俺が仮面ライダーであることを思い出させてくれて)

 

 

(だから、俺はもう迷わない)

 

 

(この力で、これからも多くの人を助けていきたい)

 

 

(だから、許してくれ)

 

 

(こんなことでしか、お前の気持ちに答えられない事を)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライダアアアアアアアアアアァァァァァァァッ!!!」

 

 

 

 

 

「シャドオオオオオオオオオォォォォォォォォッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キイィィィィィィィィィィィィィック!!!!』

 

 

 

 

 

 

2色の光が、空洞内で交わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う…ん」

「イリヤッ!?目が覚めたのかッ!?」

 

 

少女が最初に目に入ったのは、心配そうに顔を覗き込んでくる因縁深い少年だった。

 

ゆっくりと体を起すイリヤは木陰で横にされており、見渡してみると士郎だけでなくバーサーカーや見覚えのないクジラの大群によって囲まれている。寝起きの直後では刺激の強すぎる光景であったが、それよりもイリヤには気掛かりな事があった。

 

「シャドームーンは…どこ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見事だ…ブラックサン」

「信彦…」

 

 

宿敵を称賛するシャドームーンは倒れたまま、自分の横で膝をつき、手を取る光太郎へと目を向ける。もはや首から下は動かず、キングストーンを宿したベルトも黒く燃え尽きている。最後に使った力によって完全なオーバーヒートを起こした結果だろう。

体が原型を留めていること自体が、不思議なほどだ。

 

「負けたというのに、妙に気分がいい。決着がつくというのは、こういうものか」

「すまない信彦。俺に、もっと力があったら…」

「何を勘違いしている。貴様が倒したのはゴルゴムの世紀王シャドームーン。貴様の親友である秋月信彦ではない」

「しかしっ…!?」

 

それ以上の言葉が出てこなかった。いつ途切れてもおかしくない親友のそばに居てやりたい。だが、そんなことすら光太郎には許されなかった。

 

「こ、これはッ!?」

 

振動が強まり、天井からより多くの落石が始まってしまった。光太郎とシャドームーンの最後の技がぶつかり合った衝撃が、空洞全体に伝わってしまったのだろう。

 

「…行け。貴様の務めを、果たせ」

 

シャドームーンの視線は、光太郎の背後に聳える大聖杯へと向けられた。このまま空洞が崩壊すれば、大聖杯は埋もれてしまい破壊が困難となってしまう。そうなれば、聞きつけた他の魔術師達に奪われかねない。

 

「駄目だ!せめて安全な場所に…」

「どこまでも、甘い男だ。構わずいけ。約束が、あるのだろう?」

 

そう聞いた途端に光太郎の頭に浮かんだのは、自分へ待っていると言ってくれたサーヴァントの姿。

 

『約束ですよ…』

 

そう、今回だけは、絶対に破るわけにはいかないのだ。

 

「すまない。信彦…」

「最初からそう言っている。そして…貴様には伝えなければならない事があった」

 

周りに次々と落石が続く中、シャドームーンの告げた事に光太郎は信じられなかったのか、思わず聞き返してしまった。

 

「本当、なのか?」

「それは生きて確かめるがいい」

「…分かった」

 

光太郎は立ち上がる。重石のように動かなくなった足を強引に前へ出しながらも、前へと進んだ。一歩、また一歩大聖杯へと足を進めいく。彼の小さくなっていく背中を見て、シャドームーンはボソリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さらばだ…光太郎」

 

 

 

 

 

 

 

その声が光太郎に届き、思わず振り返ったと同時だった。

 

 

巨大な落石が光太郎とシャドームーンの間を遮り、もう後戻りも出来なくなってしまった。

 

「信…彦…」

 

前を向いた光太郎は歩みを再開する。それが自分の決意であり、彼の…信彦の望みだからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルゴムの幹部が言っていた。自分達が世紀王であり、創世王となる為に殺しあう運命にある、と。

 

運命…自分と信彦は、そんな言葉に決められてしまうような存在だったのだろうか。

 

これまでの世紀王達も、その運命を逆らわず、受け入れていたのだろうか。

 

 

 

「なんだったんだろうな…信彦」

 

