では4話です
光太郎と慎二が士郎を発見した同時刻
間桐邸
間桐桜は迷っていた。
これから自分が行うことは余計なことかもしれない。
しかし、ただ大人しく兄たちの帰りと憧れる先輩の安否を待つだけではどうしても落ち着かなかったのだ。
本来ならば、長兄の許可を得なければ許されないかもしれないが、桜は決意を固めた。
大丈夫。今からすることは兄を困らせることでは決してない。
数回呼吸した後、桜は必要なモノを持ち、標的と相対した。
「ライダーさん、お茶にしませんか?」
「結構です」
即答。
最近新調したティーセットと、日頃の御礼と部活の顧問から頂いたクッキーの詰め合わせをトレイに乗せ、笑顔で声をかけたのだが、リビングに仁王立ちしている女性の反応は冷たかった。
が
「………………」
「………………」
笑顔のまま固まった桜が、徐々に表情を暗くし、目元に涙が溜まっていく姿を見たライダーは…
「いえ、やはり頂きましょう」
あっさりと折れた。
お茶の同席に応じたライダーを見て、パァッと表情を明るくした桜の行動は素早かった。
「さぁ、座ってください!あ、そちらのソファーの方が座り心地いいですよ?お茶は紅茶でいいですよね、このクッキーと会うのは確か…」
こちらに話かけながらテキパキと作業を進める姿にライダーは唖然とした。
(表情の豊かな子…ですね)
先程自分の姿を見て怯えたのは恐ろしいからではなく、主人(マスター)の言う通り霊体化を突然解いた事に驚いただけなのか…と桜の印象を改めたライダーは大人しく座ることにした。
対面する形でお茶を啜る戦闘装束の女性と女子高生。ミスマッチにも程があった。
直後、外部から聞こえた爆音が耳に入ったライダーは武器を手に取り、窓へと駆け寄る。
「ライダーさん?」
「サクラはそこに!」
ライダーは窓から外部の様子を伺う。だが、そこには敵の気配はなかった。耳を澄ますと、先ほど聞こえた音が段々と遠ざかっていくことに気付く。
「あ、光太郎兄さんに呼ばれたみたいですね!」
いつの間にか自分に並んで外を見ていた桜が庭に面しているガレージを指さす。よく見れば、ガレージ前の路面にタイヤが激しく擦られた跡があり、そのすぐ横にはヒラヒラとビニールシートがゆっくり地面に落下している。
「…サクラ。先程のは」
「そういえば、ライダーさんはまだ知らなかったんですね」
「光太郎兄さんの…私たちの大事なお友達です」
「仮面、ライダー・・・?」
光太郎が姿を変えた直後に名乗った名を口にする士郎。
聞き覚えがあった。
自分が生まれる前、命を懸けて人々を守り続けた仮面の戦士。それが今、士郎の目の前に立っている。
「行くぞ!トァッ!!」
ジャンプした光太郎は先頭に立っていたクモ怪人に着地と同時に右拳を叩き込む。頭部に走る痛みに怯んだ隙に伸ばした右腕を振り払うように放たれた裏拳によって吹き飛とんでいくクモ怪人。
錐揉み状に回転しながら空を舞う同族を見て、クモ怪人は一斉に動き出した。
『シャアァァァァァッ!!』
クモ怪人が振り上げた腕を光太郎に向かって振り下ろす。だが光太郎は掌底で怪人の腕を押し上げて間を開けずに腹部に肘打ち、さらに一歩下がり怪人の頭部目掛け回し蹴りを繰り出した。
「トァッ!!」
「シャァァァッ!?」
雄叫びを上げ、地面を転がっていくするクモ怪人。追い打ちを仕掛けようとした光太郎だったが
「ムッ!?」
光太郎が体勢を整える前にクモ怪人たちが動いた。左右から光太郎の両腕を掴み、身動きを封じられてしまう。
「シャァ!!」
光太郎の正面にいたクモ怪人が頭部を突き出して突進を始める。変身する前の光太郎に食らわせた体当たりを再び仕掛けようとしたが…
「ウオオォォッ!!」
光太郎が抑えられた腕を思い切り振り払う。それだけで両腕を抑えていたクモ怪人2体は宙に浮き、突進してきた1体は頭部を光太郎に掴まれ、路面へと押し付ける。舗装されたアスファルトを砕きながらめり込んだクモ怪人は痙攣を起こしていた。
「す、ごい…」
クモ怪人を圧倒する光太郎の姿を見て、士郎は自分を支える慎二に尋ねた。
「慎二…光太郎さんの…あの姿は…魔術なのか?」
「衛宮、お前…」
