そして、本当にこの世界では慎二君の性格が違い過ぎるなと再確認しましたね…
それでは、56話です!
不覚…
アリ怪人に義妹の桜と共に背後を取られ、人質となってしまった間桐慎二は黄金のサーヴァントへ脅迫する大怪人ビシュムを睨む。
ギルガメッシュの想定外である戦闘能力に恐れたビシュムの取った行動…過去に自分や桜が幾度もゴルゴムと義兄の戦いの中で起きたことであったが、義兄の足手まといにならないために自力で潜り抜けてきた。
だから、今回だって自分の力でどうにかしてみせる。慎二は隣で同じように捕まっている桜も諦めずに脱出する寸断を考えている姿を見て、今自分にできる事を考え始めた。
(全く…どこぞのお人よしのせいで『諦め』って言葉が浮かばなくなってきたよ)
義兄の行動に毒され過ぎたなと思いながら笑っている自分に気付く。見れば桜も、慎二の方へと顔を向け、頷きながら微笑んでいた。考えていたことは、一緒のようだ。
なら、早々に脱出しなければならない。いつも自宅に突然押しかけてくるサーヴァントに何時までも頼るわけにはいかないと考えた矢先、慎二と桜は自分達を羽交い絞めにしていたアリ怪人の手が急に離され、固い岩場に尻餅をついてしまう。
痛みに顔を顰めながら自分達を拘束していた怪人を見上げると、見覚えのある黒い手によって背後から後頭部を掴まれ、持ち上げられているアリ怪人が必死に振りほどこうとする姿があった。
逆光でもはっきりとわかる黒い身体、赤く光る複眼…
黒い戦士は両手で掴んでいたアリ怪人2体の頭部を手放した直後、尽かさず背中に掌底を叩き込む。それだけで2体のアリ怪人は風に運ばれる枯葉のように吹き飛ばされ、手にした鎖を下げたギルガメッシュを背後を抜けて落下した直後、炎上する。
「ありがとう2人とも…そして、ごめんよ。心配かけて」
アリ怪人達があっさりと倒された光景に唖然とする慎二と桜の頭に、そっと手が置かれる。見た目のゴツさから考えられない暖かさは、10年前から変わりない優しさがあった。
この手の持ち主は、世界中探しって、たった1人しかいない。
自分達との約束を破って姿を晦ませていた名前を、2人は呼んだ。
「本当だよ、この、バカ兄…」
「兄さん…光太郎、兄さん…っ!!」
こちらは必至になって探していたというのに、いつも通りに声をかけてくる義兄の姿に憎まれ口の一つでもぶつけてやろうかと口を開きかけた慎二だったが、隣で泣きじゃくる桜を見てそんな気が失せてしまう。
「ライダー、2人を頼む」
「はい、いってらっしゃい」
光太郎の後に現れたサーヴァントの姿にさらに桜の鳴き声が大きくなってしまう。そんな桜を安心させるために優しく抱擁するライダーに後を託し、光太郎はギルガメッシュの元へと向かう。
慎二達には聞こえない程度に言葉を交わした2人はすれ違いざまに手を打ち合い、光太郎はゴルゴムへ、ギルガメッシュは洞窟の入り口付近にある手頃な岩に腰をかけて携帯ゲームを起動させていた。
「び、ビシュム様…仮面ライダーが、生きて…」
「そんな事は分かっているわッ!!」
呼びかけてきた女王アリ怪人に思わず怒声を放った大怪人ビシュムは光太郎が2体のアリ怪人を瞬く間に倒した力に、恐怖を抱いた。
アリ怪人の身体の固さはカニ怪人以上であり、黄金のサーヴァントですら鎖の補助がなければ攻撃が通るはずもないはず。だというのに、光太郎はキングストーンによるバイタルチャージも、パワーストライプスによる力の解放もなく打倒している。今、光太郎から放たれている底知れない力にビシュムはギルガメッシュに仕掛けていた魔術を解除、広げていた両手を光太郎に向けて攻撃を開始する。
