もし宮永照と大星淡がタイムリープしたら   作:どんタヌキ

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17,不屈の闘志

 静かな場かと思いきや、役満というとんでもない爆弾が爆発した次鋒戦も、後半戦を迎える。

 既に各高校の選手たちが席についてスタンバイしている。東家が智紀、南家がまこ、西家が佳織、北家が煌といった場だ。

 

 各選手がそれぞれの思いを心の内に秘めながら、後半戦が開始される。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 ――――東一局。

 

(すばらくない配牌、これは降りを考えながらの手を進めて行きますか……)

 

 煌の配牌はドラが一つ、だが伸びにくそうな、且つ手作りも捗りそうに無い思わずため息をついてしまいそうになるような手。

 親でもなく、セオリー通りなら無理をする場面ではなく、最初から降りることを考えつつ進めていくのが普通、そんな手だ。

 

 

 

(……って、いつもなら思っているんでしょうけどね。この後半戦は、和了に貪欲に。そう決めたので)

 

 だが、今の煌は違った。

 諦めたくなるような配牌でも、諦めない。

 

 とにかく、攻めの意識を持っていた。

 

 

 

「……リーチ」

 

 九巡目、智紀のリーチ宣言。しかも、親リーだ。

 

 

 

(まだ、対子四つに他はバラバラ……親リー、普通なら降りがベストの選択です)

 

 この巡目でも、煌の手は伸びそうな気配というものは無い。

 

(……まあ、一発放銃はありえないのでまずは安牌。ですが、この後の伸び具合によっては……!)

 

 一発で振り込む事を避けるため、まずは安牌切り。

 智紀のツモ番、一発で和了る事は出来ずそのまま煌へと回ってくる。

 

 

 

(ドラヅモッ……!対子五つ、手を進めるとしたら安牌なし、降りようと思ったら対子崩しでかわす事に関しては問題なしですか)

 

 煌、ここに来てドラの対子が揃う。即ちドラ2だ。

 そして、和了への道筋が見えてくる。――――七対子一向聴。しかも、中張牌に手牌がよってきているので断幺九つき、火力は十分。

 

 だが、進めるとしたら安牌ではない牌を親リー相手に切らなければならないというリスクがある。

 しかも、手がこの後伸びる補償は無い。七対子は手が伸びにくい部類の役でもあるし、何よりそもそもまだ聴牌の段階ではないのだ。

 

 

 

 煌はふうっ、と軽く息を吐く。

 そして迷い無く切る、その牌は安牌ではなく和了への道を切り開くための一手――――!

 

 

 

(普通とは違う、今の私にとって降りはベストの選択じゃない……!この道を私のベストにしたい……!)

 

 煌の捨てた危険牌に、智紀は反応せず。

 どこからも和了宣言は出ず、次巡の煌のツモ番。

 

 

 

(張ったっ……!ここまでのすばらな引き、絶対に物にしたい……!)

 

 智紀のリーチから、無駄ヅモはなく聴牌まで漕ぎ着ける。

 まるで親リーにも怯まず果敢に攻め続けた煌の気持ちに牌が応えるかのようにだ。

 

 ここまで持ってきた煌に、迷いなどは存在しない。

 時間などかけず、すぐに捨てる牌を選択する。

 

 

 

「――――通らばリーチ!勝負ですよ!」

 

 千点棒に手をかけ、真ん中の強い所、無スジの六筒を切り勝負をかける。

 ――――通る。ここで煌は、智紀と同じ土台に立つ。

 

 

 

(さっきから強い所を次々と……やりおるの、よく逃げんわ)

 

 既に降りを選択しているまこは、中張牌の危険な所を次々と迷い無く切る煌に感心していた。

 無謀とも言えるような打ち方ではあるが、結果的にリーチまで来ているのだ。

 

 

 

 次巡の智紀もツモ切り、和了には到達せず。

 まこ、佳織の捨て牌にも二人は反応する事は無い。

 

 そして、煌のツモ番。

 

(来いっ、絶対に来いっ……!)

