短めな26話でございます!
義弟を探すため新都へ向かった間桐光太郎が出会ったのは、当時の聖杯戦争でライダーのクラスとして召喚されたサーヴァントであった。
彼らを過去の映像として見ているライダーには偶然とは思えない遭遇にただ、驚くしかない。現代の光太郎から、過去にサーヴァントと接触したという話は聞いていなかった。
恐らく、今でも彼がどの様な存在なのかは光太郎は知らないはずだ。
「ん?どうした小僧、余の顔に何かついているのか?」
「あ…いえ、この辺りで酒屋さんだと…」
まさか流暢な日本語で話しかけられるとは思わなかった光太郎は、近所では有名な酒屋までの道のりを説明する。その店は多くのアルコール飲料を扱っていることもそうだが、店の一人娘とその友人が店の前で漫才とも思える罵り合いをしている姿が度々目撃されている方が話題となっており、その噂は光太郎の学校にも届いている。クラスメートにも見に行こうなど言い出す人間が出るくらいであった。
「合い分かった!その店に余の行う宴に相応しきものが陳列されていると期待しよう!」
「あ、あの!!」
説明を聞き終えたサーバントは意気揚々と酒屋への道を進む前に、先程と逆に光太郎からの質問を受ける。
「この辺りで、俺と同じくらいの男子の集団を見かけませんでした?あと、その中に一人だけ歳が3つほど離れている子もいるはずなんですけど…」
焦るあまりに息巻いて尋ねる光太郎の質問にサーヴァントは困った顔で回答する。答えはノーだった。
「そう…ですか。すみません、邪魔してしまって…」
「よいよい。して、今小僧が探している連中は何なのだ?」
「同級生と…身内です」
興味半分で聞いているのだろうか。時間が惜しいと考える光太郎は簡単に説明し、義弟捜索の為にその場を離れようとしたが、サーヴァントの言葉に体が強張ってしまう。
「身内を探しているには、些か緊張感が足りんな…小僧は見つけることよりも見つけた後の事を心配しておらんか?」
「っ!?」
振り返る光太郎。サーヴァントは変わらずに笑っている。だが同じ笑顔でも質が違った。酒屋までの道を冒険するかのような楽しむ破顔ではなく、こちらの警戒心を解くような、優しい微笑みだ。
「…どうやら事情がありそうだな。どうだ小僧、余に話してみぃ。」
「でも、これは…」
「民の迷いに耳を傾けるのも王たる者の常だ。ほれ、話すのにちょうど良い場所もあるではないか!!」
大声でオープンテラスの喫茶店を指さして進んでいくサーヴァント。流されるままに巻き込まれているはずなのに、光太郎は不思議とそれを不快に思わず、サーヴァントの後に続いた。何故だか、この男性になら、話してもいいとさっきの笑顔を見て、思ってしまった。
余談だが、サーヴァントが指定した場所はコーヒーとケーキを売りにしているオープンテラス。何の注文もせず居座るのは気まずいと思った光太郎は先に2人分の飲み物をオーダー。笑顔で先払いの会計をする店員に席の場所を伝え、サーヴァントの待つ席へ向かいながら、風通しの良くなった財布を見てため息をついた。
「うむ、小さい!!」
光太郎の事情を聞き終えた直後に出た言葉がそれだった。
自分の体や養子となった経由には触れず、慎二との間に起きたことを搔い摘んで話した光太郎は目を丸くする。初対面である彼から同情や憐みが欲しかったわけではないが、周囲の人間に心配される程悩んだことが一言で片づけられるとは思いもしなかったのだ。
「その小さき体に見合う小さき悩みだ。ハッハッハ!!」
(そりゃ貴方に比べたら俺は小さいだろうけど…)
これでもクラスでは三番目には背が高い方だとなけなしのプライドを主張しようとしたが、サーヴァントは笑いを止め、真顔で光太郎に向き合う。
「小僧、お前の弟とやらが言うように、血筋というものは肉親と証明させることにはこの上ない繋がりであろう。だがな、それでも人は1人なのだ」
「…?」
言っている意味が分からない光太郎は首を傾げる。
「血が繋がっているとはいえ、肉親同士で完全に分かり合える者などそうはいまい。余の生きた時代など、国によっては世継ぎを争って兄弟同士で殺し合うなどよく耳にしていたわ」
「兄弟…同士で?」
「うむ。比べるのもおかしな話であるが、この時代であっても珍しいことでもあるまい。『にゆうす』とやらに今朝もやっとったな」
「ええ。確か、親を殺した男がそのまま逃亡中とか」
話を合わせながら、光太郎は鶴野から言われたことを思い出す。
『魔術の家にとっては、血筋こそ全て』
