Fate/Double Rider   作:ヨーヨー

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過去編、本来なら2,3話で終了の予定がここまで伸びてしまうとは…話が進むにつれて書き足したい内容が増えてしまった…

もう少しで一区切りの25話でございます


第25話『彼の記憶―拒絶―』

間桐光太郎が義理の叔父である雁夜との初対面を終えた後の一年間は、それまで悲惨な記憶しか見ることのなかったライダーにとって喜ばしい時間が進んでいた。

 

桜に心を許した事が切っ掛けとなり、光太郎は以前の明るく素直な性格に戻り始めていた。

学校の教室に到着後、元気よく挨拶する姿に生徒全員が呆気にとられたが、そんな違和感は三日も待たず氷解し、クラスメートと溶け込んで談笑する光太郎の姿がライダーにの目に写っている。

校内に流れた妙な噂も、光太郎を苛めていた生徒たちが流したデマであると認識され、光太郎を避ける同級生はいなくなっていた。

しかし一部ではそうはいかず、光太郎を苛めていた主犯達は彼が近づく度に避けるか逃げ出してしまい、あの時は木材が元々腐っていたので折れやすく、さらに頭に当たった部分は昔手術してチタンが埋まっているから痛くなかったなどの言い訳を伝えられずにいた。

まるで自分の方が加害者のような姿である光太郎の肩を叩いたクラスメート達は『気にするな!』『悪いのはあっちなんでしょ?』『早くサッカーしようぜ!!』と暖かく迎え入れてくれた。

 

「…私の知っている、コウタロウですね」

相手に通じないことも、触れられないと分かっていながらも、ライダーはまだ自分の背を抜いていないマスター隣で膝を付き、その頬に触れる。正確には光太郎の頬にある位置へ手をかざしているに過ぎないが、今のライダーにはそれで充分であった。

 

桜の幼稚園の送り迎えも光太郎の仕事であった。元々面倒見が良い性格が幸いし、空いている時間があれば他の子供も世話をしている姿に他の親や職員から評価され、嫌々保護者会に参加した鶴野がそのことで周囲から賞賛され、居たたまれない気持ちとなっていた。

 

その養父…鶴野との関係は最初よりマシになった程度である。挨拶をすれば返し、光太郎がバッタ怪人になっても怯えなくなっていた。友達との遊びや桜と何処か遠出する際に、小遣いを遠慮がちに頼んだ時は顔を歪ませながらも、「無駄遣いはするな」と言いながら用意する姿がどこか可笑しかった。

 

そして祖父…臓硯は相変わらずだ。夜にしか姿を現さず、散歩だと外へ出て行ってしまう。最近だと碌に自分とも顔を合わそうとせず、決まり事である週に一度の診断結果も直接受け取らず、書斎に置いておくように指示されるだけであった。

 

叔父である雁夜の姿は、あの日以来、見ていない。時折、その叔父と似た声が出入り禁止とされている地下室から聞こえた気がしたが、そこへと続く階段が不気味過ぎて近づくことが出来なかった。

 

 

 

 

そして1年後…

 

 

 

 

 

学年も上がり、小学一年生となった桜と帰宅した光太郎に、養父から珍しく声をかけらえた。

 

「光太郎…慎二のことは知っているな?」

「はい…留学してるんですよね?」

「…来月に、1か月ほど帰国する。ある程度お前達の説明は済んでいるが、深く関わろうとするなよ」

 

それだけ言うと、自室へと戻っていった。

 

「…どういうしたの?お兄ちゃん」

「ん~と、もう一人のお兄ちゃんがちょっとだけ外国から返ってくるみたいだね?」

「ほんと!?慎二お兄ちゃんに会えるの!?」

「うん…」

 

名前でしか知らないもう一人の兄に会えることを純粋に喜んでいる桜であったが、養父の言葉に光太郎はあまりいい予感を抱けなかった。

 

(ある程度の説明…か)

 

どのように伝わっているのか。そればかりが気になっていた。

 

