緋色の軌跡   作:断頭台

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act02

 

「っと 」

 

Ⅶ組のメンバー達を追うように旧校舎の地下に飛び降りたクリアとフィーは到着したと同時にある光景を見て絶句した。

 

と言うのも、クリアたちが見たのは、知り合いと思われる金髪の少女を助けるように飛び降りていったリィンが彼女の下敷きになっていた。……それだけならばまだいいのだが、問題は彼の顔がある位置である。リィンの顔は金髪の少女の発育の良い胸に埋まっていたのだから。

 

「あいたた……」

 

「……あの、そろそろどいてもらえると助かるんだが」

 

「………ッ!? 」

 

申し訳なさそうに金髪の少女の下から声を出すリィン。最初は驚いていた少女も次第に自分が置かれている状況がわかって慌てて退こうとしたのだが…彼、リィンの顔が自分の胸に埋まっているのを理解すると茹で上がったように顔を真っ赤にして彼から退き、そして

 

パシンッ!

 

「うわっ」

 

「ヒュー、結構いたそうだな」

 

リィンの頬に思いっきり平手打ちをかましたのだった。その音の痛々しさにクリアの横にいたエリオットはびくりと一瞬目をつぶり、クリアは口笛を吹いて面白そうにしていた。叩かれた当の本人は呆然としているが。

 

「あ、あはは。災難だったね…リィン」

 

「ああ、今日は厄日だ…」

 

そう言って平手打ちをした少女の法を見るのだが、キッと睨まれたあとふいと顔をそらされた。まぁ、今日知り合った人にそんなことをされてしまえば、誰だって悄気げる訳で、リィンも例に外れることなく肩を落として意気消沈していたのだが、そんな中クリアはナハハと陽気に笑いながら

 

「何言ってんだよ、どう考えたって役得じゃねーか。同年代のしかも女子の胸に顔を埋めるなんてことそうそうできないぜ? 」

 

「いやいや!? 確かにそうかもしれないけど!」

 

「…駄目だ、俺はそんな風に考えることができない……はぁ 」

 

更に肩を落として深い溜め息を吐くリィン。それを必死になだめるエリオットを見てクリアはどっちも苦労人になるんだろうなと割とどうでも良いことを考えていた。それから暫くしない内にクリアたちの制服の中から通信器の着信音が鳴り響いた。その着信音は、入学案内書と今クリアたちが来ている制服とともに送られてきた戦術オーブメントと思われるものから出ていた。

 

『どうやらみんな無事にいるみたいねー。それじゃあ、さくっと説明するからサクッとクリアして来てちょうだいね』

 

「さくっとって……」

 

『と言っても、ただこの先の通路をひたすら進んでいたらアンタたちが落ちた上の階に上がれるようになっているからそこ目指して進んでもらうっていうだけだけどね』

 

「しかし、サラ教官……感じる限り此処には…」

 

『あら、気配察知に優れているわねー…そ、君が思っているようにその先には魔獣が潜んでいるわ』

 

魔獣と聞いてエリオットを含むごく少数のメンバーは瞳に不安の色を宿し、ゴクリとつばを飲み込んでいた。サラはソレを見ていたかのように苦笑しながら

 

『ああ、でも大丈夫よ。アンタたち程度の実力があったら別に問題なし。ソレに素敵なプレゼントもあるしね』

 

「プレゼント? 」

 

『ま、それは見てのお楽しみってことで』

 

サラがそう言った瞬間、今まで薄暗かった広間に光が灯って周りが見やすくなった。クリアたちは辺りを見回すと、端にクリアたちが学院の校門で預けた『荷物』と小さい箱が置いてあった。恐らく、サラの言う『プレゼント』と言うのは小さい箱のことだろう。

 

『校門で預けた荷物と今アンタたちが手に持っているであろう《ARCUS》にはめる事で導力魔法が使えるようになるマスタークォーツをプレゼントしておいたから、ちゃっちゃとはめて戻ってきなさいよ〜』

 

「あ、あの! 教官!もしかしてこの…」

 

『ARCSね。財団とラインフォルト社が合同で開発した次世代の戦術オーブメント機…導力魔法が使えるようになるだけじゃないんだけど、その他の機能はまぁ…追々ね』

 

