Fate/Double Rider   作:ヨーヨー

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皆様に大変好評を頂いています我が家の慎二くん。当初は身内である光太郎を散々嘲笑し、蔑み、罵った後に自分を改造人間にする条件として光太郎の情報をゴルゴムに売る―――なんて展開を考えておりました。
どうしてこうなった 

な8話です。


第8話『桜の選択』

第8話

 

間桐慎二は自室の机上にて頭を抱えていた。気を紛らわす為に日課となった魔導書の意訳をしようにも、どうにも身に入らない。これもあの『お人好しのバカ』に呼び出しを受けたせいだと結論付けたが、それでも頭はすっきりとしない。

 

(やっぱり桜に伝えたのがまずかったか…)

 

遠坂凛が屋上に乱入した後、慎二はその場を離れて出入り口の階段を下りた直後に義妹と遭遇したことを思い出す。

 

 

 

 

 

『桜…』

『慎二兄さん。あの…先輩となにか?』

『……………………』

『兄さん!』

 

憧れの人間が関わっているためか、珍しく強く主張する桜への返答に慎二は考える。もし、士郎の手に見えたものが見間違い無いのであれば…

 

『…衛宮の手に…令呪があった』

『!?』

 

それだけで妹を動揺させるには十分だった。

 

『まだ完全な形じゃない。けど時間の問題だ』

『そ、そんな…どうして先輩が!』

『そんなの僕が知るわけないだろう!!』

『…ッ』

 

後ずさりする妹の姿を見て、自分が怒鳴ってしまったことに遅れて気付いた慎二。友人の無自覚で放たれた虫唾が走る言葉と現れた令呪。そして乱入してきた『遠坂』の現当主。整理しきれない出来事に思わず慎二は八つ当たりをしてしまっていたのだ。

 

『…この事は光太郎に任せる。そしてお前はもう衛宮の家にいくな』

『そんな!?兄さん!』

『万が一に衛宮がマスターになったら、アイツは敵になる。分かっているよな?」

『でも…』

『もう教室に戻れ。いいな』

 

それだけ言うと慎二は歩き出した。途中、後ろを振り返ると桜はゆっくりと階段を下っていた。俯き、前髪に隠れてどんな顔をしているかは分からない。だが、確実に妹を悲しませたのは事実だった。

 

 

「光太郎みたいに…うまくいかないか」

 

あの義兄であれば、青臭いセリフや行動で示し、不安を取り除いてくれる。自分も、彼の言葉があったから腐らずにすんでいるのかもしれない。自分に出来ることなんて…と考えていた時、ドアをノックする音が聞こえた。

 

『…慎二兄さん。いらっしゃいますか?』

「ああ…入れよ」

 

許可を得てドアを開けた桜は、足を組んで椅子に座る慎二の前まで足を運ぶ。

 

「…どうした?夕飯までまだ時間はあるだろ」

 

学校での事もあり、どこか気まずい慎二は視線を逸らして話かけるが、桜の発言に思わず振り向いてしまう。

 

「私…やっぱりこれからも先輩の家に通います!」

「ハァ!?」

 

想定外の言葉だった。まだ兆ししか見えないが、衛宮士郎がマスターになってしまった場合、一番危険が及ぶのは桜のはずだ。なのにこの義妹はこれからも敵陣に踏み込み続けると言った。

 

「お前ッ…状況を理解してるのか!?衛宮は…」

「聖杯戦争に参加するマスターの可能性がある ですよね?でも、だからって必ず先輩を殺さなければならないとは限りません」

 

桜の言っていることは間違いではない。聖杯戦争での勝利条件はマスターの殺害、または相手サーヴァントを倒すことだ。もし後者の場合はマスターに戦意がない場合、戦いが終結するまで教会の保護を受ければ、死亡は間逃れる。

 

「それに、マスターの一人を身近で監視できるんですよ?それにもし先輩に光太郎兄さんがマスターの1人とバレたとしても、私を人質にするような卑劣な人じゃありません!」

 

兄さんも分かっているでしょ?と言わんばかりにフフンと鼻を鳴らす桜。唖然とする慎二だったが、段々と笑いがこみ上げてきた。

 

「は、ははは…ハハハハハハ!」

 

公私混同もここまで来てしまうともう笑うしかなかった。あの兄あるところにこの妹あり。血が繋がっていないのに、ここまで似てしまうのだから。どうしてここまで前向きに考えられるのであろうか。遠坂にいる実姉が同じ状況で同じ言葉を聞いたら、さぞかし愉快な顔をするだろう。

 

「兄さん?」

「ハハハ…ハァ、負けたよ。好きにしろよ。光太郎には僕から言っておく」

 

桜の主張を光太郎へ伝えた時の顔を思い浮かべる。反対してもなんだかんだで結局は折れる未来がまっているだろうが。

 

「しっかし、お前はよほどあのバカが気に入ったみたいだな。」

「それだけじゃありません。これが私の出来ることですから」

 

