まさかリアル等身のリボルクラッシュを見ることができるのか…非常に楽しみです!
できれば隠しキャラでもいいからBLACKにも出て欲しな…
それでは39話です!
ランサーが栁洞寺の山門で待ち構えていたアサシンと刃を交える数時間前。
間桐邸の前に現れた槍兵の言葉に慎二は目を細めた。今、このサーヴァントは敵に捕らわれた義兄の救出に手を貸すと言った。慎二達から見たら喉から手が出てしまうほどの戦力だ。
しかし、『狙い』がわからない。
何の理由があって、光太郎の救出に手を貸すのか。彼のマスターの支持なのか。それとも罠なのか…
お人好しの義兄と違い、無条件で他人を信用することが出来ない慎二は、まず表情から見極めようとするが、2秒で諦めた。相手は歴戦の戦士であり、英雄と称えられた相手だ。
こちらが見抜くことなど出来るはずがない。その視線に気づいたのか、ランサーはニヤリと笑い、慎二に問いかけた。
「そんな悩んでいる時間があるのか、兄さんよ?」
「っ………」
悔しいがそれも事実だ。だが敵であるランサーの考えが読めず、さらに敵の手に落ちた光太郎の状態は一刻を争う事態に陥っているのかもしれないという焦りが、さらに慎二の判断を鈍らせている。
どうすればいい。
拳を強く握りる慎二の耳に、今では自分をマスターと呼ぶサーヴァントの声が届いた。
「シンジ。ここはランサーを信じましょう」
「ライダー…?」
「確かに、敵であるランサーをすぐに信用するのは難しいでしょう。ですが、彼は真正面からコウタロウと戦った。戦いにまだ迷いがあったコウタロウを奮い立たせてまで、戦ってくれました。彼のマスターに関しては分かりませんが、彼自身が手を貸してくれるというのなら信じるに値します」
ライダーの言葉を聞いて、慎二は改めてランサーを見る。ほらな、と言わんばかりに片目を瞑って笑っている青い男の態度に苛立つ慎二だったが、ここはランサーよりも、ランサーを信じるというライダーの言葉を信じて、助力を受けることにした。
「ともかく、これで第一関門は突破できるな…ランサー。あんたに頼みたいことがある」
「お?早速か。言っとくが、内容によっちゃあ断らせてもらうぜ」
「安心しろよ。むしろ、あんたから望むことだからな」
以前、光太郎から戦った結果、自分の身体に風穴を開けたサーヴァント…ランサーの特徴と性格は聞いていた。彼ならば、ライダーの報告にあった栁洞寺の山門に立つ『番人』に持って来いだろう。
不調だったと言え、あのセイバーと互角の剣で渡り合った相手だ。不満どころか望む所であろうと提案するが…
「面白れぇ…アイツとは一度本気で相手してもらおうと思ってたんだわ…」
犬歯をむき出しにして、先程とは別物の笑みを浮かべるランサー。予想以上の食いつきと迫力に圧倒された慎二とライダーは目を合わせると頷いた。
彼が味方であるうちに早く光太郎を助け出そうと。
そして慎二の支持を受けて準備を進めていた桜も交えて方針を決めた一同は栁洞寺へと移動を開始した。その移動中、慎二はもう一度、ランサーへ協力する理由を聞き出すと、意外な回答だった。
「あの黒い兄ちゃんとのケリつけるため…と言いてぇとこだがな」
「ちょいとキャスターに野暮用がな」
そして現在
「行くぜェ!!」
石段を蹴り、真紅の槍で相手を射抜こうと突撃するランサー。その一撃をアサシンのサーヴァントは動くことなく、長刀で槍の軌道を逸らすことで回避する。
「ふっ…」
「余裕ぶっこくにはまだ早いぜ!アサシンさんよぉッ!!」
咆哮と共に次々と槍による連撃を放つが、全てが流水のごとくかわされていく。
「凄まじき槍捌きだ。触れられると考えただけでも冷や汗が出るぞ」
「そういうときゃもっと焦った顔で言うもんだ、色男!」