 

 祈りつつ、山に手を伸ばし牌を引く。

 

(ッ……!)

 

 その牌を見て、驚愕する。

 

 

 

「すばらですね……!ここまで引き寄せるように引けたのは、初めてかもしれません」

 

 それは、待ち望んでいた牌。

 一発で、手元へと引き寄せた。引いた本人である煌ですら、驚くほどの途中からの引きだった。

 

 

 

「ツモッ!リーチ一発断幺九七対子ドラ2、裏はめくる必要が無いですね。倍満、4000、8000!」

 

 会心の倍満ツモ。

 

 静かになりそうな場を壊すかのような爆発的な和了を見せた煌に対し、智紀もまこも驚く事しか出来なかった。

 佳織に関しては、ただただ凄い、の言葉の一点張りだ。

 

 

 

「まだ……諦めませんよ!勝負はここからです!」

 

 次鋒戦の後半戦の開幕は、煌のスタートダッシュから始まる。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「次鋒戦の後半戦。前半戦では手痛い一撃を喰らった花田でしたが、ここまでは非常に元気ですね」

 

 実況席では、いつものようにアナウンサーと藤田プロによる実況、解説が行われている。

 現在、東三局。東二局でも煌は智紀に対し3900点のロン和了を成功させ、流れに乗っているといえる状況だ。

 

「あの東一局の和了が大きいな。よく、逃げずに和了出来たと思うよ」

「七対子倍満ツモですね。そこまで麻雀に詳しいと言えるほど上手くは無い私でも、あそこは降りを選択しますが……」

「ああ、私でも降りる」

「藤田プロでもですか?」

 

 煌の勢いというのは、東一局が大きいと藤田プロは指摘する。

 その対局の内容であるが、麻雀を多少かじっている程度のアナウンサーだけではなく、藤田プロでも降りるような親リーからの展開。

 だが、煌は逃げずに和了まで漕ぎ着ける事が出来た。

 

「結果的には和了出来たが、あの場面で攻めても悪い方向に向かう可能性の方が圧倒的に高い。普通なら、降り一択だよ」

 

 煌は上手い事最高の結果をもぎ取る事が出来たが、むしろ攻めた結果マイナスに向かう可能性の方が高い。

 普通ならば、降りるのが当たり前と言われてもおかしくない場面であった。

 

 

 

「……が、ああいうのは嫌いではないな。特にこういった、大きな舞台ではな」

「花田は大きな賭けに出て、勝ったと?」

「そういう事になる。並大抵の度胸では、あの場面で突き進む事は出来ない。だが、それでも突き進んだ花田に対し牌が応えたって感じだな」

「牌が応えた、ですか?」

「たまにあるんだよ、そういうの」

 

 アナウンサーは藤田プロの意味深な発言に疑問を持つが、帰って来た答えはざっくりとしたもの。

 デジタル打ち主体の雀士が聞いたら、そんなオカルトありえません、ただの偶然ですと言ってもおかしくないような発言である。

 

 

 

「おおっと染谷、ここで花田に対し2000点のロン和了です」

「上手く避けたな、花田は大きいの一向聴だったぞ?」

 

 東三局、ここはまこが上手く煌から安手で流す事に成功する。

 

 

 

「さて次鋒戦、まだまだ目が離せない展開となっております。これからどこの高校の選手が点数を伸ばす事が出来るのでしょうか」

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

(さて、東三局は何とか和了れたが……清澄の花田はやはり怖いの、勢いがある)

 

 東四局、煌の親番。

 まこは後半戦のここまでを振り返り、やはり煌は脅威であると感じていた。

 

 

 

「それポンです!」

(……やっかいなの鳴いたの)

 

 二巡目、智紀から出てきた東を迷わず煌は鳴く。ダブ東だ。

 

 

 

「それチー!」

 

 六巡目、佳織から出てきた二萬を一、二、三萬でのチー。

 

 

 

(……露骨な染めじゃな、それだけにやりにくうて敵わんわ)

 

