IS ヒーローを目指す者   作:ATARU

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第6話

海上での戦闘から数時間後、IS学園の校門前に立っていた織斑千冬。

ニンジンに酷似した物体が空を飛んで、こちらに向かってきている事に気付く。

頭を抱えたくなる光景に関わらず、特に動揺したりはしなかった彼女。

そして、ニンジンの先端が真っ二つに割れて、中からウサミミを付けた美女が出現した。

 

「ち~ちゃ~ん!!!」

「黙れ」

 

パラシュートも付けず、勢いを殺さずに千冬に抱き着こうとした篠ノ之束。

友人の声を聞き額に青筋を浮かべて、空から降ってきた友人の頭を容赦無く掴んだ。

 

「痛い!痛いってば!頭蓋骨がミシミシ言ってる~!」

「フン」

 

地面に足が触れる事なく、強烈なアイアンクローを貰ってしまう。

非常識な友人へ制裁を加えて、数秒後に彼女を開放した。

 

「親友に対して酷いよ~」

「お前がこの程度で根を上げるものか」

「か弱い私には大ダメージだもん」

「嘘を吐くな」

「えへへ」

 

篠ノ之束は優秀な科学者であるが、肉体のタフさも相当な物を誇っている。

相変わらずの変人だと内心で納得していた彼女。

冗談を軽く受け流されていたが、親友との再開を素直に喜んでいた束。

 

「ついて来い。飲み物なら出してやる」

「ち~ちゃん大好き!」

「静かにしろ」

「は…い」

 

踵を返して移動を始めた千冬。

彼女の心遣いに感動して後ろから抱き着いた。

場所と時間を弁えない行動に苛立ち、私服の襟首を引っ張り、半ば強制連行のような形で教員専用の寮まで連れて行った。

 

それから数分後、織斑千冬の部屋に到着して、市販のコーヒーを振る舞われた篠ノ之束。

 

「それで、聞きたい事って何かな?」

「所属不明機についてだ」

「あ~確かに気になるよね」

 

コップに注がれたコーヒーに口を付けて質問を促す。

笑顔の彼女とは対照的に、複雑な面持ちを浮かべて本題に入る。

 

「…お前があの無人機を開発したのか?」

「その根拠は?」

 

先程の無人機について単刀直入に尋ねた千冬。

訝しむような視線を受けながらも涼し気な表情の束。

 

「有人制御とは異なり、無人制御は遥かに難しい」

「だね」

「各国もISの無人運用の研究をしているが、碌な成果を上げられていないと聞いている」

 

現在、ISは人間が乗って操縦する事が主流だが、無人で制御できる研究も行われている。

しかし、彼女の言葉通り、無人で運用するには多くの問題を抱えており、実戦に投入できるレベルではない事は明らかだった。

 

「だが、お前が関わっているなら話は別だ」

 

しかし、目の前でコーヒーを飲んでいる人間は、独学でISを製造して世に送り出した。

 

「ISを開発した人間ならば、無人機を開発しても何ら不思議ではない」

「まぁ束さんは天才だから確かに出来るよ。だけどさ…」

「何だ?」

 

篠ノ之束は常識から完全に逸脱している程の天才だ。

彼女ならば、無人ISの開発に加えて、制御システムも用意出来るだろう。

織斑千冬の言葉を肯定しながらも、何かを含んだような物言いをした彼女。

 

「束さんの他にも無人機を作れる人間がいないと断言出来る?」

「確かにな」

 

彼女と同じレベルに達していないが、天才と呼ばれる人間は他にもいる。

情報が明るみに出ていないだけで、既に無人機の運用を可能にしている線は否定出来ない。

コーヒーを少しだけ飲んで天災の言葉に同意した千冬。

 

「…もう1つだけ聞いていいか?」

「おっけ~」

 

彼女の返答は想定内であり、コップをテーブルの上に置く。

コーヒーのおかわりを貰い笑顔で話の続きを促した。

 

「どうしてイズルを戦わせた?」

「…聞いたんだね」

「当然だろう」

 

篠ノ之イズルを戦わせた理由を聞かれて、篠ノ之束のトーンが若干下がる。

友人の僅かな変化も見逃ず淡々と会話を続ける。

 

「話を聞いた時は驚いたよ。お前がアイツを焚き付けたとはな」

「人聞き悪い事言わないでよ~」

 

