閃光の軌跡   作:泡泡

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 オリエンテーリング後、寮での出来事です。


寮にて

 

 「ふぅ、やっと部屋を片付けることができたな」

 

 オリエンテーリング後、サラ教官に連れられてやってきた建物はこれから生活する寮だった。学院からは少し離れているものの、近くには木々が涼しげに揺れる公園などもあり生活するには何の問題もなさそうだった。

 

 「さてと・・・。一階は食堂とちょっとしたロビー、二階は男子、三階は女子が使って。あっ、ちなみに私も三階にいるからなんかあったら遠慮なく来てちょうだい。細かいことは言わないけど節度ある行動を取るように・・・。あとは聞きたいことある?」

 

 特科クラス10人に口頭で説明しつつ質問があるかどうか聞いてきた。

 

 「サラ教官、一つよろしいでしょうか?」

 

 「アマデウス君、なーに?」

 

 「私のこと聞いているでしょうか?」

 

 「ええ、勿論よ。学院長から聞いているわ。実家からの呼び出しがあった場合、即座に行動できるように一階の食堂正面にある部屋を使うってことね。贔屓と思いがちだけどほら見て」

 

 ガチャっと音を立ててアマデウスが使うことになるであろう部屋を見せる。

 

 「ちょっとだけ古いでしょ?アマデウス君に配慮を示す代わりに古めの部屋を用意したってわけ。他のみんなの部屋はこれよりきれいよ」

 

 『どう?』と皆に同意を求めているようだが、他の皆からは反対意見が出ることはなかった。これで晴れてアマデウスの部屋が先に決まった。一階食堂正面に位置する少し大きめだが、他の皆の部屋と比べて古い作りになっている部屋だった。

 

 それから数十分の間、彼は四苦八苦しながら持ってきた家具を配置してようやく一息つくことができた。

 

 「ふぅ、やっと部屋の中を片付けることができた。・・・それにしても特科クラスとは名ばかりで一人一人の個性が強いクラスになりそうだ。・・・これからクラスメイトになるのだから挨拶に行ったほうがいいのでは・・・」

 

 整頓されたベッドに座って落ち着いていたが、自分なりの結論を出して自室から出るのであった。まず最初に教官の部屋を訪れて許可をもらいにいくことにした。やましい事は無いにしても女性の部屋も訪れるつもりだったからだ。

 

 ――コンコン――

 

 「はぁい~。誰?」

 

 「サラ教官、アマデウスです。少しお時間よろしいでしょうか?」

 

 「どうぞ~」

 

 「失礼します。おっと、飲まれていたところでしたか。急に押しかけてしまい申し訳ありません」

 

 「いいよ。実を言うと私もあなたにちょっとばかり聞きたいことがあってね・・・」

 

 『どうぞ』の返事の後にサラ教官の部屋に入ると、お酒のボトルを手にして飲んでいたところだった。それにしても聞きたいことと何のことだろうかと思いつつもお邪魔した。

 

 「んくっんくっ・・・!!ぷっはぁ~~。いやぁ、この仕事もなかなか疲れるわね・・・。で、アマデウス君の用事はなにかしら?」

 

 「ええ、そんなに難しいことではないのですが・・・これからクラスメイトになる人たちへの声掛けをしておきたいなと。それで二階は何の問題もないのですが、三階は・・・」

 

 「なるほどね~。アマデウス君は紳士なワケか・・・。ふふっ」

 

 含み笑いをしていたがアマデウスにはなんのことだかさっぱり分からなかった。

 

 「あぁ、エッチな事しないかぎり大丈夫よ。一人を除いてあなたと同じ年だし、戦闘能力だってあるわけだから・・・それでも悲鳴上げられたら私でも擁護できないわよ?」

 

 「おっしゃっている意味が理解しがたいのですが、何か言われたら教官の許可をもらっているということでよろしいのですね?」

 

 「ええ」

 

 そしてまた一口より少し多めにボトルを煽る。

 

 「それでサラ教官は私に何を聞きたいのでしょうか?オリエンテーリングの時、私が自己紹介した時に突拍子もない声を上げたことと何か関係があるのでしょうね?」

 

