Fate/Double Rider   作:ヨーヨー

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ロストヒーローズ2体験版プレイ中
ブラックのライダーパンチで火を噴かせてます。

では、67話


第67話『絶望の襲来』

「他愛のない…」

 

 

ギルガメッシュが腰布を払ったと同時に、最後の怪人が息絶えた。

 

 

 

間桐光太郎とライダーが洞窟の奥へと進んだ後、サーヴァントとそのマスター達へと襲い掛かったゴルゴムの怪人軍団。ギルガメッシュの放った宝具により司令塔であるトゲウオ怪人や多くの同胞を失っても勢力は衰えることを知らず、その牙を敵へと伸ばした。

しかし、聖杯の泥による力の底上げもなく、新都への侵攻時に同種の個体とは嫌と言う程戦いを経験し、その特徴や弱点を把握したサーヴァント達に怪人達は敵うはずがなかった。

 

 

「…打ち止め…でしょうか?」

「たぶんね」

「…安心していい。周囲には怪人らしきものはいない」

 

 

肩で息をし、背中を合わせて周りを警戒する桜と凛はアーチャーによる索敵の結果を聞き、ゆっくりと息を吐くと構えた手と武器を下ろす。

サーヴァント達による奮闘もあるが、よくあの押し寄せる怪人達を退けられたものだと自分を称えたくなった凛ではあったが、それは彼らの協力があってこそだろうと、騒がしくなった方へと視線を向ける。

 

「だから、離れろってんだろッ!!」

「懐かれたなぁ、慎二」

「笑ってないでどかすの手伝えよ衛宮ッ!?」

 

見れば幼体のクジラ怪人の数匹が慎二の身体に頭を擦りつけている。当の本人は照れているのか必死に追い払おうとしているが一向に離れる気配は見せず、その微笑ましい光景を見ていた士郎は戦いの疲労を忘れかけていた。

 

「まったく、緊張感がないんですから」

「そう言うな。小僧たちは我々と違い今を生きる者。ならば命拾いしたこの時を興じるのは致し方あるまい」

 

それぐらい許してやれと言いながら愛刀を鞘に納めるアサシンのすまし顔が気に食わなかったのか、プイと顔を背けるキャスターの顔はすぐれない。確かにこの場で味方が増援のクジラ怪人達を含めて誰一人欠けることなく勝利した。

だが、その為に彼女が行った他のサーヴァント、マスター達に施した魔術による補助…武具の強化や傷の治療を全て担っていた結果、蓄えていた光太郎の放った魔力を想像以上に消費してしまったのだ。

 

(彼が消耗しきった状態で実行に移そうとした際に返そうとしていたけど…今の量では…)

 

想定以上に魔力を失ってしまった自分の読みの甘さを痛感するキャスターは自分の頭部にほのかな温かみを感じた。見上げると表情一つ変えないマスターが手を自分の頭に乗せている。ただ、無言で。

 

「……………」

「宗一郎様…」

「すまんな。このような時、かけるべき言葉が浮かばん」

 

それでも、暗い顔をして不安そうな自分を励まそうとしてくれている不器用なマスターの気持ちに感謝しながらキャスターは思考を切り替える。そう、魔力量が減少したとしても、他に彼を手助けする手段はあるはず。

そんなことで考えを放棄するなど自分らしくないと気を持ち直したキャスターは改めて宗一郎の顔を見上げた。

 

「ありがとうございます。宗一郎様」

「…ああ」

 

サーヴァントとマスターという関係に留まらない者は、義兄だけではないのかと、キャスターと宗一郎のやり取りを眺めていた桜は洞窟の奥へと先行した2人の無事を祈ろうとしたその時。

 

 

「…ッ!?」

 

小岩に腰かけていたバーサーカーが突然立ち上がり、洞窟の奥を睨みつけた。犬歯をむき出しにして、怒りを隠そうとしない野獣の如くうねる姿に、ランサーは彼のマスターである少女がさらに危機的状況に陥ったのだと悟る。

 

「どうやら休んでる暇はなさそうだな」

「そのようですね」

 

ランサーに同意して拳を強く握るバゼットも自分はいつでも行けると言わんばかりに他のマスターへと目を向けた。

 

