IS ヒーローを目指す者   作:ATARU

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第4話

SHRを終えた放課後、職員室で資料の整理をしていた山田真耶。

 

(あんな事になるなんて…)

 

織斑一夏とセシリア・オルコットの口論を思い出して落ち込んでいた彼女。

オロオロしている自分とは異なり、不敵な笑みを浮かべていた織斑千冬。

クラスメート同士、切磋琢磨を望んでいた真耶にとって、この状況は喜ばしくなかった。

 

(ちゃんと先生…やれてるのかな…)

 

初日に挨拶した時も、生徒から軽く無視されていた。

少年と少女の言い争いも、千冬が上手く場を収めて、自分は何も出来なかった。

困った事があれば、何でも相談してほしいと告げたが、答えられる自信は無い。

益々気分が沈んでいた時、職員室のドアをノックする音が聞こえる。

 

「どうぞ」

「し、失礼します」

 

突然の来客に動揺しつつ、冷静に対処していた山田真耶。

 

「篠ノ之君?どうしたの?」

 

職員室に入って来たのは緊張した面持ちの篠ノ之イズル。

何の用事で訪ねてきたのか質問した真耶。

 

「あの…山田先生に相談したい事があって…」

「そ、相談!?」

「はい」

 

少年から理由を聞いて動揺していたが、頼りにされている事実を理解して、徐々に嬉しさが込み上げてくる。

 

「えっと…相談したい事って何かな?」

 

目尻に浮かんだ涙を拭って、満面の笑みで相談の内容を聞く。

相談したい内容とは、クラス代表を決める模擬戦についてだろうか。

織斑一夏とセシリア・オルコットの口論に巻き込まれて、篠ノ之イズルも参加が決定した。

ISに関する最低限の知識は持っているが、不安な事も多いのだろう。

 

「実は…」

 

話し辛そうにしていた少年を見て、優しく微笑んでいた真耶。

例え、相談内容が何であろうと、自分を頼ってくれた彼に全力で応えようと、心の中で誓う彼女だった。

 

 

 

それから一週間が経過して、模擬戦当日を迎えた。

IS学園の恒例行事でないにも関わらず、多くの生徒が観客席に座っていた。

世界で2人しか存在しない男性IS操縦者とイギリスの代表候補生。

話題性も充分であり、個人的な興味で見学に来るのも不思議ではない。

 

織斑一夏と篠ノ之イズルはアリーナの控室にいた。

この一週間、少年の特訓を担当した篠ノ之箒。

教員である織斑千冬と山田真耶も同じ場所に訪れていた。

まず、一夏とセシリア・オルコットの試合が始まり、その次にイズルと戦う事になる。

 

「篠ノ之。山田君。どうしたんだ?」

 

目に濃い隈が出来て、先程から眠そうにしている2人に話し掛ける。

 

「この一週間、私が篠ノ之君の指導をしたんですよ」

「そうだったのか」

 

笑顔で事情を説明していた真耶を見て、寝不足になる程にハードな特訓を施したのかと訝しんでいた千冬。

 

「どんな練習をしたんだ?」

「面白い漫画を書く為に、基礎を勉強し直したんだ」

「…あれ?」

 

特訓の内容に興味を抱いていた箒がイズルに質問する。

あまりにも見当違いな返答に、言葉を失っていた少女と、今の発言がおかしい事に気付いた一夏。

 

「少しだけ画力が上がったんですよ。教師って素敵な仕事です」

「山田君」

「はい?」

 

漫画に対して詳しい知識は無かったが、少年の為に参考書を購入して勉強していた。

一週間の熱心な指導が実を結んで、これまでに無い充実感に満たされていた真耶。

可哀想な物を見るような目で話し掛けていた千冬。

 

「今日が何の日か覚えているか?」

「模擬戦をする日ですよね。織斑君とオルコットさんの」

「篠ノ之が抜けているぞ」

「…あ」

 

動きの停止した彼女を見て、頭痛を感じずにはいられなかった。

篠ノ之イズルの特訓の内容は、今日の模擬戦とは全く関係が無かった。

 

「一応聞いておくが、織斑はちゃんと練習したのか?」

「お、俺は問題無いぞ!箒と剣道の特訓をしたからな!…ん?」

「一夏!!」

「オルコットには聞かせられんな…」

 

一縷の希望を織斑一夏に託していた。

ISの操縦訓練をしたのでも、基礎的な知識を叩き込んだわけでもない。

白式の装備の都合上、漫画の特訓よりは有用だとポジティブに捉える事にした。

セシリア・オルコットに申し訳無い気持ちを抱きつつ少年を送り出すのだった。

 

 

 

アリーナのゲートから出て来た白式を見て湧き上がる歓声。

学園の生徒会長である更識楯無と布仏虚も見学に訪れていた。

 

「へぇ。アレが白式ね」

「世界初の第四世代IS。性能は折り紙付きでしょう」

 

開発が頓挫した欠陥機を、ISの開発者である篠ノ之束が完成させて、倉持技研が再調整を行った世界初の第四世代機。

天災と呼ばれる人物が、深く関わっている事から、並のISとは一線を画する性能を誇っていると推測した。

 

