IS ヒーローを目指す者   作:ATARU

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第7話

太陽が燦々と照り付ける中、緑豊かなジャングルの上空で、2機のISが向かい合っていた。

片方はフランスのデュノア社が開発したラファールリヴァイヴ。

第二世代機において最も後期に製造されており、安定した性能と高い汎用性を誇っている。

もう一方の機体は、8つの装甲脚を備えており、全身が黄と黒のカラーリングで彩られている為、見る者に蜘蛛をイメージさせていた。

 

(コイツは一体…)

 

近くに位置している研究所の防衛を任されて、哨戒任務に出ていた時に遭遇した敵。

異形としか言えない敵を警戒しつつ、先に撃墜された2人の部下を一目見る。

ISの絶対防御のお陰で意識を失っているが生命に別状は無い。

3体1という状況に慢心して無様に敗北した彼女達が悪いが、それで死んでしまっては元も子もない。

 

(厄介な相手だ)

 

正面の異形を見据えて、近接ブレードを握る手に力が入る。

 

「命は取らねぇから大人しくしてろよ」

「そういう訳にはいかない。こっちも仕事なんでな」

 

敵対者から告げられた言葉を淡々と拒絶する。

あまりにもバカバカしいと一蹴して、網膜に投影されたディスプレイを操作する。

拡張領域内のアサルトライフルを2つ選択すると、量子変換されたソレが彼女の両手に握られていた。

どんな手を用いてくるか分からない以上、迂闊に近付くのは危険だと判断した結果だった。

 

「行くぞ」

 

その言葉と共に敵の側面に回り込みながら、アサルトライフル二挺分の弾丸をばら撒く。

回避が困難な程に狙いは正確だったが、8つの装甲脚に備え付けられたPICを最大限に活用して、被弾せずに距離を詰めていく。

攻撃が通用しない事に内心で歯噛みしつつも、射撃を緩める事はせず牽制に務める。

 

「その程度かよ。もういい」

 

射撃を回避し続けていた女性は、呆れたように溜息を吐いた後、ブースターから大量のエネルギーを放出して一気に距離を詰める。

瞬時加速は確かに厄介だが、決して対応できないという事は無い。

一直線に向かってくる敵にアサルトライフルの弾丸をお見舞いする。

構わず突っ込んでくるISは、コンバットナイフを構えて8つの装甲脚を広げる。

 

「リボルバーイグニッションだと!?違う!何だアレは!?」

 

その行為に疑問を抱いていた彼女は、目の前で起きた現象に驚愕する。

イグニッションブースト中の敵機が、上下左右に不規則な軌道を描き弾丸を回避して、彼女の視界から消えてしまう。

動揺していた彼女は警告音を聞いて我に帰るが、凶刃は既に目前まで迫っていた。

 

「ぐぅ!?」

 

頭部に突き立てられたナイフだったが、シールドと絶対防御が彼女の身を守る。

しかし、敵の攻撃はこれで終わりではない。

もう片方の掌から紫色のレーザーが発射される。

至近距離で放たれた攻撃を避ける術は無い。

大量のシールドエネルギーが消費されてジャングルに墜落した彼女。

 

「あぐ…!」

 

苦痛に顔を歪める女性の腹部を踏み付けて剥離剤を利用する。

ラファールリヴァイヴのコアを摘出して、踵を返して先程撃墜した人物の元へ向かう。

 

「これで終わりだな」

 

回収作業を終えてISを解除した長髪の女性。

近くの研究所から火の手が上がるが、我関せずといった面持ちを浮かべていた。

 

「お疲れオータム。回収したコアは帰還次第僕に渡してくれ」

「了解」

 

近くの岩に座って休憩していた時、空間ディスプレイに眼鏡を掛けた青年が映る。

彼の指示に返事を返して、再びISを展開してジャングルから飛び去った。

 

1時間が経過して、オータムと呼ばれた女性は研究室らしき場所でコーヒーを飲んでいた。

 

「アラクネの調子はどうだい?」

「普通」

「不満そうだね」

「当然だろ。昔の方がよかったぜ」

 

