「俺のターンだ。ドロー」
団体戦準々決勝の一つ。
遊凪高校と第七決闘高校の
それも伏せたアーティファクトモンスターが姿を見せるや否や処刑人という異名の元に牙をむき始める。
「《アステル・ドローン》を通常召喚。レベル5として扱いアイギスと共に《No.19フリーザードン》をエクシーズ召喚し1枚ドロー。そして《FA-クリスタル・ゼロ・ランサー》へとエクシーズチェンジだ」
《FA-クリスタル・ゼロ・ランサー ★6 ATK/2200→3700》
ほんの一瞬、氷を纏った恐竜の姿が映ったが即座に姿を変え赤い槍に盾、青いドレスを纏った女性型のモンスターへと成る。エクシーズ素材の数だけ攻撃力を上げ破壊耐性、相手の効果無効を持つ高性能モンスターだ。
「っ、破壊耐性を持った攻撃力3700のモンスター!」
「それだけでは無い。モラルタ、デスサイズを《アーティファクト─デュランダル》へとエクシーズ召喚」
《アーティファクト─デュランダル ★5 ATK/2400》
加えてはアーティファクトの切り札ともいえるモンスター。黄金の柄に機械的な光を灯す刀身を持つ剣が出現する。ほんのうっすら幽霊のような人型が持ち構えているようにも見えるのはアーティファクトの特徴だろう。
「カードを1枚伏せゼロ・ランサーの効果を発動し相手の場のモンスターの効果を無効にする」
《FA-クリスタル・ゼロ・ランサー ★6 ATK/3700→3200》
《H─Cエクスカリバー ★4 ATK/4000→2000》
自己強化を果たしていたエクスカリバーの攻撃力が無効となり元の数値へと戻される。
相手のエクシーズモンスターを凌駕していた力関係も逆転されたのだ。
「バトルフェイズだ。デュランダルでエクスカリバーへと攻撃」
(ここで罠を発動すればデュランダルで相手の伏せカードは破壊することになる。でも、アーティファクトは相手のターンの破壊でしか意味は無い。ならいっそここで消耗させた方が)
剣の姿をしたエクシーズモンスター、デュランダルは担い手に見える幽霊のような存在によって実際に剣で切りかかるように涼香のモンスターへと襲いかかる。そのコンマ数秒の間に彼女は思考し1枚の伏せカードを発動させる。
「《聖なるバリア─ミラーフォース─》を発動、攻撃モンスターを全滅させるわ」
「無駄だ。デュランダルの効果を使用し《聖なるバリア─ミラーフォース─》は相手の魔法・罠を破壊する効果に書きかえられる。俺のカードは1枚。それが破壊される」
(よし、これで……)
エクスカリバーを守るように現れた青白いバリアは風となり剣崎の伏せカードを破壊する。いくら相手が強力なエクシーズモンスターを出していても剣崎の手札は2枚、星宮ルミの手札は下級バニラ1枚とかなりの消耗をしている。
後は少しでもアドバンテージを回復させずに場のエクシーズモンスターを対処していけばなんとかなる、そう考えていた。
「甘いな。俺が破壊されたのは《荒野の大竜巻》、お前の場のエクスカリバーを葬ってやる」
「なっ!?」
「攻撃対象が消失したことにより対象を変更。デュランダル、ゼロ・ランサーで直接攻撃だ」
「くっ……」
創&涼香 LP7000→4600→1400
予測を見誤った。たった1ターン。
そのバトルフェイズで二人の残りライフは一気に窮地へと追いやられる。
専用デッキを除いて扱いの難しい上級レベルのエクシーズモンスターの連打からの猛攻。加えて破壊耐性、効果無効を持ったゼロ・ランサーに相手の全効果をアーティファクトに有利な魔法・罠の除去に書き変えてしまうデュランダルが並ぶ。
攻めに場の制圧まで完璧だ。
「残りの2枚を伏せてターン終了」
剣崎がターン終了を宣言し創の番へと移ろうとする。
