●氷湊涼香 LP3100 手札6
■unknown
●椚山堅 LP3000 手札5
□時戒神メタイオン
遊戯王部の廃部を賭けての遊戯王部対生徒会の試合も二回戦の中盤となっていた。一回戦で晃が負けた事からもう負けられない状況でライフ差、手札ともに差はたいして無い。しかし、椚山は魔法、罠のカードで相手ライフを削って行く【チェーンバーン】。
涼香の残りライフ3100も数ターンで無くなってしまうだろう。
《時戒神メタイオン》のバウンス効果が決まり涼香のモンスターが全て戻った椚山のメインフェイズ2から始まる。
「さて、手札も豊富になった事だしカードを5枚伏せて終了するよ」
「……私のターン、ドロー。まとめて吹き飛ばす、《大嵐》を発動!」
「っ、氷湊!?」
相手の伏せカードが5枚の状況で魔法、罠を全て破壊する《大嵐》を使うのは決して悪くない。ただし、それがほとんどがフリーチェーンで発動できる【チェーンバーン】においては悪手であり愚策だ。
そんな事、相手の戦術を見た晃でも理解していた事であるにもかかわらず涼香は使用してしまった。それも、相手の性格やプレイング、相性から自身の実力を発揮できない事で彼女はその様な判断もできないほどフラストレーションが溜まってしまったのだろう。
「ふ、自棄になるのは早いよ。《大嵐》にチェーンして、チェーン2《ファイアーダーツ》チェーン3《無謀な欲張り》チェーン4《強欲な瓶》チェーン5《八汰烏の骸》チェーン6《和睦の使者》を発動しよう」
「っ……」
やはりというか大量にカードを発動されてしまった。
全てフリーチェーンであり当然といえば当然だろう。
「《和睦の使者》でこのターンのダメージは0《無謀な欲張り》、《強欲な瓶》、《八汰烏の骸》で4枚ドローし、《ファイアーダーツ》の効果。サイコロを3つ振ろう」
途端、ソリッドビジョンで巨大なサイコロが3つ出現した。
回転し高く打ち上げられては、地面に落下。それぞれ数度転がっては止まり表側になった目の数という数値が露わになる。
「5と6と3か……合計14の1400のダメージを受けてもらう」
彼が告げたように14本の小さな炎を纏ったダーツが出現し放たれる。一発、100ダメージの計算で全てを受けた涼香には1400のダメージが入る。
サイコロ。つまりは運によってダメージが変動するこのカードの最大ダメージは3つとも6の1800だ。それに近い1400ものダメージを与えられたのは椚山にとっても運が良いと言えるだろう。
涼香 LP3100→1700
もはや彼女のライフは下級アタッカーの直接攻撃を受ければ終わってしまう。相手のデッキの性質上、その危険性は無いにせよ。後、数度バーンを受ければ終わるため危うい立場という事は変わらない。
暴風の渦、《大嵐》の効果でチェーン処理のため墓地に行っていないもの既に発動を終えた椚山のカードと発動する機会が無く伏せられたままの涼香の《奈落の落とし穴》を破壊する。しかし、それは無意味と言う他ないであろう。
完全なプレイミス。
失敗した……ほんの一瞬、彼女は落ち込みを見せる様に俯き黙るも、その間に晃が身を乗り出すように声をかけた。
「どうした氷湊。お前、らしくないぞ!?」
「っ……橘、私らしくないってどういう事よ!?」
晃が知りうる限り、氷湊涼香という人物は比較的、冷静な類の人物だ。デュエルにおいても一部、創の様な運に頼るプレイングを行う場面もあるが基本的には損得を考え堅実な手段で攻めて行く。当然、プレイングのミスなどは見ていない。
しかし、今回はどうだろうか?