 

「幼いころの慎二ですか…」

 

桜とはぎこちない会話から始まったが、彼とはどのような…と興味を持つライダーだったが、それは予想以上に強烈なものであった。

 

 

ガシャンっと食器を床に叩きつけられた音が間桐家の食卓に響く。呆然とする桜の足元には割れた皿と床に散らばってしまったパンケーキ…あちこちにを焦がしながらも頑張って作られた桜の手作りが無残な姿となってしまった。

段々と涙目になる桜など気にも止めず、パンケーキを床にほ落とした少年…慎二は悪そびれた様子もなく、高圧的な態度で口を開く。

 

「何泣いてるんだよ。そんなもの食べさせようとして、僕を悪者扱いするのかよ!」

「う、うぅ・・・・・・・」

 

とうとう泣き始めてしまった桜に駆け寄って宥める光太郎は、さらに目を鋭くする慎二の視線を受けながら問いかけた。

 

「どうしてこんなことするの?桜ちゃん、慎二君と会えることにを楽しみにして…」

「気安く僕の名前を呼ぶな!本当の家族じゃないくせに!!」

 

光太郎の呼吸が止まる。それは秋月家でも、今いる間桐家でもはっきりと言われたことのない、拒絶の言葉だった。後方にいる鶴野は、黙ってその様子を伺っている。

 

「っ・・・・フン!」

 

光太郎の顔を見て多少応えたのか、慎二は荷物を持って足早にその場を去っていった。自分に抱きついて泣き続ける桜の背中を撫でながら、慎二に言われた言葉を重複する光太郎。

 

「家族じゃ、ない…」

「だから言っただろう。深く関わろうとするなと」

 

よほど慎二に言われた事がショックだったのか。鶴野が隣で膝を付き、慎二が叩きつけた皿を拾い集めている事に気付けなかった。

 

「お前達のことを説明した時点でこうなるとは思ってたがここまでとはな…」

「え…」

 

それはどういう…と光太郎が尋ねるより先に立ち上がり、汚れていない手で桜の頭を一度撫でると、破損した皿の廃棄の為に、食堂を後にした。

 

 

桜を落ち着かせ、自室のベットで横になっていた光太郎は、養父の言った事を考える。

 

(俺達が、慎二君にとって厄介な存在…か。ただ目ざわりなだけっていうことなら解かりやすいんだけど)

 

本来なら、この間桐家の子供は彼しかいないはずだった。それが突然兄妹が…しかも年上が出来たら面白くはない。しかし、この件はそこまで単純な話ではないと光太郎は考える。

それに、1年近くも過ごしながら、この家の事をほとんど知らないのだ。魔術…と言う言葉を時々耳にするくらいで、気に留めることなく生活を続けた自分に呆れつつも、光太郎はベットにから立ち上がった。

 

「何が気に食わないのか分からないなら…聞くしかないよね!」

 

方針を決めた光太郎が扉を開けようとした途端、妙なものを感じた。

 

「…まただ」

 

最近になって、光太郎の頭に響く違和感。それはすぐに収まるが、不快にさせるものではない。何か、必死に自分を探している。そんな気配だった。

 

 

「入るよ慎二君!」

「開けた後に言わないでよ!ていうか勝手に…」

「へぇ…留学していただけあって英語の本が多いね」

「それは英語じゃなくてドイツ語…って勝手に触るな!!」

 

光太郎が手にした本をひったくる慎二は恨んでいると言わんばかりに光太郎を睨みつけた。こんな態度を取るからには、相応の理由があると考えた光太郎は単刀直入に聞くことにした。

 

「慎二君…どうして俺や桜ちゃんをそこまで嫌うの?理由があるなら…」

「理由…だって!?そんなの、お前たちがこの家に…間桐の人間になったことに決まってるだろ!!」

「間桐の…人間?」

 

まるで意味が分からない。そんな光太郎の態度がさらに慎二の怒りを買う事となってしまった。

 