先程のISについての質問に適当に答える。

どうでもよいと言わんばかりの反応に苦笑していた青年。

簡単な報告と会話を終えて、廊下を歩いていたオータム。

 

(下らねぇ…)

 

ISが世間に出るよりも前に、戦場に身を置いていた彼女。

傭兵として生きてきたオータムは、男女を差別する気など無かった。

しかし、インフィニットストラトスが登場した事により全てが激変した。

従来の兵器を遥かに上回る性能を誇る化け物じみたスーツ。

女性にしか扱えないという欠点を持ち合わせている。

戦場を形成しているのは男ではなく女となった。

昔の仲間だった男性が居場所を失い、露頭に迷う姿を何度も見てしまった。

オータム本人としても、ISに良い感情などは抱いていない。

 

そうこう考えている内に、更衣室に到着して着替える彼女。

 

「…やっぱり嫌だな」

 

脱ぎ捨てたISスーツを見て、呆れたように溜息を吐く。

ISの操縦歴は4年目になるが、慣れない物は慣れない。

ISを効率的に動かす為には仕方無いが、ファッションを求めているようで嫌気が差す。

 

私服に着替えた彼女は、足早に同僚の部屋に向かった。

ドアが開くと高級そうな調度品が部屋中に並べられていた。

その中央に設置してあるソファーに腰掛けていた金髪の美女。

グラスに注がれたワインを一口飲んで、空間ディスプレイを操作していた。

 

「スコール?何見てんだ?」

「IS学園の模擬戦よ。貴方も見てみなさい」

 

彼女が見ていた映像に興味を抱いて近付くオータム。

スコールの言葉に従ってディスプレイを覗き込む。

画面の中には、蒼く燃える瞳が特徴的な真紅のISが映っていた。

 

「どういうことだ?」

「私にも分からないわ」

 

オータムが用いるアラクネも異形だが、このISは別種の異常さを持っていた。

ディスプレイを操作しながら彼女の問い掛けに答える。

 

「例の第四世代機とも違うな」

「そうね。だけど、他にも気になる点があるのよ」

「どこだよ?」

「ここよ」

 

織斑一夏の白式は世界初の第四世代機だが、画面に映る真紅のISに関する情報は全く無い。

RED5を興味深そうに眺めながら呟いていたオータム。

スコールの何か含んだような物言いに敢えて乗る。

指定されたシーンを注意して見ていた彼女。

 

「…ISにしては妙だな」

「でしょ?」

 

映像を見続けていた彼女は、RED5の出力が並のISを凌駕している事に気付く。

それと同時に通常のISより、PICを用いた停止に難がある事に眉を顰める。

 

「操縦者の名前は?」

「篠ノ之イズル。篠ノ之博士の弟らしいわ」

 

RED5の異常性に意識を奪われがちだが、操縦者への興味も湧いていたオータム。

 

「…交渉に使うか?」

「止めた方がいいわよ。彼女を怒らせるのは避けたい」

 

彼女の名前を聞いて、神妙な面持ちを浮かべて誘拐を提案する。

過去に篠ノ之箒の拉致も企てたが、彼女の反論を受けて実行していなかった。

篠ノ之束の機嫌を損ねる事は避けたいスコール。

 

「篠ノ之イズル。面白くなってきたじゃねぇか」

「接触する価値はあるわね」

「エムに連絡するのか?」

「えぇ。退屈な任務でしょうから、適度な刺激を与えてあげないと」

 

RED5を食い入る様に見詰めながら、嬉しそうに話していたオータム。

色々と謎の多い少年とISに興味を抱いていたのは彼女だけではない。

日本に滞在中の部下を思い浮かべて、苦笑いしながら端末を操作するスコールだった。

 

 

 

翌日、IS学園のグラウンドに集合していた一年一組の面々。

今から行われるのはISの飛行訓練であり、専用のスーツに着替えていた一同。

織斑一夏はデータ収集用の物を着込んでいた。

 

