IS ヒーローを目指す者   作:ATARU

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第10話

織斑千冬がIS学園の整備室に向かっていた頃、アリーナから離れた場所で周囲を警戒していた3機の打鉄。

堅牢なシールドを突破する手段を持たない彼女達は、敵の増援を警戒する事しか出来ない。

 

(何を考えているの?)

 

肩まで伸びた黒髪を風に靡かせながら、この状況について考え込んでいた女性。

IS学園は特定の国家に属していないが、ISに関する人材の育成機関や、ISの性能比較や新技術の試験にも適している等、各国から重宝されている。

無人ISを送り込んだ黒幕は目を付けられるリスクを理解していないのか。

それは大した問題では無いのか。

どちらにせよ碌でもない事に違いは無い。

 

(学生は無事かしら?)

 

最新鋭のISや技術の実験場の側面もあるが、IS学園は一種の教育機関に過ぎない。

そんな場所が突然の襲撃に完璧に対応できる筈は無かった。

 

「東雲隊長。本当に敵は無人なのでしょうか?俄には信じられないのですが…」

「後で学園側から詳しい報告をしてもらえばいい」

「そう…ですね」

 

目を凝らして周囲を見回した後、先程から抱いていた疑問を口にした眼鏡の女性。

周辺に異常は無いか確認した後、部下の言葉に対してアッサリした回答を送る。

彼女はIS開発に携わる人間ではない為、専門家に任せる方が懸命だった。

頭では理解しているがそう納得出来るものではない。

東雲と呼ばれた女性は彼女の表情を見て小さく溜息を吐いた。

 

「いいか栄城。そもそもISが普通じゃないんだ。常識なんて在ってないような物だ。相手が無人でも有人でも我々のやる事は1つだろう?」

「はい。すみませんでした」

 

周囲が安全だと判断して自らの考えを述べた女性。

そもそもISという存在が常識から大きく逸脱している。

彼女にとって無人機か有人機かは問題ではない。

上司の言葉を聞いて謝罪した後、離れた場所を警戒している同僚に連絡を取る。

 

「そっちに異常は?」

「ありませんね。そんな事よりお腹減りましたね。後でラーメン食べに行きません?行きつけの店があるんですよ」

「蛯名さん」

「おお怖っ。そんなに怒らなくてもいいじゃないですか~」

(何でこんな人が…)

 

妙に間延びした声色に苛立ちを覚えていた彼女。

リラックスしていると言えば聞こえはいいが、堅物である栄城結にとって受けいれられる物ではない。

ISという圧倒的な力を扱える人間として、相応の責任を持つべきと考えていた。

それから数分後、蛯名と呼ばれた人物から新たな連絡が入る。

 

「不明なISを発見。とりあえず話し掛けてみますね」

「蛯名。挑発はするなよ」

「分かってますって…おおっ!?」

「どうした!?」

 

空中に浮遊していた未確認のISを発見して接触を試みた彼女。

相手についての情報が無い為、不用意な行動をしないように釘を刺した東雲。

余裕のある口調が一変して状況の説明を求める。

 

「先制攻撃を貰っちゃいました。話し合いをする気は無かったみたいですよ」

「私達が駆け付けるまで持ち堪えるんだ。いいな?」

「了解しましたぁ」

 

未確認ISについての情報が不足している。

アリーナを襲撃している無人機と同じか確認する手段は無い。

彼女が為す術もなく敗北するとは思えないが、急いで救援に駆けつける必要があると判断して、部下の元に急いで向かうのだった。

 

 

 

IS学園のアリーナでは織斑千冬と2体の無人機が戦闘を開始していた。

敵のビームによる集中攻撃を難なく回避して距離を詰める。

 

「はぁぁぁ!!」

 

豪腕を活かした攻撃を喰らうより前に、ヘビーマチェーテによる斬撃をお見舞いする。

無人機のシールドバリアーを容易く切り裂いて、そのまま左腕ごと胴体を勢い良く両断した。

不気味に蠢いていた瞳から輝きが失われて力無く地面に崩れ落ちる。

 

(何だこの切れ味は!?)

