2014/04/12母親を足す&名前が前のままだったので修正
――エレボニア帝国、帝都近郊北西に位置するカレル離宮――
そこは皇族の住まいとなっている美しい離宮だ。そして二人の男性と一人の女性が神妙な面持ちをして会話していた。
「本当にここを出てトールズ士官学校に入学するのかね?」
「あなたがいなくなったら寂しくなるわ。でもあなたが決めたことなのよね?」
「ええ、もう決めたことです。それにオリヴィエ兄さんが作ったとされるⅦ組がどのような所なのか。貴族と平民の身分を超えた何かを見てみたいのです。それにアークスの適合も高かったのでそこに入る資格は備えているかと・・・」
「分かった。私からは言うことはない。名に相応しく行動し、励むように・・・。ところで、さきほどからこちらを睨み続けているアルフィンはどうするつもりだ?生半可な理由では納得せぬのではなかろうか?」
「ふふっ、私たち以上にあの子は繊細で頑固だけどそれでいて我慢強くないわ。・・・士官学院に行くまでの間に何を要求されるのかしら・・・」
「はい。納得するまで話すつもりです。母上もあまり茶化さないでください。コホン、それでは失礼します。父上と母上」
公式の場ではないにしても礼儀と作法を持ち、そこから立ち去るのは皇位継承者第一位でありながら、世間から隠され続けてきたアマデウス・ライゼ・アルノールだった。庶子であるために継承者からは離れているものの兄弟仲は良好とも言えるオリヴァルトを兄に持ち、妹のアルフィン、弟のセドリックとなっていた。
だが、アマデウスがトールズ士官学院に入校することを喜ぶのではなく、嘆き悲しんだ。理由はいたって簡単。帝都から離れる兄を心配した・・・わけだ。心配されるほど弱くはないが内心焦っていた。肉の兄弟とは言え、親愛の情を抱くほど慕っていたアルフィンは誰か違う女性に兄がなびくのではないか・・・と思っていたわけだ。少しだけアマデウスもアルフィンの気持ちに気付いていたが、血が繋がっていることが最後のラインをわけていた。
「アルー?入るぞー」
一応ノックをしてからとても砕けた話し方をして部屋に入る。そこにはベッドに顔をうずめたアルフィンと、その横で心配そうに見ていた弟セドリックがいた。
「兄上ー。姉は先ほどからこの状態なんです。僕が何を言っても顔をうずめたままで・・・。どうしましょうか?」
「リック。私とアルを二人きりにしてくれないか?終わったらリックの部屋に行くから・・・」
「ええ、そのほうがいいかもしれないですね。分かりました、僕は失礼します」
セドリックが退席したのを確認してからベッドに顔を隠しているアルフィンに近づく。そしてアルフィンの肩を抱き寄せ、こちらを振り向かせた。やはり予想通り、涙を流して目は腫れていた。
「はぁ、アル。何回も説明したとおり、何処か遠くに留学するわけではない。同じ帝国内の学院に行くだけの話。どうしてそこまで危惧するんだ?」
「グスッ・・・。
「それも言ったはずだ。まぁその時には耳をふさいで脱兎していったから聞いていないかもしれないな。もう一度説明するぞ。継承するからといって上から眺めるだけじゃ国民の考えは分からない。それに指図するだけでは動いてくれない。だったら同じ目線に立って行動しなければならないだろ?身分を隠すのは・・・色々とめんどくさい事になりそうだからだ」
「・・・・・・・・・」
「分かってくれ。今まで父上と母上が私のことを隠し続けていたことも、狙われないようにするための苦肉の策と聞いている。だから私は力を付けることにした。誰に狙われようともそれを跳ね除けるだけの力を・・・」
「・・・一応、分かりました。それでもお願いが一つあります」
「うん、何かな。(予想は付くけど添い寝を・・・とか)」
「そ、その・・・。兄様がトールズ士官学院に行くまでこちらにいる間だけ添い寝を願いたいのですが。駄目・・・でしょうか?」
涙目で上目遣いをしてこちらの顔を覗き込んでくるアルフィン。予想していたとはいえ、想像以上の破壊力に『うっ』と言葉に詰まりながらも了承するアマデウスだった。
「ああ、いいよ。可愛い妹の頼みだものな。叶えてあげるさ」
「ありがとうございます、兄様。(大好きです・・・)」
その後、セドリックの部屋に行き妹の納得を得たことを伝え三人で両親に報告することができた。アルフィンが納得することは両親とも心配しておらず、夕食は最初から最後まで楽しく会話が弾むものとなった。
そしてその日からアマデウスがトールズ士官学院に入学するまでの間、アルフィンの横にはアルフィンが敬愛してやまない兄の姿があった。服を握って離さないアルフィンとその様子を愛おしむアマデウスの姿が・・・。セドリックは昼間アマデウスから離れないが夜の間はアルフィンに譲っているようだった。