しかし、彼はデッキトップからカードを引こうと手を伸ばしたがすぐに元に戻しては自身のターン宣言をしようとせずにいた。
「なあ、ちょっと聞いていいか?」
「何だ?」
直後、創は語りかける。
「あんたたちは強えーよ。さすが優勝候補だけあってゾクゾクするぐらい強えー。けどさ、これはタッグデュエルだ。チーム同士で協力し合って戦ってのに、なんで仲間を頼ろうとしないんだ?」
第七決闘高校の星宮ルミと剣崎勝の実力は確かなものだ。
だが見ていればわかる。お互いに協力などしようとせずフォローも必要最低限しかしていない。これはまるで二人はそれぞれ個人技で勝負を挑んでいるようなものだ。
「協力? 笑わせるな。
「ルミも同意。仲間なんて邪魔なだけだもん」
仲間など必要無い。はっきりと二人は断言した。
タッグデュエルだというのに、さすがにこの言葉は観客たちにも動揺を見せ創や涼香たちも表情を変える。平気だと思えるのは同じチームである第七決闘高校のメンバーぐらいのものだ。
「そうか、それがあんたらの考えか」
刹那、創は気合を入れ直したかのように引き締めるように表情を変えた。
そもそも遊凪高校は常にチームで困難を乗り越えようとしてきた。必要の無い仲間なんていない。きっと、遊凪高校と第七決闘高校は相いれないだろう。
「だったら証明してやるよ。仲間の力ってやつを! 行くぜ俺のターンだ!」
勢いよくカードを引き抜く。
先のターンで手札を消耗し今の手札はたった2枚。
この状況を突破するには芳しいものの涼香が残した伏せカードは3枚。
それらを合わせて彼は挑む。
「まずは伏せカードの《死者蘇生》を発動し墓地の《旧神ノーデン》を蘇生し──」
「却下だ。デュランダルの効果を発動し効果を書き変え、さあ選べ」
「……だったら左を選ぶぜ」
墓地のモンスターを蘇生する効果さえも破壊効果へと書きかえられる。
相手の伏せカードは2枚と2択を迫られたがわずかに悩む素振りを見せて創は左側のカードを選択する。
「ふんっ、破壊されたのは《アーティファクト─アキレウス》。特殊召喚し効果を発動する。このターン中、お前はアーティファクトに攻撃できない」
《アーティファクト─アキレウス ☆5 DEF/2200》
アイギスとはまた違う紫の光を帯びた丸盾が現れる。
このターンアーティファクトを攻撃から守るその効果を帯びたためかデュランダル及びアキレウスは紫色の光に包まれる。
「他に攻撃できるなら十分だ! さらに伏せカードの《貪欲な壺》を発動し墓地のノーデン、カードガンナー、クレーンクレーン、ダンディライオン、ゼンマインの5枚をデッキに戻し2枚ドロー」
このターン、アーティファクトに攻撃できなくても他の《FA-クリスタル・ゼロ・ランサー》へは攻撃することはできる。涼香が残した2枚目のカード《貪欲な壺》を使うことで創の手札は4枚へと。
「《XX─セイバーボガーナイト》を召喚。効果により手札からチュナーモンスター《X─セイバーパシウル》を出し2体で《XX─セイバーヒュンレイ》を出すが効果は使わないでおくぜ」
《XX─セイバーヒュンレイ ☆6 ATK/2300》
ヒュンレイには相手の魔法・罠を破壊する効果を持つが【アーティファクト】相手には愚策でしか無い。今回に限っては効果は無用、欲しかったのはただ単純にレベル6のモンスター。
「続いて《緊急テレポート》を発動しデッキから《調星師ライズベルト》を特殊召喚するぜ」
《調星師ライズベルト ☆3 DEF/800》
風属性、サイキック属。
地属性固定、様々な種族を持つが主に戦士や獣戦士を主体とした【X─セイバー】にはそこまでシナジーがあるわけでも無いと思われるカードだが、レベルは3であり最大で6にまで変化することができる効果は特殊召喚さえできればシンクロ、エクシーズを交えた【X─セイバー】には選択肢を広げてくれる。