 

ヘビーマチェーテは雪片弐型の単一使用能力の様に、エネルギー性質の物を消滅させる機能は有していない。

それはつまり、純粋な威力のみでシールドを貫通したという事になる。

無人機を一撃で倒した本人でさえも動揺を露にしていた。

深呼吸して少しだけ冷静になり、残った無人機と向き合い再び戦う。

上空から新たな無人機が降りて来るが負ける気はしなかった。

彼女が敵の注意を惹き付けていた時、織斑一夏と凰鈴音はアリーナの端まで移動していた。

 

「一夏。今の内にアリーナから離脱するわよ」

「え?何で?」

「このままだと千冬さんの邪魔になるでしょ」

「…鈴の言う通りだな」

 

ある程度の距離を取っても安全とは言えない。

この場にいても彼女の足手纏いにしかならない。

セカンド幼馴染の言葉を聞いて、複雑な気持ちを抱きつつも素直に従った一夏。

 

「肩を貸してあげるわ。感謝しなさいよね」

「ありがとな」

(今の私…一夏に触れてるのよね)

 

アリーナの障壁は千冬が突破して数分後に消滅した。

しかし、白式のエネルギーは尽きており、飛行して離脱という選択肢は取れない。

一夏の体を支えながら出口に向けて歩き始めた鈴音。

ふと少年の顔を近くで見てしまい、少女の頬が一気に赤く染まる。

 

(って!そんな場合じゃないでしょうが!)

(鈴の奴。どうしたんだ?)

 

状況が状況である為、雑念を払うために足早に動く。

普段の彼女らしくない反応に疑問を抱いていた。

鈴音の顔が赤い理由など、鈍感な彼に理解出来る筈も無い。

 

 

 

出口に向かってから数分後、通路を歩いていた2人はセシリア達と合流した。

クラスメイトの無事に顔を綻ばせていた面々。

織斑千冬の突入から数分後に、RED5を呼び出せるようになった篠ノ之イズル。

 

「一夏さん!凰さんもご無事ですか!?」

「何とかな…」

 

セシリアの言葉に満身創痍でありながら笑顔で応えていた一夏。

 

「…何これ?」

 

初めてRED5を目の当たりにして間抜け面を晒してしまった凰鈴音。

通常のISより一回り大きい事に加えて、素肌が全く露出していない。

猛禽類を彷彿とさせる顔も彼女の動揺に一役買っていた。

 

「えっと…RED5って言うんだ」

「そ、そうなんだ。ってアンタ誰!?」

「鈴は初めて会うんだったな。篠ノ之イズルだ」

「自己紹介は後だ!ここから離れるぞ!」

 

鈴音の疑問に対して辿々しい口調で話したイズル。

引き気味の彼女が納得し掛けたが、目の前の人物の声は聞いた事が無い。

面識の無い相手に警戒心を抱いていた彼女に少年を紹介した一夏。

危機的状況に関わらず、呑気に話していた面々に対して注意した箒。

 

「手を貸しますわ。一緒に行きましょう」

「助かるわ。オルコットさんだっけ?」

「セシリアで構いませんわ」

「そう。じゃあ私も鈴って呼んでいいわよ」

 

一夏をイズルに任せて鈴音に肩を貸したセシリア。

幼馴染が離れて少しだけ寂しそうにしていた彼女。

簡単な挨拶を交わして、出口に向けてゆっくりと歩みを進める。

 

(アレは…姉さんの仕業なのか?)

 

最後尾の篠ノ之箒は複雑な面持ちで後ろを振り向いた。

アリーナの中央では複数の無人機と織斑千冬が戦っている。

多くの学生が集まっているアリーナに大量のISを惜しげも無く投入。

IS学園のシステムにハッキングして一夏と鈴音を孤立させた。

この状況を意図的に作り出した人間。

信じたくはないが、脳裏には姉である篠ノ之束の顔が浮かんでしまう。

彼女とは血の繋がった姉妹であるが、その考えは全く想像出来ない。

 

(どうか…私の気のせいであっていてくれ)

 

どんな理由があっても多くの人々を危機に晒すなど許容できない箒。

せめて、この件に姉が関わっていない事を願い、一夏達の後を追い駆けるのだった。

 