「お前っ…どこまで僕のこと馬鹿にするつもり何だよ!」

「落ち着いて慎二君!俺は本当に…」

「出てけ…出てけよ!!」

 

 

慎二の剣幕に押され、結局なんの収穫のないまま自室に戻る光太郎だったが、その前に何か飲もうとキッチンに移動する。すると、そこで酒を煽っている養父と遭遇した。

 

「…医者に止められてるんじゃ?」

「うるさい。俺の勝手だ」

 

厳しい一言である。以前のように声を上げることは無くなったからいいかと飲み物を諦め、自室に戻ろうとした光太郎の耳に、養父の声が届いた。

 

「今から俺は独り言を言う…何も言うんじゃないぞ」

「はい・・・?」

「何も言うなと言ったはずだ・・・」

「・・・・・・・」

 

意外な人物からの情報提供に光太郎は耳を疑いながらも、その独り言を聞くことにした。

 

 

元々、間桐家はこの冬木に昔からの住んでいるわけでは無かった。とある目的…悲願と言い換えても過言ではない事を果たす為にこの地へ根を下ろした。しかし、代を重ねる事にその血は薄れ、悲願達成に必要な力が、慎二の代になってゼロとなってしまった。昔から自分がどのような家に生まれたか聞かされた慎二はそれを幼いながも誇りに思っており、自分が間桐の悲願を果すといい続けた。しかし、祖父の命令で追い出されるよう言い渡された海外への留学。さらに失った力を高めるためにその道で名門とされた家から養子を向かい入れ、家督を継がせるという情報が耳に届き、彼の夢は崩れ去った。さらに止めとなったのが、当主に見出され、養子となった義兄の存在がさらに慎二を追い詰めたという。それにより益々自分が『必要ない存在と』思い込んだ少年の捌け口は、欲しくもなかった兄妹への恨みしかなかったのだ。

 

 

酒が切れた…

 

そう言って鶴野は去っていき、残るのは立ち尽くす光太郎だけであった。

 

 

 

(どうしたもんかな…)

 

鶴野の独り言を聞いてから一週間後。

 

光太郎は短い休み時間の間、机にうつ伏せて悩んでいた。その後も慎二とは打ち解けることが出来ず、今にいたっている。桜と協力しても結果は変わらず、暴言で泣かされながらも仲良くなりたい…と、自分より年下なのにめげずにいる義妹の姿には天晴れと言う他ない。光太郎も負けじと踏ん張ってはいるが、慎二に言われたことがどうしても頭から離れず、行動が中途半端になってしまっていた。

 

「家族じゃない…か」

「どうしたコータ?給食までまだ2時間あろぞ」

「…空腹で悩んでるんじゃはないんですよこれが」

「男に空腹以外の悩みとなると、あれか!放課後のサッカーゴールの陣取りか!!」

 

悩む光太郎に愉快な声掛けをする短髪の男子に続き、複数の生徒が話しかけてきた。

 

「そんなことで間桐君が悩むわけ無いじゃないでしょ馬鹿馬鹿しい…きっと、転入してきた弟さんのことよね?」

「あ~なんだかこっちまで話が届いてんな~。海外に行ってたってことで頭もいいし、運動もそこそこらしいじゃん」

「でもぉ、それを鼻にかけてるって噂もあるよぉ。それがホントならちょっと生意気!」

 

眼鏡をかけた委員長のような女子に、ボーっとした細目の男子と背伸びして無理やり大人っぽい服を来ている女子が義弟の生活態度の報告を頂いた光太郎は益々顔が上げずらい状況となってしまった。

 

「は~ん、コータも大変だな。お、それで思い出した!妹に聞いたんだが、一昨日くらいにコータの弟が上級生に呼び出されたらしいな」

「え…?」

 

流石に聞き逃せない情報に光太郎は顔を上げた。

 

「それって、誰に」

「…コータにゃ嫌なこと思い出させちまうけど、あいつらだよ」

 