「特殊召喚したことによりライズベルトのレベルを3上げ6に!」
効果を使用することによりレベルが場のヒュンレイと並ぼうとする。
「狙いはランク6エクシーズか。させん、チェーンし《アーティファクトの神智》を発動しデッキから2枚目の《アーティファクト─デスサイズ》を特殊召喚」
「デスサイズ……こいつは」
「ああ、相手ターンに特殊召喚した場合、このターンのエクストラデッキからの特殊召喚を不可とする」
融合やシンクロ、エクシーズを主体として戦う涼香や創にとっては天敵のようなモンスター効果。今の創も2体のモンスターでエクシーズモンスターを呼び出して反撃しようと目論んでいたがそれさえも潰される。
勿論、発動すればの話だが。
「悪いなさっきの《貪欲な壺》でコレを引いてたんだ。デスサイズの効果にチェーンして《禁じられた聖杯》を発動。対象はデスサイズだ」
デスサイズの効果を退ける。
相手の手札は0、伏せカードも無く今では存分に暴れられる。
「さあ、
《希望皇ビヨンド・ザ・ホープ ★6 ATK/3000》
創の勝利宣言。
それと共に現れたのは《希望皇ホープ》の最終進化形態と言われるモンスター。
白一色の装甲に黄金の翼を持った戦士だ。
「ビヨンドだと!?」
剣崎やルミは目を見開く。
何せ創が出した《希望皇ビヨンド・ザ・ホープ》にはこの場を覆すほどの効果を有しているのだから。
「エクシーズ召喚に成功した《No.39希望皇ビヨンド・ザ・ホープ》の効果だ。相手の場の全てのモンスターの攻撃力を0とする」
《FA-クリスタル・ゼロ・ランサー ATK/3200→0》
《アーティファクト─デュランダル ATK/2400→0》
《アーティファクト─アキレウス ATK/1500→0》
《アーティファクト─デスサイズ ATK/2200→0》
たった1体のモンスターの召喚だけで4体のモンスターの攻撃力が完全に無力化。
一気に形勢が覆る。
「ちっ、だが俺のアーティファクトモンスターはこのターンは攻撃されない。いくらゼロ・ランサーが無防備になったとはいえ完全に倒しきれまい」
仲間とは思っていないものの次のターンを迎える星宮ルミの実力だけは認めている。
手札は役に立たないカードのみとはいえ彼女の実力と引きならばチューナーを出してシンクロ召喚をするぐらい造作も無い。
だが、創は告げた。
「言っただろ
「な……馬鹿な」
《希望皇ビヨンド・ザ・ホープ ATK/3000→4200》
剣崎は絶句する。
最後の最後に残されたカードは使いどころが難しいものの、今の状況では最善と呼ぶにふさわしいカードだ。そんなカードがデッキに入っていたどころか今この状況にあるという事態に言葉を失う。
「このカードを装備したモンスターは相手モンスターとの戦闘で倍のダメージを与える行け! ビヨンド・ザ・ホープ! クリスタル・ゼロ・ランサーへと攻撃だ!」
大剣を携え青いドレスを纏った女性のモンスターへ一閃の斬撃を与える。
防ぐ盾ごと切り裂き相手へと超過ダメージが通るのだがクリスタル・ゼロ・ランサーの攻撃力は0。対するビヨンド・ザ・ホープは攻撃力が4200。
その倍の8400。初期ライフを一瞬で葬り去るダメージが相手へと襲いかかるのだ。
ルミ&剣崎 LP5800→0
『
ピー、と審判のホイッスルが鳴り響く。
決着が付き創と涼香はハイタッチを交わした。
「それにしても《ストイック・チャレンジ》なんてカードよく入れたよな」
「気まぐれよ。まあ、上手く役に立って良かったわ」
勝負が終わり拍手喝采が送られる中、二人は戻る。
「お疲れ様です。ナイスファイトでしたよ」
「うん。二人とも凄かったよ」
戻ってくる二人に茜は労いの言葉を賭けて有栖はタオルとスポーツドリンクを手渡す。
