もし宮永照と大星淡がタイムリープしたら   作:どんタヌキ

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え、何このUAやお気に入り数の伸びは……(唖然)
自分でも凄くびっくりしています。読者の皆様には本当に感謝ですね。

さて、対局後半です。
やっぱり前回、前後半で区切るという判断は正解だったなと。しなかったら、15000字を軽く超えていた事に……



5,Roof-top対局(後)

「……!」

 

 南二局。

 今まで特に表情を変える事無く対局をしていた照の表情が、少し歪む。

 

(五向聴……動いてきたか、淡)

 

 先程までは感じなかった違和感。まるで宇宙空間に支配されるかのような――――

 そしてその違和感と共に、淡以外の配牌に異変を起こす。

 

(淡の親……ダブリーもしてくるかな?)

 

 この対局で、淡の能力を唯一知っている照は次の淡の行動に注目する。

 他人の配牌を五向聴以下にする、絶対安全圏と呼ばれる能力――――それとは別に、もう一つ。淡はやろうと思えば、必ずダブリーをする事が出来る。

 

 いや、必ずというのは少し語弊があるかもしれない。子の場合、鳴かれたらダブリーをかき消されるからだ。

 が、今は淡の親番。これに関しては、本当に必ず、淡本人がやろうと思うだけで、ダブリーが出来るのだ。

 

 それ故に照は淡の最初の一手にいつも以上に目を向けた。その牌が横向きになるのか。

 

 

 

(……してこない?)

 

 だが淡は九筒を捨て、特にリーチ宣言もしてこなかった。

 

(……本当に何を考えているんだろう)

 

 

 

 照がそんな疑問を抱いている中、照のように能力の詳細を知っている訳ではない――――が、何らかの異変を感じている者も。

 

(五向聴……うーん、すばらくないですね)

(んー、五向聴か……和了りが遠いわね、チャンピオン相手にこれは厳しいわ)

 

 煌と久、二人は自身の配牌が良くなかった事に対して周りに悟られない程度に心の中でため息をつく。

 そして、ただ手が重たいだけではない――――二人が何かを感じ取り、そして導かれた結果から出た共通の思考。

 

(……何か、何となくですが、空気が重たい気がします。照先輩の圧力に、更にプラスアルファで何かが乗っかってきたような……)

(なーんか、良く無い流れになっちゃってる気がするのよね……空気が今まで以上に重いわ)

 

 手だけではなく、この場、そのものが重い。それが何なのかまではまだ辿りつけていないが、何かが起こっている――――という所までは感じている二人。

 

 そしてこれは、周りから見てもわからない現象だ。

 現に、打っている者だけが感じている事。

 

 

 

(やっぱり久先輩の汗凄い……それに、花田さんだっけか。あの人も汗凄いし)

 

 圧力という圧力を直に受けている煌、久の両者は周りから見てもすぐにわかる程度の汗が流れていた。

 だが、周りからすれば何故この空調も効いている部屋で、あの汗の量なのか。理解に苦しむ現象であった。

 

(何かが、起きている……?)

 

 そしてその周りから見ている者の一人である華菜は、あの汗から何かの異変が起きているであろう所までは推測する。

 が、肝心の何かが全くわかっていない。華菜からすれば、圧力を全く感じていないのだから。

 

 一応、見ている者も異変が起こっているという事は賢い者ならたどり着ける所だが、直に感じる所までは打っている者でなければわからない。

 

 

 

 ――――そして四順目を迎えた時。

 

「ロンッ!タンヤオのみ、2000点だよ~」

「なっ!?あ、それだけですか……」

 

 親の淡からかなり早い段階でロン宣告を受け、一瞬相当びっくりした煌ではあったが、安手という事を聞いて安堵する。

 が、冷静さを取り戻してからもう一度……びっくりする。

 

(ノミ手で助かった……って所ですが、おかしいです。照先輩が、和了れなかった……?)

 

 照は、恐ろしいくらいの連続和了が特徴だ。

 そしてその連続和了は順に得点が上がっていく。更に言えば、最初は大体が安手だ。

 

 必ずしも、という事ではないが安手は高い手に比べ一般的には早く和了れる。そしてその一発目の安手でもいい場面。そこで、照は和了れなかった。

 勿論、周りから見ていてもチャンピオンが和了れなかったのを見れば驚く現象だ。だが、いつも近くで見ている煌からすれば、安手ですら速度で負けた事に衝撃を受けた。

 

(今、私よりも驚いている人が照さん、淡さんを除いて他にいるでしょうか……?そして淡さん、その速度、すばらです)

 

 

 

 一方、和了れなかった照はというと。

 

(うーん……?)

