自分でもここまで続くと思わなかった20話をどうぞ!
第20話
(ここは・・・?)
ライダーは気が付けば見知らぬ住宅街の道に立っていた。見渡す限り、そこは自分が生活している冬木では見たことのない土地であった。
(私は何故こんなところに・・・いえ、それ以上に今の時間は・・・)
上を見上げると太陽が燦々と輝いている。先程まで自分は桜と寝ていたはず。それがなぜいつの間にか見知らぬ土地におり、おまけに寝間着から凛に贈られた服へ着替えて眼鏡…魔眼殺しまで付けているのだろうか。
(キャスターの催眠魔術・・・?ありえませんね。それであれば私は柳洞寺まで誘導されるはず。そもそもあのサーヴァントが日中から活動するはずがない)
考えを巡らせるが一向に結論に至らない。悩むライダーの思考を停止させたのは、真横に建つ一軒家の扉が勢い良く開けられた音であった。
「信彦!早く行かないと遅れちゃうぞ!」
サッカーボールを手にした活発な少年が後向きで駆けてくる。門の前で立つライダーの姿に気が付いていないようであり、ライダーは少年と接触しないように移動しようとしたが、後から扉を開けたもう一人の少年の声に耳を疑ってしまう。
「待ってよ『光太郎』!まだ時間は・・・」
(こ、コウタロウ!?)
自分の良く知る名前を聞いたライダーは思わず動きを止めてしまう。こちらに気付かない少年は門まで走り、少年に怪我をさせまいと受け止めるために構えていたライダーを『すり抜けて』いった。
(え・・・?)
今起きた現象に驚きを隠せないライダーの体をもう一人の少年がすり抜けていく。道で合流した二人の少年は笑いながら再び駆けていった。
(今のは・・・一体?)
ライダーは、手近にあった壁に恐る恐る自分の指を近づける。するとライダーの指先は壁に接触することなく、壁の中に沈んでいった。
(なるほど・・・今の私は霊体か、もしくはそれに近い状態のようですね)
少しずつ自分の置かれた状況を整理していくライダーは次の行動に移った。
「あまり褒められる方法ではありませんが・・・少しでも情報を得るためです」
自分を納得させるように呟くライダーは目の前に立つ家への侵入を決意した。・・・霊体化して情報収集する際に散々行ったことではあるが、夜間と日中では勝手が違う。普段以上に周りを警戒して動くライダーは門をくぐる前にこの家の表札に目を止める。
そこには『秋月』と刻まれていた。
秋月家内を捜索して分ったことは2つかあった。
新聞の西暦と日付を見て、自分がいるのは12年前であること。
先程見たあの少年が自分のマスターと単に同名ではなく同一人物であること。
この2点から導かれた結論は。今自分が立っている世界は・・・
「私は・・・コウタロウの過去を見ている」
マスターとサーヴァントを繋ぐパスを通して無意識化でお互いの記憶を見る。今ここに立っているライダーは彼女の精神体であり、光太郎の記憶にある世界に紛れ込んでいるのだ。
現実にいるライダーは今も桜と枕を並べて寝ているだろう。
リビングにあった家族写真の中で、現在でも面影がある顔で笑っている光太郎を見た。優しそうな両親に挟まれ、一緒に出かけた信彦と呼ばれた少年と肩を組み彼らの間には幼い少女も笑顔で写っている。
「不思議ですね。コウタロウにサクラとシンジ以外の家族と笑っている姿を見ると・・・」
写真を眺めてどこか寂しさを感じたライダーの周囲がまるで溶け合うように突如歪みだした。
「!?」
ライダーが驚く間もなく、彼女の立っていた場所が家の中から、寺の前と変化した。
(…場所が変わった?光太郎に根強く残っている記憶へ切り替わるということでしょうか?)
推測するライダーの背後で、車の止まる音が聞こえた。振り向くと、その車から花束を持った少年の光太郎が下りて、運転席の窓越しに父親らしき人物と言葉を交わしている。
「…1人で大丈夫か光太郎?」
「大丈夫!1人でも出来るってことを2人にも見せてあげたいんだ!」
「…わかった。南達によろしくな」
「うん!後でね父さん!!」
花束を落とさないよう両手で持った光太郎は墓地の方へと走って行った。その様子を見守る父親へ助手席に座っている母親が優しく声をかけた。
「元気に育ちましたね。光太郎は」
「ああ…私達が引き取って、もう5年になるのか」
(引き取って…?)