その因縁は全て途絶えた。創世王の死と、光太郎と信彦の決着によって。これで、この先に歪んだ運命を背負わされることはないだろう。しかし、光太郎はどうしても考えてしまう。

 

どうして、自分達だったのだろうと。

 

もし、一日でも光太郎達が生まれる時間がずれていたら、生まれた日に日食など起きなければ、ゴルゴムなど存在しなければ…

 

崖に手を掛け、登りながら『IF』を考え続ける光太郎は、自分の手が血だらけの肌色へと変わっていることに気づく。段々と変身した姿が保てなくなっているのだろう。

 

「すまない…もう少し、だけ」

 

体に鞭打ってきた結果だろうか。それでも、光太郎は進むことはやめない。あと少しで、全てが終わるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが…大聖杯」

 

崖を登り切った光太郎はベルトを残し、完全に人間の姿へと戻っていた。ベルトの中央にある光も、蝋燭よりも頼りない。そんな僅かな光でも、眼下にある大聖杯を破壊するには必要な火種だった。

 

黒い泥だった時とは違い、透き通る湖のような魔力の底に描かれた巨大な魔法陣。あれこそがサーヴァントを現界させ、聖杯戦争を起こしてきた多重刻印式魔法陣。あれを破壊する為に、今溢れている無尽蔵の魔力を誘爆剤として利用し、

キングストーンの力で着火させる。

 

まだ変身した状態であれば現在位置からキングストーンフラッシュを照射する事でよかったが、今のままでは届くことすらできない。

 

「やっぱり、方法はこれしかない、か。」

 

覚悟を決めて光太郎は崖の縁まで移動する。火が付けられない位置にあるならば、火を近づければいい。

 

光太郎は魔力の海に飛び込み、触れたと同時に魔力を爆発させる計画だ。無論、ゼロ距離で魔力の爆発を受ける光太郎はただでは済まない。

 

「…行きますよ。御爺さん」

 

祖父の願いを成就させるため、光太郎は魔力の渦へその身を投げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

(どうして、みんなの顔ばかり浮かぶんだろう)

 

 

まるで走馬灯だ。これは、みんなにもう会えないという嫌がらせなのだろうかと、眼下に迫る魔力に向けて光太郎は両手を広げた。

 

 

(全く、信彦にも背中押されてライダーとの約束を絶対守んなきゃって、決めたのに)

 

このままではまた約束を破ってしまうなと、苦笑しながら両拳をベルトの上で重ねる。

 

 

(ごめんライダー。最後の最後まで、約束を守れそうにないよ…)

 

 

僅かながら光を灯したキングストーン。そして魔力と光太郎の距離が後わずかと迫った時、光太郎はあるサーヴァントの言葉を思い出した。

 

 

 

 

 

 

『これは最後になるけどよ…あんたはもうちょいと、我が儘言ってもいいと思うぜ。弟さんも言ってたが、そうじゃなきゃ割にあわねぇよ』

 

 

 

 

 

義弟の友人である士郎の顔を借りて、似ても似つかない笑いを浮かべたサーヴァントの言葉。

 

 

 

(あぁ…そうだな)

 

 

本当に我儘が許されるとするなら、と思い浮かんだ事は、祖父の残した最後の望みと同じであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんなと…これからも一緒に、生きてみたかったかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ったく、こんなギリギリのタイミングになって言いやがって。

 

 

 

聞き覚えのある声に、光太郎は思わず目を見開いた。

 

 

 

「え…?」

 

 

―――ま、ようやく言った言葉だ。良しとしとくぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな言葉と共に、光太郎が魔力に触れた途端、キングストーンと光太郎が胸に下げていた小さな結晶が同時に輝きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ…私?」

 

「ようやく起きたかなマスター」

 

「アーチャー…もう少し寝かせてよ」

 

「この状況で二度寝とは、余程の大物だな君は。さっさと起きて現状を確認したまえ、マスター」

 

「現状…って、えっ!?」

 

飛び起きた凛は自分へと声を掛けてきたアーチャーへと目を向ける。その姿は見間違うことなく、自分と契約したサーヴァントだ。しかしおかしい。自分のサーヴァントは洞窟の奥から放たれた光と共にその存在が完全に消滅したはず。