 

 よくわかっていなかった。

 いや、厳密には照は今の局に起きた事の可能性のいくつかを考え付いてはいる。

 

(絶対安全圏だけ発動させて、たまたま配牌が良くそのまま早和了り出来たのかな?それとも……)

 

 ダブリーは発動させず、淡自身の運が良くてそのまま和了れたという可能性が一つ。

 そしてもう一つ、照が思いついた事。だがそれは淡じゃありえないだろうと、すぐにその可能性を照は消した。

 

 

 

 今までの淡じゃ考えられなかった事。

 

 

 

(あの局、普通に和了ったってテルは思ってるのかなー?)

 

 淡はニコニコしながら周りを見渡し、特に照の表情を探る。

 

(ま、テルのポーカーフェイスを見た所で何考えているかなんてわからないか。だけど、まあ……)

 

 淡がこの局、行っていた事。

 

(まさかダブリー手を崩して別の手にした、なんて事は流石に思ってはいないだろうなー?)

 

 最初の配牌の時点で、淡は既に聴牌をしていた。

 そう、能力を使っていた。強制的にダブリーに持ってくる、淡のとてつもない能力。

 

(私のダブリーはそれしかならない。ま、後々裏ドラが乗る事は置いといて……ノミ手なんだよなあ)

 

 淡はダブリーをする時、それしか役がつかない。

 最終的に来るべき所まで行けばカン、そしてカン裏と乗り強制的に跳満手までは持っていくのだが、時間がかかる。

 

(普通ならダブリー手を崩すなんて事は誰も思いつかないだろうね、私だって今まではそうだったし。だけどちょっと手を変えるだけで役をつけれるならば……そしてそれが五順目以内に和了る事が出来るのならば……)

 

 ダブリーをするという事は、自分の手が聴牌している事を周りに知らせる事となる。

 相手は五向聴、それでいてダブリーといったらもうなす術がないと普通は思うだろう。だが稀に、それが通用しない事もある。

 

 そして淡の場合、基本役がダブリーのみのため、リーチ宣言をしないと和了は出来ない。ダマ和了が出来ないのだ。そのままなら、という言葉を付け加えるが。

 これを速攻で手変わりさせて、且つ五順目以内に和了する事が出来たのならば。それは、完全防御と呼べるものだろう。

 

 

 

「さーて、一本場いくよー!」

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「ツモ。300、500の一本場は400、600」

(まー、そんなに簡単にテル相手に和了れたら苦労はしないんだけどねー)

 

 同じく南二局、今度は七順目で照があっさりと和了る。

 淡も、同じようにダマで役をつけ、張っていた。が、引き負ける。

 

 

 

 続いて南三局、照が2000点のツモ和了。

 

 この時点で、点数が

 

 照・44800

 淡・18100

 煌・21300

 久・15800

 

 となっている。

 

 次局、運命のオーラス、南四局――――!

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

(あー、ホント泣けてくるわね……)

 

 親である久は、自身の配牌、そして今までの流れを全て振り返り気落ちする。

 

(オーラスなのに、ここまで一度も聴牌すらしていない事実。そして今回も五向聴。どうなってるんだか……)

 

 今まで一度も和了出来ていない事実どころか、聴牌すら出来ていないのだ。

 半荘で一度も和了出来ないという事は何度も打っていれば、その内運の悪かった一回、二回は起こってもおかしくないかもしれない。が、聴牌すら出来ていないとなるとそれは今までの麻雀人生を振り返っても起きたかわからない現象。

 そんな現象に、久は直面している。

 

 

 

(……っと!弱気になっちゃいけないわね。後ろで華菜も見てるのだもの。どんな展開だろうと、最後まで先輩らしく、堂々としなきゃね)

 

 沈んでいた心を、再び久は盛り上げていく。

 

(まだまだ、こんな所じゃ終わらないわよ!とにかく、連荘!)