相手がモンスターを多様しないデッキであるにも関わらず《E・HEROアブソルートZERO》を繰り出したり、フリーチェーンが主であるにも関わらず《大嵐》を使ったりとミスが目立つ。次いで創も口を挟んだ。
「まー、あれじゃね。橘が言いたいことはわかる、氷湊にとって気に食わない相手だしデッキも相性が悪い……そんで苛立ったり、焦ったり。まあ、あれだ。いつも通り追いついてやれって事だろ」
「苛立ったり、焦ったり? 私って……そんな風に見えた?」
涼香の疑問に対し『うん』という一言が創や晃だけでなく周囲の観客含め満場一致で述べられた。むしろ、自覚がなかったのかと晃たちはツッコミたくなってしまった。
周囲の肯定の声を聞いては、一瞬呆気に取られたような表情をするが一度、深呼吸。苛立ちを見せていたのから一転、落ち着いた表情を見せた。
「そう。わかったわ」
「ハーフタイムは終わりかな? 待つのも嫌いじゃないが、大会だと芳しくないな」
「ああ、悪かったわね……けど、安心しなさい。続行するわ」
そう言いながら、涼香は自身の手札をもう一度観察する。
今までの苛立ちからか刺々しい雰囲気とは変わり穏やかな雰囲気を見せる。
「《E・HEROエアーマン》を召喚。効果で《E・HEROバブルマン》を手札に加えカードを2枚伏せて終了よ」
E・HEROエアーマン
☆4 ATK/1800
「ふーん、攻め急いぐのはやめたわけか。けど、いいのか君のライフはたったの1700……次の君のターンで終わりだぞ」
これが、涼香が苛立ちを見せていた要素の一つ。
性格もそうだが、時より見せる挑発にも似た言葉を椚山は掛けていた。これは彼が意図していたかどうかは定かではないが、もし意図的ならば彼の術中に嵌まっていたと言えるだろう。
もっとも、一度落ち着きを見せた涼香にまた効くかどうかだと言う事だが。
「そう? できるのなら、やってみるといいわ」
「おお、言うねえ。俺のターン、《無謀の欲張り》の効果でドローできないが十分さ。《時戒神メタイオン》は効果でデッキに戻るが……俺はモンスターを伏せ、残りの3枚も全て伏せる」
またしても手札のカード全てを伏せる行為を行う。ただし、違うのは次のターンで終わらせると啖呵を切った事から彼が伏せたカードの中にバーン効果で涼香の残りライフ1700を削りきる事ができる事になっている事だろう。
もっとも、それが口だけのブラフという可能性も無くはないが実質、バーンデッキにおいては本当だという可能性の方が高い。
「これでターンエンドだ」
「私のターン、ドロー──」
ターンが移って涼香のターン。
まずはドローフェイズでカードを引くのだが肝心なのは、その次のスタンバイフェイズだ。まず椚山は。
「スタンバイフェイズ。《仕込みマシンガン》を発動──」
「っ……《トラップ・スタン》を発動」
涼香が発動させたのは、フリーチェーンの発動ターンのみ場の罠カードの効果を無効にすると言うカード。魔法と罠を多様する椚山のデッキに刺さるカードではあり、これで《仕込みマシンガン》を無効となる。だが、それで無力化できるほど甘くは無い。
「だったら、また《連鎖爆撃》を発動しよう。チェーン3ならダメージは低いが──」
「させないわ! カウンター罠、《神の宣告》で無効!」
涼香 LP1700→850
チェーン3の《連鎖爆撃》を受けてもまだライフは残る。
けれど涼香が《神の宣告》で無効にしたのは半ば勘だ。後、1枚伏せカードが残されるがこれもバーンだと考えた方が良い。ならば少しでもライフを残した方がいいと判断したのだ。
椚山が使用する【チェーンバーン】に弱点があるとすれば、それはスペルスピード2のカードを主軸で構成される事だろう。《連鎖爆撃》、《積み上げる幸福》などチェーンを積む事で効果を果たすカードがあるが、積もうにも途中で上であるスペルスピード3のカウンター罠が挟まれればこれ以上積めるのは同じカウンター罠でしかできなくなる。