新たな情報を知ったライダーは夫婦の会話に耳を傾ける。このような時、自分の姿が相手に全く悟られないことに感謝しなければ…と考えながら2人へと注目した。
「…南さんの事は本当に気の毒に思います。あの子がまだ物心つく前とはいえ、そろって事故に合うなんて…」
「お前には迷惑をかけたな。何の相談なしに光太郎を養子にしてしまって…」
「いえ、あなたの御親友の忘れ形見ですもの。それに私にとっては信彦と杏子と同じく、大事な息子です」
「ん?何の話?」
後の席で妹とあやとりをしていた信彦が自分の名前を出したことを不思議に思い、両親に尋ねた。母親は笑いながら息子の疑問に答える。
「なんでもないわ。光太郎は2人とこれからもずっと仲良しでいたらいいなってお話してたのよ」
「あったりまえじゃん!光太郎とは兄弟なんだから、当然だよ!な、杏子?」
「うん!杏子も光太郎お兄ちゃん大好きだもん!」
息子と娘の宣言に母親は優しく微笑み返した。その時、父親が複雑な表情を浮かべていた理由を、ライダーはまだ理解出来なかった。
(コウタロウは…)
秋月一家の乗った車から離れたライダーは光太郎の姿を探しに墓地を歩き回っていた。程なく見つかった光太郎は、墓前で両手を合わして目を瞑っている。
「…コウタロウ」
彼の背後に立ち、名前を呼んで見るが、無論振り向く気配はない。光太郎の前にある墓石には「南」という文字が刻まれている。つまり、光太郎はライダーの知る間桐となるまで2度、姓が変わっていることになる。
「…お父さん、お母さん。僕は元気だよ」
(……………)
ライダーは黙って幼い光太郎が今は亡き生みの親に伝えている姿を見守っている。彼が今、どのような表情をしているのかは、分からない。
「2人の事は、正直いって写真でしか知らないけど、父さんは言ってたんだ。2人は僕の事を本当に大事にしてくれてたんだって。だから、僕は2人の分まで頑張って生きなきゃダメなんだって」
少年は続けて墓前の前で、両親へと言葉を送り続ける。それは亡き両親を安心させるためか。自分への決意表明なのか。あるは両方かもしれない。
「父さんの言う通り、僕は頑張るよ。南光太郎としても、秋月光太郎としても、頑張って生きていく。みんなと一緒に!」
笑って伝えた。少年の背中しか見ていなかったライダーにはそう感じとれた。こうして人を安心させるために笑顔で話をする所は、変わっていないのだろう。
「…また、来ます」
ペコリと頭を下げた光太郎は行きとは逆にゆっくりとした足取りで墓前から離れて行った。
「変わらないのですね。子供のころから・・・」
小さくなっていく幼いマスターの姿を見て自然と顔が綻ぶのライダー。彼の人を安心させる、穏やかな性格はこの頃から完成していたのだろう。感心するライダーの周囲が、再び切り替わる。
春は花見
夏は海水浴
秋は紅葉狩り
冬は雪遊び…
パノラマのように映し出される家族との記憶。その中でも一番多く映っていたのは兄妹…特に信彦との思い出だ。
いつも一緒に行動し、時には喧嘩し、すぐ仲直りする…喜びも悲しみも分かち合え、互いに競い、高め合う…まさに親友と呼び合える間柄だ。
だからこそライダーは解せなかった。
こんなにも光太郎が愛し、愛された秋月家から離れ、間桐家の人間となったのか…
ライダーの抱いた疑問に答えるように、次の記憶へと切り替わる。
「今度は夕暮れ・・・ですか」
場面は固定され、住宅街に西日が差す光景となった。辺りを見渡すライダーが見つけたのは2人の少年。光太郎と信彦だ。学校帰りである2人は談笑しながら帰路に着いている。
「そういや僕たちもうすぐ誕生日だね」
「あ~もうそんな時期かぁ」
切り出した光太郎の言葉に紐で括っているサッカーボールを蹴りながら答える信彦。
「でも不思議だよね。僕と信彦は同じ日に、同じ時間に生まれたなんて・・・」
「ほんと、双子より確率低いもんな…偶然ってのはすごいや」
「偶然ではない…運命なのだ」
2人の会話に続いて響いた低く、冷たい声に光太郎と信彦は同時に振り向く。そこにいたのは、白いローブを纏った怪人だった。
