白物語 作:ネコ
「まずは、チャクラを感じることから始めるか」
再不斬は何事も無いかのように言い始めた。
「その取っ掛かりが全く分かりません」
「日常的に使っているだろうが。と言うか、なぜチャクラ切れを起こさないのか不思議なんだが……。まあいい、まずはそのチャクラを止めてみろ」
白が、チャクラの存在をよく分かっていないと言っているにも関わらず、再不斬はチャクラを止めろと言ってきた。白としては説明不足もいいところだろう。
「チャクラを止めてみろと言われても、止め方が分かりませんので、まずは説明をお願いします」
「チャクラって言うのは、精神と肉体それぞれのエネルギーを練り上げることで生まれる。見た感じ、お前の場合は練り上げたチャクラで、身体を強化してるみたいだな」
よく考えると、説明を受けたとしても、認識できないことに白は気付き言い直した。
「すいません。専門用語を使われて説明されても、やっぱり分からないんで、実技指導でお願いします(言葉で色々言われても覚えられる自信ないし、理解できない……)」
「そうだな。まずは、その手足の痣を消すことから始めるか」
(医療忍術ってかなりレベルが高かったような? 痣くらいならそこまででもないのかな?)
再不斬のいきなりの提案に驚くも、現状で既にチャクラを使用しているのであれば、それをコントロールするのにはいいのだろう。
白は身体の痣を見回してみる。
全身といっていいほどに痣はあった。
「痣は一杯あるんだ。どれでもいいから、まずは患部に手を当ててみろ」
「当てました」
指示された通りに、手を足にある痣を適当に選び、当てて再不斬を見上げる。
「その当てている手に目を閉じて集中してみろ。他のことは一切考えるな」
再不斬に言われた通りに、目を閉じ意識を手と足の接触している箇所へと集中する。この時に、手から足へと何かが僅かずつだが循環しているのが分かった。
今度はその循環している流れを、自分の思い通りに出来るか試してみると、止めることも増やすことも出来たのである。
(これがチャクラなのかな?)
目を開けて、この流れを忘れない内に繰り返していく。目を開けていた為か、流れを早くすることで痣が治っていくのが分かった。薄らとだが、手を当てているあたりが光っているように見える。しかし、その行為を続けるに伴い、身体に疲労感のようなものが溜まっていく。
「出来たみたいだな」
「はい。この身体の中の流れみたいなのがチャクラですか?」
「そうだ。本来は練り上げないといけないが、お前は無意識でやってるみたいだな。当分はいいが、意識して出来るようにもなっておけ」
「わかりました。ただ、結構疲れますね」
チャクラと思わしきものが、身体の中を巡るのに合わせて、疲労も溜まっていく。それは、いつもの仕事よりも疲れるものだった。
「最初はそんなものだ。それを身体中自在に動かせるようになれば、次を教えてやる」
「えーっと。いまでも自在に動かせますけど?」
「…………」
実際に最初の取っ掛かりが分かれば後は楽だった。一度身体の中にあるチャクラを認識出来れば、それを自分の意思にて動かすということが、先ほどのことでコツを掴んだため、いまでは簡単に出来る。それを伝えたのだが―――
「わかった。次はチャクラの量のコントロールだ。さっきみたいな力業ではなくな。痣だったから治ったみたいだが、これが切り傷や毒などの場合はかなり違ってくる。より精密なコントロールが必要な訳だ。一通り怪我が治ったら次を教えてやるよ。取り敢えずは……また明日来てやる」
「ありがとうございます。あっ! 飯を食べていきませんか? 弁当ですけど」
「飯はいらないが、そこに転がってる酒を貰っていこうか」
「どうぞどうぞ。処分に困ってたので、全部持っていってください」
再不斬は、酒瓶を幾つか持つと、小屋を出ていった。
(さて、チャクラについては分かった。後はこれの修行方法だけど、確か木登りだったっけ? この小屋の壁でやってみるか)
寝転んだ姿勢で足を壁につき、足の裏にチャクラを集中させていく。
(壁にチャクラを吸着ってどうするんだ? 認識の問題なのかな?)
