では68話をどうぞ!
ついに姿を現したゴルゴムの支配者『創世王』。これに立ち向かう間桐光太郎とライダーであったが、聖杯の力によりかつての姿となった創世王の圧倒的な
力により、駆けつけたサーヴァントと共に絶対絶命の危機に瀕してしまう。
そして、光太郎を庇うライダーに向けて創世王が腕を振り下ろそうとしたその時、世紀王シャドームーンが現したのであった。
「彼が……何故…?」
士郎の肩を借りて立ち上がったセイバーはかつて自分達の前に現れ、バーサーカーを瞬く間にねじ伏せた存在を見つめる。
何故、敵である彼がこの場に現れ、自分達を助けたのだろうか。
同じ組織に属する創世王と…支配者と敵対しているのだろうか。
しかし、セイバーは自分以上に今の状況に混乱しているであろうマスターの方へと目を向けた。
「信彦…」
自分の声が震えている事に間桐光太郎は気付くことなく目の前に現れ、背を向けているシャドームーンへと声をかける。シャドームーンは自身が放った攻撃から逃れた創世王を睨んだまま、光太郎の呼びかけに答えない。
光太郎はフラフラとした足取りで歩んでいき、振り向かせようとシャドームーンの肩へと手を伸ばそうとした。
微かな希望が、芽生えていた。もしかしたら、かつての親友に戻ってくれてたのかと。
「信彦ッ―――グッ!?」
光太郎の手が届く前に、その動きが止められてしまう。
シャドームーンは後へ振り向くことなく、接近した光太郎の胸板へ裏拳を叩きつけたのだ。胸を押さえて後退する光太郎を先ほどとは逆に支えるライダーはマスターへ暴挙を働いたシャドームーンを睨む。魔眼が通用しないことを恨めしく思うライダーと光太郎に、ようやくシャドームーンは声を発した。
「私がここに来たのは先ほど言った通り、余計な手出しをした創世王へ報いを受けさせるために過ぎん。妙な憶測を浮かべないことだな」
「信、彦…」
落胆する光太郎の姿を見ることなく、シャドームーンは―――
「…無様だな」
冷たく、そう言い放った。
「どうやら私と同等の力を発揮したのは、まぐれだったようだ。貴様のような腑抜けを一度とは認めた私が愚かだったよ」
「貴方はッ…!」
光太郎への暴言を止めようとしないシャドームーン。ライダーはただでさえ傷だらけの光太郎へ追い打ちを止めようとするがそれよりも早くシャドームーンの言葉が続く。
「そうであろう?今の貴様は創世王の力に恐怖し、身動きすら出来ずサーヴァントに庇われる始末…そのような輩など、この場で戦う資格すらない。キングストーンを奴に奪われぬよう、隅で震えているがいい」
シャドームーンの声が、光太郎へと突き刺さる。打たれた胸を押さえたまま俯く光太郎の姿を見て、悲しげ表情を浮かべるライダーはシャドームーンへと顔を向けると一変させる。
これ以上光太郎の身体だけでなく心まで傷ついてしまうのは、どうしても我慢できなかった。。
「シャドームーン…それ以上私のマスターを侮辱することは許しません!」
手にした鉄杭の先をシャドームーンの背中に向けるライダーの怒声が響く。かつてのように返り討ちに合うかもしれない。シャドームーンの身体から放たれる殺気だけで身動きが取れないかもしれない。それでもライダーは引き下がることは出来なかった。
しかし、シャドームーンはライダーの心情など露知らず、相変わらず背を向けたまライダーへ返答する。
「笑わせてくれるな…負け犬に対してこれ以上相応しい称賛などあるまい。勝利を諦めた者にはな」
光太郎の手が、ピクリと動く。
「どのような言葉や決意を並べようが、敵を倒し、勝利して証明させねば意味がない。今までそうしてきたようにな」
相変わらず、胸の痛みは引かない。だが、不思議と曇っていた部分が薄れていく。そんな不思議な気持ちとなった。
「確かに創世王は貴様達を凌駕する力と能力を持ち合わせているだろう。だが、何故そのような『下らん理由』で諦める必要がある?」
そう、例え相手が自分よりも圧倒的に力が勝っていたとしても、自分は諦めなかったはずだ。
ギルガメッシュに宝具の連射を受けた時も、ビルゲニアに剣で攻められた時も、自分の戦いを徹底的に分析したシャドームーンとの決闘の時も、諦めることだけはしなかったはずだ。
