閃光の軌跡   作:泡泡

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 少し原作をアレンジしています。リィンの居場所を少し取っていたりもしますがヒロインは不明なままです。


学院生活4月17日

 あれからいくらかの日々が過ぎ去った。慌ただしく特科クラスが発足したものの、それなりに皆と打ち解けることも出来たことはアマデウスにとってプラスになることだろう。彼はいつものように学院に行く準備をしていた。

 

 オリエンテーリングの時に、ラッキースケベな事をしでかしたリィンとその被害者のアリサとの仲はこじれたままの状態。いや、何とかしてアリサは謝ろうとしているがそれでも口を開いたらそれとは逆の事を言ってしまう次第。何かのきっかけがあれば二人は変わるのだろうが・・・。

 

 それよりも深刻な問題を抱えている二人が存在していた。10人しかいないⅦ組の中がギスギスしている渦中にいるのは四大名門の出のユーシス・アルバレアと平民マキアス・レーグニッツだ。マキアスは大の貴族嫌い、ユーシスはそれに引っ掛かりを感じながらも平民とは相容れないと言う言動を繰り返していた。

 

 「早くどうにかしてもらいたいものだ。・・・おっと、そろそろ行く時間が迫ってきたようだ。それじゃあ行ってくるよ」

 

 机に置かれている教材や家から持ってきた本の中に、隠すように置いた家族写真に声をかける。見つかったら大騒ぎ以上のことが起きることは免れることがない事実だろう。

 

 「二人共おはよう」

 

 「おはようございます」

 

 「お、おはよう。どうせだったら一緒に行かない?私先に出て待ってるね」

 

 ロビーに出てすぐ出会ったのはクラスメイトのリィン、エリオット、エマ、アリサだった。リィンは何とかして謝ろうとしていたようだったが、アリサに糸口を切られそこに自分(アマデウス)が登場したようだ。

 

 「うむ、それはいいのだがお取り込み中だったか?」

 

 「いや、気にしないでくれ」

 

 「あははは・・・」

 

 リィンとエリオットのほうを向いて聞いてみるが、リィンの返事はちょっとガッカリ感が漂うものでエリオットはどうしようもないと言わんばかりの笑いだった。

 

 「そうか。リィン、いつかきっとアリサと話すことができるんじゃないか。アリサだって口を開こうとして口を開いたら、別のことを口走っていることを後悔しているような雰囲気だぞ」

 

 「そう言ってもらえるとありがたい。アマデウスは先に行ったらどうだ?エマとアリサが待っているんじゃないか」

 

 「そうだな。ではまた学院で」

 

 他力本願で問題を解決したところで、当人の問題がそのまま残ってしまえばそれは本末転倒な結果になることは目に見えている。どうにかならないものかなぁと思いながら、先に行ってしまった二人を追って寮の扉を開けた。

 

 「待ってくれていたのか、ありがとう」

 

 「ふふっ」

 

 「べ、別に待ってなんかいないわよ」

 

 エマは笑みを浮かべてこちらを見、アリサはリィンと仲直りできなかったことに不満を抱いていながらもそれを隠そうとしているらしい。・・・隠しきれていないことは一目瞭然なのだが。

 

 「それにしても両手に花とはこの事なのかな?」

 

 「「???」」

 

 二人は最初気づかなかったようだ。そしてしばらくしてからその言葉の意味を知り、あわあわとして顔を真っ赤に染めた。

 

 「も、もぅアマデウスさんはご冗談がお好きなんですねー」

 

 「あなたが言うと本気にしか聞こえないからやめたほうがいいわよ」

 

 エマは純真に頬を染め、アリサにはジト目でこちらを睨んできた。

 

 「やや本気だったのだが、ね。微笑ましくも妹のような感じがしてだな。仲直りしたいのにやきもきして右往左往したり、今しか得ることのできない青春じゃないか!!」

 

 「あははは・・・」

 

 「やっぱりアマデウスは変だわ。誰かに汚染されているんじゃないのー?」

 

 「むぅ・・・。兄さんの影響かな」

 

 「あら、兄さんがいるの、どんな人?そう言えば妹のような感じって言ってたから妹さんもいるの?」

 

 「兄と妹と弟が一人ずついる。兄は演奏家だが少し茶目っ気のある兄さんだ。妹と弟は双子だがどちらも私にべったりくっついていて離れようとしない。今回の学院への入学の時にも大変な思いをして入学することができた。だが兄弟仲は順調だ」

 

 「へぇ・・・。あたしは一人っ子だから羨ましいなぁ」

 

