魔法の世界へ転生……なのはって?   作:南津

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#004 おや、妹の様子が……

Side Yuichirou――

 

 

 結衣が生まれてしばらく経ち、幼稚園に通うことになった。……はぁ。 家の近所の送迎バスが止まる場所まで出てバスに乗り、幼稚園に向かう。これから三年間も幼稚園通いが続くと思うと……

 母さんは育児休暇を取っており、暫くは結衣に付きっきりだ。夜はぐっすり眠れて楽らしい。

 普通の子供は夜泣きでうるさくて母親は眠れないみたいだけど、家の結衣はそんなことなかった。逆に静か過ぎて心配になるが、泣くときは泣いているので問題はないみたいだ。

 

 幼稚園は特に何もなく始まり、何もなく終わる。お昼寝の時間などもあるが、そのあいだはマルチタスクでシミュレーションをしながら、デバイスの設計なんかをする。

 両親のインテリジェントデバイスの基礎データをもらっているので、色々と暇を潰すのには問題ないが、やはり幼稚園では精神年齢の問題から浮いてしまう。

 

 同い年の子供の面倒を見たり、泣いた子を慰めたりでどうにも溶け込めない。

 帰りはバスで自宅付近まで送ってもらい、一旦帰宅して遊びに出かけたり、母さんからお使いを頼まれたり、作業室に篭ってデバイスを弄ったりして過ごす。

 

 魔法の訓練も毎日欠かさずに行っている。広くはないが、庭に結界を張って、小規模な魔法を繰り返し練習する。大規模な魔法になると、臨海公園や海の上に結界を張って練習することになる。

 

 特典の限界値設定はやはり反則的で、魔法の資質も色々と弄ることができた。もちろん、直ぐに効果が出るものではないが、成長限界値を弄ってあるので、訓練すれば訓練するだけ技術や資質が上昇する。低い資質のものも、成長速度こそ遅いものの、やるだけ身についてくれる。

 元から適性の高かった収束、発散と放出に吸収はもちろん、召喚や転送、結界等は適性が低かったが、よく使う結界や転送についてはどんどん適性も伸びていった。

 魔導師には必須とも言えるマルチタスク技能も使うほどに上昇していく。もうそろそろ増やす必要もないのでフルでマルチタスク技術自体を訓練することも少なくなった。

 その分マルチタスクを使った魔法制御訓練が割合を多く占めるようになった。

 

 魔法の訓練をしているとき、海鳴市内にAAを超える魔導師が五人になっていることがわかった。内二人は父さんと結衣だが、あの喫茶翠屋の桃子さんの娘であるなのはちゃんもAAの魔力を持っているようだった。両親ともにリンカーコアを持っていないことは確認できていたため、突然変異なんだろう。

 うちの妹もAAから、AAAの間で、現時点で父さん以上の魔力を保有していた。

 一日の殆どを寝て過ごしているが、僕よりはるかに手がかからないらしい。まぁ、僕はある程度子供らしくやっていた自信はある。普通の子供よりは手が掛からなかっただろうが。

 

 ん~……結衣も転生者なんだろうか。普通に考えて新生児の態度じゃないんだよな。

 まぁ、転生者だろうが可愛い妹なので気にしないけど。

 魔力以外特に不思議な力も感じないし、触れ合う時も特に嫌がる様子もないから、普通にいい子だと思う。

 将来、反抗期になるのかだけは気になるけどね。

 

 妹まで転生者だった場合、とりあえず僕が転生者だということは誰にも打ち明けないで、墓場まで持っていくことにする。三年間過ごしたけど、この世界のことも詳しく知らないみたいだし、子供が二人共唯の子供じゃないとか、両親に少し申し訳ない。

 

 まだ決まったわけじゃないけど、結衣が転生者だと打ち明けても僕は特に何も対応しないことに決めた。元から新しい人生を楽しむと決めていたんだし、知らない原作とか前世とか今はどうでもいい。

 危険が降りかからないようには気をつけるつもりだが、好きに生きるつもりだ。もちろん妹が危ない時は助けるつもりはある。

 

 というわけで、今は何をしているかというと、父さんと一緒にミッドチルダに来ていたりする。なんでも、無限書庫なる管理局の資料庫があり、父さんがそこに用事があるのだとか。

 許可があれば民間人でも立ち入りが可能で、序だからと連れてこられたのだ。

 

「裕一郎はデバイスに詳しくなりたいんだろう? 無限書庫に行けば色々過去の資料もあるかもしれないし、これからミッドに居る間は好きな時に来られるようにしておこうと思ってね」

 

 ……ということらしい。ただ、増え続ける資料を整理する人間がいなくてごちゃごちゃしているらしい。調べ物は数人で協力して行わないと見つけることは困難だとか。

 そんなところに三歳児を連れて行くなよと言いたいが、デバイスの資料が見られるのなら好都合だ。

 