両手から放たれる攻撃魔術だけでなく、両目から怪光線も同時に放射。ビシュムの一斉攻撃は外れることなく全てが光太郎の身体へとヒットし、余波による土煙が覆っていく。
「ハァ、ハァ、ハァ…これなら」
ありったけの攻撃をしかけたビシュムの目に映ったのは、土煙の中からゆっくりと自分達に向かい足を進める光太郎の姿。身体には傷一つ負うことなく、ゆっくり、ゆっくりと自分達へと向かってきている。
後ずさるビシュムの前に立った女王アリ怪人は手にした錫杖を光太郎にむけ、まだ自分の背後に控えていた50近くのアリ怪人達に指令を下した。
「所詮は一人だ!一斉にかかれぇッ!!」
女王の命令に咆哮を上げて駆け出していくアリ怪人の大群。あれだけの怪人が同時に攻撃されては、さすがの仮面ライダーもただでは済まないと踏んだ女王アリ怪人であったが、攻撃の対象である光太郎は全く動じることなく、右腕を水平に伸ばすという行動に首を傾げる。
数秒後、その行動がどのような結果を招くのかを、嫌というほど知ることとなった。
光太郎の背後にいる慎二と桜も、光太郎が腕を上げるだけであり、戦いで攻撃を繰り出す際の構えを取らないことに疑問を抱いていた。それに、あのままではアリ怪人達の格好の餌食となってしまう。いくら復活したとはいえ、あのままでは…
「つまらぬ先入観で物事を決めつけるなよ。特に、あの男にはな…」
慎二の思考を読んでいたのか。ギルガメッシュは声をかけてくるが、その余裕の表情とは裏腹に十字キーを必死に入力している姿はどこか決まらない。
そんなことは言われなくてもわかっている。こちとら10年近くも弟をやっている身でありながらも、現在進行形で義兄の行動を読むなんて出来もしないのだからな、と言いたいところだが今は兄がこれからやろうとする事の方が気になる。
隣にいる桜も手を胸の前で強く握って光太郎を背中を見ている。
期待、しているのかもしれない。光太郎がこれから何を起こしてくれるのかを…
地響きを立てながら自分に迫るアリ怪人達に対して、光太郎は自分が信じられないほど冷静である事に気付く。自分に流れるキングストーンの力、身体を治してくれた命のエキスの流動、自分を支えてくれている掛け替えのない人々の存在。そして世界中で戦っている先輩達が教えてくれた自分を動かす『魂』
それが全てが、光太郎の中にある。
だから、自分には不可能なんてない。
仮面の下で目を見開いた光太郎は右手を拳から手刀へと変えて、真横に振るう。
光太郎が右腕を振るった直後、前進していたアリ怪人達の動きがピタリと止まる。しばしの沈黙が周囲を包み、光太郎が振るった腕を下げた直後、アリ怪人達は一斉に倒れ、次々と燃え上がっていく。
何が起きたか理解の追いつかないビシュムはまだ燃え始めていないアリ怪人を見て驚愕する。アリ怪人の胸板には横一線に窪みが走っている。
そう、光太郎が振るった手刀によって発生した真空波がアリ怪人達に叩きつけられ、絶滅させることに成功したのだ。
「こ、こんなことが…」
そんな言葉しか浮かばないビシュムに、死神の視線が突き刺さる。アリ怪人達を火種とした炎を飛び越え、着地した光太郎は怒りを込めてビシュムの名を叫んだ。
「大怪人ビシュムッ!!己の目的の為に慎二君と桜ちゃんの命を脅かしたこと、俺は断じて許さんッ!!」
「ヒィっ!?」
「おのれ仮面ライダーッ!!下僕達の仇だッ!!」
怯えるビシュムの前に立ち、錫杖を構えて光太郎へかけていく女王アリ怪人は光太郎が攻撃態勢へと移る姿を見る。
両拳をベルトの上で重ねたと同時に、エナジーリアクターの中心が赤く発光する。右腕を前へ突出し、左手を腰に添えた構えから両腕を右側へ大きく振るい、左手を水平に、右腕を右頬前へと移動する。右拳を力強く握りしめるとその場が跳躍する。
(ライダーパンチ…!)