一度の勝利とはいえ一息ついたようなムードの中、晃だけは気を引き締めた表情でいる。
「次は任せたぜ」
「はいッス。
対して敗北という結果で終えた第七決闘高校はと言うと。
「あー、悔しい! なんであんな都合良くブレイクスルーが落ちるの!? 結局はマグレじゃん!」
「黙れ星宮。見苦しいぞ」
本当に悔しいのか地団太を踏むルミと不機嫌そうに表情を歪める剣崎。
その二人に労りも励ましの言葉をかける人物は第七決闘高校にはいなかった。
「だってだって! あんなもんはただの運だよ。次にやれば──」
まるで駄駄をこねる子供。
その彼女の言葉を重く響き渡るような声が遮った。
「黙りや」
「っぅ!?」
瞬間、怯えたようにルミは震えあがった。
まるで敵意を向けられたような寒気。それを仲間に放ったのは何を隠そう主将である鏡大輔だった。
「どのような内容だったにせよ負け犬には何の価値もあらへん。それが
厳しく突き付ける言葉は仲間にかける言葉とは思えなかった。
あるのはただ敗者に対する叱責のみだ。
今の彼の威圧の前には傲慢であったルミも怯えるしかなかった。
「ご、ごめんなさい……」
「わかればいいんや。まあ、わいと焔ちゃんが勝てば問題あらへんし次、行ってくるわ」
ベンチから立ち上がり次の選手である鏡大輔が向う。
『続いての第七決闘高校対遊凪高校
「君が橘晃君か。話には聞いてるで中々に面白い
「……どうも」
対峙する対戦相手の鏡大輔は緊張する晃とは真逆にまったくのリラックスしたような表情で余裕そうだ。彼はこれから戦う対戦相手や敵に対して笑みを向けている。
「堅苦しい挨拶とかは無しや。同じ
彼の言葉を境に二人は挨拶を終え距離を取る。
勝負が始まる刹那、晃は第七決闘高校に対するミーティングで茜の言葉を思い出した。
『多分、橘君が
『主将……か。強豪の主将となると恐ろしい戦術とか持っていそうで怖いな』
『いえ、あの人とは一度勝負をしたことがありますが、あの人には自分自身の戦術どころかデッキさえも持っていないんです』
『は……? なんだよ、それ?』
『あの人の決闘と言うのはですね──』
記憶を巡っている中でもすでに第二試合の先攻1ターン目が開始され進んでいる。
開幕に使用された1枚は永続魔法《炎舞-天璣》。
永続魔法でありながら発動時にレベル4以下の獣戦士族をサーチできる効果を持ちデッキから手札に加えるのは当然の如く《武神─ヤマト》だった。
加えた《武神─ヤマト》をすかさず召喚。
続いては1枚のカードを魔法・罠ゾーンへと伏せる。
他に使用するカードも場に出しておくことをしないのか残りの手札は何も手を付けずにターンの終了宣言を行うもののエンドフェイズに場に召喚した《武神─ヤマト》の効果が発動される。
効果はデッキから武神モンスターをサーチして手札を1枚捨てる。
それによりデッキから《武神─ヒルメ》を手札に加えて《武神器─ハバキリ》を落とす。
手札から発動する主要とも言える《武神器─ハバキリ》をあえて落とすという変わったスタイルを行うのは
そうして、そのままターン終了を迎えたて相手のターンになるのだが──
「これでわいのターンは終了や。橘晃君、
「っ……」
晃は思わず息を飲む。
話は聞いていたし知らないわけではなかった。
それでも現実を目の前にしたらやはり疑いたくなる。
すかさず茜の言葉がフラッシュバックしてくる。
『あの人の決闘と言うのはですね──対戦相手のデッキ、戦術をまったく同じように
強いて言えばミラーマッチデュエリスト。
かつて晃が烏丸亮二を倒すためにもプレイミスに見せかけ罠を仕掛けるトリッキーなプレイスタイルを編み出した時には夢にも見なかっただろう。その編み出した戦術そのものが自身へと牙を向けてくるなどと。