トリックスターな魔王様   作:すー/とーふ

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おまけ

※原作にあるようなレポート風味の主人公調査記録、それを読んだ護堂の感想です。他のカンピオーネとの関係についてまとめてあり、いつになるか分かりませんが番外編で書く部分のネタバレになる可能性もあります(詳しくは書いていませんが、主人公VSヴォバン侯爵の戦いについてです)。

それでも良い方のみご覧ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【二十一世紀初頭、新たにカンピオーネと確認された日本人についての報告書より抜粋】

 

 ロキは北欧神話における世界を終末に導いた悪神です。

 神々と敵対関係にあった巨人族の父ファールバウティと母ラウヴェイの間に産まれたロキは、アース神族の主神オーディンと血を交わし、義兄弟になることでアース神族の仲間入りを致しました。

 ロキは大変な気まぐれ者であり悪戯好き。同時に変身の達人であり狡猾な知恵者であるとされています。

 時には絶世の女神に変身して男神を誑かし、また光の神バルドルの復活を唯一拒んだ女巨人セックも、彼が変身した姿だと言われています。

 そしてロキの変身は人に限った事ではありません。

 牝馬に化け、牡馬スヴァジルファリとの間にオーディンの乗り物であるスレイプニルを儲けたのもロキであり、ミョルニルを鍛造していたドゥエルグの兄弟の作業を蠅に変身する事で邪魔しています。他にもハヤブサといった鳥類、そしてサケといった魚類に変身したという伝承が残る彼は、正しく変身の達人なのです。

 この変化の術を得意とするロキは、この力を用いて数々の悪戯と悪行を積み重ね、同時に多くの神々の窮地を救い繁栄を齎してきました。故に彼は善と悪の区別なく破壊と創造を繰り返し、賢者であり愚者でもある、神々を惑わす者。つまり全く異なる二面性を有するトリックスターの一人と言えるでしょう。

 

 記録に残るカンピオーネのうち最年少と見なされる冬川秋人は、このトリックスターたる悪神を殺害し、カンピオーネとなった少年なのです。

 

 

 

 

【グリニッジの賢人議会により作成された、冬川秋人についての調査書より抜粋】

 

 僅か八歳という若さで神の殺害に成功した冬川秋人は、既に述べた悪神ロキを弑逆し、簒奪した権能『善悪の悪戯(トリックスター)』により数多の変身能力を獲得した少年です。また、その変身能力は自分自身だけに止まらず他の物質にも及び、未確認ながらも複数の神具の再現も成功させたとの報告もあります。汎用性という点では確認されている全権能の中でもトップクラスと言えるでしょう。

 他にも彼は僅か一年半の間にロキを除いた多数のまつわぬ神との交戦を果たしており、その結果、確認されているだけで二柱の神の殺害に成功。日本神話における凶事と災害の神、大禍津日神からは浄化の権能(後に凶事と災害の元となる穢れを操る権能と判明)『穢れを祓う者(ザ・リトル・クリーナー)』。ミノス伝説における青銅の怪物タロスからは、タロス自身を顕身として召喚する権能『忠実なる青銅人間(ザ・ブロンズ・ゴーレム)』を簒奪し、最低でも三つの権能を所持している模様。

 

 また彼は最年少という立場だけでなく、多くの要素を抱えた過去に類を見ないカンピオーネであることをここに明記しておく。

 冬川秋人は無償で魔術道具の解呪や解毒を請け負い、呪われた地域や化学物質により汚染された地域の浄化を行なう。孤児院や被災地に多額(おそらくドラウプニルの腕輪により生み出された黄金)の寄付を施し、『善悪の悪戯』による道や建物の修復補助を行うなど、まつろわぬ神との交戦だけでなく善行を重んじる稀有なカンピオーネであると推察出来る。

 

 そのような彼が一躍その名を轟かせたのは、『先達への挨拶回り』と称した世界旅行にて東欧のカンピオーネ、サーシャ・デヤンスタール・ヴォバン(以下、ヴォバン侯爵)と交戦し、敗北しながらもヴォバン侯爵から好敵手であると認められた事件であろう。それから冬川秋人は最初を除き現在まで二度ヴォバン侯爵と交戦し、全て敗北(俗に語られている、三日置きに決闘を申し込んだ『命知らずな七日間戦争』)。それにも関わらず未だに存命であり、ヴォバン侯爵も彼を見逃している事から、この二人の間で何か盟約があると考えられる。

 また、我が賢人議会の特別顧問を務めるプリンセス・アリスの証言によると、イギリスのカンピオーネ『黒王子』アレクサンドル・ガスコインとは友好関係にあり、黒王子も冬川秋人に魔術道具の解呪を依頼するほど心を許し、プライベートでも野球に誘われるほど冬川秋人とは親しい関係にあるという(黒王子は激しく否定している模様)。

 他にも冬川秋人はロサンゼルスのカンピオーネ『冥王』ジョン・プルートー・スミスとは頻繁に文通を交わし、先輩後輩と呼称し合う仲であり、イタリアのカンピオーネ『剣の王』サルバトーレ・ドニとは、食事を共にし『鬼ごっこ』なる遊び(その度に結社所有の修練場がほぼ全壊)をしている光景が国内で多数目撃されている。