足の裏へと集めたチャクラを、壁に吸い付けるようにすると、壁からミキミキと音が鳴り始めた。
(これはチャクラが多すぎたか……)
チャクラを減らしていき、音が鳴らなくなった時点で、足の裏が壁に吸い付いているのを確認し、登ろうとしたが、今度は身体がついてこなかった。
(筋力が無さすぎる。チャクラ無かったらほんとに非力なんだな……)
今度は、身体の方にもチャクラを巡らせて、先程と同じくらいのチャクラを足の裏へと持っていく。そして、一歩ずつゆっくりと壁を登っていった。
(取り敢えず成功っと。流石に白の身体なだけのことはある。後は身体を鍛えて、忍術覚えてやることは一杯だけど、なんとかなるかな?)
楽天的に考えながら、壁を移動する訓練をしてから寝るのだった。
次の日も、同じように仕事から帰ると再不斬が待っていた。
(この人いま仕事何してるんだろう? 上忍レベルだとは思うんだけど、暗部だったかな?)
再不斬の、霧隠れの里での仕事内容までは覚えていない。少し考えていたが、再不斬の一言でそんな考えはすぐに消え去った。
「早速始めるぞ」
「お願いします」
「ついてこい」
そう言うと、再不斬は小屋を出ていったので、白も荷物を置き慌てて追いかける。
再不斬が向かった先は小屋の裏手であった。そこには以前、林があったはずだが、木々が一部なくなっており、少し広めの池が佇んでいた。
再不斬は、その池の上を平然と歩いて池の中央までいくと、こちらを振り返った。
「ここまでこい」
「(なんの説明もなしとかスパルタだなあ)分かりました」
昨日の壁歩きの要領で、片足だけを水に浸けてチャクラを調節していく。
(今度は放出するような感じにすればいいのかな?)
どうも、単純に放出するだけでは駄目なようで、浮くと言う感覚はなく、水を盛大に弾いてしまっていた。
(ん~……チャクラの密度を上げすぎかな? もっと必要な分だけを、水に対して放出する感じでと……)
今度は、水を弾くこともなく片足を乗せることが出来た。それに伴い、もう片足を水の上に乗せようとしたところで、いきなり水が波打つ。
いきなりの波に対して、慌てたことにより、バランスを崩し池に浸かるはめになってしまった。
「警告なしはあんまりだと思うんですが?」
「いつも、水面が荒れてないと思うな」
再不斬は、当たり前のことを言わせるなと言わんばかりに言い切る。
言っていることは正論だが、わざわざ波を立てることに対しては反感を覚えてしまう。
「それは、初心者に厳しくないですか?」
「俺が帰ったあと壁を歩いていたやつが何を言う」
どうやら、昨日のことは既にばれていたようだった。特に隠すつもりは無かったので、どうでもよかったが、覗かれていたことにはかわりない。
「覗きは犯罪じゃないですか?」
「忍びはそんなもんだ」
それを言われると、なぜか納得できてしまう。この世界では特に……。
取り敢えず、不承不承納得せざるをえないのをおいておく。
「早くここまでこい」
「釈然としないなあ」
そう言いつつも、もう一度池から上がり、今度は水面に注意しつつ歩いていく。
(これだと、一度でもコツさえ掴めば、大抵のことが出来そうだな)
多少水面を揺らしながら、再不斬の元へと辿り着くことができた。
「今日はこの水面を走れるくらいにはなっておけ」
「はい」
そう言うと、再不斬は今日の訓練は終わりとばかりに帰っていった。
(よくわからない人だな)
この後すぐに走れるようになってしまったため、逆立ちでやってみたり、水面に寝てみたりと色々試し、最終的に、走っても波紋のみで、音をたてずに動くことが出来た。白はそのことに満足してから小屋に戻っていく。
それを再不斬が見ていることも知らずに……。