 彼がフィーと一緒に落ちていかなかった時に自己紹介をしたのだが『え゛っ』と目を丸くして驚いていたのが記憶にあったのだ。

 

 「まぁそうね。あなたのプロフィールを見ても詳しいことは何も載せられていない。ヴァンダイク学院長にそれとなく聞いてみてもはぐらかされる一方。私もそれなりの修羅場をくぐって来たりもしている。“レンハイム”と言う名前に少々懐かしさを感じたりもしていた」

 

 「・・・・・・」

 

 今までのおちゃらけた表情を無くして、真剣な表情を見せているのでこちらもそれなりの態度を見せた。

 

 「はっきり言うわ。リベール異変の時に地元の遊撃士と共に行動していた、演奏家オリビエ・レンハイムと何か関係がある?」

 

 「はい、ありますが・・・?」

 

 何か問題が?とでも言わんばかりに素で返した。

 

 「へっ?だ、だって彼は・・・」

 

 「オリビエ・レンハイムの正体はエレボニア帝国の皇子、オリヴァルト・ライゼ・アルノールですから私とは何の関係もないと?しかし考えてみてください。何かの事情で皇位継承者から隠され続けた存在がいて、その存在がレンハイムの名を使っていたとは」

 

 「・・・・・・・・・(パクパク)」

 

 「彼が使っていた場所はリベールだったので、帝国方面ではまだ見知らぬ名前だと思って使っていたのですが、修羅場をくぐってきた教官に初日にばれるとは思いもしませんでしたよ(ハハハ)」

 

 こちらを指差している指が虚空でプルプルと震えていた。その行為も失礼に当たると思ったのか指をすぐに下ろして俯く。

 

 「・・・との・・・は・・・と・・・・・・しゃるの・・・・・・か?」

 

 「なんでしょうか?」

 

 聞こえなかったので聞き返した。するとキッと真面目な顔をして正面から向き声を出した。

 

 「本当の名前は何とおっしゃるのでしょうか?」

 

 「敬語じゃなくてもいいですよ。ええっとアマデウス・ライゼ・アルノール皇位継承第一位です。この事は私の命を狙う人が余りにも多かったので父上と母上と相談して隠したというわけです。なので知っている人は少ないですよ。ここまで明らかになるのが早かったのは予想していませんでしたが・・・」

 

 「・・・・・・」

 

 ガクッと力が抜けたようにベットに腰をかけたサラ教官。

 

 「ほかにこの事を知っている人たちは?」

 

 「ヴァンダイク学院長とオリビエ兄さん、それに私の近衛騎士ぐらいですね。護衛の関係でクレアも知っていたかな?」

 

 「っ!!」

 

 クレアの名前を出した時に教官の肩がピクリと反応したが、それについては問い尋ねることなくそのまま流した。

 

 クレア・リーヴェルト。鉄道憲兵隊所属しどんな状況でも冷静に対処でき、優れた先読み能力と用兵術を持つことから、氷の乙女(アイス・メイデン)の異名を持っていた。

 

 「この学校にいる間は普通の学生をやっていきたいと思っているので、一学生として当たっていただけると嬉しいです」

 

 「分かり・・・わかったわ。難しいかもしれないけど頑張るわ。あとは他の部屋を訪ねて顔出しすると言っていたわね。貴族の子とかいるけれども大丈夫なの?」

 

 「ええ、表舞台にはあまり出ていなかったので大丈夫だと思います。それでもそれなりの警戒は必要ですが・・・。それではサラ教官、明日からよろしくお願いします」

 

 「勿論よ。皆が楽しくそれでいて一人前になれるように教官努めるわ」

 

 『失礼しました』と伝えて教官の部屋を後にした。それでもアマデウスとしては神妙な面持ちになった。兄さん(オリビエ)の名前を知っている人がこちらにもいたことにである。

 

 リベールならそれなりに知られている名前ではあるらしい。カシウス・ブライトの子供である正遊撃士エステル・ブライトと養子のヨシュア・ブライトと一緒に、リベール異変を回避した民間協力者の中に演奏家オリビエ・レンハイムがいたのだから・・・。

 