 煌の河からは既に筒子、索子の中張牌は切られている。

 少し麻雀をやっている人なら気づく位の、露骨な萬子染めだ。

 

 だが、だからこそまこは厄介に感じている。

 

(ダブ東の混一色とかもう、迂闊に攻めれんくてしょうがないの)

 

 もし混一色というまこの読みが正しければ、少なくとも和了れば11600点は確約された手だ。

 だからこそ、萬子や字牌は切りたくても切れない。

 

 露骨な手というのは相手に理解されやすく和了りにくいというデメリットも勿論あるが、相手の手を窮屈にし、降りさせるというメリットというのも存在する。

 

 

 

「ロン!11600です!」

「ひぃっ!?」

 

 だが、この場には切る者も存在する。

 初心者である佳織は、明らかな染め手ですら見抜く事など出来ない。

 

 

 

(……上手いの、恐らく初心者である鶴賀がいるからこそ露骨染めがさらに生きとる)

 

 基本的に極端に露骨に染めていたのならば、他の相手に速度で負ける、高い手で勝負していた相手からたまたま出てくる、自分で何とかツモ和了くらいのパターンしか存在しないだろう。

 だが、ここでは佳織が勝手に捨ててくれる。更に言えば、上家なので非常に鳴きやすいという利点までもある。

 

 まこや智紀を降ろさせつつ、自分で引く、または佳織から鳴く、和了るという攻めの選択肢が出来るのだ。

 

 

 

(ただ勢いのまま手を進めて行くのではなく、しっかり周りを見た上で勢いに乗って手を作っておる……侮れん)

 

 前半戦の煌は緊張等で周りを上手く把握出来ていない部分もあったが、今では冷静且つ大胆に攻めの麻雀を貫いている。

 それは、他の相手からすると相当厄介な事だ。

 

 

 

「東四局……一本場です!」

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

(……ふう、この親は大事にしないとあかんのう)

 

 南二局、まこの親番。

 煌の親が流れてからは、再び静かな場になりかけているこの場。だからこそ、まこはここで連荘をしてしぶとく点を稼ぎたいと考えていた。

 

 

 

「リーチです!」

(何とすばらな速攻……!ですがこっちも良手牌、引きませんよ!)

(ッ、ここで来るんか……!?)

(ここは、降り一択)

 

 三巡目、今まで特に反応も無く、振り込んで徐々に点を減らしていた佳織が速攻でリーチ宣言。

 前半戦の役満があるだけに、周囲の空気はより一層引き締まった。

 

 

 

(龍門渕は無難に安牌じゃが、清澄はいきなり強い所……こっちも警戒じゃな。というか、前半戦で役満を振り込んでいて引かないあのメンタルはどうなっとるんじゃ……)

 

 まこのツモ番、現在のまこの手牌は手の伸びやすそうな二向聴とまずまず。

 そして、現在の所まこには降りるという選択肢はまだ無い。

 

(とりあえずは……ここじゃな)

 

 完全な安牌ではないが、まずは一発防止のために取っておいた既に河に二枚切れている中を捨てる事を選択。

 絶対ではないがほぼ確実に通るであろう、そんな牌である。

 

 

 

「あ、それロンです!」

(ッ!?この巡目で地獄単騎とか、どうなっちょるんじゃ!?)

 

 だが、そのほぼ通ると思われた中が佳織の待っていた牌であった。

 そして、和了宣言をした佳織が手牌を開く。

 

 

 

(ちょっ!?なんとすばらな……)

(ぶっ!?いや、これは役満じゃないだけマシと捉えるしかないの……)

(……あんな手、和了った事無い)

 

 またもや、佳織は無意識でとんでもない和了をしてしまった。

 それはある意味、先ほどの四暗刻よりも凄い和了かもしれない。

 

 

 

「えっと、リーチ一発七対子……」

「……それ、混老頭という役もつく。12000」

「え、そうなんですか?あはは、何だかラッキーですね……あれ、裏もあった」

「……という事は、16000」

 