光太郎がこれから打ち出す攻撃を推測する女王アリ怪人。多くの怪人を葬った攻撃ではあるが、自分は数多くいたアリ怪人を束ねていた存在。身体の硬質さならば他のアリ怪人の数十倍を誇っている。
万が一にもあの拳が自分の身体を貫くなど、あり得ない。
その油断が、女王アリ怪人の最期を早める結果となってしまった。
「ライダーァ―――」
跳躍した光太郎は、エネルギーを纏った右拳を、女王アリ怪人の腹部へと叩き込む。
「―――パァンチッ!!」
「ぎ、アあぁぁぁぁぁぁッ!?」
絶叫を上げる女王アリ怪人は錫杖を取りこぼし、震える手でライダーパンチを受けた腹部を抑えながら見ると亀裂と共に光太郎の拳の後がくっきりと残っていた。
「そ、そんな馬鹿な…この、私の身体にぃ…」
受け入れられない現実に茫然とする女王アリ怪人に、光太郎の攻撃は続く。
「ライダーァ―――」
エネルギーを纏った右脚を、女王アリ怪人の胸部へと炸裂する。
「―――キィックッ!!!」
止めを受けた女王アリ怪人は2回、3回と海岸を転がり、体を揺らしながらも立ち上がる。
「び、ビシュム様アァァァァッ!!」
主の名を断末魔の叫びに、女王アリ怪人の身体は炎に包まれた。
女王アリ怪人の消滅を確認した光太郎はビシュムがいつの間にか姿を消していたことに気付く。見渡してみると、遥か上空で自分を見下ろしているビシュムが、顔を歪ませて捨て台詞を吐いて去って行った。
「仮面ライダー…覚えていなさい!生き返った事を後悔させて上げるわッ!!」
「ふう…」
人間の姿となった光太郎は自分に駆け寄ってくる足音の方へ顔を向けた途端、自分に抱き着いた義妹が胸に顔を埋めて、再び泣き始めてしまったことに困惑する。
「さ、桜ちゃん…?」
「本当に、本当に光太郎兄さんなん、ですよね…?幽霊じゃ…ないんですよね?」
「…うん。俺は、ちゃんとここにいるよ」
「…っはい…光太郎兄さん…」
桜の頭を優しく撫でる光太郎に続いて慎二とライダーが近寄り、ギルガメッシュに至っては態勢を変えずにゲームを続けていた。
「…聞きたいことは山ほどあるけど、説明してくれるんだろうね」
「うん、飽きるほどね」
「そうかよ…」
眉間に皺を寄せて訪ねては見たが、やはり普段通りの切り替えしに一気に肩の力が抜けてしまった慎二。では、続いての人に落ちは任せようと自分の後で控えていた義兄のパートナーの見るが、光太郎に目もくれず、明後日の方向へと目を向ける。
照れて視線を逸らしているのか?と思ったが、様子がおかしい。酷く焦っているように、手を強く握っている。
それはライダーだけではなく、ギルガメッシュも同様だった。
ライダーのように焦燥している事はないものの、ゲームから視線を逸らし、ライダーと同じ方へと顔を向けている。
2人が共通している事。それは…
ゴルゴムの秘密基地。
イリヤスフィールは円柱のカプセルの中で横になっているシャドームーンへ、返事はないと分かっていながらも声をかけた。
「ねぇ。知ってる?ライダーのマスター、生きてるって。それで貴方の部下が血眼になって探し回ってるんですって」
シャドームーンに返答はない。それでも、構わずにイリヤは話し続けていた。
扉の向こうではカーラとマーラが控えており、相も変わらず世話役を買って出ている。彼女達もここならばイリヤが好き勝手に出歩かないと理解した上で入室を許しているのだろう。
シャドームーンの治療が開始されてから数日、イリヤは欠かさずに顔を出し、食事と睡眠を除くほとんどの時間を眠っているシャドームーンと共に過ごしていた。心を許している訳ではない。ただ、彼の生き様と、自分の問いかけた質問の回答が
どうしても気になっているのだ。
「…ねぇ、貴方は…っ!?」
その苦しみは突然だった。
「か…は」
かつて、自分の母親に自分の見た悪夢を打ち明けたことがあった。
自分の中に、大きな塊が7つも入ってくる夢を見た。その恐怖に、母親へ泣きついた記憶がはっきりと思い出す。その『塊』とは、聖杯を完成させるための『モノ』にまず間違いない。
ならば、なぜこのタイミングなのか。
自分のサーヴァントは敗れはしたものの、まだ生きており、他のサーヴァント達も自分が拉致されてから本来の聖杯戦争と逸脱した今の状況で殺し合いを再開するとは考えられない。
思考しながらも、イリヤの中で一つ、また一つと『塊』が現れることに感覚が鈍っていく。
視界がぼやけた先に、ある人物がイリヤを見下ろしているが、既にイリヤにはその声すら届いていない。
「どうかな、自分が自分で無くなっていく感覚というものは?」
言峰綺礼が、口元を歪め、本当に楽しそうに笑っていた。
愉悦部起動、ただし一人…
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