 

 これから親でずっと和了り続けていればトップになる事も可能。

 そんなわずかな可能性を信じ、久は打つ。

 

 

 

(さーて、風越の人には悪いけど……ここでドデカイの、ぶち込みに行くよ)

 

 そんな決意を固めている久の対面に座る淡は、不敵な笑みをこぼす。

 

 淡の一巡目ツモ。聴牌、ダブリー可能な手。

 

(跳満確定手?そんな物でこの局面私が満足するとでも?……誰がするか!じゃあね、いらない牌!)

 

 淡は捨てた牌、一萬を横向きにする事もせず。

 

(目指すはトップ!)

 

 

 

 南四局、賽の目は5。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

(ッ!?)

 

 五順目、煌のツモ順。

 ここで彼女は場を見渡し、明らかに不自然な。一種の気持ち悪さを感じてしまうくらいの異変に気づく。

 

(淡さんの河……どうなってるんですか?)

 

 淡が捨てた牌。

 一萬、二萬、三萬、四萬、四萬。この五順目という早い段階なのにも関わらず、面子、対子と切れている。

 

 そしてそれは、明らかに不自然すぎる。

 

(あの綺麗な手を切っているって事は……恐らく、逆転をまだ諦めずに高い手を狙っているという事。それはすばらな事ですが……凄いですね、あそこまで綺麗に切れるとなると)

 

 煌はそんな淡に対し感心しつつ、良くない手を何とか向上させるべく作っていく。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

(……ふう。来たよ、ここまで来た……!)

 

 淡はこの局、ダブリー手が来るように能力を使っていた。

 そしてそのダブリーしか乗らない手は筒子が多め、そしてオタ風牌である北の暗刻が出来ている、という配牌からだった。

 

 そして残りあった綺麗に揃っていた萬子。それらを、全て切っていったのだ。索子は、最初の時点から無し。

 

 先程はダブリー手を崩して、早和了りをするという応用を見せた。だが、応用の仕方はそれだけではない。

 最初からある程度手が出来ている、それを少しではなくある程度崩して、高めの手に変えるといった手段もあるのだ。

 

 前者を守備的応用とするならば、後者は攻撃的応用と言えるだろう。

 今回、淡は筒子の染め手に無理やり持っていった。

 

 

 

 ――――そして十順目。

 

 

 

「カンッ!!」

 

 淡は四枚目の北を持ってきて、暗カンを宣言する。

 

(行ける、この流れは……行ける!リーチ一発ツモ混一色赤1裏4の三倍満手……見える!)

 

 淡はここで、聴牌になる。

 そしてそこから展開されるビジョン。本来ならばそんな手に膨れ上がるなどありえないだろうと言えるようなビジョン、淡からは見えた。三倍満ツモ、それは逆転一位への道筋。

 

(公式試合じゃない、そんな物は関係ない。ここでテルに勝つ、超えてやる……!そしてそれが、今の私には出来るはず……!)

 

 迷いなど何も無い、自信という自信に溢れる淡。

 

(この気迫、来ますね……!)

(対面の大星さん、ここで来る……!?)

 

 煌と久も淡の並々ならぬ気迫を感じ取る。それほど、今の淡は前面に気迫という気迫、闘志が溢れ出ている。

 そして手にかけ、牌を切る――――!

 

 

 

「リーチ!!」

 

 それは未来への勝利宣言――――!

 

 

 

「ロン、3900」

「……えっ」

 

 思わず淡は気の抜けたような一言を漏らしてしまう。

 高き壁、照の和了宣言。

 

 

 

 淡、壁を越える事は出来ず敗北ッ――――!

 

 

 

 照・48700

 淡・14200

 煌・21300

 久・15800

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 対局が終了したのを見て、周りで見ていた大勢の客も少しずつ散らばるように移動していく。

 

「お疲れ様です。淡、煌、竹井さん。楽しかったよ、ありがとう」

 

 いつもと変わらぬ表情で淡々と話すのは本日の勝者、宮永照だ。

 

「……お疲れ様です」

「おつかれさまです……」

 

 この卓で打ち切って、緊張感という物から開放されたのかぐったりしている者が二人。煌と久だ。

 

 そしてそれとは別に、ぐったりはしていない。だが、悔しさを前面に出す者も一人。

 

「わ、私がラス……くっそおおぉ!勝てなかった!くーやーしーいー!」

「はい、悔しがっている所悪いけどちょっと淡には色々と聞きたいからこっち来て」

「え?ちょっ、まっ」

 