再びアサシン目掛けて一撃を繰り出そうと槍を後方へ引いた途端、獰猛な笑みを浮かべていたランサーの顔に緊張が走る。直前までの動作がまるでなかったアサシンの斬撃がランサーの首を切り落とそうと迫っていたのだ。僅かに首を逸らすことで回避したランサーだったが、まさに紙一重。刃の切っ先がランサーの首筋を微かに掠っていた。首に手で触れたランサーは、アサシンの繰り出した攻撃で僅かながら血が出ていることに気付く。
「すかした顔してずっと人様の首狙ってたとは、喰えない奴だ…流石アサシンって言ったところか?そうやって何人の首を切り落としたんだが…」
「空飛ぶ一匹の燕を仕留めるのに幾年もの歳月を費やした無名の男には、荷が重すぎる賞賛よ。そちらも小手調べなどせず、遠き地で英霊と称えられた力を振るわれたら如何かな?」
「…言ってくれるじゃねぇか」
挑発に乗ったランサーの雰囲気が変わる。両手で槍を構え、貫く一点のみ狙いを定める。刹那、地を蹴ったランサーの槍はアサシンの心臓めがけ繰り出された。しかし、次に周囲に響いたのは人の肉を貫くくぐもった音ではなく、金属同士が衝突する音だった。
アサシンがランサーの槍を長刀で受け止めていたのだ。
「重く、激しき槍突だ。しかし、必ずや心の臓に風穴を開けるという貴様の一撃。この程度の物なのか?」
「御期待に応えたいとこなんだが、こっちにも事情があってな…」
「なに…?」
アサシンがランサーの発言に疑問を抱いたと同時だった。
人1人を抱えた女性が石段を駆け上がり、ランサーと互いの得物で押し合っている隙に、あっさりと山門を突破されてしまったのだ。
「……なるほど。元よりあちらが狙いであったか」
「んだよ随分あっさりしてるじゃねえか?門番だろお前さん?」
「確かに女狐には脅威となる者は何人たりとも近寄らせるなと命じられてはいた。しかしだ。今し方門を潜った者共が脅威とは言い難い…それに脅威となる者は目の前にいるというのに、余所見など愚の骨頂だろう?」
「…ほんと食えねぇわアンタ」
ランサーがアサシンを押さえている間のあの一瞬…視線すら向けることすらなく、山門を抜けた彼女の『状態』を読み取った…いや、感じたと言った方が正確だろう。アサシンは侵入に成功した彼女よりも、刃を交えたランサーを一番の脅威であると認識しているのだ。
「貴様もこれで心残りもなしにその槍を振るえるだろう?」
「…ハッ!」
後方へと飛び、再び距離を取ったランサーは力強く、月下に立つ侍に向けて槍を構えた。
「後悔すんじゃねぇぞ…」
ランサーとアサシンが戦闘を続ける中、栁洞寺へ辿り着くことに成功したライダーは呼吸を整えながら周囲を警戒する
(やはり…魔力の供給が弱い…偽臣の書から流れる魔力が弱いのか、それとも魔力を送っているコウタロウの身に何か…?)
考えられる可能性を上げながら、ライダーは汗を拭う。その姿に、同行者は気遣って声をかけた。
「ライダー…大丈夫なの…うぷっ!!」
「…シンジは自分の心配をして下さい」
ライダーの横で膝を付いている慎二は目が隠れるほど深くミッド帽を被り、服装も闇に紛れやすいような寒色で統一されていた。
不調とはいえ、人を抱えてた状態でもライダーのスピードは落ちることなく、栁洞寺までの長い石段を人知を超えた速さで登り切ることが出来たのだ。しかし、そのスピードに耐えられたのはライダー
のみであり、抱えられた慎二は移動中に自分を襲った急加速と急停止による重力差に耐えることが出来ず、今に至っている。
「ハァ、ハァ、この…くらい…どうってことない…はやく、光太郎を見つけないと…」
無理矢理立ち上がった慎二を見て苦笑したライダーは、ハッとして境内の奥からに現れた無数の影に対して、鎖と杭を構えた。
「侵入しゃ…排じょ…する…しんにゅう者…はい除…」
