めだかボックス~北斗七星の輝き~   作:kouma

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第九話:死闘への旅立ち!

風紀委員室での出来事から遅れて授業に参加した時詠ではあるが、やはり昼休みの光景を見られていたらしい。

 

「生徒会長と知り合いなのか?」

 

「あの鉄球の女子は?」

 

と、質問攻めにあうが……それらをなんとか振り切り、逃げてきたと。

五体満足、怪我もしていないことで一同はある程度納得し……風紀委員に助けてもらったという言葉で、理解したらしい。

やはり風紀委員は悪評も多いが、評価される面だってある。

今回の時詠のことでも、その評価される面があってこその納得なのだろう。

 

(やれやれ、人間だから他人の悪い面ばっかに目が行くのも仕方ないんだけどな)

 

悪評もあれば評価される面もある。

だが人間は悪い方ばかりに目が行きがちだ。

 

「……帰るか」

 

そうして気が付けば授業も終わり、下校となる。

今頃めだかと善吉は……修行の最中だろう。

時詠からすれば、その姿勢は素晴らしいと言えるのかもしれない。

しかし

 

「ああ霞、ちょっと待て」

 

「はい?」

 

「今日の件で少し話がある……一緒に来い」

 

どうやら簡単には返してくれなさそうだった。

担任はHRを終えた後、霞にそう言い放ったのである。

 

「……わかりました」

 

素直に付いていくしかない。

まあ、停学か退学などそういったものは無いだろう。

そうして担任の後を付いていき……何故か職員室でも生徒指導室でもない場所へ。

 

「実は理事長が昼の件で少し話がしたいらしい、いいな?」

 

連れてこられたのは、理事長室。

時詠は……わずかに顔をしかめる。

担任はその顔を見て、罰せられるだろうと思ったのか……そういった話題でもないとフォローをしてくれた。

しかし時詠の出した顔はそういったものでなく

 

(まずったか?)

 

13組関係の話ではないかというものだ。

冥加の件はかなりの生徒に目撃されているので仕方ないのだが……ありえることだ。

 

「失礼のないようにな」

 

「……はい」

 

ドアをノック。

中から入りなさい、と……老人の声。

時詠は意を決し、理事長室の戸をあける。

そして……豪華な長椅子に座る、一人の老人。

 

不知火 袴、この箱庭学園の理事長である

 

時詠は気持ちを落ちつけながら、理事長が勧めるままに……対面の長椅子に腰かけた。

しっかりと淹れたてのお茶まで用意してある。

 

「はじめまして、私がこの箱庭学園の理事長を務める不知火です」

 

「こちらこそ……壱ノ2所属、霞 時詠です」

 

理事長は自慢のアホ毛を揺らし……しかし、何を考えているかわからない。

あの眼は、そういったものだ。

 

「霞君も大変だったと聞いております、13組の子と」

 

「いえ……風紀委員が助けてくれたので」

 

「ははは、そうでしたか……しかし貴方も生徒会長である黒神さんを助けたと聞いてますよ?」

 

「……体が勝手に動いてしまいまして。しかし、恥ずかしながら後で震えてしまいましたけど」

 

そう、考えもなしに体が動く。

それは人間の本能なのだろうか、危険を顧みず助けたいと……時詠にはわからなかった。

しかしあの時は意図があって助けたが、傍から見ればそう見えるはずなのでそのまま通すつもりである。

 

「なるほど、やはり女の子が困っているのを見れば動くのが男ですかな?」

 

「……どうなのでしょう、結局俺は何もしていないので」

 

「いやいや霞君、君の行いは立派なものです……誇ってもいいのですよ」

 

と、そんなごくごく普通の会話の中で理事長はあるものを取り出す。

それは一つのワイングラス。

だが、その中にあるのは液体ではなく

 

「サイコロ?」

 

「ええ、急に呼び立てて申し訳ありませんが」

 

そのグラスを時詠の前に差し出す。

時詠は表情を変えず……理事長を見た。

 

「老人のちょっとした暇つぶしに付き合ってくださいませんか?」

 

「い、いえ……理事長のお言葉ですし」

 

「すみませんね……霞君には、そのグラスの中のサイコロを振ってもらいたいのです」

 

やはりそうか、と。

先ほどの会話など建前、本命はこちらだった。

 

 

 

サイコロ占い

 

 

 

正直いずれ来る可能性を考えてはいた。

だが、こうも早いとは……もしかしたら、今までの行動を誰かに見られていたか。

おそらく、ここには理事長と時詠だけでなく……気配はないが、数人ほどいると。

 

(俺を見定めに来たか?……ま、いいけど)

 