準備を整えた士郎と凜も頷き、2人のサーヴァントも問題ないと目配りする。そして準備を整えた一同は光太郎とライダーの後を追い、洞窟の奥へと駆けていく。

 

「…む?」

 

最後尾となったギルガメッシュは自分を引き留めるクジラ怪人へと顔を向けると、一族を引き連れていた個体は掌を差し出していた。その手の中には、紐で繋がれた小石程の水晶があった。

 

「…これを受け取れというのか?」

 

ギルガメッシュの喉を鳴らしながら頭を動かすクジラ怪人。目を細めながら紐を掴み、持ち上げたギルガメッシュは視線に水晶を掲げて見つめること数秒。その水晶が自分の良く知るものの結合されたものと気付く。

 

「よかろう。奴に渡しておく」

 

背後の空間に水晶を収めたギルガメッシュはクジラ怪人達を背にして洞窟の奥へと足を向けた。

 

 

 

 

 

 

気が付けば、汗を流している。

 

手に持った鎖を強く握りすぎて痛みを感じる。

 

自分を立たせている両足が、震えている。

 

紅い敵が一歩、また一歩と自分達へ接近する度に膨らむ恐怖心を必死に耐えながらライダーは隣に立つ光太郎と共に構えていた。眼帯は既に外し、石化を試みたが一瞬たりとも固まる様子もない。

キングストーンを身に着けなくとも、その絶大なる力によってライダーの魔眼がねじ伏せられているのだろうか…

 

『―――動かぬか』

「っ!?」

 

動きを止めた創世王の言葉を聞き、光太郎達に緊張が走る。

 

『ならば、こちらから仕掛けよう』

「ぐっ…がああああぁぁぁぁぁッ!?」

 

創世王が先攻を宣言した同時に、光太郎は腹部の激痛に苦悶の声を上げた。光太郎がその痛みが、自分のすぐ傍まで接近した創世王の拳が腹部にめり込んで起きたのだと理解出来たのは、十数メートル後にある壁へと叩きつけられ、めり込んだ後であった。

腹部の痛みに耐えながらも壁から自力で剥がれた光太郎は自分を見続ける創世王を睨む。

 

(速い…なんてものじゃない。俺の前に移動したことさえ気付かなかった…クッ!?)

「コウタロウッ!?このっ…!」

 

膝を着いてしまった光太郎の姿に逆上したライダーは渾身の力を込めて鎖を振るう。鎖の先端にある鉄杭は外れることなく、創世王の側頭部へと向けて飛んでいたが…

 

「なッ!?」

 

鉄杭は創世王の頭部をすり抜け、地面へと突き刺さる。立っていた創世王の姿が段々と薄れていき完全に姿を消した直後、あの場に立っていた創世王は残像であり、本体はライダーの背後まで移動していたのだと悟った。自身を覆う黒い影へと振り返りながら残る鉄杭を突き立てようするがそれよりも早く創世王の手がライダーの背中へと触れる。

 

冷たい嫌な感触がライダーの背に広がる前に、圧縮されたエネルギーが爆発。ゼロ距離で放たれた攻撃にライダーは悲鳴を上げる間もなく吹き飛ばされてしまう。

 

「ライダーッ!?危ないッ!!」

 

地面へと叩きつけられる前に光太郎が滑り込み、落下するライダーを抱きとめた。ライダーの背中は大きな火傷が残り、その手は痛みを我慢するかのように震えている。

 

「ライダー…」

「私は…大丈夫、です」

 

気丈にも笑って見せるライダーの姿に、光太郎は拳を強く握りしめて決心する。

 

「ライダー…少し、我慢していてくれ」

 

光太郎は背中を地に着けないように、ゆっくりと横向けに寝かせて創世王と対峙。これまで何も手を出そうとしないのは、余裕からであろうか。だが、光太郎は気にしている場合ではない。一刻も早く創世王を倒す為に全ての力を解放した。

 

「ハアァッ!!」

 

両拳をベルトの上で重ね、エナジーリアクターの輝きで全身を包む。交差した腕をゆっくりと左右に展開すると光太郎の関節部分が赤い光を放ち、複眼はさらに力強い輝きを放った。

 

使用すれば、過剰な力の供給によってライダーを消しかねない大きな力。世紀王の力を全開にした光太郎は地面を力強く蹴り、創世王へと接近戦を仕掛けた。

 