微笑みながら桜は言葉を続ける。

 

「光太郎兄さんは私達が普通に暮らせるように、私達が見えない所でずっと、今でも戦ってます。私にはそれを手伝うことはできない。だから…せめて光太郎兄さんが戦いに集中できるように、全力で普段通りでいること。そして戦っている光太郎兄さんとライダーさんの帰りを待つこと。それが…私に出来ることですから」

「桜…」

 

泣き虫で、人見知りだった桜がここまで言うようになった。あの男の影響力を改めて思い知ったなと考えた慎二は思わず桜の頭に自分の手を置く。

 

「兄さん…」

 

光太郎であれば優しく撫でるとこであるが、あいにく自分は光太郎ではない。

 

「わ、キャァ」

 

グシャグシャと髪をかき乱してやった。

 

「な、何するんですか!?」

「御礼だよ御礼。おかげでなんだかスッキリしたからな」

「??」

 

涙目で髪を整え始める桜は兄の言うことが理解できなかった。慎二はそんな桜にお構いなしで自分の机上にある魔導書を手に取った。

 

そう、自分は自分だ。光太郎の真似なんかする必要などなかった。普段通りの自分でいればいいし、『自分にできること』で自分の周りをなんとかすればいい。変に兄の真似をしたり、足手まといでいるなんて真っ平御免だ。

 

「桜、今から時間あるか?」

「はい!私もそのつもりでいましたから」

 

そう言うと桜は手に持った『モノ』を慎二に見せる。

 

「よし、じゃあいつも通り地下に行くぞ」

「はい!」

 

慎二は他数冊の魔導書とノートを持つと、桜と共に移動を開始した。

 

 

その頃、光太郎とライダーは苦戦を強いられていた。

 

「グアァ!!」

 

すでに仮面ライダーに変身していた光太郎はコンテナに背中から叩き付けらた。

 

「くっ、ライダーは…」

 

少し離れた場所でライダーは2体のタカ怪人相手に防戦一方であった。攻撃を終えて上昇するタカ怪人に向けて鎖を投擲するが敵に届くことなく落下していった。

 

 

3体のタカ怪人は空から急降下し、攻撃を加えてはこちらの攻撃範囲外まで浮上するヒットアンドウェイによる攻撃を主としていた。夜の貨物場では明かりも少なく、どこから襲ってくるかも定まらない。そして俊敏性のあるライダーに対して波状攻撃をするために彼女へ2体も差し向けているところから、今回は完全に光太郎とライダー2人を狙っていたのであろう。

 

「このままじゃ…うわッ!」

 

身体を無理矢理捩じって回避する光太郎。最初に不意打ちを受けた時と同様、光太郎が避けた後に路面に鋭い爪痕が残った。すれ違った一瞬しか姿を確認できなかったが、タカ怪人はその名の通り背中に大きな翼と両足に加え、両腕にも爪を持っていた。

 

(キングストーンを使ってもすぐに範囲外に逃げられる…このままでは)

 

なんとか反撃の切り口を探す光太郎。だが、その背後に敵の攻撃が迫りつつあった。

 

「コウタロウ、危ないッ!」

「!?」

 

ライダーの一言に真上を向く光太郎。しかし、タカ怪人が向かってくる気配はない。

 

「違いますコウタロウ、後ろです!」

「なッ!?」

 

攻撃が上空ばかりと考えた光太郎だったが、タカ怪人は光太郎の背中目掛けて両足を向け低空飛行の姿勢で突撃してきた。

 

(駄目だ…間に合わな…)

 

振り返るも回避に間に合わないと悟った光太郎だったが、真横から受けた別の衝撃に吹き飛び、タカ怪人の攻撃を受けることはなかった。倒れた光太郎は身体を起こすと、自分に誰かが抱きついていることに気付く。

 

「…ッ!?ライダー!?」

「無事…のようですねコウタロウ」

 

光太郎の無事を確認し安心するライダー。彼女の足には、深々とタカ怪人の爪による傷が残っていた。2体のタカ怪人の攻撃を掻い潜り、光太郎を押し倒す形で庇ったが、その際に足へタカ怪人の攻撃を受けてしまったのだ。

 

「ライダー!俺を庇って…」

「大したことは…ありません」

 

苦悶の表情を浮かべながら答えるライダー。立ち膝で彼女を支える光太郎は自分を呪うかのように声を震わせた。

 

「すまない…俺なんかのために」

「そのようなことは…言わないでください」

 

光太郎の肩を掴んで、何とか立ち上がろうとするライダーだが、想像以上に傷が深く膝を着いてしまう。

 

「私は…貴方のサーヴァントです。貴方の盾となるのは…当たり前のことです」

「ライダー…」

「それに…貴方を傷つけてしまったら、あの二人に申し訳が立ちません」

「あの二人…慎二君と、桜ちゃんか」

 