 父さんに手を引かれて無限書庫へ向かう。

 いくつかの手続きを終えて入室すると、わけのわからない空間が広がっていた。本は乱雑に棚に押し込まれ、無重力なのか、空中に投げ出されたままの本も大量にあった。

 上を見るとどこまで続いているのかわからない本棚がびっしりと並んでいる。

 

「うわぁ……ここで調べ物するの?」

 

「あぁ……はぁ、父さんは今日だけだが、明日からウチの隊の連中が少し調べ物をするんだ」

 

「父さんの隊……」

 

「ん? ああ、父さんが所属しているのは航空戦技教導隊だ。正式には……時空管理局武装隊第2教育群第3教育大隊第18戦技教導隊……だったか?」

 

「曖昧なんだ……」

 

「数年に何度かくらいしか全名称を確認することがないからな。精々第3教育大隊あたりからだ。一般的には航空戦技教導隊や、管理局武装隊の戦技教導隊なんて言われてるな。これでも一応三等空佐で第18戦技教導隊の隊長さんだからな?」

 

「ふーん」

 

 父さんはなんと少佐殿だったらしい。焔の大佐には及ばないのか。

 教育隊は二つの群と三つの大隊に分かれているらしい。戦技教導隊は三つ存在し、第1教育群に一部隊、第2教育群に二部隊おかれている。

 さらに、戦技教導隊はいくつもの班で構成されており、隊長で指揮するようなことは滅多にないらしい。集まった時の挨拶とか書類仕事、班長の教育位みたいだ。

 

 管理局は万年人手不足みたいで、優秀な航空魔導師を育成することが急務だとか。

 父さんは確か三十四、五くらいの年だったので、そこそこ優秀な魔導師だったようだ

。ただ、空戦AAランクであることや、キャリア、指揮官技能的に定年(無い様なものらしいが)までに二等空佐になれれば良い方みたいで、キャリアをもっと積まないとダメらしい。

 まぁ、父さん自身は出世自体に興味は無いようで、教導の仕事を続けたいらしい。さらに出世したら体を動かす事がもっと減ると言っていた。

 

 父さんと分かれて、無限書庫の探索を開始する。

 検索魔法が必要らしいが、今そんな都合のいい魔法など持ってはいない。今まで文章や書籍の検索など魔法を使ってやったことなどない。

 適当に気になる物を直感で選んで適当に捲っていく。ミッドの過去の資料や、近年の魔法体系の資料、古代ベルカと呼ばれる遥か昔の資料などが出てきたが、デバイス関連はあまり載っていない。

 ベルカ式と呼ばれる魔法があるが、古代ベルカ魔法は今では殆ど見られないようで、古代ベルカ式をミッド系魔法技術で模倣した近代ベルカ式なんてものもあるらしい。

 

 と、気になる資料が見つかった。古代ベルカの資料で、夜天の書という蓄積型ストレージデバイスが有るらしい。リンカーコアからその人間の魔法技術を蒐集し、デバイスで再現することによってその魔法技術を扱うことが出来るというものだ。

 

「ふむふむ……」

 

 存在するとあるだけで、流石に制作資料などはないらしい。もしかしたらこの山の中に埋まっているのかもしれないが、見つけようがない。

 

 とりあえず、他人の魔法技術を模倣すると言う点は面白い。リンカーコアの収集という点は少し問題があるが、演算能力を高めて魔法陣と魔力の動きや現象から魔法式を逆算し、プログラムで再現出来るようにできないだろうか?

 もしくはリンカーコアの検査で使われるスキャン能力を改良して、収集なしで走査範囲内の魔法技能を模倣することはできないだろうか……

 

 夜天の書についてはこれ以上詳しく載っていない。気になるのは、夜天の防衛プログラムを破り、システムを乗っ取る紫天の書なるプログラムがあるらしい。

 メモのように書き加えられていただけで、削られている部分も多く、それ以上の情報はなかったが、なんだか物騒な話だ。

 

 古代ベルカにはカートリッジシステムという物が搭載されたデバイスがあるようだ。ミッドのデバイスパーツを扱う店では見たことがない。

 ……近代ベルカには搭載されてないのか?

 地球人としては銃や電池など、一般的な運用方法だ。

 

 盲点だった……魔力は腐る程あるので魔法に充電池を使うという発想ができなかった。確かに、リンカーコアからの供給だけでなく、デバイスに内蔵した電源から魔力を供給すれば大出力の魔法が再現できるはずだ。

 瞬間的にも恒久的にも魔法の威力底上げに魔力電池は有効だ。

 

 ……作るか?