 「ええ、私もです。兄弟がいるってどんな感じなのでしょう」

 

 アリサとエマは一人っ子らしく想像を膨らませていた。寮から学院まで他愛もない話をしてⅦ組まで来た。

 

 「おはよう」

 

 「おはようございます」「おはよー」

 

 ドアを開けて既に来ているクラスメイトに声をかけていく。まだ来ていないのは寮で会ったリィンとエリオットだけだった。ふくれっ面をしているユーシスとマキアス、黙想をしているのか目をつぶった状態のラウラとガイウス、眠そうな顔をしているフィーがいた。皆がそれぞれ返事を返してくれていた。

 

 しばらくしてからエリオットとリィンも浮かない顔をして入ってきた。どうやら学院前でばったり貴族の生徒と出会ったらしく嫌味をグチグチ言われたようだ。気にしていないとはいいつつも、この特科クラスは今までの常識を覆し、貴族と平民が入り混じったクラスゆえに良くも悪くも目立つからだろう。

 

 そしてサラ教官による(ホーム)(ルーム)後、1限目の授業が始まった。授業内容は割愛することにするが、当てられたリィンが言いよどむ中隣の席に座っているアリサが何とか会話のきっかけをつくろうとしてノートの隅に答えを書くも、リィンはそれに気づくことなく考えた末正解の言葉を発言する。座る際にアリサが助け舟を出していることに気づくも、またアリサはプイッと横を向く。

 

 「(まったくいつまで意地の張り合いをしているんだが・・・。きっかけがあれば何とかなるのは分かっているんだけれども。そのきっかけが欲しいな)」

 

 「アマデウス君、聞いていますか?ここは後々ためになりますよー」

 

 「ええ、大丈夫です。すみません、少し心ここにあらずになっていたようです」

 

 半分ぐらいはアリサとリィンの事を考えていた。彼も人知れずお人好しな部類になるのかもしれない。その後は注意されることもなく無事終えることができた。

 

 放課後、アマデウスは一つだけやりたいことがあったためすぐに教室を出ようとしていたサラ教官を呼び止めた。

 

 「サラ教官、少しよろしいでしょうか?」

 

 「ええ、いいわよ。何か聞きたいことでもあった?」

 

 「はい、入学式の始まる前でしたが得物をあずけた時にいた小柄な生徒はもしかして・・・」

 

 「生徒会長よ。トワ・ハーシェルって言うわ。もしかして惚の字かなぁ~?」

 

 「()はそのような感情を持ち合わせておりませんが」

 

 そう言うとサラ教官は慌てた様子を見せた。

 

 「ちょ、ちょっと待って。『今は』ってどういう事?」

 

 「人の感情はどのように動いていくかわかりません。少し前まで喧嘩していた二人が仲良く友情を育むなんてことはありえる話ではありませんか?そのような意味で『今は』と強調したまでです。それで生徒会長にお会いしたいので何処に行けばよろしいでしょうか?」

 

 「アハハハ・・・。ごめんなさい、変な勘ぐりをしてしまったわ。それでトワ会長の居場所ね。今の時間だと学生会館二階の生徒会室で仕事をしているはずだわ」

 

 「感謝します」

 

 お辞儀をしてからサラ教官と別れて学生会館を目指す。新入生らも新たな生活を始めクラブ活動などに精を出すようになっているらしい。エマは文学系のクラブに、アリサとラウラは体を動かすクラブを探すなどと言っているのを聞いていた。

 

 「よっ、後輩君。元気にしてる?」

 

 「私ですか?ええ、あなたが先輩なら私は後輩ということになるでしょうか」

 

 「かーっ、堅いなぁ。もっと、こう・・・肩の力を抜いたらどうよ。楽しい学園生活は始まったばかりだろ?」

 

 後ろから声をかけられたので振り向くといかにも不真面目そうな青年が声をかけてきていた。

 

 「これが悪くも良くも私と言う個人なので・・・無理ですね」

 

 「・・・おおぅ。そうか、まぁてきとーに頑張れや。後輩君?」

 

 「ええ、ありがとうございます。先輩」

 

 話す相手が男性だと少しないがしろになる傾向があるのだろうか、話していても何も思うところがなかった。それよりも・・・。

 

 「いや、考えないようにしよう。ここが学生会館と言うところになるのか。一階が食堂と購買、二階に文学系のクラブと生徒会室がある、と。三階は・・・知っても行く機会はないだろ」

 

 三階は貴族だけの部屋があるらしいが、わざわざそのような場所に赴く必要性を一切感じることがなかったので頭の中で考えるのをやめた。

 