彼の残り1枚は、カウンター罠でないのか発動できずに、そのままでチェーンの処理が行われる。結果として、涼香に1もダメージは通らず《トラップ・スタン》で場の罠カードが封殺された。もし、それが速攻魔法だったとしても良くて《ご隠居の猛毒薬》。相手ライフに800のダメージを与える効果でも、それでは50とギリギリ残る。
「行くわ! 《ゴブリンドバーグ》を通常召喚!」
ゴブリンドバーグ
☆4 ATK/1400
橙色の小さな飛行機にゴーグルを付けたデフォルメのゴブリンと思われるモンスターのイラストだ。場には、ソレと無人の同じ形状の飛行機が2機現れ一つの大きなコンテナを合計3機で運んでいた。
「《ゴブリンドバーグ》が召喚に成功した時、手札からレベル4モンスターを特殊召喚できる。手札から《E・HEROバブルマン》を特殊召喚。ここで《ゴブリンドバーグ》は自身の効果で守備表示になる」
ゴブリンドバーグ
☆4 ATK/1400→DEF/0
荷物を運ぶ役目を終えたためか飛行機は着陸する。守備力はたった0と攻撃力を持つモンスターならば確実に競り負ける数値だ。
それでも構わない。何せ、彼女の場には望む形で“戦士族”、“レベル4”モンスター3が並んだのだから。
「行くわ戦士族、レベル4! 《E・HEROバブルマン》と《ゴブリンドバーグ》でエクシーズ。《機甲忍者ブレード・ハート》をエクシーズ召喚!」
機甲忍者ブレード・ハート
★4 ATK/2200
二刀の二本刀を構えた忍者の姿のモンスター。
戦士族レベル4、2体と彼女がいつも使っていた《H―Cエクスカリバー》と同じ条件ではあるものの状況の判断で涼香は、こちらのモンスターを召喚する事を優先した。
「成程……“ブレード・ハート”ねえ」
「“ブレード・ハート”の効果。エクシーズ素材を一つ取り除くことでこのターン、“忍者”と名の付くモンスター1体を2回攻撃可能にする。《機甲忍者ブレード・ハート》を選択!」
忍者の周囲に浮かぶ球体の一つ。茶色の球体《白銀のスナイパー》が取り除かれ剣を構える“ブレード・ハート”。これで2回の攻撃が通れば4400となるが、それも相手に壁モンスターがいなければの話。それでも少しでも相手のライフを削る事を優先する。
「バトルフェイズ。“ブレード・ハート”で伏せモンスターへ攻撃するわ」
闇の仮面
DEF/400
現れたのはモンスターというよりも物であった。古びた人間がつけるサイズの仮面でありどう見てもモンスターなどの生き物に見えない。それでも、れっきとした“悪魔族”のモンスターだ。
そのモンスターの姿を見ては涼香は、チッと舌打ちをする。
《闇の仮面》は墓地から罠カード1枚を手札に戻すリバース効果を持っている。それが意味するのはバーンカードの回収。
「《闇の仮面》のリバース効果で《仕込みマシンガン》を回収する」
「ふんっ……けど、このターンで終わらせれば意味はない! “ブレード・ハート”で二撃目よ!」
椚山 LP3000-2200→800
これで両者ともにライフは1000以下を切った。
しかも、涼香の場には攻撃を控えている攻撃力1800の《E・HEROエアーマン》が存在するのだ。いくらバーンカードを控えても使えなければ意味がない。ここでとどめを刺すように彼女は告げる。
「終わりよ! 《E・HEROエアーマン》で直接攻撃!」
「ふっ……」
左右に取りつけられた翼の中心にある送風機か通風機と思われる回り出し2つの風を送りつける。相手ライフを1000も越える一撃を受ければ相手のライフは0になる。それを椚山は1枚のカードを発動させて耐え凌ぐ