「怪人…!?もう、この時代からいたというのですか!」
その怪人が白く不気味な手を2人の眼前に翳した途端、糸の切れた人形のように意識を失ってしまった。
場面は切り替わる。
そこは不気味という言葉以外が浮かばない場所であった。
霧が床を這い、呻き声が絶えず響き渡る…その奥に位置する石段の上に、2人はいた。裸体にされた2人は宙に浮かされ、全身のあちこちに管が繋がれている状態で意識を失っている。
「コウタロウッ!?」
急いで駆け寄り、解放しようとするがライダーの手はすり抜けてしまう。
「くっ…」
あくまで光太郎の記憶を映像として見ているに過ぎないライダーには、目の前にいる幼いマスターに触れることすらできなかった。
「うぅ…」
「なん…だよこれ」
目を覚ました光太郎と信彦は自分たちが置かれている状況をまるで理解できないでいた。体に突き刺さっている管を抜こうと手足を動かそうとするが、まるで言うことを聞かない。
「フフフ…そのまま寝ていればいいものを」
背筋が冷たくなるような笑い声で現れたのは2人の意識を奪った怪人…ゴルゴムの大神官ダロムであった。その背後にはビシュム、バラオムが控えており、それぞれが両手に赤と緑の宝玉を手にしていた。
「喜ぶがいい。これからお前たちは栄光あるゴルゴムの『王』となるために、生まれ変わるのだ…」
「な、なにをいってんだよ!」
「返して!家に帰してよ!!」
泣き叫ぶ信彦と光太郎の意思とは関係なく、ダロムはその鋭い指先から照射されるレーザーメスを光太郎の腹部に当てる。
「や、やだぁ!!」
「安心しろ。この管が繋がっている限り、痛みはない。痛みは、な…」
「ウワアァァァァァァァァァァァッ!!!!」
ダロムの言う通り、光太郎と信彦は痛みを感じることはなかった。痛くないだけで、自分の体が切り裂かれるという感覚はあった。体の内側を直に触れられている感触があった。
切開された部分から本来あるべき臓器が取り出され、全く違う遺物が代わりに入れられた。
血液を送る心臓にナニカを注射され、鼓動は数十倍速く動かされた。
骨に真鍮に似た金属を通され、全身に違和感が走った。
聞こえるのは光太郎と信彦の悲痛の叫び。その声すら楽しむように、神官達は笑いながら手を動かし続けた。
痛みはない。しかし2人は自分が人の体でなくなっていく様を永延と見せつけられた。ショックで気を失う事も許されなかった。
痛みが欲しかった。それはまだ人として生きている証だからだ。10歳にもならない少年達が、抱く気持ちがそれだった。
唯一の救いは…同じ目にあっている存在がすぐ隣にいる。そうでなければ光太郎と信彦の精神はとっくに壊れていたかもしれない。
「そんな…なぜ、なぜこんな事が…」
ライダーはこの生き地獄から目を逸らし、耳を防いだ。だが無意味だった。彼女の意思とは関係なく光太郎の泣き叫ぶ顔が、絶望する表情が目に焼き付く。
早く、早く終わって欲しい。先程のように、場面が早く切り替わって欲しい。もう、少年たちの苦しむ姿は見たくない…ライダーは祈った。
頼りたくも信じたくもない主神に、初めて祈った。早く終わらせて欲しいと…
悪魔たちによる所業が終わったのは、光太郎達が拉致されてから3日が過ぎた頃であった。
「…………」
「…………」
もう抵抗する気力すらない光太郎と信彦は、最初と同様に宙に浮いている状態だった。違いがあるとすれば目が虚ろで、生気がまるで感じられたい表情となってしまっていた。
「…キングストーンの拒絶反応もなし…手術は成功ですね」
「ならば…最後の仕上げだ」
茫然とする光太郎の額にダロムの手が近づく。
「もう、もうやめて―――」
「やめろぉぉぉ!!」
ライダーが叫ぶよりも早くダロムの手を止めたのは、光太郎の養父、秋月総一郎であった。
「無礼だぞ秋月!神聖なるゴルゴムの神殿に無断で踏み込むなど…」
怒鳴るバオラムに怯むことなく、総一郎はダロムの前まで歩み寄る。
「何故だ…何故、信彦と光太郎を『改造』した!?猶予はあと10年あったはずだぞ!!」