「分かってたけど、破格の待遇よね~」

「貴重な男性IS操縦者とはいえ、反発も多かったと思います」

「まぁそこは織斑一夏君の腕の見せ所よ」

 

男性でISを操縦できる稀有な存在とはいえ、女尊男卑の世界に於いては、少なからず反発もあったのだろう。

軍属でもない。

ISの操縦経験も無に等しい。

そんな人間に最新機を扱えるのかは誰にも分からない。

複雑な気持ちを抱いていた虚に対し、ブリュンヒルデの弟に淡い期待を寄せていた楯無。

 

更識簪と布仏本音も向こう側の観客席で向かい合う少年少女達を眺めていた。

 

(あれが白式…)

 

織斑一夏の専用機開発の煽りを受けて、自信の専用機の開発が中断された経緯を持つ彼女。

勿論、少年には何の罪も無いことは承知している。

倉持技研の研究者も、第三世代機より第四世代機に興味を抱くのも致し方ない。

しかし、そう簡単に納得出来るといえば別だ。

逆恨みに近い感情を自覚して、軽い自己嫌悪に陥っていた。

 

「楽しみだね~」

 

無邪気に話し掛ける本音を見て、少しだけ気分が楽になった簪。

後に控えた篠ノ之イズルの事を思い浮かべて、今は試合を観戦する事に決めた。

 

そして、織斑一夏とセシリア・オルコットの試合が始まった。

ブルー・ティアーズの主武装であるスターライトmk-Ⅲの直撃を受けて弾き飛ばされる。

必死に攻撃を回避しようとするが、何度か直撃を貰ってしまい、シールドエネルギーが減少していく。

唯一の武装である雪片弐型を展開するが、そう簡単に近寄らせてくれる筈もない。

想像していたよりも攻撃に耐えていた少年に、評価を改めて止めを刺すため、ビット兵器であるブルー・ティアーズを射出する。

四方八方から襲い掛かってくるビットを回避して距離を詰めながら、雪片弐型を用いて2基のビットを切り捨てる。

織斑千冬によって仕事に復帰した山田真耶は、ISの操縦経験が殆ど無い筈の少年の健闘に目を見張っていた。

セシリアのビットは残り2基となっており、それも切り裂いた一夏は笑みを浮かべる。

しかし、余裕の表情を崩さない彼女は、ブルー・ティアーズからミサイルを射出。

ビット兵器でもあるソレは、高い追尾性能を誇り、白式に直撃して爆発を起こした。

勝利を確信した彼女だったが、爆炎の中から現れたのは、先程と全く異なる姿のIS。

戦いの最中に一次移行が終了した白式に驚愕していたセシリア。

雪片弐型からエネルギーの刃が出現して、それを見た彼女は複数のミサイルを放ったが、全ての攻撃が容易く切り裂かれる。

一気に距離を詰めて斬撃を決めようとしたが、白式のシールドエネルギーが0になった。

ISのエネルギー残量が無くなった事により、織斑一夏はセシリア・オルコットに敗北した。

 

篠ノ之イズルの試合を控えている為、休憩時間を挟むことになった。

 

「へぇ…センスあるじゃない」

「性能に助けられましたが、将来に期待出来ますね」

 

ISの操縦に関して素人の少年が、後一歩の所まで代表候補生を追い詰めていた。

しかし、セシリアの油断と白式の性能に助けられた事を忘れてはいけない。

 

「武器が1つだけなんて…」

「おりむ~凄い」

 

白式のピーキー過ぎる武装に苦言を呈していた更識簪。

織斑千冬の様に桁外れの技量を誇るならともかく、織斑一夏にはISの操縦経験が圧倒的に不足している。

模擬戦で健闘していた少年を素直に賞賛していた布仏本音。

 

(情けない)

 

学園の技師がブルー・ティアーズの補給をしている中、試合の内容について思い返していたセシリア・オルコット。

彼女の胸中に渦巻いていたの感情は、落胆ではなく自分に対する怒り。

白式の武装の特徴を把握されていたら、敗北していたのは間違いなく自分だ。

少年の試合を控えている彼女は、同じ轍を踏まないように決心する。

 

 

 

その頃、模擬戦を終えた織斑一夏に続いて、着々と準備を整えていた篠ノ之イズル。

 

「準備はいいか?」

「はい」

 

素肌の露出しない全身装甲の特性上、少年の表情を伺うことは出来ない。

RED5を初めて見た山田真耶と篠ノ之箒と一夏は動揺を隠せなかった。

コアモジュールと呼ばれる純白のISに、アサルトイェーガーと呼ばれる真紅のパーツが装着されてRED5となる。

通常の機体よりも大型で、一般的なISとも全く異なる容姿。

 

「あ、アレが篠ノ之くんのISですか?」

「そうだ。篠ノ之束が開発した試験機だ」

 

専用機を所持している事は聞いていたが、あそこまで特殊な機体とは思わなかった。

淡々と答えていた千冬だったが、彼女としても詳しい情報は知らない。

 

「千冬姉…じゃなかった織斑先生」

「何だ?」

「RED5も白式と同じ第四世代機なのか?」

「それは分からん。詳細を知っているのは束だけだ」

 