 だが今の段階では情報が少なすぎて、何を考えたら結論が出てくるのかすら分からなかったので一旦保留しておくことにした。今宵はクラスメイトになる彼ら彼女らと一言二言でも会話したい、そんな気分だった。

 

 

 ――コンコン――

 

 「はい、どなた?」

 

 「アマデウス・レンハイムだ。サラ教官の許可を得て、これからクラスメイトになるので会話したいと思って訪れたわけだが、数分話しても大丈夫か?」

 

 「ちょ、ちょっと待って・・・」

 

 中から慌てた音を伴いながら部屋の扉を半分より狭く開けてくれたのは、アリサ・Rだ。

 

 「慌てなくても良かったのに・・・」

 

 「本当に教官の許可をもらったの?」

 

 「あぁ、ここに来る前に教官の部屋に行って許可貰ったよ」

 

 「そっか・・・。オリエンテーリングの時に聞いていたと思うけどアリサ・Rよ。よろしく」

 

 つっけどんながらも部屋の扉を開け、返事をしてくれるだけありがたいと思うべきだろう。それにしても彼女が“R”と名前を隠しているが本当の名前を知っていたりもしていた。アリサの母親と数回会って話をしていたのが原因だった。

 

 「最初に一つだけ言っておくと“R”なんだが・・・。私は知っていたりする。あぁ、これにはワケがあって君の母上と何度か会ったことがあってね・・・。その時にアリサの話を聞いていたりもしていたのだよ。Rのところには―――だな。だがアリサが意図的に隠しているということは理由があってのことだと思うから、君自身の口から聞くまで私も知らないふりをしておこう」

 

 「あ、ありがと。あなたって不思議な雰囲気を持っているわね?貴族と言っていたのに妙に偉ぶっていないと言うか・・・普通に見えるわ」

 

 「アリサからもそう言われるとは・・・。オリエンテーリングの時に一緒になったマキアスからもそう指摘されたよ。彼は貴族嫌いだけれども私には少し打ち解けている様子だった。それは私の目的を告げたからだろう」

 

 「そ、そっか・・・。ふふふ、これからよろしくね」

 

 「ええ、そうですね。よろしくお願いします。・・・では失礼します」

 

 『ガチャ』と言う音を立ててアリサの部屋の扉が閉まる。次に扉を叩いたのはアリサの正面の部屋だった。ノックをしても部屋の中から音がしなかったので、もう寝たものだと思い立ち去ろうとしたところ眠そうな声が聞こえてきた。

 

 「ふわぁ~誰?」

 

 「起こしてしまったようだ。申し訳ない、アマデウス・レンハイムだ。これから同じクラスで学ぶのだから挨拶をしておこうと思っていてね」

 

 「・・・ちょっと待ってて」

 

 すぐに扉が開かれた。出てきたのはフィーだった。

 

 「フィーとはオリエンテーリングの時にも一緒だったけれども改めて挨拶しておこうと思っていたんだ。・・・寝ていたとは予想できなかったよ。申し訳ない」

 

 「別にいい・・・。気配はしていたから・・・」

 

 「そうか・・・。君は不思議な子だ。サラ教官とは前からの知り合いだったのか?穴に落ちる前にサラ教官と話をしていたようだったが・・・?」

 

 「そう、昔からの知り合い。・・・用はない?」

 

 「あぁ、それじゃあね」

 

 言うことは無しと言わんばかりに扉が少し強く閉じられた。眠かったのかもしれず、サラ教官との昔を勘繰られるのが嫌いだったのかもしれない。どちらにせよ少しプライベートな部分に立ち入りすぎたのだろう。

 

 次に訪れたのはフィーの隣の部屋だった。確かここはエマと言う主席で入った子が使っている部屋だった。

 

 「はいどちらさまですか?」

 

 清楚な声が聞こえてきた。

 

 「アマデウス・レンハイムと言います。挨拶まわりに伺いました、少しお時間よろしいですか?」

 

 「ええっと・・・。少しなら構いませんよ。少しお待ちください」

 

 数秒後、彼女が現れた。普段着に着替えながらも、どこにも隙を見せることなくキチッとしていた姿に一瞬見惚れる。見惚れると言っても病的なものではなく男性なら美人を見てドキッとするぐらいの感覚だ。