時詠は理事長から、そのサイコロを軽く振ってくれと。

そのため時詠は無造作にグラスないからサイコロを手で鷲掴み……八個のサイコロを転がす。

理事長はそのサイコロをジッと見ていた。

 

そして振られたサイコロが止まり、出た目は……バラバラ

 

勿論、全てではなくある程度数字も被っているのはあるが……そんなものだろう。

しかし理事長は、予想と違ったのか眼を若干見開いている。

時詠は……理事長が気づいていないだけで、そのサイコロの数字より面白いものが見れたので満足していた。

 

「これでよろしいでしょうか?」

 

「ああ、いえ……霞君、ありがとうございます。退出してもらっても結構ですので」

 

「はい。では失礼します」

 

時詠は立ち上がって一礼し、そのままドアから出ていく。

残った理事長である不知火は自身の顎ひげを撫で

 

「で、君たちはどう思いました?」

 

理事長の言葉。

その背後に……4人の人影。

 

「……何も思いませんね、どこにでもいそうな一年です」

 

「サイコロ占いでも特になかったしなあ……理事長の気になる意味がわからないぜ?」

 

「そうだねえ~……全然普通に見えるけど」

 

「……あの男」

 

コーンロウのヘアスタイルの長身の男子と、首裏で髪を小さくまとめ腰に刀を携えている男子。

その隣にいる逆立ち……ではなく、天井に足をつけている胸元を露出した女子。

そして……全身を黒く包んだ包帯の、女子だろうか?

彼らはそれぞれの意見を言うが、理事長は一人の意見が気になった。

 

「名瀬さん、何か?」

 

理事長はただ一人、気になる言葉を出している顔に包帯を巻いた……の女子?に声をかける。

声をかけられた名瀬という人物は、淀んだ目をしたまま答えた。

 

「黒神同様、気づいていながら無視していた可能性がある」

 

「ああ、そういうことか。敏感な奴だったらそれぐらい出来るだろうな」

 

コーンロウのヘアスタイルの男子も、今思えば時詠の雰囲気は妙な感じだったらしい。

それは他の3人も、感じていたのだろう。

 

「……といってもあの雲仙のガキ、その姉を倒したって聞いたんだがなあ」

 

「そうだねえ……雲仙くんのお姉さんも、それなりに強いって聞くよ?」

 

「とりたて見どころらしいのは感じませんでしたね」

 

「……」

 

四人がそれぞれ言う中、理事長は考える。

自身に報告してきた孫の言葉……冗談とは思えないのだが。

 

「もしよければ私がしかけてみる?」

 

「おいおいお前が行くのか?……まあ、当たりかはずれかで面白そうではあるけどよ」

 

「最近運動不足だしねえ」

 

胸元を出した女子の一人とコーンロウのヘアスタイルの男子がそう言い、他の2人は……特に何も言わない。

理事長も、この4人の言葉が気になったのか何も言わない。

 

「じゃあ理事長さん、あの子と会ってきますね」

 

「わかりました、しかし」

 

「ちゃんとわかってますよ~それじゃ!」

 

スッと4人の姿が消える。

忍者も真っ青な動きに見えるのだが……

 

「ふむ、二回目なのに四人来てくれただけでも充分ですが、霞 時詠君……彼はどうも得体が知れませんね」

 

理事長はそう言い、サイコロを片づける。

しかし、理事長も先の4人も気づいていない……時詠の投げたサイコロの意味を。

問題なのは数字ではなく……そのサイコロが作った形にある。

7つのサイコロは北斗七星の形を作り、そして8つめのサイコロの位置にも問題があった。

 

 

 

その赤い①の面が、死兆星の位置にあることを彼らは知らない

    

 

 

しかもそれが向けられていたのは、理事長たちの方だった。

すでに時詠は一度死兆星が落ちてきたのだからある意味当然かもしれないが……彼らは、どうだろうか。

そのことに気づいたのは、あの場では誰もいない。

そして噂の時詠は、理事長室から出た後……そのまま風紀委員室へ。

中に入ると、すでにほとんどが帰った後なのか人影は見れず

 

「お~来たか霞」

 

「雲仙先輩、お昼はどうも」

 

「ああ、そんなのはいいさ。ほれ」

 

残っているのは冥利だけらしい。

彼は自身の持っていたものを時詠に渡す。

 

それは、風紀委員の腕章

 

時詠は特に部活や委員会にも所属していない。

そのためこういったものをもらうのは初めてだ。

 

「お前には期待してるぜ? なんせ他部隊とは違って独立遊撃隊だ。ただ風紀委員の制服はちょっち待っててくれや」

 

「独立……つまりどの隊にも所属せず自由に、ですか?」

 

「ケケッ、お前はその方があってると思ってな……隊員は姉ちゃんとお前の二人だけどよ」

 

やはり、冥利は時詠と姉の冥加をまとめたようだ。

確かにその方が、姉の暴走があった場合時詠が抑えてくれると考えているのだろう。

 

「あの腕見りゃ、お前は飛びぬけてるってわかったからな」

 

「そうですか……わかりました、承ります」

 

「ああ、頼むぜ……俺が抜けてる間もよ。しばらくこの学園は荒れるだろうからな」

 

と、そういえば姉の冥加の姿がない。

先に帰ったのだろうか?