「キングストーンを幼いうちから体に馴染ませ,成長と共に力を引き出させる…これも創生王様の決定だ」
「しかしッ…!2人の記憶を奪わないことが条件だったはずだ!!」
「ええぃ黙れ秋月!南と同じ様に貴様も処刑されたいのか!?」
ダロムの放った言葉に総一郎は凍りついた。恐怖を感じた訳ではない。その言葉を、一番聞かせたくない人物がここにいたからだ。
「どういう…こと?」
「光太郎っ…!」
虚ろな目で父親に問いかける光太郎。弱々しく、ダロムの言ったことに反応した総一郎へさらに質問を送った。
「お父さんと…お母さんは…事故で死んだんじゃ…ないの?殺され…たの?」
とっくに枯れ果てたと思った涙が光太郎の頬を伝った。目の前の怪人から明かされた両親の死の真相。それを知りながらも隠していた養父。しかも、自分と信彦がいずれこうなる事を知っていた…光太郎の頭はパンク寸前だった。
「ククク…もはやそのようなつまらん事で泣くこともないのだ。さぁ…受け入れるのだ!」
再び光太郎に手を伸ばすダロム。もしそうであれば、もう考える必要がないのなら、受け入れよう…全てを諦めた光太郎の目に映る白く不気味な手は再び動きを止める。
「やめてくれ!もう…その子から何も奪わないでくれ!!」
ダロムの腕にしがみつき、動きを妨害する総一郎は必死に呼びかける。しかし、簡単に振り払はれ、総一郎は壁に叩き付けられた。
「ぐあぁっ!」
「父さん!」
吹き飛ばされた養父の姿を見た光太郎は思わず叫ぶ。痛みに耐えながらも立ち上がろうとする総一郎を見たダロムは醜い顔をさらに歪ませ、歪な掌を彼に向ける。
「よくも邪魔しおって…!ここで処刑してくれるわ!!」
ダロムが総一郎を殺そうと手から怪光線を放とうとするよりも早く、ダロムの体を緑色の電撃が襲った。
「ぬおぉぉぉぉぉッ!?」
電撃を浴びたダロムは膝を着く。思いもしなかった不意打ちに攻撃を受けたダロムだけでなく、バラオム、ビシュム、総一郎までもが驚愕している。同じく目の前で起きたことに目を丸くする光太郎も、その電撃を打ち出した人物の名を口にした。
「のぶ…ひこ?」
「あ、は、ハハハ…」
未だに放電する手を見つめ、信彦は笑っていた。自分の出した電撃を見て、ようやく諦めがついたように、涙を流して笑った。
「ハハ、ハ…本当に、人間じゃなくなったんだな…」
全てを投げ出したような顔をした直後、隣の光太郎に向けて再び電撃を放つ信彦。電撃は光太郎の全身に繋がっていた管を焼き切り、自由となったのを確認した信彦は父に向かって叫んだ。
「父さん!今のうちに光太郎を!!」
「信彦!お前は何を…」
言っているのかと息子に叫ぶ間もなく、今度は光太郎と総一郎を避けてその空間全てに電撃を放電させる信彦。
「は…やく!光太郎と…逃げて!!」
「っ…!すまん!!」
「あっ…」
総一郎は床で倒れている光太郎を抱きかかえ、その場から駆け出した。放電を続けるする実の息子に振り向くことなく、離脱していく。
「お、おのれ!!」
「いけない!天井が崩れる!!」
ようやく立ち上がったダロムは忌々しく逃走した総一郎と光太郎を睨むが危険を知らせるビシュムに従って避難を始めた。ただ一人残された信彦はただ、父親と親友が無事に逃げ出す事を祈り、目を閉じた。
(父さん…光太郎…)
走り続ける養父に担がれた光太郎は完全に崩れ行く神殿を見て、残された友の名を叫び続けた。もう、届かないその手を必死に伸ばして。
「信彦!信彦ォォォッ!!」
どこまでも長く、暗い通路の中で親友を呼ぶ自分の声が木霊するだけだった。
今回はだいぶ原作とは違う流れとなりました。
①原作のBLACKでは遺伝子操作光線でちゃちゃっと改造手術は終了してますがここは少々生々しくしてしまいました。
②2人も19歳ではなく9歳で改造されてしまうという滅多にない(あってたまるか!)年齢で人でなくなりました。このまま成長してしまうのは…ゴルゴムの技術がすごいということで(オイ)
ご意見・ご感想お待ちしております!