――そして入学のため出発する日の朝――
「では行ってきます」
「うむ、体に気を付けるのだぞ」
「ちゃんと親友と思える人を見つけることができたらいいですね?期待してますわよ」
「「・・・・・・」」
彼は出発しようとしていたが、右手をセドリックに左手をアルフィンに握られており足を進ませることが困難な状態に陥っていた。
「アルにリック?ちゃんと納得して私を送り出してくれるんでしょ?それにアルは学校に遅れるんじゃないのか?リックも家庭教師が来る時間が迫っているでしょ?」
「今日、休んで兄様を見送りたい・・・」「僕も、兄上の入学式に行きたい」
「ダーメ。二人共行ったら大騒ぎになるでしょ?それに今まで隠してくれた両親の気遣いを台無しにする気?優しい二人だったらそのぐらいわかるでしょ?」
「「・・・・・・」」
ギュッと手を握る力が強まる。そして諦めたかのように手を離してくれた。だから二人の頭を優しく撫で肩に抱いた。
「わかってくれて何より。私は二人の兄さんなんだから、心身ともに成長してくれるのが一番嬉しいよ。それにオリヴァルト兄さんもおちゃらけた様子は見せながらも君たちのことをいつも大切にしてくれているし・・・。それは実感しているでしょ?」
「うん・・・」「はい・・・兄様」
「よし、じゃあ二人共行っておいで。私もそろそろ出るから、ね?」
後ろを何度も振り返りつつそれぞれ後にしていった。ふと後ろを振り返るアマデウス。今気づいたかのように話し始める姿は少しぎこちないものが残っていた。
「そうそう、今まで黙って気配を隠していたのには何か訳があるのですか兄さん・・・?」
「おやおや、気づいてしまうかい?我が弟よ」
そこにはリュートを持って、金色の髪の毛を後ろで束ねている青年が一人立っていた。横には護衛と思われる軍人を連れている。
「ミュラーさんもお疲れ様ですね。兄さん相手だと気の休まる暇が無いでしょ?」
「はっ、正直そうですね。私もアマデウス様が対象であれば・・・と何度も思ったものです」
「ミュラーさんっ、ヒドイッ!!」
よよよ、とワザとらしくくずおれるマネをするオリヴァルト・ライゼ・アルノール。通称“放蕩皇子”。庶子と言うだけの理由で皇位継承者から外されているものの、それを気にすることなく自分の道を見つけることができている青年だ。
「あははは、兄さんも相変わらずだ・・・」
「それはそうと、今日からだね」
「ええ、兄さんが理事長を務めている学院に入学して、兄さんが追い求めているものの一端を見つけることができればそれでいいんですけど。あとは・・・“光の剣匠”に追いつけるだけの武力を磨きたいところですねぇ・・・」
「いや、我が弟の武力は追いついていると思われるが・・・。それはそうと我が弟君は私の名前を使ってくれるんだね。レンハイムって・・・」
「はい、呼ばれて気づかなかったら偽名であるとすぐに予想がついてしまいますから、兄さんのもうひとつの名前のほうであれば分かりやすいと思いまして・・・」
「そうか、嬉しい限りだ。だが我が弟君の最終目的が光の剣匠とは・・・ね」
光の剣匠と言う具体的な目標を述べると引きつったような表情をする
「では、兄さん。また会う日まで。ミュラーさんも・・・」
「フッ、我が弟よ。元気でな」「こちらのことは心配しないでください」
「では士官学院までの道中よろしく」
「はっ、お任せ下さい!!」
そう言うのは数年の間ずっと護衛の任に当たっている
「留守中の事は任せた。緊急の用事以外はそちらで片付けてもらって構わない。あと実家に戻っている時以外は、兄さんが使っていたレンハイムを使うからそのつもりで・・・」
「かしこまりました。それではアマデウス・レンハイム様でよろしいのですね?」
「変な勘ぐりはされたくないから“様”もいらないんだけどなぁ。本名で呼ばなければそれでいいよ。それじゃ行ってくる」
駅前に最新鋭の防弾導力車を停めてそこから歩いていく。自分が使用する得物を持って・・・。士官学院の門前まで持っていくと行って聞かなかった騎士を止めるのも一苦労だった。堅苦しい会話から想像できないぐらい女性だからだ。これも妹が危惧した問題の一つとも言えるかもしれない。あまり接点は内容に思えるので彼自身は
このトールズ士官学院には貴族と平民と言う身分の違いがある男女が兵学を学びにやって来る。今年はそれに加えて皇族が身分を隠して入学した。さて、彼はどのような
プロローグを大幅修正しました。記憶喪失のオリキャラから生粋の皇族に変更。
これに伴いセドリックとアルフィン継承地位が一つずつ下がります。この作品におけるセドリックは2位、アルフィンは3位となりオリキャラは1位です。
士官学院における呼び名変更。アマデウス【神に愛されし者】・レンハイム。
次の話は少しだけ修正します。優柔不断な作者で申し訳ないです。