「えっと…その…」

「何だか凄いな。イズルのIS…スーツ?」

「スーツには間違いありませんが…」

「コメントに困るな」

 

先程からクラスメートの視線が集中して、少しだけ動揺していた篠ノ之イズル。

一般的な物が水着に近いのならば、少年の物はパイロットスーツに極めて近い。

彼と親しい間柄の一夏とセシリアと箒も困り顔を浮かべていた。

 

「RED5専用のスーツ…まるでパイロットみたいですね」

「確かにな」

 

山田真耶と織斑千冬もイズルのスーツを凝視しながら会話していた。

まるで操縦効率を上げるよりも、身の安全を考慮したような格好。

篠ノ之束の顔が脳内に浮かんで、額に青筋を作っていた彼女。

 

それから数分後、織斑千冬からISの操縦訓練について説明を受けていた面々。

 

「これよりISの操縦訓練を開始する。まずは、専用機持ちに飛んでもらう。織斑、篠ノ之イズル、オルコット、準備はいいな?」

「はい!」

 

彼女の問い掛けに応えて、RED5を呼び出したイズルとブルー・ティアーズを出現させたセシリア。

最初からアサルトイェーガーを装備した状態のRED5。

 

「あ、あれ?どうして出ないんだ!?」

 

ISを順調に呼び出した2人とは異なり、白式を展開できずに困惑していた一夏。

千冬から叱られつつも何とか自らのISを出現させる事に成功する。

そして、専用機持ちの準備が整って、大空に向かって飛翔した面々。

 

「お~!凄く速いよ!」

 

圧倒的な出力を誇るRED5を見て感嘆の声を上げていた布仏本音。

ISの整備に携わる人間としてイズルの機体には大いに興味を唆られる。

 

「何でそんなに速く飛べるんだぁ!?」

「一夏って模擬戦の時は上手く飛べてたよね?」

「あ、あの時は必死だったんだよ!」

 

先頭を高速で飛んでいるイズルに話し掛けていた一夏。

落ち着いている少年の言葉に、慌てながらも否定する。

 

「よければ私が教えましょうか?」

「た、頼む!」

 

悪戦苦闘する一夏を見て、不憫だと思い助け舟を出したセシリア。

彼女のフォローに縋って、飛び方について説明を受ける少年。

分かり辛い話に頭上から?が出るが、少しだけ落ち着きを取り戻せた。

 

「よし。次は急降下と完全停止だ」

「私から行きます」

 

まず最初にセシリア・オルコットが指示された動作を実践する。

ISの搭乗経験が豊富な彼女は、何事も無く綺麗に着地した。

彼女に続いて行動を起こした篠ノ之イズル。

RED5の降下速度はブルー・ティアーズを超えており、着陸した際の衝撃で大量の土煙が舞い上がってしまう。

セシリアとイズルに続いて、自分の番が回ってきて、覚悟を決めた織斑一夏。

 

「だぁぁぁ!?」

 

しかし、バランスを崩した事に気付かないまま、急降下に移行してしまう。

ISの操作に関して素人である少年に、態勢を戻すことなど出来るはずもない。

為す術もなく地面に激突して、その影響で墜落した場所が陥没した。

 

「一夏!」

「織斑君!」

 

大慌てで一夏が落ちた場所まで向かった篠ノ之箒と山田真耶。

 

「ぬぐぐ…!ふん!」

「良かった…」

 

ISが解除されて頭部が地面に埋まっていたが、怪我1つ負っていなかった少年。

一夏が無事という事実に胸を撫で下ろす彼女達。

 

「死ぬかと思った…」

「怪我は無いか?」

「あ、ああ」

 

幼馴染の手を借りて立ち上がり身体に付着した土を払う。

 

「織斑。開けた穴はちゃんと埋めておけよ」

「はい…」

「手伝うよ」

「サンキュ」

 

千冬からグラウンドの修復を指示されて落ち込んでいた一夏。

そんな彼に対して、RED5を解除したイズルが助け舟を申し出る。

少年に続いてセシリアと箒も手を貸して、感謝しつつ作業に取り組むのだった。

 

