駄文が目立つとは思いますが、少しでも楽しんで頂けると幸いです。
「フフフ~ン」
殺風景な部屋の隅に置いてある椅子に座って、鼻歌を歌いながらスケッチブックに何かを書いていた少年。
「イズル」
「クロエ?どうしたの?」
そんな時、部屋の自動ドアが開いて、エプロンを着た銀髪の少女が入って来る。
彼女を見てペンを書く手を止めて、不思議そうに顔を向けていた少年。
「ご飯が出来たよ」
「ちょっと待って。その前に…」
汚れたエプロンを気にせず、食事だと告げていた彼女。
その言葉を聞いて時計をチェックしたら、時刻は既に午後を迎えていた。
ペンを机の上に置いた彼は、スケッチブックを持ったまま椅子から立ち上がり…
「これどうかな?」
魔法少女とヒーローが一緒に描かれたページを見せて感想を求めた。
渋い表情を浮かべながら、ページを捲って内容をチェックする。
そして、ページを閉じた少女は少年の方を向いて…
「面白くない」
「はぁ…やっぱり駄目か」
包み隠さずに率直な感想を述べた。
スケッチブックを突き返された彼は、がっくりと項垂れて溜息を吐く。
過去に数え切れない回数に渡り、内容をチェックしていたが、腕前は殆ど上達していなかった。
何度も見慣れた光景だったが、彼女は少年に声を掛けたりしない。
顔を上げた後にスケッチブックを机の上に置いたイズル。
「行くよ」
「は~い」
クロエの言葉に従って、キッチンに移動した彼は、テーブルの上に毒々しい色合いの料理の様な物体が並べられている事に気付く。
常人ならば、その場から全力で逃走したくなる程の状況に、特に顔色を変えず椅子に座る。
「いただきます」
「また失敗…」
「平気だよ。何だか懐かしい感じがするし…」
そう言って、彼女が作り上げた昼食を黙々と食べ始めるイズル。
自分で調理した料理を食べていたクロエは、また失敗した事を自覚して落ち込む。
少年と一緒に暮らしているもう一人の女性は、この料理を淡々と食べ進める為、その認識が薄れやすかった。
味に対して不満は無いが、言い様の無い懐かしさを感じていた少年。
料理当番は、イズルとクロエの交代制であり、今日はたまたま彼女の番だった。
「お姉ちゃんは?」
「呼びに行ったけど、先に食べてって言われた」
「そっかぁ…やっぱり忙しそうだね」
本来ならば、食卓を囲むのは2人ではなく3人だが、席を外している人物は、普段から多忙という事もあり、最近はイズルとクロエだけで食事を取る機会が多い。
寂しさを感じていたが、それを口に出す程子供ではなかった。
「RED5。これが元の姿だったのかなぁ?」
機械で出来たウサミミのカチューシャに加えて、胸元が大きく開いた私服を身に纏いモニターを弄っていた女性。
彼女の名前は篠ノ之束。
ISを開発して世に送り出した人間であり、イズルとクロエの2人と生活をしていた。
夥しい機材が並んでいる部屋の中央に鎮座している真紅の機体を眺めて目を細める。
「興味が尽きないねぇ」
彼女はISの開発者であると同時に、超一流の研究者だからこそ、RED5と呼ばれた機体がISとは異なる事に気付いていた。
「本当…あの時はビックリしちゃったなぁ」
RED5の蒼い双眼を見ながら、昔を懐かしんでいた束。
この機体は3年前、白騎士事件が解決した直後、南極に訪れていた束が、頭から血を流して倒れているイズルと一緒に発見した。
当時の彼は記憶を失っており、憶えているのは自らの名前と、この機体がRED5と呼ばれる事だけだった。
機体が大破していた事に加えて、一部のシステムがブラックボックス化しており、解析作業に大きな進展は見られなかった。
本来の姿に近づける為に、ISの技術を流用して修復した経緯がある。
(イズル…)
修復し終えたRED5を眺めながら、イズルについて考える。
回収した当時、身体を調べてある事が発覚して、それが彼と共に暮らす切っ掛けになった。
記憶を失った影響か、本来の性格かは不明だが、少年は自分を姉の様に慕っている。
血は繋がっていなくとも、ヒタチ・イズルを実の弟の様に大切に思っていた束。
彼女にも血の繋がった妹がいるが、ある出来事が原因で複雑な関係となっている。
物思いに耽っていた時、先日の出来事を思い出して、徐ろに携帯電話を取り出す。
連絡を取る相手の名は織斑千冬。
世界最強のIS操縦者と呼ばれており、自信が最も信頼する人物だった。
時刻は深夜、仕事を終えた織斑千冬はベッドで深い眠りについていた。
そんな時、近くに置いてある携帯電話の着信音が鳴り響く。
緊急の用事だと判断した彼女は、直ぐに着信ボタンを押すと…