「自分より強力だろうが勝てない理由にはならん。決して屈することなく立ち上がり、勝利を収めてきた。少なくとも、私と戦っていた世紀王は、そうしていたはずだ」
誰もが、言葉を失う。鉄杭をシャドームーンに向けたまま目を広げているライダーも、魔力の半数以上を失い立つことがやっとのサーヴァント達も、サーヴァントを支えるマスター達や慎二、桜も…シャドームーンの言葉に耳を疑った。
だが、彼の性格を考えれば納得も出来た。自分と唯一渡り合える相手である光太郎が自分以外に倒されることを認めない。シャドームーンから見ればまさに今の状況は決して許されないことなのだろう。
もしかしたら、これはシャドームーンなりに立ち上がらせるために発破をかけているのかもしれない。そう考えた慎二は効果は抜群だったと、シャドームーンへと歩んでいく義兄の姿を見て思っていた。
「…………………」
「コウタロウ…?」
無言で自分の横を通り過ぎるマスターにライダーは思わず呟く。先ほどまでの弱った姿ではない。ライダーが普段見かける、こちらを安心させる力を放つ光太郎がそこにいた。
シャドームーンの背後に立った光太郎は今度こそシャドームーンの肩に手を置く。その行動に呆れながらも、シャドームーンは触れられた肩の方へと顔を向ける。
「…何のつも―――」
シャドームーンの言葉は鈍い音と共に止まった。
光太郎がシャドームーンの頬を思い切りブン殴ったからだ。
さすがに光太郎の行動が読めなかったのか、シャドームーンの言葉を聞き入っていた一同は唖然とし、ただ1人ギルガメッシュは笑いを堪えている。
殴られ、仰け反った上体をゆっくりと戻すシャドームーンの隣に移動した光太郎の声は、どこか晴れ晴れとしていた。
「助かったよシャドームーン。おかげで勝てる気になった」
「…今のが謝礼のつもりか?」
明らかに怒気を孕ませているシャドームーンの低い声に臆することなく、家族である慎二や桜達に話すような陽気な雰囲気で切り返す。
「よく言うだろ?一回は一回って」
「戯言を…私が納得すると思っているのか?」
「じゃあ、こうしよう」
視線を創世王へと向けた光太郎。その眼差しは恐怖を欠片も感じさせない。いつもシャドームーンやゴルゴムの怪人へ挑む時に見る、決意に満ちている目だ。
「さっさと創世王を倒して、今度こそ決着を付けよう」
もはやあんな奴は前座に過ぎない。
光太郎の発言にライダーは驚きつつも、何とも光太郎らしいと笑いを浮かべた。先ほどまでのダメージなどなかったと言わんばかりに生き生きとするマスターを今の状態にしたのは、経緯はどうあれシャドームーンがこの場にいてこそ。
正直、悔しくて仕方がなかった。
「…いいだろう。だが、忘れるな。奴に借りがあるのは私も同じなのだ」
「なら、やることは一つだな」
2人の世紀王は同時にその視線を禍々しい気を放ち続けるゴルゴムの支配者へと向ける。光太郎の言葉が聞こえたのか、今の今まで存在を無視していたからから、どうもご立腹であるらしい。
「異論は?」
「ない」
短く答えるシャドームーン。その単調な答えを聞き、仮面の下でクスリと笑いながら意識を創世王へと向けた。
「この場限りで合わせてやる。足手まといとなるな」
「それはこっちの台詞だよ」
お互いに確認した直後、光太郎は右腕を、シャドームーンは左腕を上げ、顔を合わせることなく手の甲で打ち合い、構えを取った。
「あ…」
2人の仕草に見覚えのあったライダーは短く声を漏らす。
かつて夢で光太郎の過去を垣間見た時にあった、光太郎と信彦がサッカークラブでの試合などで、絶対に負けられない時に行う2人だけの秘密の合図。無意識に行ったかもしれない。だが、それは光太郎とシャドームーンの気持ちが、間違いなく一つに重なった瞬間でもあった。
並び立つ2人の世紀王。信念は違えど、目的は一つとなった光太郎とシャドームーンに対し、創世王はそれでも怯むことなくゆっくりと接近を開始した。
『覚悟は出来たようだな…世紀王ども』
「待たせたな…と言っても、まだ決定打は見つからないけど」
後半を世紀王に聞こえない程度に声を小さくする光太郎はシャドームーンは掌に力を溜めていくことに気付く。
「残念だけど、キングストーンの力は創世王に通用しない。さっきだって…」
「ああ。充分に理解している。貴様の戦いを見る限りな」
「え…?ってことは俺達の戦い見てたのか!?」