 

 

放課後を迎えてIS学園のホールに集まっていた一年一組の生徒一同。

テーブルの上には様々な料理が所狭しと並べられていた。

 

「それでは~」

「織斑一夏君の就任を祝いまして」

「カンパ~イ!!」

 

乾杯の音頭が終わり、一年一組の代表就任パーティが始まった。

クラスメイトが楽しんでいる中、主役の織斑一夏は…

 

「どうしてこうなった」

「だらしないぞ一夏。シャキッとしろ」

「無理だっての…」

 

ソファーに腰掛けて、下を向きながら頭を抱えていた。

情けない少年に対して、呆れながらも注意する篠ノ之箒。

模擬戦の勝者である篠ノ之イズルは諸事情により辞退。

厳密には天災の横槍が入ったのだが、その事について知る由もない。

セシリア・オルコットも辞退して、自分に話が回ってきてしまい、半ば強制的にその座に着かされた一夏の気は沈むばかりだった。

 

その頃、ホール内で布仏本音と話していたセシリア・オルコット。

数日前にSHRの時間を借りてクラスメイトに謝罪した彼女。

織斑千冬の口添えや一夏達のフォローもあり、その事について咎めたり陰口を叩く者はいなかった。

 

「この紅茶すっごく美味しいね。もう少しだけ貰っていい?」

「えぇどうぞ」

「ありがとね~」

 

セシリアが持ち込んだ紅茶を堪能して、おかわりを貰いホールから出て行く本音。

 

それから少しだけ時間が経過して、ソファに座って料理を食べていた篠ノ之イズル。

深呼吸して気分を落ち着かせた彼女は少年に近付く。

 

「その…隣に座ってもよろしいですか?」

「うん」

「し、失礼します」

 

緊張しながらもイズルの隣に座って、その横顔を眺めていたセシリア。

少年の笑顔に見惚れてしまい鼓動が徐々に高鳴る。

 

「どうしたの?僕の顔に何かついてる?」

「なな、何も付いてませんわ!」

 

彼女の視線に気付いたイズルが小首を傾げながら不思議そうに尋ねる。

目と目が合ってしまい、心臓が跳ねる感覚に軽いパニックになりつつ否定した。

 

クラスメイトが盛り上がっている中、ホールに入って来た上級生らしき人物。

 

「どうも~新聞部で~す!突然だけどインタビューしてもいいかな?」

「ええ。別に構いませんが」

「ありがと。君達は注目の専用機持ちだからね」

 

新聞部の副部長である黛薫子の言葉に、落ち着きを取り戻したセシリアが答える。

インタビューの了承を得られて心の中でガッツポーズを取った彼女。

希少な男性IS操縦者を独占した上、3人の専用機持ちを擁する一年一組。

そんなクラスが注目されるのは、ある種の必然とも言えた。

 

ソファで項垂れていた織斑一夏からインタビューを開始する。

全く面白味の無い返答に困り、後で手を加える必要があると判断した彼女。

続いて、イギリスの代表候補生であるセシリア・オルコットに話を聞く。

校長の話を彷彿とさせる長話を適当に切り上げる。

少年と少女のインタビューを終えて、篠ノ之イズルの取材を始めた薫子。

先程までの2人と異なり、スケッチブックを開いて、ヒーローが描かれたページを見せる。

 

「…まぁいいや。ヒーローになるのが夢っと」

 

天然な回答を連発する彼に苦笑しつつメモを取る。

取材を終えた彼女は専用機持ちである面々に写真撮影を提案した。

 

「握手とかしてくれるといいかも」

「ゴホ!?」

 

彼女の何気無い一言に咳き込んでいたセシリア。

クラスメイトの視線が突き刺さるが、その事に気付いていなかった。

 

(おお、落ち着きなさいセシリア!ただの握手ですのよ!)