『シャドームーンとの戦いで見せた力か…だが、私に通用するかな?』

「やって見なければ…分からないッ!!」

 

そして2人は、その姿を消した。

 

 

 

 

「なんだ、これ…」

 

衛宮士郎が口から漏れた言葉に全員が同意せざる得ない状況だった。

 

洞窟の奥である大空洞へと出た士郎達が目にしたのは空洞の中央に聳える大聖杯。小聖杯と一体となり、黒い呪いに磔となったイリヤスフィール。

そして風を切る音と同時に次々と地面や壁が破裂する現象であった。

 

「ら、ライダーさんッ!?」

「あれは…くっ!せめて私が到着するまで待てなかったのっ!?」

 

全員が謎の爆発に気を取られている中、過剰の魔力供給に苦しむライダーの姿を発見した桜とキャスターはすぐに駆け寄り、キャスターは過剰魔力の排出を、桜は背中の治療を開始した。

 

「サクラ…キャスター…ご無事でしたか…」

「喋らないで!今急いで…え?」

 

急ぎ魔法陣を展開し、魔力の抽出を始めたキャスターだったが、ある違和感に気付く。ライダーから溢れる魔力が以前ほど強く感じられないのだ。

光太郎とシャドームーンの決戦時にライダーへ注がれた魔力を100とするなら、今回は40未満…それでもサーヴァントであるライダーへと流れる魔力としてはキャパを大幅に超えた力ではあるのだが…

 

(もしかして…ライダーへ流れる力すら必要だというの?)

 

魔力の抽出とは別に並行して展開した防護壁で数メートル先で起こった地面の爆発から自分や桜、ライダーを守りながらもキャスターは自分の考えをまとめる。

 

今、この空洞内で起きている爆発の原因は間違いなく光太郎と彼が敵対している存在…創世王によるものだろう。

 

シャドームーンとの戦いの時のように、もはや英霊ですら視認できないスピードで移動し、攻撃を打ち合っている結果、空洞内で次々と不可思議な現象が起きているに違いない。

 

(本来ライダーへ流れていく力すら使って戦っている。けど、そうまでして倒せない相手ならば…!)

 

キャスターの予感は、当たって欲しくない方へと的中してしまった。

 

 

 

 

(くっ…この姿でも見失わないのが精一杯だなんて…!!)

 

胸中で舌打ちをしながら、光太郎は創世王の後を追っていた。

 

世紀王としての力を解放した光太郎の能力は以前の数倍。加えて一度死の淵から甦った際に命のエキスの力により能力が向上しているはずなのに、創世王に攻撃がかすりもしない。

 

光太郎の攻撃が外れる度に地面や壁に大穴が空き、焦りがより強くなっていく。さらにはライダーへの負担も大きい今の姿では長時間戦えない。時間が経つに連れて自分を追い込んでしまう光太郎に決定的な隙を与えてしまったのは、一番の気がかりであったライダーの容態が安定したと確認が出来た時であった。

 

(キャスターッ!?そうか、彼女がライダーを…)

 

『余所見をするとは、随分と余裕だな、ブラックサンよ』

 

「―――ッ!?」

 

防御しようにも既に遅く、光太郎は創世王の踵落としを受け、地面へと叩きつけられてしまった。

 

 

 

 

 

「ちぃ…どうやらまともに攻撃を受けてしまったようだ…」

「嘘でしょ…?あの人が、全く敵わないなんて…」

 

アーチャーがはっきりと視認できたのは、創世王の攻撃が光太郎の胸へとめり込んだ瞬間。上空で静止した状態の光太郎に対し、創世王は更に力を込めて足を振り落とすことで落下する力を強めた。結果、地面へと衝突した余波で土埃が舞い、振動で凛達の足場は大きく揺れ動いた。

 

さらに目を凝らすアーチャーの視線の先…発生したクレーターの中央で光太郎は肩を庇いながらも立ち上がっていた。

 

 

 

 

 

「くっ…せめて、攻撃が当たれば…」

『ならば、試してみるがいい』

 

光太郎は声の方へと顔を向ける。あれ程動き回っても息一つ乱した様子のない創世王との距離は約5メートル。充分に攻撃が放てる間合いだ。

 

『貴様の攻撃、あえて受けてやろう。そして、いかに自分が無力な存在か思い知るがいい』

「…っ!!」

 