 また未確認ながら中国江西省のカンピオーネ羅濠教主とは義姉弟の契を交わし、アレクサンドリアのカンピオーネ、アイーシャ夫人とはアダ名で呼び合うほど親しい仲であるとの証言もある。

 半年前にカンピオーネとなった八人目、世界規模での『善悪の悪戯』消失事件に関わっていると見なされている草薙護堂とは、同郷という事もあり仲は非常に良好。冬川秋人自身が彼を認めたとの報告が上がっている。

 

 これでお分かり頂けただろう。冬川秋人は敵対関係となるか不可侵条約を結ぶカンピオーネの常識を打ち破り、今現在でほぼ全てのカンピオーネと友好関係を築けている異質のカンピオーネなのだ。

 

 故に我々は、彼が世界に最も影響を与えるカンピオーネである事を忘れてはならない。

 彼の一言で多くのカンピオーネが彼に助力し、また敵対する可能性もあれば、正義のカンピオーネとして認知されている彼の死は、世界規模での混乱を引き起こすだろう事が推測される。

 彼がこのまま正義を貫くか、悪神ロキの伝承通り世界を破滅に誘うかも、その全ては幼き魔王をしっかりと教育出来るかに掛かっている。

 彼と他のカンピオーネの接触には特に気を配り、我々からの接触も慎重に行う必要があるだろう。

 正義の使者である彼もまた、世界に混乱を齎すトリックスターの性質を受け継ぐカンピオーネなのだ。善と悪、破壊と創造。この二面性はコインの表と裏であり、紙一重である事を、我々は忘れてはならない。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

「……………………たった一週間でよくここまで調査出来たな。この賢人議会とかいう結社はどう裏付けを取ったんだ?」

 

 星空のキャンパスに明るい満月が浮かぶ頃、ベッドに寝転がりながらエリカの寄越したレポートの束に目を通していた草薙護堂は、その諜報能力に呆れながら深い溜息を吐いた。

 あのテスト騒ぎから一週間ちょっと。エリカ経由か、それともエリカ達の所属している魔術結社からの報告かは定かではないが、新しい秋人の情報は世界中に広まったようだ。

 ……ついでに『善悪の悪戯』が消失した件に護堂が関わっている事も。

 今までの悪評を考えれば仕方の無い事かもしれないという諦念が護堂の中で揺らめいている。女癖の悪い色欲魔王というレッテルが助長された訳ではないので大丈夫かと思う辺り、護堂も相当感覚が麻痺していた。

 

「それにしても……まさか秋人がここまで色んなカンピオーネと知り合いだったとはな」

 

 

 ――やあ、君があの子と比べてどのくらい面白いか試してみたいし、僕自身も興味があるんだ。だから僕と決闘をしよう! きっと楽しいよ!

 

 

 ――はっ、もう終わりか小僧ッ!? 奴はまだ張り合いがあったぞッ!

 

 

 

 剣術馬鹿と暴虐老人の言葉が思い浮かぶ。最初は誰の事だか分らなかったが、今漸く彼等の言っている事を理解出来た。

 思えば二人とも自分と誰かを比べていた気がすると、護堂は記憶の海を辿り――そしてとある不吉な予想を浮かべてしまう。

 

「もしかして、他のカンピオーネと出会う度に秋人と比べられるのか? もしくは秋人が原因で変な騒動や戦いに巻き込まれたり……まさかな、無い無い。あってたまるか」

 

 ガシガシと頭を掻き、不吉な考えを払拭する護堂。

 彼は妹からの夕飯の呼び声に応えて部屋を出るが、

 

 

 ――なんでも、お前はわたくしの弟から『兄』と呼ばれていい気になっているようですね。果たしてそう呼ばれるのに値するのか、我が義弟の席を授けるのに値するのか否か。武の頂点にして至尊、あの子の姉であるこの羅濠自らが特別に確かめてしんぜましょう。さあ、あのサルバトーレ某とは違う事を、己の矜持と武を持って示しなさい、草薙王よ!

 

 

 ――我が協力者によれば、君は噂通り色欲の塊、退廃的で淫欲に塗れる爛れた生活を送っていると聞いている。……先輩として、今の内に悪影響の芽は摘み取っておくべきか。

 

 

 

 義姉と話す時はしっかりと他者を呼び捨てにする癖に、うっかり護堂を『兄ちゃん』と呼んだため、日光東照宮に封じられた鋼の軍神を誅するついでに武王からいちゃもんをふっかけられることも。来日した冥王にどさくさに紛れて軍神共々葬られそうになる未来も、この時の護堂は知る由も無かった。

 

 

 




投稿をし忘れていたオマケです。
これにて本当の完結。番外編は、少なくとも数カ月単位で書く予定はありません。
SAOとハリポタの方に集中します。



なお、ドラウプニルの腕輪は、グングニルやミョルニルと同時期に製造され、オーディンの手に渡った腕輪です。黄金を生み出すとも、夜に八つに分裂するとも言われています。
今回は、その黄金を生み出す伝承の方を採用しました。

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