 

「姉ちゃんならちょっと席をはずしてるぜ」

 

「……そうですか」

 

「置いたままの鉄球を片づけに行ってるんだが……お」

 

ガラッと、戸が開けられ……そこには鉄球6個をつけてきた冥加。

足に付けている鉄球と鎖を引きずる音が響く中、彼女は風紀委員室の隅っこに向かう。

 

 

 

よく見れば、そこには冥加の顔が書かれた小さな絵が壁に張られている

 

 

 

どうやらあそこが、彼女の鉄球を置く場所らしい。

しかし、実にわかりやすい。

 

「姉ちゃんはあの絵で場所を判断してるのさ……最初は、無造作に置かれていたからな」

 

「そ、そうですか……」

 

「あの絵もわざわざ美術部に頼んだんだぜ?……風紀委員は、例え姉であれ自身の得物は自己管理だ」

 

委員長である冥利もそうしているようだ。

だが冥加は実質ひきこもりなので、今までは風紀委員らが鉄球を磨いていたとか。

弟の辛さが、ひしひしと伝わってきた気がした時詠である。

 

「だから俺は、案外ホッとしてるぜ……こうして姉ちゃんが出てくれるようになったのはよ」

 

「……俺が言わなくても、いずれ彼女は自分から出てきたと思います」

 

「どうだかなあ……」

 

今は、自身で鉄球を磨いている冥加。

どうやら人に任せる、という考えを改めたのだとか。

時詠が出て言った間に、ここでのルールを話していたようである。

 

「とき」

 

と、突然冥加が声を出す。

少しぎこちないが、しっかり時詠の名を呼んでいる。

 

「なんだ?」

 

「……38746493736」

 

「雲仙先輩?」

 

「手伝えってよ……俺もらしい」

 

どうやら時詠と弟の冥利に対し、鉄球磨きを手伝えと。

冥加はポイポイと二人に布巾を投げてくる。

 

「「……やれやれ」」

 

渡された二人は苦笑し、冥加のそばで二個ずつ鉄球を磨きだす。

しかし、本当にズッシリと重く……確か一つ100kgだったろうか。

潰されないよう、改めて心がけた時詠である。

そうして鉄球磨きも終わり、もうすでに五時半。

下校時刻は過ぎているのだ……部活動も、そろそろ全て解散だろう。

三人は校舎を出て、校門へ向かおうとしていた。

 

「はあ……しかし、一日で色々起こった気がします」

 

「ケケッ、確かになあ……ま、俺は結構楽しかったと思えたぜ?」

 

「8364643947……とき」

 

「私は必ずお前を倒す、だと」

 

冥加の言葉をすぐに訳してくれる冥利。

しかし今後は冥加の言葉について、少し考えてみようと思った時詠である。

 

「そうだ、雲仙先輩」

 

「あ?」

 

「実は俺、さっき理事!?」

 

時詠は何かを言いかけ……口を閉じた。

そして目つきが変わったのを見て、雲仙姉弟もその視線の先を見る。

 

「あれあれ~珍しいなあ」

 

「おいおい雲仙、なんでお前がその一年とつるんでるんだ?」

 

「……こういうこともあるとはね」

 

「……」

 

そこにいる、4人の人影。

さっきまでは確かにいなかったのだが

 

「っ!? なんでてめぇらが!?」

 

「やっほ~雲仙くん、体は大丈夫?」

 

「……雲仙先輩、彼らは?」

 

時詠はあの4人を知っている。

だが、今は聞いておかなければおかしい。

冥利は……表情を険しく、苦々しく吐き出す。

 

「あいつらは13組の13人、そのうちの4人だ!」

 

噂の13組。

しかしその中でさらに選ばれた……そして、冥加が狙っていた席に座る者たち。

時詠と13人の13組は、本当の意味で……対面となる。

 




ついに姿を現す13組の13人。
サイコロ占いの結果。
時詠はどう動くのか……そして雲仙姉弟は。
ここまで読んでいただきありがとうございます。

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