 そういってまだ落ち着きを取り戻せていない淡の腕を無理やり引っ張り照達は元の自分の席に戻っていった。

 

 

 

「……じゃあ、私も戻るわね。花田さん、あの二人にも改めてよろしく言っておいて?楽しかったって」

「あ、えっと……はい、了解しました!」

「ありがと。じゃ、華菜。私の座ってた席まで行きましょ?」

「あ、久先輩待ってくださいよー!」

 

 久も久で、もうここに残る必要も無いので自分の席へと華菜を連れて戻って行った。

 

(楽しかった、ですか。流石は風越のエース、言う事がすばらですね。私は最初、打った後あまりの実力差に唖然とした、打てて光栄と思えた……そんな事は思いましたが楽しいと思えたかどうかといえば……微妙です)

 

 煌の入部する時に最初に照と打ったとき、楽しいという言葉が真っ先に出てくるかと問われた場合、煌はすぐに答える事は出来ないだろう。

 

(最も、今は楽しいと思えてるんですけどね)

 

 今でこそ照に対しても楽しいという気持ちで打ててはいるが、最初の段階からそれを言えるかというと、微妙なラインになる。

 だが、久は本音かはわからないが、真っ先に楽しいという言葉が出てきただけで煌からすれば凄い事だと感じているのだ。

 

 

 

(さて……私もそろそろ戻らなければなりませんね、次に卓を使う人の邪魔になってしまうので。でも、その前に……一つだけ)

 

 戻る前に、煌は最後の局で確認したい所があった。

 淡のリーチの時の手、そして淡が次にツモるはずだった牌。

 

 

 

(これは……!)

 

 それは、当たり牌だった。

 もし照がロンをしなかったら、そのまま一発ツモ。この時点で跳満だ。

 

 そして恐る恐る、煌は裏ドラも確認していく。

 

(……!)

 

 見事に、裏が四つ乗っていた。三倍満だ。

 

(……これは)

 

 煌は戦慄した。

 結果論だけ挙げると、ラスだ。敗者だ。

 だが、この局面でこの手を持ってくる運。

 

(……いや、これは運だけでは無い?)

 

 煌から見た淡の印象は、色々と挙げるとキリが無いが、絶対に負けず嫌いだな、という勝手な印象を持っていた。

 だからこの局面でも必ず一位を狙ってくるだろうとは煌は感じていた。そしてそれは、淡の河の捨て牌からも何となくではあるが読み取れた部分だ。

 

 なのに裏が乗らなきゃ、且つ一発ツモでなければ逆転出来ない手で勝負してくるのか?一つ、煌が疑問に感じている事だ。

 

 

 

(違う、そうじゃない……非現実的ではあるけど、これはむしろ逆?)

 

 逆転の発想だ。

 なのに、では無い。裏が乗ると確信していたし、一発でツモれると確信していたのかもしれない。それは淡本人しか知らない事であって、煌は推測の部分でしか考えれない。

 

 だが、あの時煌が感じていた淡は本当にそんな非現実的な事を起こしてくるのではないかと思わせるくらいの物があったのだ。

 

 

 

(照先輩の知っている後輩という事でしたが、これは凄い人ですね……しかも、来年清澄に来るとの事)

 

 照とは違った、また異質な凄い空気の一部を煌は淡から感じていた。

 

(今回は点数では勝ちました。だけど、勝てていたとは言えませんね)

 

 点数だけでは語れない、本人だけが思う勝敗。

 煌は今の時点で淡に完全敗北していたと感じていた。

 

(大星さんが来ても……人間的にも、実力的にもいい先輩でいられるよう、私はもっともっと強くならなければいけませんね)

 

 

 

 そう強く意識し、煌は自分の席に戻ろうとし――――やめる。

 

(そういえば、照先輩が大星さんに何か話そうとしてましたっけ)

 

 少し考えた後に。

 

(とりあえず、トイレに行きましょう)

 

 煌は自分の足を席ではなく、トイレへ向けた。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「はあぁぁぁぁぁ……」

「先輩、お疲れ様です」

「ほんっとうに、疲れたわよ……」

 

 久も華菜と共に自分の席へと戻り、ぐったりとしている。

 たった一回の半荘ではあるが、全ての気力を使ったかのように燃え尽きているのだ。

 