魔術を知っているのか と逆に質問をするのを思い留まった。今余計な詮索をする場合ではないと考えた慎二は曖昧な回答…ではなく、自分が義兄に対して思うことをつい、口滑らせてしまった。
「そうだったら、どんなによかったことか…」
「え…?」
小声だったのか、どうやら士郎には聞こえていなかったようだ。
その間にクモ怪人が新たな動きを見せた。クモ怪人5体は光太郎から一定の距離をとり、同時に口から糸を発射した。
「ッ!?しまったッ!」
糸は光太郎の両手・両足・首に絡まり、五体をバラバラにしようと引っ張り出した。
「光太郎(さん)ッ!」
慎二と士郎は同時に声を上げる中、糸にかかる強まっていく。
「こうなったらッ…!バトルホッパーッ!!」
光太郎の頭部にあるアンテナの先端が点滅すると同時だった。ビルの合間から1台のバイクが飛び出し、クモ怪人達を目前でウィリー走行、ドリフトを繰り返し、錯乱させている。
突然の登場も勿論だが、士郎は一番聞くべきことを慎二に尋ねる。
「し、慎二…あのバッタみたいなバイク、人が乗って…」
「気にするな」
士郎の言う通り、バッタと似た緑色のオフロードバイク、『バトルホッパー』は自らの意思を持つメカ生命体。操縦する人間が不在でも自らの判断で行動が可能なのだ。
「今だッ!」
バトルホッパーの乱入により混乱したクモ怪人の糸が緩んだ隙に光太郎は腕を左右に開き、両拳をベルトの前で重ねた。
「キングストーンフラッシュッ!!!」
眩い赤い閃光が周囲を照らす。
ベルトの中央から放たれた光は光太郎を拘束していた糸を消し去り、さらにクモ怪人達の口を焼いて糸の噴射を封じた。
『シャアァアアアァァァァァ!!!』
「バトルホッパーッ!行くぞッ!!」
主の言葉を聞き、バトルホッパーは光太郎の前に停車する。光太郎はバトルホッパーに搭乗すると同時にアクセルを全開、苦しんでいるクモ怪人に向かい高速で突っ込んでいく。
「ハァァァァァッ!!」
前輪を持ち上げ、ウィリー走行のままクモ怪人へ突進!気付いて転がりながら回避したクモ怪人2体を除き、3体は吹き飛ばされ、地上へ落下する前にその身体は燃え上がり、消滅する。
バイクを反転させ、再びクモ怪人へ向かう光太郎。途中、バイクの上からジャンプし―――
「ライダーッ―――」
クモ怪人の顔面に向けて、エネルギーを纏った拳を放つ。
「―――パァンチッ!!」
拳を受けたクモ怪人は後方に吹き飛びながら断末魔を上げる間もなく爆発する。
着地した光太郎は残り1体となったクモ怪人に向けて構える。
「…闇夜に紛れ、人々を襲い恐怖に陥れるなど、この俺が絶対に許さんッ!!」
両手を左右へ展開し、ベルトの上で両拳を重ねると、ベルトの中央が強く発光する。
左手を腰に添え、右腕を前方に突き出した構えから大きく腕を右側に振るう。
右頬の前で握り拳を作り、さらに右拳を力強く握りしめると、クモ怪人に向かい高く跳躍する。
「ライダーッ―――」
エネルギーを纏った右足を、クモ怪人の胸板に叩き付ける。
「―――キィックッ!!!」
「しゃ、アアアアアアァァァァァ!?」
路面を2転、3転と転がり吹き飛ぶクモ怪人。なんとか立ち上がったと同時にその身体は断末魔と共に燃え上がった。
新都の震撼させていた噂の怪人が、今自分の前で完全に姿を消した。士郎は圧倒的な力で怪人たちを粉砕した光太郎の姿に目を奪われていた。
その光太郎は…
「………ッ!?」
背後にある高層ビルの屋上を見つめる。
彼の強化された聴力と目は、自分達を見つめる存在を捉えた。
(あれは…?)
男だった。灰色の髪と褐色の肌、赤い外套を纏っていた男は観察するようにこちらを見ていたが、次第に憎しみの籠った目で睨んでいることに光太郎は気付く。
(俺を…いや、違う)
その視線の先にあるのは自分ではなく、義弟に支えられている少年に向けられていた。
僅かに目を逸らした間に男は姿を消していた。
明らかに人間とは違う雰囲気を抱く男の正体。光太郎は確信を持って、その存在の名前を胸中で呟く。
(サーヴァント…か)
戦闘描写、勉強しておきます・・・
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