 

 「はい、どうなさいましたか?」

 

 「これから共に学び合う仲間になるかもしれないので、その挨拶に来たのですが・・・エマさんはとてもキレイですね」

 

 思ったことを口に出してから少し後悔した。と言うのはみるみるうちにエマの顔が真っ赤になったからだった。

 

 「えっと、どうかしましたか?」

 

 「そ、そんなこと言う人初めてだったので驚いてしまって。それでもふふっ、悪い感じはしませんね?アマデウスさんはさらっとそんなことを口走ってしまうぐらい感情が豊かなのですか?」

 

 「ふむ、思ったことを口にすることで軋轢を生じさせてきたこともありましたが、それでも陰口よりは印象よくなる場合が多かったものですから・・・。エマが悪感情を持っていないだけありがたいと思うべきでしょうか。これからはもっと言うべき事と言わない方が良い場合を勉強しなければなりませんね・・・」

 

 「アマデウスさんは真面目ですね。それよりも肩の力を抜いて生活したほうがもっと楽しめるのではないでしょうか?」

 

 エマが話しやすい雰囲気を持っているせいか、普段言わないようなくさいセリフを吐いてしまっていたので内心は心臓がバクバクと音を立てていた。

 

 「さすがは主席でこの学院に入っただけはありますね。考え方一つを取ってもこちらが学ぶべき事柄が沢山あるようで・・・」

 

 「そんなことないですよ」

 

 謙遜なところも嫌味や作られたものでないところも高評価できるところだろう。

 

 「っと、夜遅くまで女性の部屋を訪れるもの宜しくないと思うのでこれで失礼するよ。明日からよろしくお願いする」

 

 「ええ、よろしくお願いしますね」

 

 そう言ってから部屋をあとにした。これで三階はあと一部屋だけとなった。その扉に近づいてから分かったことだが、妙な熱さを感じた。これは闘気の一種だろう。部屋の持ち主が得物を振るっているのかもしれない。

 

 ――コンコン――

 

 「・・・・・・」

 

 部屋からは何の返事も返ってこなかった。一言だけ挨拶を交わしたかったのでちょっとだけ自身の気配を大きくする。と言ってもやることは殺気を相手にぶつけるだけ。それも三階で、ではなく一階に戻ってから殺気をぶつけた。数秒後慌てた様子で扉を開ける音が聞こえてきたが、三階部分には誰もおらず感じたことのない種類の殺気のようで不思議そうな雰囲気が漂ってきた。

 

 「フフッ」

 

 自室に戻ってからいたずらが成功した悪ガキみたいな笑みを浮かべた。一階にいる彼が二階を通り越して三階にいる相手にだけ殺気をぶつけることができたのは、とある彼女との出会いから学んだことが深く関係していた。

 

 「今の私だったら彼女・・・には程遠いかもしれませんが、彼女に仕えていた三人には届くでしょうか?あれから会っていませんものね・・・。さて兄に手紙でも書きましょうか」

 

 机に向かってから便箋を取り出し今日あった事の中で優先順位が高そうなことだけを綴る。最後の文面の締めくくりはこうだ。

 

 『――サラ教官にバレました。“レンハイム”という名前はリベールでは有名だったようですね。特に遊撃士の中では。ではサラ教官は遊撃士を勤めていたのでしょうか?私は兄さんの口からは聞かないつもりなので心に秘めておいて下さるとありがたいです』

 

 「・・・これでよしっと。アルとリックにはしばらくしたら会えるでしょうし、この機会に少し兄離れをしてくれるといいのですが・・・」

 

 アマデウスはこのように考えてオリヴァルトにだけ手紙を書いたが、後日アルフィンとセドリックには手紙が届いていないことで二人共ぐずるのだがそれはまたの機会に・・・。 





 彼はある意味で剣聖の類と同じです。物語が進展するにつれて、彼が持っている武器の秘密なども明らかになる予定ですのでしばらく傍観して下さい。

 彼は基本的に口調は穏やかなものです。さん付けだったり呼び捨てだったりするのはその時の気分次第なのであまり深く突っ込まないでください。

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