ゆっくりと頷くライダー。

 

「私は約束したんです。貴方と共に、シンジとサクラの元へ帰るのだと。だから、貴方に傷つかせるわけにはいかない」

「なら、もう約束を破るところだったぞ?」

「え?」

 

光太郎はライダーの両肩を掴んで、眼帯の向こうにある彼女の両目を見て話す。

 

「その約束を守るのなら、ライダーだって傷ついたら駄目だ!俺を守ってくれるのは嬉しい…けど、ライダーが傷付くことは俺が耐えられない」

「コウタロウ…しかし、私は」

「サーヴァント…と言いたいんだろう?なら、俺からの命令だ」

 

命令…という言葉を聞いてで令呪を使われるのかと思ったライダーだったが…

 

「君が俺を守るように…俺にも君を守らせてくれ」

「……………」

 

思わず固まってしまう。それは令呪による強制以上に、ライダーを縛り上げる言葉だった。

 

「前代未聞ですよ…サーヴァントに守らせろという命令なんて」

「そうかい?」

「そうですよ。しかし、命令となら従わなければなりませんね…」

 

ライダーの肩を掴む光太郎の手に、彼女は自分の手を重ねた。

 

「分かりました。私の現代での命、マスターに預けます」

「ああ、任せてくれ!帰ったら、怪我したことは二人で謝ろう」

 

その言葉を聞いたライダーはゆっくりと立ち上がる。まだダメージは残っているはずなのに、まるで力が湧いてくるような気分だった。

そして上空で自分達を狙う敵を睨んだ。

 

「どうします?敵には未だダメージを追っていません」

「俺に考えがある」

 

現状を打破するアイディアをライダーに伝える光太郎。その内容を聞いたライダーは顎に手を当て、しばし悩むような仕草を見せた。

 

「確かにそれならば…しかし、コウタロウが危険な目に」

「俺とライダーなら、大丈夫さ!」

 

光太郎の言葉にライダーは微笑んで同意した。

 

「よし、バトルホッパー!!」

 

光太郎の叫びと共に緑色のオフロードバイク、『バトルホッパー』が倉庫内から飛び出してきた。

 

「さぁ、ついて来い!」

 

バトルホッパーに飛び乗った光太郎は挑発するように飛行するタカ怪人に呼びかける。

 

『キエェェェェェェェェ!!』

 

ライダーが傷を負い、動けないと考えたタカ怪人たちはバイクで貨物置場を走行する光太郎に狙いを定めた。再び低空飛行で光太郎の背後を狙う。

 

(よし、このまま付いて来い!)

 

タカ怪人3体が自分を追ってきていることを確認すると、光太郎はその先にある巨大な鉄塔に向けてアクセルをさらに回す。

スピードを上げたバトルホッパーをジャンプさせると、なんと鉄塔を高速で登り始めた。

 

謎の行動に驚くタカ怪人たちだったが、光太郎を追うように上昇する。やがて鉄塔の先端部分に差し掛かるところで、光太郎はバトルホッパーからさらに天高くジャンプする。上昇するタカ怪人と大きく距離を離すが、次第に落下し始める。

 

光太郎との距離が10メートル弱となり、タカ怪人たちは両腕の爪を向けるが、下から何かが飛んでくる音に目を向ける。

 

見ると真下からライダーが鉄パイプを次々とタカ怪人に向けて投擲していた。資材置き場で見つけたそのパイプを手にとっては休むことなく投げつるライダー。

しかし、向けられた鉄パイプを避け、弾かれてしまう。やがて手元にあった鉄パイプは尽きてしまったが、それでもライダーは

タカ怪人たちの姿を見てニヤリと笑う。

 

ライダーの投げた鉄パイプ避け続けたタカ怪人たちは、『縦一列』に並んでいたのだ。

 

「ウオォォォォ!!!」

 

そしてすでにベルトの力を右手に収束した光太郎がタカ怪人たちに迫っていた。

 

「ライダーッ―――」

 

エネルギーを纏った手刀を

 

「―――チョォップッ!!!」

 

タカ怪人達に向け、振り下ろした。

 

断末魔を上げることなく、タカ怪人3体は縦に両断される。

 

ライダーの背後に着地した光太郎は手刀を払うように横に振るい、ライダーはその長い髪の毛をかき分け、風で靡かせる。

 

背中合わせで立つ2人の上空で、大きな爆発が起こった。

 

 

 

「………………」

「………………」

 

暫く無言だった二人であったが、ゆっくりと向かい合い、どちらかともなく、声をかけようとしたが―――

 

 

「こりゃまた面白いもん見させてもらったぜ」

「教会を尋ねる前に遭遇とは…」

 

 

『ッ!?』

 

声を発せられた方へ同時に振り向く。

 

そこには『青い男』とスーツを纏った短い髪の女性が立っていた。

 

 

 

 

 




さて、時系列が少しばかり狂い始めましたがご容赦を

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