 佳織自身はその役には気づいていなかった。智紀に指摘され、初めてその役に気がつく。

 混老頭。全ての一の対子、全ての九の対子、そして中の対子。見る者を魅了させるかのような七対子である。

 

 

 

 失点を重ねていた佳織であったが、再び息を吹き返す。逆にまこにとっては、思わぬ手痛い一撃だ。

 展開の読めない次鋒戦は、まだまだ終わらない。

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 南四局、オーラス。

 

 

 

「それチー!」

 

 親である煌、鳴きによる速攻。

 

「ポン!」

 

 そのまま、速度を途絶えさせる事は無く――――

 

「ツモッ、断幺九ドラ1赤1の2000オール!」

 

 早い段階でのまずまずの火力での和了。

 

(このオーラス、とにかく和了って、出来るだけ稼いで照先輩に繋ぎます……!)

 

 今の煌は、連荘し続ける事をとにかく意識している。

 後半戦のここまでの勢いというのは本当に素晴らしく、前半戦のマイナス38000点を帳消しにし、プラスに持っていくのではないのかというくらいの勢いだ。

 

 

 

(ッ、すばらな良配牌!まだまだ、突き進みます!)

 

 その勢いというのは途絶えようとはせず、配牌時点で高めが期待できる手。

 そしてそれからの引きというのも悪くは無く、順調に手は伸びていく。

 

 

 

(ドラ3三暗刻聴牌ッ……!ダマで満貫、リーチで跳満確定ですか。……この巡目、行くしかないでしょう!)

 

 八巡目、煌は高火力手を聴牌。

 速度的にもまずまず、やや迷いを見せたもののリーチに走ろうと千点棒に手を伸ばす。

 

 

 

「リーチ!」

「……それ、通らん!ロン、タンピン一否口三色赤1、12000の一本場は12300!」

「ッ!?」

 

 だが、思わぬ所でのロン和了宣言。

 それも、綺麗な手でかなりの火力だ。

 

(……最後の最後でいい配牌、いい引きじゃったわ。和了出来たんも大きいの)

 

 煌以上に、最後のまこの手の伸びというのは良かった。

 そして、跳満直撃を成功させたというわけである。

 

 

 

 

 

『次鋒戦、終了ッ!!』

 

 アナウンサーのやや興奮気味の声が会場に鳴り響いた。

 次鋒戦、ここに終結する。

 

 

 

 

 清澄・76200(-15900)

 風越・140400(+3400)

 龍門渕・95800(±0)

 鶴賀学園・87600(+12500)

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「さってと、いよいよ私の出番ってわけね」

 

 次鋒戦も終わり、各高校の中堅選手がスタンバイしようとしていく。

 ここ風越も、一人の選手が会場へと向かおうとしていた。

 

 

 

「……竹井さん」

「何、美穂子?今日は上埜さんって間違えなかったわね?」

「も、もう流石に間違わないですよ……」

 

 風越の中堅、竹井久。

 これから県予選レベルどころか――――全国決勝でも、中々お目にかかれないであろうレベルの卓に向かう彼女ではあったが、美穂子をおちょくる程度の余裕はあった。

 

「……頑張って来てください」

「勿論!挑戦者の気持ちでぶつかれると考えると、逆に気が楽ね」

 

 美穂子の言葉に対し、久は親指を立てて笑顔で対応する。

 久に堅さが無いのも、自分でも周りから見ても実力差は明らかな、これから戦う相手に玉砕覚悟でぶつかれるという挑戦者の気持ちになれているという部分が大きいだろう。

 

 

 

「久先輩!」

「ん、華菜どうしたの?」

「何か……対策はあるんですか?」

 

 同じ風越のメンバーである華菜から、これからの相手の対策はあるのかと久は問いかけられる。

 華菜も、久が照と対局を一度だけしているのを目の当たりにしているため、もしかしたら何か対策が出来ているのではないかという期待があるのだ。

 

 

 

「んー……対策ねえ」

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「蒲原、わかっているな」

「んー?」

 