 

 

アリーナの廊下を移動していた面々だったが、激しい衝撃と共に天井が崩落した。

瓦礫が周囲に飛び散るがシールドバリアーにより怪我は免れた。

唐突に出現した無人機の瞳が赤い輝きを放つ。

 

「しつこいわね!!」

「下がって下さい!!」

「箒!俺の後ろに!」

「…分かった!」

 

織斑千冬ではなく自分達を追ってきた敵に毒づく鈴音。

そんな彼女を後方に下がらせてスターライトmkⅢを構えた。

 

「イズルさんは増援の警戒を!!」

「了解!!」

 

目に見える無人機は一体のみだが、油断せずに周囲を警戒していたイズル。

戦えない程に消耗している一夏に気遣われて心の中で歯噛みする。

ISを持っていたら状況が好転していた訳ではない。

危機的状況に陥る可能性は充分にあった。

安易な行動が皆の足を引っ張っている。

自責の念に苛む彼女を他所に、ライフルのエネルギーをチャージしていたセシリア。

 

「これで!!」

 

ターゲットに向けてレーザーを射出する。

無人機を一撃で葬れるとは考えていない。

中国の候補生である鈴音を追い詰める程の強敵だ。

セシリアの射撃を受けてもシールドが攻撃を阻みダメージは受けていない。

 

「まだまだ!!」

 

一発で倒せないなら何発でも打ち続ける。

正確な射撃がターゲットの頭部に吸い込まれていく。

カメラを破壊すれば行動を著しく制限できると踏んでの行動。

しかし、彼女の激しい攻撃さえもシールドを貫けない。

無人機の正面にエネルギーが集束し始める。

こんな狭い場所で撃たれたら回避は出来ない。

現状を打破できるのは、彼しかいないと判断して、後ろを振り向くセシリアだったが…

 

「え?」

 

既に篠ノ之イズルはターゲットに向けて飛び出していた。

無人機の懐に潜り込んで、その顔面に右の拳を叩き付けたRED5。

 

「はぁ!?」

 

鈴音の声が廊下に響き渡るが、その事を気にしている人はこの場にいない。

シールドを貫通した一撃を受けて顔を構成するパーツが飛び散る。

殴られた敵が地面に倒れて、その隙を逃さずソードカウンターを突き刺した。

アスファルトに磔にされた無人機が活動を続行できる筈も無い。

複眼の輝きが完全に失われた後にソードカウンターを引き抜く。

 

「…何でもアリだな」

「姉さんは何て物を作ってしまったんだ」

 

上手く気持ちを表現出来ず、口をパクパクさせていた凰鈴音。

何かを諦めた様な面持ちで呟いていた織斑一夏。

笑顔の篠ノ之束が脳裏に浮かんで頭痛に苛まれていた篠ノ之箒。

 

「とと、とにかくここから離れましょう!!」

 

我に帰ったセシリア・オルコットの言葉に従い移動する。

廊下から出た後、IS学園の教師陣と遭遇して安堵の溜息を吐いた面々。

その後、アリーナにいた無人機は織斑千冬によって全て破壊された。

アリーナの損傷や怪我人の存在は軽視できないが、襲撃が止んだことに胸を撫で下ろしていた山田真耶。

 

 

 

その頃、IS学園近郊の森で空を見上げながら何者かに連絡を取っていた蛯名。

彼女から少しだけ離れた場所には、気絶している東雲と栄城が転がっていた。

 

「もしもしスコール?面白そうな物を発見したよ」

 

打鉄の損傷は激しく、腕から血が滴り落ちているにも関わらず気にした様子は無い。

 

「そりゃ不満だよ。暇過ぎて死にそうだもん。オータムと代わってくれない?」

 

何時の間にか取り出したナイフで近くを這っていた蛇の頭に向けて投げる。

寸分の狂いもない一撃は獲物を容易く絶命させた。

 

「はいはい分かってるって。仕事は投げ出さないよ」

 

我ながら面倒くさい役割を押し付けられた事に辟易しながら通信を終える。

倒れている彼女達を一瞥して溜息を吐いた後、IS学園に連絡を入れるのだった。


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