千冬の煽るような発言に対して、ヘラヘラ笑いながら応える彼女。

 

「…正気か?」

「勿論だよ」

 

イズルの戦い方を見て、戦闘経験があることは分かった。

RED5が通常のISより遥かに高性能という事も。

しかし、単独で戦場に向かわせて、殺し合いをさせるなど正気の沙汰ではない。

 

「いい加減教えてくれないか?イズルは何者だ?」

「目に入れても痛くない可愛い弟」

 

真剣な面持ちで昨日と同じ質問をする。

イズルの戦いを目撃してしまった以上、何としても情報を引き出す必要がある。

しかし、篠ノ之束の返事は変わらない。

 

「IS学園に正体の分からない人間を置くことは出来ん」

 

IS学園の教師として、そう簡単に引き下がれなかった彼女。

例え、世界最強のIS操縦者であろうとも、今の自分は一介の教師に過ぎない。

少年を庇おうとしても出来る事は限られている。

 

「頼む」

 

織斑千冬が目の前の友人に頭を下げた。

 

「ごめんねちーちゃん。それでも教えられないんだ」

 

それでも、彼女は篠ノ之イズルについて話そうとしなかった。

罰の悪そうな面持ちの友人を見て、少しだけ動揺していた千冬。

人の迷惑を全く考慮しない天災らしからぬ態度。

 

「…お前がそんな顔をするなんてな。仕方無い」

「ありがと」

「イズルは隣の部屋にいる。会ってやれ」

 

情報を引き出せないと判断して溜息を吐いた。

親友の優しさに感謝の言葉を述べる束。

弟の居場所を聞いた途端、圧倒的な速度で部屋から去った彼女。

突拍子も無い行動に唖然としていた千冬。

 

「イズル~!お姉ちゃん寂しかったよ~!」

「うわぁ!?」

「くーちゃんもこの場にいない。さぁイズル!お姉ちゃんを受け入れよ!」

「や、やめて!」

「よいではないか!よいではないかぁ!!」

 

数秒後、山田真耶の部屋で待機していた篠ノ之イズルに勢い良く抱き着いた彼女。

突然の来訪に動揺していた彼をベッドの上に押し倒す。

助けを求める少年に馬乗りになり、ハイテンションになっていた束。

隣室に移動した千冬は思考がフリーズした。

先程までの態度は何だったのか。

数秒後、何かが千切れるような音が聞こえて、全力のアイアンクローを愚か者にお見舞いするのだった。

 

 

 

織斑千冬から一時的な帰宅許可を貰い、篠ノ之束と共に廊下を歩いていた篠ノ之イズル。

 

「うぅ…頭が潰れたトマトみたいになるかと思ったよぉ…」

 

流石の彼女も全力のアイアンクローは堪えたらしく涙目になっていた。

 

「大丈夫?」

 

頭を擦っている姉を心配して声を掛ける。

 

「…撫でてくれたら痛みが和らぐかも」

「そうなの?」

「うん。だから撫でて」

 

自分を心配している弟を見て小さな声で呟く彼女。

その程度でいいのかと疑問を抱いていた少年に要求した束。

 

「えへへ」

 

イズルに優しく頭を撫でられて、心の底から嬉しそうに微笑む。

 

それからRED5を身に纏い、半ば強制的に空の旅に出て、篠ノ之束が暮らしているラボに到着する。

内部に入った少年と彼女はエプロンを着たクロエ・クロニクルと再会した。

 

「おかえりイズル」

「ただいま」

 

久しぶりに少年と出会い笑顔を浮かべていた少女。

丁度、夕食の時間帯だった事もあり、ラボのキッチンに移動して食事を取ったイズル。

 

2人が談笑している頃、大量の機材が置かれた部屋に訪れていた篠ノ之束。

彼女の正面には濃緑色の機体が静かに佇んでいる。

RED5と同じ全身装甲型でありながら、ストイックな外見が目を引いた。

 

「また変な言語が混じってる…面倒だなぁ」

 

空間ディスプレイに表示された文字を見て嫌そうな顔をする彼女。

少なくとも、既存の言語に当て嵌まる物は無い。

RED5の解析作業中も同じ問題に悩まされていた。

愚痴を零しても仕方が無いので、少しづつ翻訳作業を進めるのだった。

 

 

 

翌日、IS学園の生徒会室でソファに座り、布仏虚が差し出した緑茶を飲んでいた更識楯無。

 