 「ふぅ・・・」

 

 脳裏に思い出すのは入学式の前に出会った生徒会長と思わしき女性と、つなぎを着たいかにも技術家な男性。いやアマデウスは小柄な女性しか考えていなかったのかもしれない。事故とはいえお姫様抱っこのような形式を取ってしまった時、電撃が走ったような感情に襲われたのだ。

 

 「このまま不審な行動を取っていても時間だけ過ぎてしまうだけ・・・。よし!!」

 

 ――コンコン――

 

 『はいはーい。開いているからどうぞっ!!』

 

 「失礼します」

 

 中から初めて聞いた時と同じような朗らかな声が聞こえてきたので、声をかけつつ扉を開いて中に入った。

 

 「ふえっ!?・・・・・・(パクパク)」

 

 窓に近いところに机が置かれており、椅子に座ったままで返事をしたものと思われる部屋の(あるじ)はこちらを見た瞬間に変な声を出していた。そしてそのまま声にならないアワアワしていた。その様子が小動物ちっくで微笑ましかったが、ここに来た理由をすぐに伝えねばなるまいと思い佇まいを直して声を出した。

 

 「サラ教官に聞いてここに来ました。理由は入学式の前にお手を煩わせてしまったからです。あの時大変な思いをして運んでもらったケースですが、オリエンテーリングの時には使うことがなかったのです。地下まで運ぶのは大変だったのではないでしょうか?」

 

 「・・・・・・」

 

 「生徒会長、どうかされましたか?」

 

 黙ったまま固まり続けているので机に近づいて生徒会長(?)をじっくり眺める。するとすぐに顔を赤らめて再起動する。

 

 「ごっ、ごめんね。挙動不審な言動をしてっ。アマデウス・レンハイム君だったね。私の名前はサラ教官から聞いているかもしれないけれどもトワ・ハーシェルって言います。よろしくね・・・」

 

 「はい、よろしくお願いします」

 

 「「・・・・・・」」

 

 会話が終了した。だがこのままではらちがあかないと思ったトワが聞く。

 

 「そ、それでここに来た理由はその謝罪っていうだけじゃなさそうだけれども・・・?」

 

 「ええ、会長は多忙と聞いておりますので何かの手伝いが出来れば・・・と思い足を運んだ次第です。それに私も書類整理などの経験を積みたいと思っておりますので・・・」

 

 「な、なるほど・・・。多忙っていうのはこの机の上を見ればわかると思うけれどもそうなのよ。入学式が終わったらやること山積みで・・・。ホントにいいの?アマデウス君は新入生だから今のうちに楽しんでもらいたいというのが本音になるのかな。でもでも手伝ってもらったら助かるのは助かるのよーっ!!」

 

 葛藤がトワ会長の中に存在するようなので、こちらの考えを伝えておく。

 

 「トワ会長が気に病むことはないんですよ。先程も言いましたが、私のスキルアップにも繋がりなおかつトワ会長は山積みな問題が軽減される・・・。一石二鳥じゃないですか?」

 

 「うーん、そうね。お願いするわ。それでも重要度が高いのは私がやるとしてアマデウス君は承認するだけの書類に(いん)を押してくれるかしら?」

 

 「ええ、分かりました」

 

 しばらくの間、時々『うーんうーん』と唸りながら書類整理をするトワ会長と、軽快に印を押す音だけが生徒会室に響いていた。そして二人だけの空間が気にならなくなってきた頃もう一人の来訪者が現れた。

 

 ――コンコンッ――

 

 「はいはーい、開いているからどうぞーっ」

 

 

 『失礼します』

 

 入ってきたのは特科クラスのラッキースケベな青年リィンだった。

 

 「アマデウス・・・君もいたのか?」

 

 「あぁ、ちょっとした手伝いを、だな。ところでリィンはトワ会長に何か用でもあったんじゃないのか?」

 

 「サラ教官に頼まれてね。僕たち特科クラスの学生手帳を貰いに来たんだ。やることもなかったしね」

 

 サラ教官に頼まれた時の事を思い出しているのか、苦笑気味な答えだった。

 

 「あぁ、あの件ねー。ええっと・・・あったあった。これが君たち特科クラスの学生手帳だよ。他の生徒に比べて色々と変更があったりして今まで渡せてなかったんだ。リィン君とアマデウス君の分は先に渡しておくね?」

 

 「感謝します」

 

 「ありがとうございます」

 