椚山 LP800+1200-1800→200
「まさか、こんな形で使うとはね……速攻魔法《御隠居の猛毒薬》を使用しライフを回復さ」
「っ……ライフ回復」
《御隠居の猛毒薬》には2つの効果が存在する速攻魔法。一つは、相手ライフに800のダメージを与えるバーンカードとして扱える・もう1つは自身のライフを1200回復させる効果でありバーンデッキとしてはあまり使わない効果だ。
故に、使用した本人もライフ回復に使う事になったのは少しばかり驚いた。涼香もこのターンで決めれなかった事を悔しそうに歯噛みをしてメインフェイズ2へと移る。
「っ……私は1枚伏せて、ターンを終了するわ」
「そうかい。《無謀な欲張り》の2ターン目。ドローはできないけど必要ないな。コレ、さえあればいい……1枚伏せてターンエンド」
伏せたのは《仕込みマシンガン》。
相手の手札数+相手の場のカード数に200を掛けたダメージを与える罠。現在、涼香の手札は2枚と場には3枚のカードの計5枚。1000のダメージ。さらに、彼女のドローフェイズでカードを引かなければならないので、1200のダメージを受ける事となる。
それ故に出た結論。
次のターンで涼香は負ける。
「さあ、君のラストターンだ」
「そうね。このターンで終わり……ただし、負けるのが私とは限らないわ」
現在、彼女の場に伏せていたのはモンスター除去である《奈落の落とし穴》だ。
それもおそらく使う機会がなく有用なカードでありながら現状、役立たずと言われても過言ではないだろう。
この状況を鑑みれば彼女は確実に負けるだろう。それでも涼香は落ち着いている。
自身のデッキにはこの状況を凌ぐカードが入っているのだ。
なんら難しい事でもない。ただ、そのカードが出るのを祈って引けばいいだけだからだ。
「……ドロー」
「この時、伏せた《仕込みマシンガン》を発動! 1200のダメージを受けて君は終わりだ」
名前の通りマシンガンが出現し乱射する。
彼女は、ソレを直に受け……ライフが削られていくが──。
「何、勘違いしてんのよ? まだ私のライフは残っているわ」
「なに……!?」
涼香 LP850-800→50
某、王様の名言もとい迷言を彼女は告げる。
本来なら椚山が宣言した様に1200のダメージを受けて終わりのはずだ。なのに彼女には800のダメージしか通らなかった。
彼女の場と手札を確認すれば、まず手札が1枚減っていた。
そして何より彼女の場のモンスター。《機甲忍者ブレード・ハート》と《E・HEROエアーマン》の姿がなく代わりに1体の風を纏った英雄の姿があった。
E・HEROGreatTORNADO
☆8 ATK/2800
「私は《仕込みマシンガン》にチェーンして《超融合》を発動したわ。手札を1枚捨てる事と場の2体を融合させた」
「成程ね……手札コストに助けられたか……」
本来、強力なカードに必要な代償。コスト。
《超融合》にもそれが存在し、手札から1枚カードを捨てなければならないというデメリットもあるが、今回に限り手札を捨てる事が彼女を救ったとも言えるだろう。
結果、手札1枚と場のモンスターも1体減った。
彼女の場と手札の総数は4枚として扱われたのだ
これで椚山の場、手札ともに完全な0。墓地にも発動できるカードはない。
椚山は、目をそっと閉じて小さく呟いた。
「確かに君が負けるとは限らなかった」
「これで終わりよ。バトルフェイズ、《E・HEROGreatTORNADO》で──攻撃!」
椚山 LP200-2800→0
巻き上がる竜巻は、相手を包み込むように放たれる。
椚山は、一歩も動く事なく敗北を受け入れる様に攻撃をも受け入れた。
生徒会戦の第二戦は涼香の勝利で終わる。
これで最後の最終戦に勝負は持ちこされた。