明らかな挑発。だが、光太郎は創世王へと攻撃を放てる千載一遇の好機を逃すわけには行かなかった。

 

立ち上がった光太郎は両手を左右に広げ、両拳をベルトの上で拳を重ねた。直後、エナジーリアクターの中央で光るキングストーンがより強く発光させる。

 

右腕を前方に突出し、左腕を腰に添えた構えから両手を大きく右半身側へと振るう。左腕を水平に、右腕を右頬の前へと移動し、右拳を強く握りしめる。

 

右拳に赤い輝きを灯し、高く跳躍。

 

「ライダーッ―――」

 

創世王の胸板へと

 

「―――パァンチッ!!!」

 

必殺の拳を叩き込んだ。

 

 

 

間違いなく、光太郎の攻撃は創世王へと届いた。それだけだった。

 

「光太郎の…攻撃が…」

 

今まで怪人を倒せなくとも大きなダメージを与えられていた。あのシャドームーンも直撃を裂ける為に仕掛けた技を止めるという手段を持っていた。それは、少なからずとも受ければダメージを負うゆえの行動だったのだろう。

だが、慎二が見たのは光太郎の拳をその身に受けて、微動だにしない敵の姿だった。

 

 

『なんだったのだ?今のは…』

 

 

光太郎の拳から完全に光が消え失せ、茫然とする光太郎の頭部を掴んで持ち上げた創世王は、残る手を光太郎の胸部へと翳す。掌から放たれた光が爆発し、光太郎は放物線を描きながら吹き飛ばされてしまった。

音を立てて落下した光太郎の関節部から赤い光が消え失せ、ピクリとも動かない。

 

『やはり、キングストーンの持ちべき者は私しかいないようだな。その身体有効に…』

 

光太郎へと迫る創世王の言葉を止めたのは、乱発される無数の矢と、刀剣だった。

 

矢へと姿を変えた特殊な剣も、触れただけで消えない傷痕を残す魔剣の類をいくら身体に受けようが傷一つ負わないが、触れるという感覚が不快と考えた創世王を強力なバリアが展開される。

アーチャーが放つ宝具は何一つ、届くことは無かった。

 

「防御壁の類か。だが、全身を包んでいるわけではあるまい」

 

アーチャーの言葉に続くように、既に創世王の背後、左右へと迫っていたサーヴァント達はそれぞれの得物で仕留めようと降りかかっていた。

 

「くたばってもらうぜッ!」

「覚悟ッ!」

「■■■■■■―ッ!!!」

 

右側からランサー、左側からアサシン、背後からバーサーカーが創世王に向けてその刃を振り下ろすが、サーヴァント達は突如血をまき散らしながら地に伏せてしまう。

 

「な…んだってんだ…!?」

 

身体のあちこちが創世王の肘にある刺によって切り刻まれたのだと感ずいたのは、マスター達がこちらに駆け寄ろうとした時だった。まさか自分の目でも追えない攻撃とは恐れ入ったと一歩も動いた様子のない

創世王を見上げたランサーはニヤリと笑う。

 

「これで済むと思ったかい?」

 

果たして創世王の耳に届いていたかは不明だ。だが、ランサーの言った通り、彼らの攻撃はこれで終わりではない。

 

 

 

突如、創世王の真上で展開された魔法陣の中から出現したセイバーとアーチャー。キャスターの転移魔術によって飛ばされた2人は宝具である剣を今にも振り下ろそうとしていた。

 

セイバーは黄金の剣を。

 

アーチャーは魔術で創りだした最高峰の贋作を。

 

上を見上げる様子もない創世王への完璧な奇襲だった。だが、それは見上げるまでもなかったのだとセイバーとアーチャーは思い知ることとなる。

 

「なっ…!?」

「化け物め…ッ!!」

 

2人の振り下ろした剣は、創世王によって止められてしまった。指先で。指一本で、伝説の聖剣と、限りなく本物に近づけた剣を受け止められてしまっていた。

 

指先で弾かれて、両手を上へと大きく逸らしてしまったセイバーとアーチャーの胸に、創世王の拳がめり込む。肺に向けて放たれた拳圧で2人は吐血しながら、地面を滑っていく。

 

「セイバーッ!?」

「アーチャーッ!?しっかりして!!」

 