「はぁ」

「疲れているようですね」

「当たり前でしょ~」

 

机に置いてある資料に視線を向けて盛大な溜息を吐く。

昨日の無人ISの件の事後処理に追われており、ノンビリ休憩する暇は無かった。

そして、篠ノ之イズルの情報が記載された紙を手に取る。

 

「夢でも見ているのかと思ったわよ本当」

「篠ノ之君の事ですよね?」

「ええ」

 

文面を眺めながら虚の言葉を肯定する。

RED5の戦闘を目撃しても、信じられないというのが正直な気持ちだった。

 

「戦える人間には見えなかったのですが…」

「分かるわその気持ち」

 

少年と会話した事があるからこそ違和感が拭えない。

彼を温和な人種だと認識していた彼女達が受けたショックは大きい。

模擬戦で逃げに徹していた少年が、戦場で獅子奮迅の活躍を見せた。

セシリア・オルコットとの試合時、敢えて戦わなかったのか。

それとも戦えなかったのか。

本人から事情を聞く必要があると考える楯無。

 

「まぁ…他の人間の目に触れなかったのが救いね」

「そうですね。もし今回の事を知られたら、各国が黙っていないでしょう」

 

元々、男性のIS操縦者はあまりにも稀有な存在だ。

そのアドバンテージに加えて、篠ノ之イズルの驚異的な操縦技術、RED5の圧倒的な性能。

この情報が漏れたら決して碌な事にはならないだろう。

 

イズルについての話題を切り上げて、海中に沈んだ無人機について話し込む2人。

 

「回収した無人機の残骸から、何か情報を掴めたかしら?」

「申し訳ありません。予めデータを削除するプログラムが組まれていたらしく…」

「用意周到ね」

 

RED5に完膚無きまでに叩き潰されたが、何とか残骸の回収には成功していた。

昨日の内にサルベージを終えて、データの解析に勤しんでいた彼女に尋ねる。

その言葉を聞いて、申し訳無さそうに結果を伝える虚。

碌な情報を得られずとも、楯無の表情には余裕があった。

報告の内容は想定の範囲内であり、特に驚くような情報でもない。

 

「…ですが、気になる事がありまして」

「どうしたの?」

「無人機のコアが回収出来たんです」

 

彼女の返事を聞いた後、神妙な面持ちを浮かべていた虚。

らしくない反応に疑問を抱いて発言を促す。

予想の斜め上の内容を聞いて、顎に手を当てて思考する楯無。

 

「妙ね」

「はい。世界に467機しか存在しない物をそう簡単に手放すとは到底思えません」

「…コアの情報について分かった事はある?」

「申し訳ありません。現在解析中ですが、もう少し時間が掛かるかと」

 

ISの心臓とも言えるコア。

篠ノ之束にしか作成は出来ないと言われている。

現存するコアの数は467基と非常に少ない。

勿論、他にコアが存在しないと断言は出来ない。

世界規模で見ても貴重な物品を、簡単に入手した事実は受け入れがたい。

 

「普通じゃ考えられないわ。無人機を操っている人間の目的は何?」

「それは分かりません」

 

無人機を送り込んだ人間の考えが読めない。

IS学園の襲撃が目的だとしても、それが成功する可能性は低い。

学生が戦力に成り得るかと問われれば怪しい。

教師は優秀なIS乗りだが、実戦経験に乏しい。

しかし、多数のIS操縦者に囲まれれば数の不利は否めない。

コアを失う事は大したデメリットにならないのか。

犯人の目星は付いているが、何が狙いなのか全く分からず頭を抱える更識楯無だった。

 

 

 

数時間後、IS学園の教師である織斑千冬と山田真耶は居酒屋に訪れていた。

注文したビールと焼き鳥がテーブルに並んで口を付ける2人。

ビールの飲んでいた千冬とは異なり、先程から無言で俯いていた真耶。

 

「どうした?」

「織斑先生。篠ノ之君は大丈夫でしょうか?」

「私には分からん。目に見える怪我は負っていなかったが」

「…心配です」

 

料理に手を付けない後輩に疑問を抱いて話し掛ける。

先日の戦闘が頭から離れず、篠ノ之イズルを心配していた彼女。

その言葉を聞いて、グラスをテーブルの上に置いて応える。

運ばれていた料理に手を付け始めるが、その表情は沈んだままだった。

 