RED5も白式と同じ第四世代機なのか疑問をぶつけていた一夏。

ISに関する知識は殆ど持っていないが、アレが普通じゃない事は理解している。

篠ノ之イズルは記憶喪失であり、どの世代に該当するのか分かる筈もなかった。

 

殆ど同じタイミングでアリーナに飛び出したRED5とブルー・ティアーズ。

現行のISと一線を画する容姿に騒然としていた観客。

 

「ヒーローみたい…格好良い」

「お~!全然見たこと無いよ」

 

趣味がアニメ鑑賞である更識簪は、ヒーローを彷彿とさせるRED5に見惚れていた。

ISの整備を行っている布仏本音は、未知のISに興味津々といった様子。

 

「簪ちゃんが好きそう」

「確かに…簪様が見たら喜びそうなデザインですね」

 

初めて目撃したソレは、通常のISとは何もかも異なっていた。

機体のサイズしか共通点を見出せない程に。

RED5に関する情報を得られなかったが、この試合を通して少しでもデータを収集するつもりだった更識楯無。

 

 

 

アリーナの上空で向かい合っていた篠ノ之イズルとセシリア・オルコット。

あまりにも特徴的なISに軽く動揺していたが、直ぐに冷静さを取り戻して正面を見据える。

相手を軽く見て戦いに臨むのは辞める。

自身の全力を以て相手を叩き潰す。

 

「参ります」

 

ブルー・ティアーズから4基のビットを射出してイズルを包囲した。

織斑一夏に指摘された事を思い出す。

ビットを制御している間は、他の行動が出来なくなり無防備になる。

それを理解している上で、セシリアの戦法に変わりはない。

 

「くっ…!」

 

4基のビットからレーザーが放たれて、その銃撃を横に移動して回避する少年。

まるで、複数の敵機に囲まれている様な感覚。

しかし、実際に攻撃を仕掛けているのはビットに過ぎない。

剛腕を活かして殴り掛かって来るのでも、編隊を組んで襲うのでもない。

ビットのサイズは小さいが、搭載されたハイパーセンサーによって、位置を把握出来た事に加えて、目で追えない速度でもなく、回避は十分に可能だった。

 

(何故当たらないの!?)

 

ビットの制御に集中していた彼女は、目の前で繰り広げられる光景に動揺を隠せない。

織斑一夏もある程度は回避していたが、何度もレーザーが直撃していた。

手心を加えようとはせず、ビットの速度も先程の試合より上がっている。

それなのに、篠ノ之イズルには攻撃が一発も当たっていない。

ターゲットは一切の武装を使用してすらいないのに。

 

「ならば!」

 

残り2基のミサイルビットをイズルに向けて射出する。

容易く回避される可能性は高い。

しかし、そう簡単に逃がす気など毛頭無かったセシリア。

 

「そこ!!」

 

2基のビットとイズルの距離が近付いた瞬間、他のビットから発射されたレーザーが、ミサイルを打ち抜いて爆発した。

空中に爆煙が拡散する直前、背面のブースターの輝きが増して、加速したRED5は攻撃から逃れて、その姿を確認した彼女は苦虫を噛み潰した表情を浮かべる。

スターライトmk-Ⅲに目を向けるが、ここまで攻撃を回避されてしまった以上、当てられる可能性は低い。

 

(どうなってるんだろう…?)

 

セシリア・オルコットの射撃を回避しながら、目の前で起きている不可解な現象について、考え込んでいた篠ノ之イズル。

RED5の全ての武装にロックが掛っており、戦う手段は残されていない。

織斑千冬との試合の時には、同じ様な問題は起きなかった。

この異常としか言えない出来事に、妙な安心感を覚えていた少年。

シールドエネルギーや絶対防御などが存在していても、クラスメートと戦う気は起きない。

そんな自分を後押ししてくれるRED5に感謝の念を抱く。

 

セシリアの攻撃の激しさが増すが、全ての攻撃を避け切っていたイズル。

そして、ブルー・ティアーズのシールドエネルギーが0になり試合が終了する。

白式の燃費の悪さには及ばないが、エネルギーを消費せずに延々と攻撃できる道理は無い。

 

「想像以上ね」

 

篠ノ之イズルに対する更識楯無の興味は益々強くなる。

彼が記憶喪失という話は聞いているが、少なくともISの操縦経験はあると断言出来た。

イギリスの代表候補生を手玉に取る素人が存在しては堪らない。

RED5の武装を見られなかった事が心残りだった彼女。

 

アリーナの中央の地面に降りていた少年と少女。

攻撃のチャンスがあった筈なのに、敢えて回避を選択した少年。

ISに関してド素人の織斑一夏は、被弾を恐れずに果敢に挑んできた。

それがセシリア・オルコットには許せなかった。

高い技量を誇りながらも、戦いを選ばずに逃げを選んだ彼が。

 

「貴方は臆病者ですわ!」

 

彼女の物言いに何も言い返す事が出来なかったイズル。

アリーナから去って行く彼女を、複雑な気持ちのまま見送っていた少年だった。


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