竜牙兵を引き連れたビルゲニアがブツブツと同じ言葉を繰り返し、焦点の合わない目で侵入者であるライダーと慎二に剣を向け、ゆっくりと歩き始めた。
「よりにもよっていきなりアイツかよ…それなりに準備はしたけど…」
「シンジ」
背中に背負っているバックに手を伸ばした慎二を手で制したライダーは、そのまま自分達から見て右奥に位置する大きな倉を指さした。言われるまでもない。あそこに、光太郎がいる。ライダーには、分かるのだろう。
「私が正面から仕掛けるうちに、シンジは走って下さい」
「…いいのかよ。囚われの王子様助ける役目、取っても」
「笑って助けを待つ王子など、願い下げですから」
「ハハッ目に浮かぶ光景だ。どうせそれも、やせ我慢だろうけど」
まだ慎二の軽口に付き合えるほどの余裕があるライダーは、さらに一言添えた。
「…ええ。私の前ぐらいでは、自力で立って気取って欲しいです」
「気づかない振りして立てる…か。いい女だねほんと」
その会話を最後に、ライダーと慎二はそれぞれの役目を果たす為に行動を開始した。慎二は倉目指して全力で走り、ライダーはビルゲニア率いる骸骨の軍団へ向かい、地を蹴った。
「ここに…」
倉の前に立った慎二は音を立てずに足を踏み込む。普段は閉ざされ、寺の坊主数人がかりで解放することが出来る両開きの鉄扉が、今は解放されていた。こちらを誘い込むためなのか…相手の術中にあえて乗るというのは気が乗らない慎二であったが、数秒後にはそんな考えも忘れ、倉の奥で拘束されている義兄の名を叫んだ。
「光太郎ッ!!」
慎二の声に気付いたのか、項垂れていた光太郎はゆっくりと顔を上げる。鎖で両腕を縛られ、禍々しい色の点滴を刺されている義兄は土気色の顔をしながらも、いつも通りに笑っていた。
「やぁ…来てくれたんだね」
「喋るなッ!!今そっちに…」
「行けると思う?」
後から聞こえた女性の声に慎二はギョッとする。足元を見れば、月明かりで自分1人分しかなかった影が、いつの間にか3つに増えていた。急ぎ振り返った慎二の目の前にいたのは、ローブを纏ったサーヴァントと物言わぬサーヴァントのマスターだった。
「アサシンも面倒な事を押し付けてくれたわね…まぁ、一番面倒なサーヴァントの相手をしてくれているのだからお咎めはなしにしようかしら?」
冷や汗を流す慎二に、キャスターは魔力を収束させた掌をゆっくりと向けていく。たっぷりと恐怖を味あわせようと、ワザとらしい動きをしていたが、それが仇となることを彼女はまだ知らなかった。
キャスターが疑問を抱いたのは、その直後だった。
「…ハハハ」
「あら、お兄さんを目の前にして、もう諦めたの?」
「いや、そこまで余裕を見せて貰うなんて…」
未だに汗を流しながら慎二は被っていたミット帽に手を伸ばす。何か仕込んでいるのかと警戒すキャスターだが、既に遅かった。慎二がミット帽に触れた途端、自分の足元から目が瞑れるような眩しい閃光が周囲を照らした。突然の出来事に、キャスターと彼女の背後で様子を見守っていた総一郎も目を晦ましてしまう。
「くぅ…せ、閃光弾ッ!?なんて物を…」
「悪いけど、手段を選ばないんだったら、こっちも負けてないんでね!!」
今度こそミット帽と、一緒に装着していたサングラスを投げ捨てた慎二はポケットに手を伸ばし、数本のマイクロレコーダーを取り出すと同時に再生ボタンを押してキャスター達の足元へ転がした。
マイクロレコーダーが落下した直後、音量を最大に調整された小型の機械からサイレン音やガラスを刃物で引っ掻いた不快な音が次々と流れていく。
「いやぁッ!耳が、耳がぁ!!」
目を開くことが出来ず、続いて鼓膜が破れると錯覚してしまう程の大音響に手で耳を抑えて苦しむキャスターをしり目に、慎二は改めて光太郎の元へと駆けていく。
敵の視覚と聴覚を潰した間に義兄を拘束するあの鎖と毒をどうにかすれば…助けられる!