(立派だな)

 

純粋に生徒を心配する真耶に感心していた千冬。

教師としての経験は浅いが、イズルを信じきる姿にある種の羨ましさを抱く。

複雑な気分を切り替えた彼女は、落ち込んでいる後輩を元気付けて、ビールと料理を堪能するのだった。

 

 

 

翌日の早朝、IS学園の廊下を歩いて、グラウンドに向かっていた篠ノ之イズル。

運動用のジャージを着ている彼は、移動中に私服のセシリア・オルコットに遭遇した。

 

「おはよう」

「おはようございます。早起きですね。これからどちらへ?」

「今からグラウンドで走ってくるんだ。ヒーローに特訓は欠かせないからね」

「私もご一緒してよろしいですか?」

「うん」

 

笑顔で挨拶を交わす少年と少女。

純粋にヒーローを目指す彼を見て自然と笑みが溢れていた。

特に用事も無かった為、イズルに同行する事に決めたセシリア。

 

数分が経過して目的地に到着した後、日課となっているランニングを開始する。

涼し気な面持ちを崩さないまま、トラックを何周もしていた少年。

そして、ランニングを終えてベンチに座り、タオルで汗を拭いていた篠ノ之イズル。

 

「あの…聞きたい事があるのですが」

「聞きたい事?」

「はい」

 

隣のベンチに座っていたセシリアの言葉に小首を傾げる。

質問する彼女としても、この疑問だけは解消しておきたかった。

 

「貴方のISの操縦技術についてです」

 

圧倒的な操縦技術を誇り、無人機を単機で倒した少年。

彼女が知る人間の中でも、群を抜いた実力を誇っている。

織斑千冬に匹敵するのではないかと感じたほどに。

 

「誰に習ったのですか?」

「えっと…分からない」

「分からない?」

 

独学で得た技術とは到底思えない。

彼女の問い掛けに対して、複雑な表情を浮かべていた少年。

訝しんでいたセシリアに事情を説明する。

 

「そんな…」

「えっと…気にしないでよ」

 

記憶喪失という言葉にショックを受けて全身の力が抜ける。

彼女のリアクションに動揺しながもフォローしていたイズル。

 

「何も覚えていないって…辛いに決まってるじゃないですか…」

 

両拳を握り締めて悔しそうに呟くセシリア。

列車事故で親を亡くして、財産を守ろうと必死に努力してきた。

家族を失った彼女を支えたのは両親との思い出があったからだ。

しかし、目の前のクラスメートは過去に想いを馳せる事さえ出来ない。

 

「…関係無いよ」

「え?」

 

無言で下を向いていた少女に、優しい口調で否定した少年。

その発言に素っ頓狂な声を出して顔を上げる。

 

「記憶が無くてもヒーローにはなれるし、お姉ちゃん達がいてくれるから」

 

記憶を失ってもその夢だけは忘れなかった。

例え、血の繋がった家族がいなくても、自分を愛してくれる人がいる。

明確に覚えていないが、誰かが話していた気がする。

(でも、ここにいる皆が家族みたいなもんじゃない?)と。

その言葉を思い出して、血の繋がりは重要だが、それだけじゃない気がしていた。

嘘偽りの無い本心をセシリアに笑顔で告げたイズル。

 

(この人は…)

 

技術に優れているだけではない。

記憶を失っても前を向いている。

 

(私は…イズルさんが)

 

本当は昨日の時点で気付いていたのかも知れない。

この少年に好意を抱いている事を。

恋心を自覚していた時、チャイムの音が聞こえてくる。

慌てて教室に移動するが待ち合わず、織斑千冬から強烈な制裁を受けた2人だった。

 

 

 

放課後を迎えて、IS学園の剣道場では、防具を付けた篠ノ之箒と織斑一夏が打ち合っていた。

先程から何度も乾いた音が響くが、一向に終わる気配は無かった。

 

「うぉぉ!」

 

距離を詰めて、竹刀を上段から振り下ろすが、容易く躱されてしまう。

 

「甘いぞ一夏!」

「うわっ!?」

 

回避した隙を突いて、少年の銅に一撃を加える。

防具を装着してはいるが、バランスを崩してしまい床に倒れ込む。

肩で息をしている一夏の手を掴んで引っ張り上げた箒。

 

「どうしたんだ?いつものお前らしくないぞ?」

「悪い」

 