あいつら と言われただけで合点がいった。クラス替えによって誰一人同じく教室にならなかったが、一年前に光太郎を苛めていた生徒たちだ。家での様子を見る限りはまだ暴力を受けた様子はない。もし既に受けているのなら「お前のせいだ!」と突っかかってくるだろう。

 

「どうするの間桐君?先生に相談する?」

「・・・・・・・」

 

悩みどころだった。ここで教師の助力を受ければまだ間に合う。しかし、光太郎の顔を殴るまではばれることなく苛め続けた連中だ。教師の介入後、さらに悪質になりかねない。

ここは一つ…慎二本人は嫌がるだろうが、自分が出て行くしかない。そうすれば、あの生徒たちも逃げ出すだろう。

 

「…俺が何とかしてみるよ。次に慎二君を呼び出したら、その時・・・・・・・」

「こンのバカちんがぁ!!」

 

後頭部を掴まれ、机に額を叩きつけられた光太郎。その光景にクラス全体の空気が凍ってしまった。

 

「痛い…」

 

当然の痛みが光太郎を襲う。このような不意打ちでも痛覚が年相応となってはいることに安心したが、それでも痛いものは痛かった。

 

「ちょ、ちょっと何をやっているのよ!?」

「うわ~いたそ~」

「それ、コーちゃんが自分で言ってたじゃなぁい」

 

光太郎への仕打ちに非難の目を浴びることに構わず、男子は続けた。

 

「いいか間桐光太郎!!去年は分けわかんねぇ噂でお前を一人にしちまったが今は違う!もっと周りを頼りやがれ!!」

 

ポカンとする光太郎は、自分を囲っている生徒たちを見る。男子の極端な行動に呆れながらも、全員が同意見のようだ。

 

「間桐くん。あの時は、同じクラスだったのに何もできなかったけど…今度は、力になりたいわ!」

「そ~そ。なにも一人で悩むこたぁないって」

「何かわかったらぁ、直ぐに知らせるわよ」

 

僕も!私も!と次々と手を挙げる友人の姿に、光太郎は目頭が熱くなるのを感じた。

 

「みんな…ありがとう!」

 

光太郎は、心からの言葉をクラス全員に伝えた。

 

 

 

放課後

 

桜と下校し、家に戻った光太郎の携帯電話にメールが届いていた。内容は慎二が上級生達と新都へ移動する姿を見かけたとの情報だ。

カバンを部屋に放り込み、光太郎は人気のないことを確認した直後、脚力を強化して電柱を足場に移動を開始した。

 

 

「っても、新都っていう情報だけじゃ…」

 

目的地へとついたが、それっきりの情報も今はない。こうなれば足で探すほかないと動いた直後、光太郎は壁のような長身の男とぶつかってしまう。

 

 

 

 

「おぉ、すまんな小僧!!」

「いえ、こちら…こそ…」

 

 

謝罪しようと見上げる光太郎は男の格好に唖然とする。もう肌寒いこの次期にTシャツ一枚であり、その厚い胸板には最近発売されたゲームのタイトルが印刷されている。

女性の足と思えるほど太く、鍛え上げた筋肉質の腕を腰に添え、獅子を連想させられるほど髭を蓄えた男は、人懐っこい笑顔で光太郎に尋ねた。

 

「こうして鉢合わせしたのも何かの縁、。小僧よ、この辺りで上物の酒を置いてある場所を知っていおるか?」

 

ニンマリと笑う男の姿に、ライダーは驚愕した。

 

「まさか…!?いえ、時期的にはいてもおかしくはありませんが…」

 

光太郎がぶつかった男…彼女と同じく、ライダーのクラスで召喚された、この時代の聖杯戦争に参加したサーヴァントであった。

 

 

 




クラスメートはプリズマ☆イリヤを参考にこんな同級生がいたら光太郎は楽しんでいただろうな…という考えから生まれたオリジナルです。

鶴野さんは…一年の間に色々あって多少丸くなっております。


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