「ハロハロ~!」
「…切るぞ」
幼馴染である彼女の脳天気な声が聞こえて、一言告げて電話を切ろうとする。
「酷いよち~ちゃん!」
「今は深夜だ。酷いのはお前だろう」
「あ~そっちは深夜だったね。ごめんごめん」
電話の向こうで嘆いている束の顔を思い浮かべ、額に青筋を浮かべながら応える千冬。
わざとらしく謝罪する彼女と、安眠を妨害された事に対して苛立ちを募らせる。
「…それで、何の用だ」
腹が立っているのは確かだが、その事について文句を言う気は無い。
彼女が何の用事も無く、連絡を送るとは思えない。
とはいえ、数年前から無駄話をされたりはした。
例えば、弟が描いた漫画のデータを送り、アドバイスをして欲しいだの。
素直な性格で可愛くて堪らないだの。
思い出すだけで腹が立ってくるので、それについては胸に閉まっておく。
「いっくんがISを動かしたじゃん?」
「それが何だ?」
「IS学園に入学させるでしょ?」
「…何が言いたい?」
そんな千冬の気持ちを知ってか知らずか、もったいつけた話し方をする束。
弟である織斑一夏の事が話題に出て、彼女の声のトーンが一段と低くなる。
ISは女性にしか扱えない。
この世界の常識が崩れ去った。
数日前に織斑一夏が、偶然ISに触れた事によって。
世界最強のIS操縦者と呼ばれて、弟には肩身の狭い思いをさせて、今度は彼が世界中の注目を集めた。
彼がISを起動させた当日、篠ノ之束を問い詰めた千冬。
その質問に対して、何の細工もしていないと応えて、2人の友情に亀裂が入らずに済んだ。
正直、ISを起動させた事を蒸し返されたくなかった。
「私も弟を入学させたくてさ~」
「ヒタチ・イズルを?何故だ?」
「ノンノン。篠ノ之イズルだよ。理由は色々あるけどね」
「…ISを起動させたと?」
「もちろん!」
千冬の機嫌が悪くなったのを察して、本日の要件について話す。
イズルの名字を訂正しながら、入学させる理由を適当にはぐらかす。
具体的な入学理由を話さない彼女に不信感を覚える。
世界初の男性IS適合者は、魅力的な研究素材でもあり、IS学園に入学させる事で身の安全を保障出来ると考えていた千冬。
篠ノ之束が溺愛しているイズルが、ISを起動させたなど教える理由が分からない。
彼の身の安全を確保したいならば、何も言わないに越した事は無い。
彼女の言葉通り、IS学園に入学させる理由は他に色々あるのだろう。
入学の最低条件を尋ねる千冬に、電話越しの束は満面の笑みで肯定する。
「…分かった」
「ありがと~!愛してるよち~ちゃん!」
「うるさい黙れ」
待っていた返事を聞いた瞬間、激しいテンションで感謝の言葉を述べる。
深夜だと最初に言った筈なのに、全く気を配らない彼女に文句を言って電話を切る。
「2人目か…」
怪しい。
あまりにも胡散臭過ぎる。
机の上に携帯電話を置いて、ベッドに寝転がる千冬。
「厄介な人間じゃない事を祈るか」
ヒタチ・イズルとは面識は無いが、彼女の話を信じるならば、素直な人物という事になる。
少年が問題人物ではない事を祈って再び眠りにつくのだった。
3日後、世界中に衝撃的なニュースが放送された。
織斑一夏に続いて、男性で2人目のIS適合者が現れた。
名前は篠ノ之イズル。
他に分かっている情報は殆ど無かった。
一人目のIS適合者である織斑一夏は、友人である五反田弾と一緒に、ファーストフード店で食事を取っていた。
「マジかよ」
「篠ノ之…箒の親戚か?」
2人目の男性のIS適合者が、こんな短期間で現れた事に驚いていた弾。
幼馴染と同じ名字から、彼女の親戚かと考え込んでいた一夏。
これからの生活に不安を抱いていた彼は、このニュースに微かな希望を感じていた。
学園の男子が2人でも圧倒的に少ないが、1人でいるより遥かにマシだった。
篠ノ之イズルという人間は知らないが、数少ない男同士仲良くしたいと願う少年。
「イズルまで…」
同時刻、この衝撃的なニュースを食い入るように見詰めていた篠ノ之箒。
彼と直接出会った事は無いが、姉から彼の存在を何度も聞かされていた。
漫画を描くのが好きな少年で、何度もチェックを頼まれたりもした。
正直に言って、面白くなかったが、真面目な彼女は投げ出さずに感想を送っていた。
厳しい意見を送った事もあったが、姉からイズルが感謝していると聞いた。
彼の性格は分からないが、警戒する様な人間では無いと感じていた箒。
そんな少年が、幼馴染である織斑一夏と同じ様にISに適合したのは流石に驚く。
頭の整理が付ける為に、部屋から出て行き日課の鍛錬を行うのだった。