 こちら、佳織の活躍により三位に浮上した鶴賀の控え室。

 三年生である加治木ゆみが、同じく三年生である蒲原智美にある確認を取っていた。

 

 

 

「……死ななきゃいいんだろー?」

「……まあ、そうなんだが」

 

 とりあえず、生きてさえいればいい。

 その確認であった。

 

 

 

「正直、あの卓はヤバすぎる。風越の竹井も県屈指の実力者、全国レベルだ。それが霞むくらいの、化け物二人……」

「竹井で霞んだら、私は何なんだろうなー?」

「考えても考えても、対策法が浮かばない卓だ。……本当にきついぞ、あれは」

「ワハハ、イメージが出来ないからって無視は酷くないかー?」

 

 久も風越のダブルエースと言われるほどの、かなりの実力者だ。

 それを圧倒的に超える実力者が二人、この中堅戦に出てくる事となる。

 

 ゆみもチームが勝つために必死に対策を考えようとしたが、浮かぶ事は無かった。

 それだけ、隙の無い相手という事になる。

 

 

 

「……今日は楽しむ事だなんて考えは捨てたほうがいいかもなー」

「ん?蒲原、何か言ったか?」

「何でもないぞー?じゃ、なるようになってくるぞー」

 

 それだけ言って、智美は控え室を後にした。

 

「おい!……行ったか。妹尾が本当にいい仕事をしたが、蒲原、モモ、私でトップ抜けするためには……まず蒲原が最小失点で切り抜けるしかない。頼むぞ……蒲原」

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「それにしても、びっくりだよねー」

「ん?どうかしましたの?一」

「いや、衣が中堅に強い力を感じるって言って中堅になってさ。そしたら本当に、宮永照がいたわけだから」

「ああ、その事ですの……」

 

 龍門渕の控え室では、これから中堅として出る衣の事について一と透華で話していた。

 本来、中堅は一の予定であったのだが衣が突然中堅をやりたいと言って、去年とは違うオーダーで大会に挑んでいるのだ。

 

「強い者同士は引かれ合う運命ですのかしらね、にわかに信じがたいですけど」

「衣が大将だったのも、月が降りてくれば来るほど力が強くなる理由だったから、中堅にして大丈夫かなあと最初は思っていたけど」

「何の心配もなかったですわ」

 

 衣が今まで大将を勤めていたのも時刻がちゃんとした理由があり、だからこそ他のメンバーもポジションチェンジをした事を心配していた。

 だが、昨日の試合では相手を完膚なきまでに叩きのめし、何も心配するような事は無かったと結果で示した。

 

 

 

「……こんな事試合前に聞くのもおかしいかもしれないけどさ」

「何ですの?」

「衣と宮永照、どっちが勝つと思う?ボクは衣が負ける姿が全く想像できないけど、宮永照が勝てない姿も全く想像出来ないんだ……」

 

 自分達が最もよく知っている無敵と、今まで結果を残してきた無敵のチャンプ。

 無敵と無敵がこれから対局するのだ。だからこそ、一はこれからの結果が全く予想できないでいる。

 

 

 

「……衣が勝つに決まっていますわ!一ったら、何を言っていますの!?」

「そ、そうだよね……ごめん、透華」

 

 衣が勝つと言い切らなかった一に対し、怒る透華。

 

(と、一に言ったもののあの宮永照が負ける姿を想像できないですわ……)

 

 だが、透華も照が負けないという点に関しては同意であった。

 それだけ、麻雀をやっている者ならば照の実力が凄いという事はわかりきっている事である。

 

 

 

(……ですが、衣なら)

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

「……ただいまです、皆さん」

「おー、煌先輩が戻ってきたじぇ!」

「煌先輩おかえりー!お疲れさまー!」

 

 対局を終えた煌が、清澄の控え室へと戻ってきた。

 それぞれメンバーが、労いの言葉をかける。

 

 

 

「照先輩は?」

「あ、お姉ちゃんならもう既に会場に向かいましたよ」

「相変わらず早いですね……今回は帰りにすれ違う事もありませんでしたね」

 