なのに、なぜ現界してるのか。

 

「遠坂、やっと起きたか」

「目を覚ましたのは、貴方で最後ですよリン」

 

「士郎…?それに、セイバーまで!?」

 

理解の追いつかない凛は周囲を見渡す。そこには変わらずに現界しているサーヴァント達の姿があった。

 

キャスターとバゼットは喜びのあまりに宗一郎とランサーに涙を流しながら抱きついている。宗一郎は兎も角、ランサーはその怪力によって苦しんで言うようだった。

 

バーサーカーは頬ずりしてくるイリヤになすがままにされ、その光景をアサシンは微笑ましく眺めている。

 

「どうして…さっきの光は恐らく光太郎さんが大聖杯を破壊した際に洩れた光…だったら大聖杯で形作ってるサーヴァントが存在出来るはずが…」

「確かに、サーヴァントならば存在出来ないであろうよ」

 

思案中の凛へと声をかけたのは、既に人間の衣服を纏っているギルガメッシュだ。クジラ怪人の頭をなでながら、凛へ今起きている事への説明を始める。

 

 

「確かに我達は大聖杯の消滅と共に英霊の座へと帰った。だが、その記憶と力の一部が再度この地へと降り、命を得てこの場に立っていた」

「それって…」

「貴様達に分かりやすく例えるなら…『輪廻転生』といったところか」

「んなっ…」

 

大きく口を開けた凛の表情が余程愉快だったのだろうか。クックと笑うギルガメッシュは質問攻めに合う前にさっさと結論を付けた。

 

「要因はいくつかある。大聖杯が破壊される寸前に光太郎がしでかしたのであろうよ。キングストーン、命の水の結晶体、そして大聖杯に溢れていた膨大な魔力。新たな命を作り出すには造作もないものばかりではないか」

 

そして踵を返したギルガメッシュはその場を後にする。呆然とするマスターにため息をついたアーチャーは再起動させる為に頭頂部を抑えた。

 

「そういうことだ。成り行きとはいえ、またこの地に来てしまったわけだ。またしばらく頼むぞ、凛」

「って、あんたは気にならないのッ!?どうして自分はまた呼ばれたのかって…」

「多分、すごく簡単な理由だと思いますよ?」

「桜…」

 

アーチャーへ食ってかかる凛を宥める桜は空を見つめる。雨はいつの間にか止んでおり、あれほど重く伸しかかるような黒い雲がだんだんと薄れ始めていた。

 

「ただ、光太郎兄さんが、願っただけなんです。みんなと居たいって」

「光太郎さんが…?」

 

桜の言ったことに思わず聞き返した士郎に、そうだなと慎二が続いた。

 

「ようやく我儘を言いやがったんだよ。こんな大それたことを起こすなんて思いもしなかったけどね」

 

雲の隙間から見えた日差し。光太郎の敗北してから隠れていた太陽が、ようやく顔を見せたのであった。

 

 

「すごい奴だよ、ほんとに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

顔に、温かい何かが当たった。

 

一度だけでなく、一定の間隔で落ちてくるそれが、顔に落ちてくる涙だとわかったのは、目を開いた時だ。

 

どうやら自分はしぶとく生き残っていたらしく、動けない状態を彼女に発見されたようである。

 

段々と戻ってきた感覚によって、自分の後頭部に心地よい温かさを感じたのは、膝枕をされているからとようやく理解する。

 

目を開けたことで彼女の表情は不安から一気に安堵したものへと変わる。それでも、涙は止まらなかった。

 

どうにか止めようと振るえる手を必死に伸ばし、涙を拭うと彼女が手を重ねてくる。

 

彼女の温もりを感じて、間違いなく目の前にいてくれたのだと確認が出来た。

 

なら、今こそ約束を果たそう。

 

だいぶ遠回りをしてきたけど、ようやく、果たせるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…名前を』

 

 

 

 

 

『戦いが終わり、無事に戻りましたら…私を、名前で呼んで欲しいのです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「御帰りなさい…光太郎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま…メドゥーサ」

 

 




次回、最終話です。

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