慎二との対話に失敗したある日に、鶴野から言われたことだった。さらに一子相伝である魔術の後継者を巡り、争いが起きることすらあることを聞き、光太郎は耳を疑っていた。
同じ血を持つ同士でも対立する世界。
幼いころから言い聞かされて育った慎二とは自分は争う相手以外の何者でもないかもしれない。さらに血を分けた本当の家族ではない自分とは、もう分かり合えることは出来ないのだろうか…
どんどん思考がマイナス面へと沈んでいく光太郎に、再びサーヴァントの声が届く。
「だがな小僧。先にも言ったが血筋など所詮、証明させる材料に過ぎん。ならば、より強く、固いもので繋がればよい!」
「強い…もの?」
そんなもの実在するのか…?言わなくとも光太郎の質問を理解しているサーヴァントは自信を持って頷くと、声を張って答えた。
「より強く、より濃く人と人を繋ぐもの…『絆』だ!!」
サーヴァントの言葉を聞いた光太郎は、先程まであった嫌な重圧感が払われた気がした。サーヴァントの言葉は続く。
「絆は血筋も、性別も、年齢も、人種すら垣根を超える!その紡がれた力は個人の限界を超え、不可能も可能とする力なのだ!!!」
サーヴァントの力説に耳を奪われたのは、光太郎だけではなく、周りに座ってお茶を飲む客や配膳途中のウエイトレス、通行人すら立ち止まって聞いている。中には手を叩いたり、サーヴァントの言った事を書き留める者すらいた。
「絆…」
光太郎は言われるまで忘れていた。サーヴァントの言った血筋すら超えるものに、自分はずっと支えられていたことを。
秋月家の両親と兄妹。
間桐家で兄妹となった桜。
そして義弟の情報をいち早く伝えてくれたクラスメート達。
(何だよ…当たり前のことに、何で気付かなかったんだろう)
情けないなと言って笑う光太郎に、サーヴァントは初めてあった時のような笑顔を向ける。
「どうやら掴んだようだな」
「はい、ありがとうございます!でも、認めてもらうには時間がかかりそうですけど、頑張ってみます」
「うむ、ではこれを最後の導きとしよう。小僧が最初にすべきは認めて貰うより先に、認めてやることだ!」
「認める…?」
「あとは、自分で考えるがよい」
「…はいっ!!」
元気よく答えた光太郎のポケットから響く着信音。失礼と言って携帯電話を開くと慎二の情報をくれたクラスメートから再びがメールにて届いていた。塾に行く友人から話に聞いた連中が中心街を抜けていった内容になっている。すると再びメールが届く。どうやら他のクラスメートにも一斉送信していたらしく、同じく目撃情報や応援、報酬は明日の給食のデザートなど内容が次々と送られてきた。
「…余が話すまでもなかったかも知れんな」
光太郎の嬉しそうな顔を見て、サーヴァントはそう言わずにはいられなかったが、光太郎は首を横に振る。
「いえ、貴方の話を聞くまでは、向き合うことすらなかったかもしれません。こんなにも、大切なものに…」
畳んだ携帯電話を握りしめて、光太郎は立ち上がった。もう、迷うことなく慎二を探すことが出来るからだ。
「…よい目になった。どうだ小僧、問題が解決した後に余の部下となって世界を回らんか?」
「すいません、面白そうですけど…まだ、家族と一緒いたいんです!!」
そう言って、光太郎は駆け出していった。
段々と小さくなっていく少年の背中を見て、サーヴァントは手つかずだったコーヒーを一気に飲み干す。
「部下にならんのが真に惜しいな。あと十年もすれば、実に良い漢になるだろう…」
「それは、現実となりますよ。この時代のライダー」
届かない返事を、ライダーは感謝と共に送った。
「ありがとうございます。この時代のコウタロウを導いてくれて…」
頭を下げたライダーは、義弟を探しに向かう光太郎を追った。
それと入れ替わるように、小柄な少年がサーヴァントの座る席へと駆け寄ってきた。
「コラ――ッ!!何暢気にお茶してやがりますかお前は――ッ!?」
「おう坊主、遅かったではないか?」
「何が遅いだよ!?ま勝手にうろつきやがって、僕のサーヴァントならちゃんと―ギャヒンッ!?」
目くじらを立てる少年は額をサーヴァントに強くでこピンされ、のたうち回っている。
「こちらはまだまだだな…」
間桐光太郎と第四次聖杯戦争時のライダー…真名、征服王イスカンダル。
互いの素性を知らないままの、最初で最後の出会いであった。
今回のゲスト、征服王でございました。
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