 照はいつものように、誰よりも早く会場入りをするため既に控え室を出ていた。

 

 

 

「煌先輩……あの、凄かったです!」

「えっと……主に、どのあたりが?」

「あ、あの諦めない姿勢とか……ずっと私緊張し続けていたんですけど、煌先輩の戦いぶりを見ていたら何だか……自然と熱が出て、緊張がほぐれたというか」

「……ふふっ、それなら何よりです。私も団体戦で後に繋ぐという、役割を果たせたようですね」

 

 咲は試合が近づくにつれて緊張感が高まりすぎていたのだが、煌の熱い闘牌を見て自身の中で何かに火がついたのか、程よく緊張がほぐれた。

 それだけでも煌の戦いというのは後に繋ぐ、という価値のある戦いになったという事になる。

 

 

 

「って偉そうな事言ってるんですけど、私四位なんですよね……」

「あの、煌先輩のメンタルが崩れている……!?」

「き、煌先輩!点数は四位でも、内容ならきっと一位だったじぇ!」

「でも、点数四位ですよね……」

 

 普段照にボコボコにされても崩れる事のない煌のメンタルが、珍しく崩れている。

 煌自身は、内容はともかく点数という形のある物でチームに迷惑をかけた事をかなり気にしているのだ。

 

 

 

「で、でも本当に煌先輩かっこよかったよ!ほら、あの、不死鳥が蘇るみたいに後半グワーって!」

「え、ふ、不死鳥ですか?」

「そうだじぇ!煌先輩は不死鳥みたいでかっこよかったんだじぇ!」

「あの……その、は、恥ずかしいのですが……」

 

 不死鳥不死鳥連呼されて、かなり恥ずかしいのか少し顔を赤らめる煌。

 それを見ていた咲は、苦笑いしか出来なかった。

 

 

 

「……不死鳥はともかく、いつまでもくよくよしててもしょうがないですね。しっかりこれからは応援に切り替えなければ!」

「この切り替えの早さ……流石だじぇ」

「ま、元気が出て何よりだねー!テルーの応援しよ!」

「次の龍門渕の天江衣さんは凄い選手だってお姉ちゃんも言ってたからね……」

 

 本当に強い選手しか凄いと言わない照が認めるほどの衣の実力。

 中堅戦はそれがぶつかり合う、魔物卓だ。

 

 

 

(……あれ?龍門渕、コロモ……あっ)

 

 名前をもう一度耳に聞き入れ、何かを思い出した淡。

 ――――昨日一度、二人は会っていた。

 

(あの子がねー……また会うとか言っておいて、対局出来ないし。ま、それは置いといてテルが認めるほどの実力者、面白くなりそうかなー?)

 

 淡はこの対局を少なからず楽しみにしていた。

 衣の実力は凄いと何度も聞いた事もあるし、淡自身が衣が対局した牌譜を目にした事もある。だが、淡は実際に対局した所を目で見ないと納得しないタイプだ。

 

 本当に凄いのならば、衣が照に対しどこまで通用するのかという所が淡は気になっている。

 勿論、淡は照が負けるだなんて事は微塵にも思ってはいない。それでもどの程度まで喰らいつけるか、その程度の興味だ。

 

 

 

(……せめてテルに一泡吹かす、くらいの物は見せてよ、コロモ?じゃないと面白くないしね)

 

 

 

 舞台は魔の巣窟、中堅戦へと向かっていく。




今回のまとめ

書く時に便利だと思った、七対子(作者思想)
煌の反撃
かおりんの豪運
まこの決死の阻止
ともきーの……

今回で麻雀小説は終了です、ありがとうございました。←
多分次からは違う何かです。テニスで言う所の、テニヌみたいな。

恐らく衣と淡の大将戦一騎打ちを期待している人が多かったのかなと思いますが、ところがどっこい。

清澄サイドは照が、龍門渕サイドは衣が、何だかんだ負けるわけ無いって感じている今の所。次回は、そんな魔物卓です。

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