創世王が接近中のため振り向けず、構えたままその場で光太郎は問いかける。シャドームーンはいつからか分からないが、光太郎達の戦いを傍観していたらしい。
「相手の力量が分からぬうちに挑む程私は愚かではない」
「…さいですか」
もう一発なぐってやりたいという衝動に駆られるが、それ以上にシャドームーンがキングストーンの力を使っている理由が気になった光太郎は質問を続ける。
「なら、どうして…」
「貴様はキングストーンの力を攻撃ばかりに使っていたのか?」
シャドームーンの回答に光太郎は今までの戦いの中で自分が使ったキングストーンの力を整理した。
怪人相手への決め技として使用したバイタルチャージなどの攻撃補助。
破壊光線や爆発から身を守る為の防御壁。
そして…
「…ッ!!」
光太郎が理解したと踏んだシャドームーンは手に溜めた力をさらに強め、先手を促す。
「行け。一番手は譲ってやる」
「ああッ…!」
頷いた光太郎は跳躍しながら両腕を左右に展開し、ベルトの上で両拳を重ねる。ベルトの中心が強く発光し、その輝きが右拳へと宿っていく。
光太郎が空から落下すると同時に高速移動するつもりでいた創世王だったが、足元がから火花が散ったことに気付くと思わず視線を地面を向ける。足元に緑色の電気が走り、それだけでなく亀裂が次々と発生していく。
シャドームーンが放ったシャドービームが地面を伝い、創世王の足元を揺らす事で高速移動するための『最初の踏込み』を妨害したのだ。
『だが、貴様等の攻撃は私には通用しない。身を持って知るがいい』
再び自分へ攻撃させ、無力であることを教えてやる。
だが、あえて攻撃を受けることは創世王にとって完全なる失敗であった。
「ハァァァァァァァァァァッ!!」
『ッ!?』
叫びと共に打ち出された光太郎の拳が創世王の右肩を捉える。赤い光を宿した拳が当たった瞬間、創世王にそれまでになかった感覚が肩に走った。
『痛み…だと?』
感じるはずのない痛みを感じた創世王に混乱している暇は無かった。攻撃を終えた光太郎が重力に引かれ、落下した直後、光太郎を隠れ蓑に接近していたシャドームーンの回し蹴りが創世王の側頭部を狙い繰り出されていたのだから。
「オォォォォォッ!!」
『ヌゥッ!?』
思わず腕を上げて防御する創世王に伸し掛かる緑色の光を宿したシャドームーンの蹴り。頭部を守ることは成功したが、掲げた腕に痺れが残る。痛みと共に。
『何故だ…貴様達、何をしたのだッ!?』
理解の追いつかない出来事に初めて激高する創世王の姿に立ち並んだ光太郎とシャドームーンは再びキングストーンの力を手足に宿しながら、応える。
「簡単さ。キングストーンの力を使って、削ってるだけだよ。お前の身体を構成している『魔力』をなッ!!」
聖杯の魔力によってかつての肉体となった創世王。その力と硬度はサーヴァント達を一撃で倒し、世紀王の力を全開にした光太郎の一撃すら耐えるほどだった。だが、それはかつての肉体を魔力で『再現』しているに過ぎなかった。
それに勘付いた光太郎とシャドームーンはキングストーンによる能力を使用した。
特殊能力の打消し。
幻術や魔術、結界に作用させ、力そのものを消滅させるキングストーンの能力の一つ。創世王が聖杯による魔力で構成されているのならば、その魔力を打ち消してしまえばいい。
まずはその理論が正しいか攻撃を当ててみなければ証明できなかったが、創世王の自尊心があったからこそ成功することが出来た。ある意味危険な賭けでもあったのだが、これで2人は創世王に対して、有効な手段を見つけたことになる。
『貴様等…許さん、許さんぞオォォォォォッ!!』
初めてダメージを受け、黒いオーラを纏った創世王は咆哮を上げて光太郎とシャドームーンへと迫った。
光太郎は怒り狂う創世王の姿を見て、逆に冷静となり心を落ち着かせていく。
「…さぁ、行こうシャドームーン」
「言われるまでもない」
関節部と複眼からそれぞれ赤と緑の光を放ちながら、2人の世紀王は同時に駆け出していく。
2人のキングストーンはこれまでにない輝きを放っていた。
素直に相手を助けるんじゃシャドームーンじゃないやい!てなことで下げて上げる方法をとりました。
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