起き上がろうとする様子もない自らのサーヴァントへと駆け寄り、抱き起こそうとする士郎と凜が目にしたのは、その惨状に目を見開く。セイバーの魔力で編まれている甲冑はひび割れ、アーチャーの胸元は血で染まっている。

まだ息はあり、現界していられるのが奇跡に近い。

 

 

『英霊…人間よりも優れた存在と言われていたが、所詮はこの程度か』

 

掌の上で力を球状に凝縮し、ゆっくりと士郎や凛達へと向ける創世王。恐らく、放たれたら跡形もなく吹き飛ばすような威力なのだろう。2人のサーヴァントを抱いたまま動かない士郎と凜に向けて創世王が力を放とうとしたまさにその時であった。

 

『む…』

 

創世王の手足がどこからともなく出現した鎖によって拘束され、手に宿った力も消失してしまった。動こうにも鎖は更に拘束を強め、創世王の自由を完全に奪っていく。

 

「その鎖が効果しているということは、貴様のような輩にも少なからず神性が宿っているということか。嘆かわしい…」

 

その手に乖離剣を持った英雄王が悠々と現れる。身動きが取れない創世王へ接近しながら、敵の力に伏してしまった他の英霊を1人1人一瞥し、やがて一カ所へその視線を固定した。その先にいるのは、クレーターからで自力で這い上がろうとする黒い戦士。

 

『まだ一匹残っていたか。だが、この私の動きを封じるとは少しは骨があるようだ…この鎖を解けば、この無礼を許すぞ?』

「戯けたを抜かすな。そして、我に命令できるのは…我だけだッ!!」

 

明らかに見下した言い方に怒りを隠そうとしないギルガメッシュは手に持ったエアを掲げる。主の感情に呼応したかのように宝具はその回転を速め、魔力による暴風を巻き起こした。

 

「この世界に我以外の王は不要だ。特に、貴様のように王を名乗る不遜な輩はなぁッ!!」

 

創世王へと迫る世界を二つに分けたとされる対界宝具。その剣先が創世王の腹部へと届くと思われたが、攻撃はあと数センチとなった距離でピタリと止まり、エアの回転も緩み、やがて完全に止まってしまった。

 

「き、様…ッガフッ!?」

『せめて、指全てを鎖で縛るべきであったな』

 

赤黒い液体を吐き出しながらギルガメッシュは創世王の右腕を見る。指先全てから赤い光が灯っており、そこから放たれた怪光線が自分の胸を貫いたのだろうと、遅れて崩れていく黄金の甲冑を見つめていた。

鍛え抜かれたギルガメッシュの胸板に空いた5つの穴。ご丁寧に全てが急所を外されていることが、さらにギルガメッシュの怒りを買う結果となってしまった。

だが、ギルガメッシュに抗う術は無かった。背後に宝具を展開するよりも、手に持ったエアに再び魔力を宿すよりも、創世王が力を放つ方が早かった。

ギルガメッシュがその攻撃を避けられたのは、創世王を拘束していた『天の鎖』が主の身を案じ、自ら動いたからだろう。

 

鎖はギルガメッシュの胴体に巻き付くと一気にその場を離脱。創世王の攻撃を回避して地面にギルガメッシュを着地させ、倒れそうであった彼を慎二と桜に託すと光と共に消え失せた。同時に、創世王を再び自由となってしまう結果となってしまった。

 

 

 

 

「なんてこと…こうなったらっ!!」

 

あの聖杯から溢れる呪い…だが魔力には代わりない。あの魔力全てを創世王へと注ぎ込み、自己崩壊を起こさせる。危険な賭けではあるが、他に手段が見つからなかったキャスターは魔法陣を展開しようと手を翳すが…

 

「あぅッ!?」

 

地に引かれるように倒れしまったキャスター。だが、この感覚は最初ではない。光太郎が一度死に、放心状態であったシャドームーンに向けて攻撃魔術を放とうとした際にも創世王によって身体の自由を奪われてしまっていた。だが、今回は動きを封じるだけではなかった

 

「魔力が…吸収されていく」

 

キャスターを囲うように展開された黒い魔法陣。その効果によって吸われていく魔力の行先は、創世王。そして魔法陣に囚われていたのはキャスターだけではなかった。動くことが出来ないサーヴァント全員が囚われ、苦悶の表情を浮かべている。