 トワ会長に対してアマデウスとリィンが感謝を述べる。この後、トワ会長がリィンに生徒会では手を回しきれない仕事を行なうとか何とか話し合っていたが、アマデウスにとってあまり関係のないことと決めつけてそのまま書類に印を押し続けていた。

 

 「・・・では失礼します。アマデウスもおつかれさん」

 

 「うむ・・・書類から目を離せないのでこのままで失礼。リィンも明日頑張ってな。私の手が空いていて力になれることがあれば言ってくれ」

 

 「あぁ・・・」

 

 『バタン』と言う音と共に生徒会室に静寂が戻る。そしてそのまま書類だけに目をやっていると今まで無かったところに影ができたのでふと目を上げるとそこにはトワ会長がこちらを眺めていた。

 

 「会長・・・。どうかされましたか?」

 

 「ううん、エヘヘ。仕事に没頭している姿も良いというか・・・じゃなくって!!ほ、ほら外を見て。もう夕方というより夜に近づいてきてるから終わろうかと思って。あとは私がやっていくから。アマデウス君は帰ったら?」

 

 「・・・私が帰ってからトワ会長は何をなさるんですか?」

 

 「私は・・・残った仕事をやってから寮に帰ろうかと思っているよ。あぁでもそんなに提出する期日が迫っている訳じゃないからそんなに急がなくてもいいんだけれども。それでも先に終わらせておけばいいかなーって・・・」

 

 にこやかな表情をこちらに向けながらまだ仕事が残っていることを告げる。だが、その仕事の重要度は低いらしい。・・・となるとこちらの取る手は一つだけ。

 

 「トワ会長、今日は止めましょう。会長も疲れている様子・・・それほど重要な書類でないなら帰って休まれた方がいいですよ」

 

 「でっ、でもー」

 

 「ト・ワ・会・長。帰りにデザート買って一緒に食べましょうか?」

 

 「わっ、いいの?・・・じゃなくてっ!!」

 

 一瞬喜びを隠せなかったが完全に丸め込まれる前に正気に戻ったようだった。しかし甘いものの誘惑には勝つことなく一緒に軽食を取ってから、トワ会長が住む寮に送り届けてから自分の住む寮へ帰った。寮ではリィンがそれぞれのクラスメイトに学生手帳を渡している途中らしく、階上からリィンの声が漏れて聞こえてきていた。

 

 「またリィンはアリサに謝れなかったのかな。アリサの戸惑う気配がする。やれやれ本当にいつになったら彼らは仲直りをする事ができるのやら・・・」

 

 「おや、ARCUSが鳴っていますね。誰からでしょうか。はいもしもし・・・」

 

 『兄様・・・』

 

 「あぁ、(いと)しのアルじゃないですか。どうかしましたか?」

 

 『うん、一つだけお願いがあって。それと声が聞きたかったものですから・・・』

 

 「そうですか、嬉しいですね。女学院ではちゃんと勉強していますか?」

 

 『はい、淑女として成長過程にありますがなんの問題もなく過ごすことが出来ています』

 

 「そう・・・、良かったね。それでお願い事とは?」

 

 『確か明日はアマデウス兄様の休みの日でしたわね。何か用事が入っていたりしますか?』

 

 そう言われてクラスメイトや他の人との会話の内容を思い出す。

 

 「現段階では用事を入れてないよ。アル、来て欲しいのか?」

 

 『っ、そうなの!!エリゼって言う私の無二の親友が会いたいって言うんですから・・・。それと私自身も会いたいと思っております』

 

 「そうですか、良いですよ。ほかならぬ妹の頼みですからね。無理難題でない限り答えるつもりですよ」

 

 『そうですか。良かった』

 

 限りなくゼロに近いが、断られるかもしれないとでも思っていたのだろう。ホッとした雰囲気の声が聞こえてきた。

 

 「明日のいつ頃待ち合わせるかい?」

 

 『明日は日曜日ですから昼近くに女学院の門のところで待ち合わせするのはどうでしょうか?』

 

 「分かりました。では明日女学院で・・・」

 

 『はい、お休みなさい兄様・・・』

 

 名残惜しそうな声がARCUSから聞こえてきて切れた。

 

 「明日は久しぶりの帝都か。サラ教官に外出許可証を貰いに行ってこようか」

 

 その後、お酒が入っていたサラ教官を見つけ許可証を貰ったが酔いすぎているのか、それともよっているふりをしているのか分からない教官だった。




 原作ではトワ会長とリィンが夕食を共にしていますが、この作品ではそのようなことはありませんでしたw生徒会室でリィンとアマデウスとトワがお茶しただけで別れた・・・、ぐらいでしょうか・・・。

 

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