 

 古代ベルカでカートリッジは常識的のようで、この本の山の中にも必ず埋もれているだろう。

 ミッドチルダ式のデバイスに適応するよう組み替える必要はあるが、特に問題は無い様に感じられる。瞬間的な魔法強化は若干調整が必要だろうが、魔力電池として常時リンカーコアからの魔力消費を抑えることも出来るはずだ。

 

 充填方法は……書いてないな。銃の弾丸みたいに一つずつ詰めるか、充電池のように魔法を使わない時に常時回復する程度少しずつ魔力を集めるか……

 どちらも採用できれば良いな。後者を採用するにはカートリッジの弾数は多い方が良いか……。常に飽和しないよう予備カートリッジもあったほうがいいな。

 

 技術資料があれば即錬金術でパーツやらは作れるんだが、システムの検証の方には時間を掛けた方が良い。

 第一段階としてカートリッジへの充填およびシステムの実装、第二段階は蓄電池方式での充電機構の採用。第三段階で瞬間的な魔力強化。第四段階ではシステムの効率化ってところか。

 

 オラ、ワックワクしてきたぞ!

 

 

――Side out

 

 

Side Yui――

 

 

 無事に転生したらしい。けど……

 

 赤ちゃんは流石に恥ずかしいよ!

 

 前世の名前はもう思い出せないけど、私こと結衣は新しい両親のもとに生まれることができた。ここが魔法少女リリカルなのはの世界の海鳴市という場所みたい。

 お父さん(前世のだけど)が言うには静岡とか千葉らしいけど、ここは……まだ調べられないしどこかは分からないんだよね。

 

 でもニュース聞いてると、たぶん海鳴市は……あれ? 何考えてたんだっけ?

 

 まぁ、どうでもいいことだったのかな?

 赤ちゃんの頭で考え事をするのはやっぱり大変みたい。今日まで色々考えてきたけど、直ぐに眠くなって眠っちゃうし。

 

 元々リリカルなのはを知ったのはお父さん(前世のだけど……あれ?前にも……)が見ていたからだけど、最初は普通に子供向けだって思ってみてたんだ。

 でもなんだか違うようで、そっちはまだ早いからって見せてもらえなかった。

 

 とりあえず、家族環境は特典でお願いした通りだった。お父さんもお母さんも魔導師みたい。二人共インテリジェントデバイスとお話していたから間違いないと思う。

 お父さんは時空管理局の武装局員みたいで、殆ど家に帰ってこない。お母さんも管理局員みたいだけど、今はお休みをもらっているようだった。

 お祖母ちゃんもいて、少し足が不自由そうだけどまだ元気にしている。

 お兄ちゃんも居るみたいで、私とは三っつくらい離れているらしい。お母さんが居ないときはよく様子を見に来てくれる。今は幼稚園に通っているらしく、昼の間はいない日が多い。

 

 転生したから特典の確認をしたいけど、瞬間移動だけなんだよね。生まれた場所はちゃんと海鳴市であってたから大丈夫だけど、残りの二つは三歳と五歳の時。動き回れないからそれで良いんだけど、暇な時間がすごく多い。

 

 この体で瞬間移動するのは危険だと思うし、魔力も良くわからない。あると思って探れば何かあるような気はするんだけど、しっかりと掴むことができない。よく、今までないものがあるからって直ぐに感覚がつかめるっていうのは絶対嘘だ。それか天才じゃないと無理だと思う。

 ある意味、天から授かった才能で天才と言えるかもしれないけど、知らない感覚があったからといって、今までなかったものが直ぐに扱えるわけない。

 少しずつ感覚を知って行って、少しずつ慣れていくしかないよね。

 

 私が生まれたのは二月二一日。なのはちゃんが生まれるのはリリカルなのはでは知らなかったけど、三月十五日らしい。ホワイトデーの翌日にお父さんがいつもお祝いしてたから。

 なのはちゃんのお誕生日を。

 

 モニターの前で。

 

 もう四月も終わりに近づいてきたから、なのはちゃんも生まれていると思う。翠屋っていう喫茶店も営業しているみたいで、よくお母さんがお兄ちゃんにお使いに行かせている。何時もクリームやカスタード、チョコレートなんかのいい香りが私の鼻を擽ぐる。

 ……私は食べれないんだけどね。

 

 なのはちゃんと誕生日が近いってことは、原作開始の時に私は八歳。あと八年。

 小学校入学までは六年だけど、私立の小学校受験なんてやったことない。小学校は普通の近くの公立小学校に通ってたし、中学校も同じ。

 なのはちゃん達と同級生になるには、聖祥大附属小学校に入学するしかない。私立だから学費とか気になるけど、大丈夫だと思う。たぶん。

 

 将来のことはまだあんまり決めていない。お母さんやなのはちゃん達の様に管理局に入ってもいいけど、言ってみれば軍隊みたいなところなんだよね。軽く言えば警察になるけど、人と戦うことがまだ想像できない。

 そもそも、まだ社会に出たことがないので働いてる姿が想像できない。

 

 なのはちゃん達が危険な目にあうのは放っておけないから、管理局には入ることになると思うけど、そのためにもいろいろと鍛えておかないとね……

 

 ん……なんだか眠たくなってきちゃった……

 

 

――Side out




※14/01/07 誤字修正

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