このままではいずれ存在を保てなくなり、消滅を待つだけとなってしまうがそれぞれのマスターが必死に呼びかけ、解除しようと魔術を試みている。

だが、解除は不可能であるとキャスターは悟っていた。前回はもう自分を捉える必要がないと創世王が術式を解いたからこそ助かったのだ。

しかも術の効力は前回の比ではない。もう、キャスターには自分を呼び続けるマスターの声すらも届いていなかった。

 

 

 

 

『そのまま私の贄となるがいい。では、その身体を頂くとしよう。ブラックサン』

 

 

サーヴァント達から魔力を吸収しながら、創世王は当初の目的を果たすため、未だに立ち上がれていない光太郎の元へと歩いていく。

 

「くそ…このままでは…みんながっ…!!」

 

自分は立たなければならない。自分に迫る敵を倒さなければならない。なのに、なぜ立ち上がれないのだろう。なぜ、力を込めているはずの手が震えているのだろう。

 

…恐れているのだろうか?世紀王の力を使っても追いつけず、全力の攻撃が通用しなかった存在を。

 

 

敵わないと、諦めてしまっているのだろうか。

 

 

光太郎が自問する間にも、創世王は着実に光太郎との距離を縮めていく。あと5歩という距離ませ迫った時、光太郎と創世王の間に入る影があった。その気配を感じた光太郎が見たものは、両手を広げ、自分を庇うように立っているライダーの姿。

 

「ら、ライダーッ!?」

『…なるほど。私の術から脱出したのは、それか』

「………………………」

 

感心するように創世王は自分の前に立ち、無言で睨むサーヴァントの瞳を見つめた。ライダーの瞳に僅かながら赤い光が灯っており、その正体を創世王は嫌と言うほど知っている。

 

『まさか、キングストーンの力をサーヴァント如きが引き出すとはな…』

 

他のサーヴァントと同じく創世王の結界に閉じ込められていたライダーだったが、光太郎へと迫る創世王の姿を目にした途端に再び共有したキングストーンの力を使用。光太郎のキングストーンフラッシュと同じ要領で結界を打消し、光太郎の前へと現れたのであった。

しかしその反動も大きく、ライダーの肉体に大きな負担をかけていた。手足はガクガクと震え、立つことさえもままならない。それでも、彼女は立ち上がった。光太郎を守る為に。

 

『…世紀王でもない、亡霊にしか過ぎぬ貴様がキングストーンを使うとは興味深い。だが同時に消さなければならん』

 

創世王はゆっくりと右手を振り上げ、手刀をライダーの頭頂部目がけて振り下ろした。

 

 

『私以外に、この力を使うなど許されん』

 

 

黒く、禍々しい力を纏った手刀がライダーへと迫る。

 

ライダーの名を叫び、立ち上がった光太郎だが彼女の手を引いても、もう間に合わない。

 

 

 

 

 

光太郎が諦めかけた その時であった。

 

 

 

 

『むぅッ!?』

 

創世王は自らに迫る脅威に手を止めて、一歩後ろへと下がる。刹那、創世王とライダーの間に緑の雷が走った。

 

その雷は地面を駆けながら7つに分散。サーヴァント達を封じていた結界に接触した途端、砕ける音と共に黒い魔法陣を打ち消したのだ。

 

 

「コウタロウ…今のは」

「ああ…間違いない」

 

フラフラとするライダーを背後から支えた光太郎は、彼女と共に雷が発生した方へと目を向ける。自分達が入って来た穴とは別の入り口から、金属を打ち付けるような足音を立てて姿を現したのは、もう一人の世紀王。

 

 

銀色と黒の金属で覆われた身体にはまだ僅かながら亀裂が残っている。しかし、彼から放たれる闘気は、以前と比べものにもならない。

 

 

創世王はなぜ、自分に向けてこのような真似をするのか、今になって現れた世紀王へと問いただす。

 

『なんの真似だ?』

 

「決まっている」

 

光太郎とライダーの近くまで移動し、立ち止まった彼は、再び掌を放電させながら、創世王へと向ける。

 

 

「私とブラックサンの勝負を邪魔した報いを受けてもらうためだ」

 

 

月の世紀王、シャドームーンの復活であった。

 

 




というわけで、戦線復帰の影月さんです。

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