そう思い、あと少しで義兄へと辿りつく慎二をキャスターの仕掛けた罠が襲った。
「うわあぁぁぁぁぁッ!?」
「し、慎二君ッ!?」
光太郎まであと1メートルもない距離まで接近した慎二を紫色のオーロラが阻み、さらに慎二が触れた途端に電撃が彼を弾き返してしまった。
見れば光太郎を中心に円が描かれ、円の内側には光太郎が見た事のない文字や図形が並び、ゆっくりと回転して力場を作っている。
「け、結界か…」
痺れが抜け、立ち上がった慎二が目を向けると、光太郎を囲っていた円は消失していた。恐らく、光太郎へ何者かが近づいた時に発動し、視認できる術式なのだろう。だが、仕組みが分かっても、『今のまま』ではどうしようもない。どうすればと立ち上がった慎二は突然寒気を感じる。未だに背後ではキャスターの苦しんでいる声と妨害音がちゃんと聞こえている。
ではなぜ、こんなにも嫌な予感がしてしまうのかと、振り返った慎二の左肩の感覚が、一瞬消える。
その直後、脱臼による激痛が慎二を襲った。
「う…ああぁアァァァァァぁぁぁぁッ!!」
肩を押さえて蹲り、絶叫する慎二を見下ろしている総一郎は、変わらずに無表情でいた。
「不意打ちとしては見事と言ったところだが、相手が悪かったな」
淡々と話す総一郎の言葉は慎二に届いていない。少しでも肩の痛みを和らげようと、ただひたすら叫んでいることしか出来なかった。
確かに魔術師であるキャスターにとっては、慎二の手段は有効だった。しかし、暗殺者であった葛木総一郎に通用したのは最初の目くらましのみ。ライダーを拳のみで沈めしまうこの男の前では、その場しのぎの陽動など、意味がなかったのだ。
そして、キャスターを囲っていたマイクロレコーダーが、突然火に包まれる。落ち着きを取り戻したキャスターが魔術で発火させたのだろう。
「よくもやってくれたわね坊や…最初はいじめてあげようかと思ったけど気が変わったわ」
キャスターが手に持った杖を慎二へと向ける。杖の先端から放たれたレーザーのような魔力が顔を上げた慎二の頬をかする。床に落下した赤い液体が自分の血液であると理解した慎二は、痛む肩を庇いながら、震えながら、キャスターへと顔を向ける
「…次は、外さないわよ」
冷酷に笑うキャスターの言葉を聞いた慎二は、再び走りだした。しかしその方向は光太郎の真逆である外への扉へであった。
「うわあぁぁぁぁぁぁッ!!嫌だ、死にたくないぃぃッ!!」
恐怖に駆られた慎二は悲鳴を上げて扉を目指した。助けに来たはずの義兄に背を向け、自己の生存のために敗走を始めたのだった。
「全く、見苦しいわね」
慎二の姿を見て呆れながらキャスターは人差し指で何かを弾くような動作をする。その直後、鉄扉が閉まり、慎二の行く手を阻んでしまう。
「あ、開けよ!開けぇ!開けてくれぇぇぇぇぇッ!!」
残る右腕で扉を叩き続ける慎二。その姿に、怒り心頭だったキャスターは逆に、一瞬でも自分を怯ませた男の本性を見て、上機嫌となった。
「アハハハハ!随分と粋がったわりには面白い姿を見せてくれるわね。本当だったらもっと見ていたい所だけど…」
キャスターは手にナイフを出現させると、慎二に止めを刺そうと近づく総一郎を制する。自分にやらせて欲しいと目配りをし、了承した総一郎は黙って慎二に向かうキャスターの背中を見つめていた。
「よくも総一郎様の前で恥をかかせてくれたわね…御礼に、一瞬で死なせて上げる。お兄さんの前でね」
「ひ、ヒィッ!?」
鉄扉を背にして腰を抜かした慎二は怯えきった表情でわめき続けた。
「や、やだ!!助けてくれ、助けてくれよ光太郎オォォォォッ!!」
顔を庇うように右腕を振り回す慎二。しかし、キャスターは構うことなく、両手でナイフを持つ。
「本当に情けないわね。ここまで来て最後に他人頼りなんて。でももう御終いよ。それに、見せつけなきゃね」
キャスターは口元を歪めながら、光太郎を見た。
(私が殺す事を躊躇っているですって…?そんな迷い、とうの昔に捨て去ったことを証明してあげる。貴方の弟の死でね)
とうとう諦めたのか、ダラリと腕を下げて項垂れる慎二の頭へ突き立てる為に、ナイフを振り上げる。
「さぁ坊や――――――」
「…お前は次に――――」
『あの世で後悔しなさいッ!!』
「―――と言う」
「…っ!!」
自分と全く同じ言葉を吐いた事を不気味に思ったキャスターはピタリと動きを止めてしまう。ゆっくりと顔を上げる慎二の表情は、先ほどの怯えきった顔が嘘のように、脱臼の痛みに耐えながらも、悪戯に成功した子供のように、嫌らしく笑っていたのだ。
「御礼を言いたくなるくらいに引っかかってくれてありがとう。『メディアさん』」
「あ、貴方…っ私の真名をッ!?」
何故わかったの、とキャスターが聞き出す前に、慎二は転がりながら真横へ移動する。その意図が理解出来なかったキャスターはまたもや慎二に謀られる事となった。
慎二の行動と言動に気に取られたキャスターは気が付かなかった。この倉へ近付く『何か』の爆音が段々と大きくなっていくのを。
そしてキャスターが目にしたのは――――
鉄扉を突き破った2台のバイク
バトルホッパーとロードセクターだった。
演技派のシンちゃんでした。
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