リィンに平手打ちをした金髪の少女が少し表情を強ばらせながらサラに問う。サラがそう答えると、金髪の少女は小さな声で『やっぱり…』と呟いたが、周りには聞こえていなかったようで彼女の一言に反応するものは誰もいなかった。

 

『ま、そういうわけだからさっさと登ってきて頂戴。このオリエンテーリングが終わったら文句でもなんでも聞いてあげるわ。……なんなら、ほっぺにチューでもいいわよ♪』

 

「マジで!? 」

 

「アンタはダメよ 」

 

「そんな馬鹿な……」

 

ほっぺにチューの件で嬉々としてクリアはそう言うが、平淡な声でダメ出しをされてガクリと肩を落として見るからにショックですというふうな雰囲気を出すクリアに周りのメンツは多くが苦笑していた。……残りのごく少数は呆れるか、ジト目で彼を睨んでいるかのどちらかであったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よし、みんな《ARCUS》にクォーツをセットしたわね? んじゃ、今から特科クラス《Ⅶ組》のオリエンテーリングを開始するわ 気長に待ってるから頑張って頂戴』

 

各自が自分の荷物が置いてあるところに向かい、《ARCUS》に箱に入っていたクォーツをセットし、準備を整えた所でサラからの通信は切れた。

 

が、少し、不安があるのか中々奥の通路の方へと誰も進み出さない。……クリアはまだ、さっきのサラの発言にダメ発言のダメージが響いていてそれでどころで、暗いオーラを身に纏って落ち込んでいる。……どれだけショックだったのかは語るべくも無いようだ。

 

「ふん……くだらん。こんな茶番はそうそうに終わらせるに限る」

 

「ま、待て! 一人で行くつもりなのか!? 」

 

「何だ、それがどうかしたのか? 」

 

「魔獣が出るんだぞ! もう少し慎重に……」

 

ユーシスが一人で奥に行こうとするのをマキアスが止める。しかし、それを気にしたふうもなく、少しめんどくさそうにユーシスは

 

「だからなんだ。魔獣如き街の外に出ればいくらでもいるだろう。そんなものに怯える必要など俺にはない。……まぁ、平民風情であろうと怖くて進めないというのならば、俺が守りながら連れて行ってやってもいいが? 《貴族の義務ノブレス・オブリージュ》…力なき民を守るのも貴族の勤めだ」

 

「はぁー、格好良いねぇ……んじゃ、力なき民の俺は守ってもらおうかねぇ……でっ!? 」

 

「ふざけていないで、さっさと行く準備しなよ」

 

「なんだと……その見下したもの言い……どこまで言っても気に食わないな君はッ! 君に守ってもらう必要などない! 旧態依然とした貴族に負けるものか! 」

 

ユーシスの物言いに激昂したマキアスは一人奥の方へと進んでいく。サラのダメ発言から立ち直ったクリアはなんのプライドもなくユーシスに守ってもらう発言をしたのだが、即時フィーによって思いっきり脛を蹴られる。

 

「フン……阿呆め」

 

とマキアスの背中を見ながら呟き、彼の後を追うようにユーシスも奥の方へと進んでいった。その直後に青い髪の少女が顎に手を当てながら

 

「ふむ…そなたら、私と共に行動しないか? 」

 

「私たち? 」

 

「ああ、一人で行動するよりも、そちらの方が良いだろう。そなたも一緒……」

 

青髪の少女がフィーに言いかけたが、フィーはそれをワザと無視して一人奥の方へと進んでいく。…その様子に三つ編みの少女と金髪の少女は苦笑していた。

 

「ふむ、まぁ後に合流すればよいだろう。行くとしようか」

 

「そうね」

 

「はい、足でまといにならないように気をつけますね」

 

そう話しながら少女たちも奥の通路の方へと向かって進んでいく。その際、リィンと金髪の少女がすれ違う時に彼女はリィンを睨んだあと、ワザと鼻を鳴らして彼の横を通り過ぎる。そんな行動を取られてしまえば、人の良いリィンはしょげてしまうわけで、案の定肩を落としていた。クリアは女の子がするような行動ではないよな、なんてことを考えていてあまりリィンの方に思考はいっていなかったが。

 

で、残ったのがクリアを含めて四人。クリアにリィン、エリオット、そして長身の少年である。

 

「えーっと、僕らも行こっか? 」

 

「そうだな。……君も一緒に行かないか? 」

 

「俺か? 」

 