「華菜」

「はい?」

「見ててどうだった?」

 

 久は実際に対局して、身体で卓の空気を全て感じ取っていた。

 だが、周りから見ていた第三者からするとどう映っていたのか?久は少し、疑問に感じていた。

 

 

 

「うーん、そうですねぇ……」

 

 華菜は先程の対局を振り返る。

 

「先輩が凄く汗かいてたんで何か起こってるのかなーっては思いましたけどね。ま、その何かが全く見てる分にはわからなかったんですけど」

「なるほど。……ま、あれは実際に対局しないとわからないわね」

 

 口では説明できないような、そんな感触。

 実際に対局したものだけが感じ取れる物だ。

 

「先輩」

「ん?」

「チャンピオンは、強かったですか?」

 

 あの対局を見ていた者なら、いや、それ以前に宮永照という人物を知っている者ならば、そんな事は聞くまでも無い質問だろう。実際、華菜も照が強いという事は百も承知だ。

 だが、実際に打ったその者の口から、華菜は聞きたいのだ。

 

「そうね」

 

 久は一言呟き、続いて

 

「強いって言葉じゃ足りないわよ。あれは、もう本当に凄い」

「……先輩」

 

 華菜は自身の憧れている先輩の一人でもあり、そしてその確かな実力を知っているだけに久のその言葉は深く心に突き刺さった。

 完全にお手上げ、といった具合の言葉なのだ。

 

「……ま、だけど」

「?」

 

 だが、それに付け加えて久はもう一言喋る。

 

「チャンピオンと直に打てて楽しかったし、絶対に次は負けたくないわね。と、なると……今後の大会に向けて、更に自分を磨くしかないでしょ?」

「先輩……!」

「華菜も手伝ってくれる?あ、勿論それと同時に華菜も強くならなきゃ駄目よ」

「……はいっ!勿論です!」

 

 元々実力を持っていた久に、更に向上心が芽生えていく。

 それは、最大の目標である宮永照を超えるために。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「で、何をテルは聞きたいの?……って、いっぱいあるか」

「そう言うって事は何らかの自覚はあるんだね」

 

 こちらは対局を終え、自分の席に戻ってきた照と淡。

 

「うーん、じゃあ前半は能力を使ってこなかったのは?」

「えっと、その……怒られる、かもしれないけど。試したかったんだ」

「試す?」

「能力を使わずに、自分がどこまで打てるのか」

 

 能力を使わずに試す、という言葉は本来格上の相手に使うような言葉ではないだろう。

 それだけに、淡も怒られるかもしれない、という言葉を付け加えている。

 

「……インターミドル二位、それって能力を使わずにって事?」

「えっ、何でわかったの?」

「能力を使ってたら淡は一位になってる。これでも淡の実力はわかっているつもり」

 

 白糸台でずっと淡の打ち筋を見ていたからこそ言える、照の言葉だ。

 

 しかし、だからこそわかっている事もある。

 照から見た淡は、能力頼みの打ち方しかしていなかった。別に能力を使わなかったからといって打てないという訳では無いが、強者の部類に入るかと言われたら、別問題になってくるだろう。

 

 だが、今淡の口から出てきて確定した事実。能力を使わずにインターミドル二位。

 それはつまり、普通に打って二位という事だ。一位ではない、が……今までの能力を使わない淡からすると考えられない事。そもそも、能力を使っていない淡というのも考えられない事なのかもしれないが。

 

 

 

「凄く努力をしてきたでしょ?」

「……うん、してきた」

 

 照は淡の事だからそんな事ないよー、私に努力なんて似合わないじゃん!って言ってくる事も予想していたが、淡の口から出てきたのはストレートな肯定。

 だがこれは、本当に相当の努力をしてきた。だからこそ出てきた、はっきりとした肯定の言葉なのだろう。

 

 

 

「変わったね、淡は」

「そう?」

「うん、強くなったと思う」

 

 そしてそのしてきたであろう努力、そしてそれに伴ってついてきた実力を照は評価する。

 淡は能力を使わずに、うまく照の親番を流すように場の空気を読んだ。それが出来る人が、果たして何人いるだろうか。

 

 

 

「あと、能力も使ってたよね?」

「いや、能力は前からあったじゃん……」

「えっと、そういう事じゃなくて……以前は使われていたんだと思う」

「?」

 

 照のよくわからない言い回しに、思わず淡は首をかしげる。

 