 

慌てる必要は無いと自らに言い聞かせる。

 

「いいい、イジュルさ!?」

「…噛んだ」

「そうだな」

 

少年の名前を噛んでしまい、顔を真っ赤に染めて涙目になるセシリア。

居た堪れない気持ちになっていた織斑一夏と篠ノ之箒。

 

「あの…握手してもらっていいですか?」

「か、構わないけど…」

 

困惑するイズルと手を繋いで写真撮影の準備が整う。

撮影の直前、クラスメイトが乱入して、一年一組の全員が映ったのだった。

 

 

 

パーティが終わった頃、学園内のIS整備室を訪れていた更識簪。

彼女の目の前には、打鉄に酷似した機体が鎮座していた。

打鉄弐式という名前の通り、打鉄の後継機として産み出された。

倉持技研が開発を担当していたが、第四世代機である白式に技術者を取られてしまい、永らく未完成のままだった。

今では彼女自ら打鉄弐式の開発を行っていた。

 

「かんちゃ~ん」

「本音?どうしたの?」

 

空間ディスプレイと睨めっこしていた時、幼馴染の呑気な声が聞こえる。

画面を一旦消して後ろを振り向いたら、ティーカップを持つ友人の姿があった。

 

「紅茶の差し入れだよ。オルちゃんから貰ったんだ」

「ありがとう…」

 

本音からカップを渡されて、紅茶を堪能しながらお菓子を食べる。

作業に行き詰っていた簪にとって、本音の気遣いは素直に嬉しかった。

美味しい紅茶を飲み終えて、リラックスしていた彼女。

 

「やっぱり気になるなぁ」

「何が?」

 

打鉄弐式を眺めながら、難しい顔をして呟く本音に話し掛ける。

 

「RED5だよ。詳細なスペックも分からないし~」

 

学園のサーバーを覗いたが、具体的な情報は何も記載されていない。

RED5に興味津々の少女としては不満の多い結果だった。

 

「今度、しののんに話を聞こうかな。かんちゃんも一緒に行こうよ」

「う、うん…」

 

RED5の情報を得られれば、打鉄弐式の開発に活かせるかも知れない。

ヒーロー好きの趣味を共有する者同士、話をするのも悪くないと考えていた更識簪だった。

 

 

 

翌日の午前、一年一組の扉の近くに仁王立ちしていたツインテールの小柄な生徒。

彼女は1年2組の人間であるのだが、教室を間違えている訳ではない。

扉の中からクラスの人間の話し声が聞こえていた。

 

(遂に来たけどどうしよう…)

 

凰鈴音という名前の少女は、ある少年との再会に胸を踊らせる反面、どのように挨拶するべきか真剣に悩んでいた。

昔に呼んだ胡散臭い雑誌には、日本の男は大人しい女が好きと書いてあった。

教室前で考え込んでいた時、幼馴染の声が聞こえて耳を澄ます。

会話の内容はクラス対抗戦についてであり、話題に混ざるには最適だった。

そして、ドアを開けた彼女は不敵な笑みを浮かべて…

 

「その情報古い『お前の教室はここではないぞ』……よ?」

 

話に割り込もうとした時、背後から何者かに話し掛けられる。

聞き覚えのある声に全身から嫌な汗が出る。

恐る恐る後ろを向くと、そこには織斑千冬がいた。

 

「ちちち、千冬さん!?」

「…凰。ここはどこだ?」

「が、学校です!」

 

心臓が鷲掴みにされたような感覚に陥り顔が青褪める。

出席簿で叩くのではなく、冷静な声で語り掛ける。

背筋をピンと伸ばして大きな声で返事した。

 

「学園だがまぁいい。教師に対する呼び方ではないな」

「ごご、ごめんなさい!織斑先生!!」

 

怯えていた鈴音は、千冬の注意を受けて咄嗟に頭を下げる。

 

「…SHRの時間だ。自分の教室に向かえ」

「はい…」

 

チャイムが鳴り響いて、小さく溜息を吐いた彼女は、大人しく教室に戻るように告げる。

その言葉に従って、落ち込んだ様子で帰って行った少女。

 

「鈴…何やってんだアイツ…?」

 

凰鈴音の幼馴染である織斑一夏は、何が何だか分からず困惑していたのだった。


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