「ああ、リィン=シュヴァルツァーだ。よろしく」

 

きょとんとしている少年にリィンは自己紹介をする。それに続くようにクリア、エリオットと続いた。すると、長身の少年も微笑みながら

 

「ガイウス=ウォーゼルだ。よろしくしてくれると助かる」

 

「おう、よろしくなーガイウス」

 

「うん、よろしくねガイウス」

 

互いに握手をしたあと、連携をとるために自分の武器を紹介しようということになった。各々トランクや包みを開けて武器を取り出す。

 

「まずは俺からだな」

 

「……十字の槍? 」

 

「ああ、故郷にいた時から使っていたものでな。足でまといにはならないだろう」

 

「なんつーか、様になってんなぁ」

 

「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいな」

 

照れくさそうに微笑むガイウス。危うげもなくソレを扱うところを見ると相当な使い手でもあるだろうなと考えながらクリアは笑っている。

 

「じゃ、次は僕だね。これ、なんだけど……」

 

「…見たことも無いものだな帝国の最新の武器か? 」

 

「俺も見たことないな…」

 

「必修の武術で使用するもので、あったんだけど…魔導杖らしいよ? まだ、うまく扱えるかわからないけど」

 

まぁ、頑張って見るよと言って苦笑している。クリアも魔導杖の存在は知らなかったし、どんなものかもわからないので内心どんな戦い方をしてくれるのか興味を持っていた。…自分が使うとなれば話は別だが。

 

「んじゃ、まぁ俺かね」

 

そう言いながらクリアは蠍のステッカーがついたトランクから武器を取り出す。が、その誰もがクリアの武器を見て驚いていった。まぁ、見た目がそこそこ厳ついのでそれは仕方がないことだろうとクリアは一人結論づける。

 

「それはまた、凄いな……」

 

「そうか? まぁ…見慣れてっからそう感じるだけか」

 

「銃剣、になるのかなソレ? 」

 

「ま、そだな。俺らはブレードライフルって言ってたけど、一応んな感じのだ。ちょいと特別製だけどな」

 

片手で持ち上げたソレ…ブレードライフルの銃身を軽くコンコンと叩きながらそう言うが、見た目に圧倒されているようでクリアのブレードライフルに皆釘付けになっている。

 

「さて、最後はリィンだぜ? 」

 

「あ、ああ。俺のはこれだな…」

 

そう言ってリィンは腰の鞘から刀身を出す。見事に打ち鍛えられたその刀身は美しい、その一言であった。クリアもその刀身を見て「へぇ…」と声を上げている。

 

「それって剣? 」

 

「帝国のものとは違うようだが……」

 

「――刀だな」

 

「ああ…知っているのか? 」

 

「……ま、そんなとこだな」

 

苦笑しながら言葉を濁すクリアにリィンたちは疑問を抱きながらもそれを口にすることはなかった。それもそのはず、これから共に過ごして行くと言っても今はあったばかりだ。それなのにあまり喋りたそうに無いことを根掘り葉掘りするのは自分にとっても相手にとってもあまりいいものではないとわかっているからだろう。

 

「刀って…? 」

 

「ああ、ちょっと切れ味が良くてな。扱いが難しいんだ…俺もまだまだだよ」

 

「えー? すごく様になっているんだけどなぁ」

 

「ふふ、そうだな。それにかなり綺麗な刀だ」

 

「そうかな? でも、ありがとう……さて、他のメンバー立ちに比べたら結構出遅れているし、そろそろ行くとしよう」

 

リィンが刀を鞘に収めながらそう言う。クリアたちも異論はないようで、みんな頷いて奥の通路の方へと歩いていく。が、一人クリアは

 

(どーせ、サラさんのことだから最後に面倒な仕掛けか何かあんだろうなぁ…)

 

と考えながらリィンたちと歩いていくのだった。……そして、奇しくもそのクリアの予想が当たってしまう事になるとは、クリア本人も思いもしなかった




ずいぶん遅れてしまいましたが、更新です。

最近は閃の軌跡プレイしてないなー…やっぱ、アレか、五章まで行ったのにデータが吹き飛んでしまったのが自分で思っているよりもでかかったのか(-_-;)
まぁ、流石にこの作品を完結させないわけにはいかないのでぼちぼちとやっていくつもりですけどねw

少し、更新が遅れることがあるかもしれませんが、今後とも宜しくお願いします。

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