普段通りの幼馴染ならば、剣道の練習を嫌がる筈だ。

やる気を出してくれたのは嬉しいが、先程から謎の違和感が拭えなかった少女。

 

「悩み事があるなら言ってみろ」

 

小さく溜息を吐いて、一夏の顔を見て話し掛ける。

 

「なぁ箒。ISって本当に安全なのか?」

 

彼女の真剣な眼差しを見た少年は、複雑な面持ちを浮かべたまま尋ねた。

 

「シールドエネルギーがあっても、誰も怪我しないって断言出来るのか?」

 

先日、海上の戦闘で篠ノ之イズルに粉砕された無人機。

人間は搭乗していない事もあり、誰かが怪我を負うような事態は避けられた。

しかし、戦いを目撃してある種の不安を抱えていた織斑一夏。

 

「お前は怖くないのか?クラスメートに武器を向ける事が」

 

もしも、模擬戦でイズルがセシリアに攻撃を加えたら、無事に試合は終了したのだろうか。

零落白夜はエネルギー性質の物を無効化・消滅させられるが、もし彼女に斬撃が当たったならば、上手くエネルギーだけを削れたのだろうか。

頭の中に浮かんだ最悪の可能性を払拭できず、昨晩は一睡も出来なかった一夏。

 

「お前にとってISとは何だ?武器か?競技の道具か?」

 

縋るような少年の言葉を聞いて、真剣な眼差しを向けて問い掛ける。

兵器として極めて優秀であるが、現在は一種の競技として世間では認知されている。

 

「…分からない」

 

彼女の質問に対して、下を向いた状態で呟いた少年。

正直に言うと、昨日の戦いを目撃する前は、単なる競技の道具として認識していた。

だからこそ、ISという物が分からなくなっていた一夏。

思い悩んでいる幼馴染を見て、穏やかな表情を浮かべていた彼女。

 

「ISを開発したのは、私の姉さんだと知っているな?」

「ああ、授業で聞いた」

「ならば、元々の用途も理解しただろう」

「宇宙での活動を想定したマルチフォーム・スーツだっけ?」

「そうだ」

 

そして、ISについての基本的な説明を始めた篠ノ之箒。

IS関連の知識は一般人より少ないが、授業で必要最低限の事は習っている。

 

「…あれ?何で兵器になってるんだ?スーツなのに?」

「白騎士事件が発端となったんだ。それによって、ISの方向性が決定付けられた」

「そういや山田先生が言ってたな。忘れてたよ」

「はぁ」

 

本来の用途から外れた物として扱われている事に疑問を抱く少年。

そんな彼に対して、世界的に有名な白騎士事件が発端だと語る。

各国のシステムが何者かにハッキングされて、ミサイル計2341発が日本に向けて発射され、それら全てが白銀のISによって無力化、各国が送り出した戦闘機207機、巡洋艦7隻、空母5隻、監視衛星8基を1人の死者も出さずに鎮圧した事件。

この出来事の影響で、宇宙活動を念頭に置いた物より、兵器として注目されるのは致し方ないと言えた。

彼女の説明を受けて授業で習った事を思い出した一夏。

勉強不足な少年に対して呆れたように溜息を吐く少女。

 

「一夏。先程の質問に対する私の考えだが…」

 

ISは本当に安全と言えるのか。

彼女の考えを聞き逃すまいと集中する一夏。

 

「シールドエネルギーに守られても怪我はするだろう。絶対防御があるからといって、致命傷に繋がる怪我の他は防げないし限界もある」

 

怪我をする事は他のスポーツでも充分に有り得る。

しかし、ISのシステムに異常が発生すれば、その危険性はスポーツとは比べ物にならない。

篠ノ之イズルの戦いを目撃した少年は、彼女の話を聞いて無意識に固唾を飲む。

 

「その気になれば、多くの人間を生命の危機に晒す事も容易い。ISは安全だとは決して言い切れない。それが私の考えだ」

 

一歩間違えれば、大量虐殺も可能にする厄介な兵器と化す。

幼馴染が抱えていた悩みに対して、自らの見解を述べていた箒。

 

「箒…ありがとな」

「れ、礼はいい」

 

彼女の考えを聞き終えた一夏は、笑顔を浮かべて感謝の言葉を述べる。

ソッポを向いていた彼女だったが、その頬は少しだけ赤く染まっていた。


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