(今までは能力に自分が支配され、打たされていたのが……自分で能力を理解し、制御し、応用できている。……多分だけど)

 

 今までの淡はただダブリー、ただ和了、といった風にそれだけしかしてこなかった。

 それだけでほとんどの相手に対しては勝てるが、ある一定のラインを超えた上には通用しなくなる。

 

 だが、淡はその能力に応用を利かし、更に上にレベルアップ出来る可能性をつかんだ。

 現に、照相手に早和了りを達成しているのだ。

 

 そんな淡の成長を照はあの対局で、推測の域でしかないが見抜いた。

 

 

 

「テルの言いたい事はよくわからないけど……次は絶対に負けない!テル相手でも!」

「私もまだまだ、淡には負けられないかな」

 

 そんな宣言をお互いにしていたら――――

 

「あー、えっと、お話はもう大丈夫でしょうか?」

 

 煌も席に戻ってきた。

 

「あ、うん。大丈夫。随分と戻ってくるの遅かったね?」

「ちょっと、お腹が痛くなりまして……トイレに」

 

 というのは実は嘘である。

 話す時間を設けようと考えた煌はトイレで携帯をいじっていた、それだけの話。

 

 要するに、空気を読んだのである。

 

「煌先輩っ!」

「はいっ!?あ、どうしました?」

 

 いきなり淡に呼ばれたものだから思わず声が裏返ってしまった煌。

 

「次は絶対に、負けませんから!」

「……なるほど、実は私も淡さんに勝てたとは思えてなかったんですよ」

「……え?それってどういう」

「だから是非リベンジさせてください。そうですね、清澄高校麻雀部の活動で」

「……勿論ですよ!絶対清澄に行きますから!」

 

 この会話だけを聞いたものならばどっちが勝ってどっちが負けたのかわからないような、お互いのリベンジ宣言。

 

(うまいな、煌は。本当にいい先輩になれると思う)

 

 普段なら先輩であろうが気に入らなければ舐めた態度を取る淡に対し、会ってまだ大して時間もたっていないのにこうしてお互い既に仲良くなっている。

 これは淡が変わったから、というのも多少はある。だが、煌の人間性の良さが一番の理由だろう。

 

(私と、煌と、淡と、煌の後輩で四人。あと一人)

 

 既に照の頭の中ではその五人目は浮かんでいる。

 

 

 

(変わらなきゃ)

 

 妹の宮永咲。

 

 前の時間軸とは違い、照は現在実家暮らしだ。つまり、咲とも一つ屋根の下で住んでいるという事。

 だけど、まだ会話も出来ていない状況。

 

 照自身も、どうにかして話しかけたい、謝って、また以前の関係に戻りたい。そう頭では常に考えている。

 だが、それを行動に移せない。

 

 不器用なのだ。そんな状況が何年も続くくらい不器用なのだ。

 

 目がたまたま合っても、反射的にそらしてしまう。

 家の中ですれ違っても、会話は無い。

 

 

 

 照自身、正直な所この過去に戻ってからすぐにでも謝って、何とか前のいい関係を築けると思っていた。

 だが、甘かったのだ。思った以上に溝というものは深く、そう簡単にはうまくいかない状況が続く。

 

 

 

(淡も変われたんだ)

 

 今日久々に淡と麻雀を打つ機会が出来て、そして淡が自身をいい方向へと変化させている事を照は知った。

 ならば、自分もこの状況を変えなければならない――――と、更にその思いを強くさせる。

 

 

 

(私も変わらなきゃ)




今回のまとめ

淡、能力の応用
照、やっぱり強い
久、流石のメンタル
申し訳程度の池田
照、変わる事が出来るか

今更ですが淡の能力、それと能力を除いた過去の実力というのはあくまで作者の妄想、推測からなるものです。もしかしたら淡は能力が無くても元々かなり強かったのかもしれないし、そうじゃないかもしれないし。

応用に関しても普通の麻雀から考えるとキチガイみたいな事しかしてませんが、まあ許してくださいって事で……

今回の対局で久が何もいい所無かったのではないかと思うかもしれませんが、照相手に飛ばないって相当大健闘です。

あと煌が二位になっていますが、大体淡と運と気合のおかげ。

照が入る対局はバランスを考えながら書くのが大変です……

感想等は随時募集しています。

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