めだかボックス~北斗七星の輝き~   作:kouma

6 / 22
第六話:静水のように

風紀委員との戦い後、一人帰宅した時詠。

その後何も行おうという気にはならず……夕食、風呂と済ませていた。

 

「……」

 

その時、ちらっと携帯を見て……暇なので少し鬼瀬に掛けてみた。

できれば、あの後どうなったのかだけを確かめたいと。

そうして数回のコールで電話がつながる。

しかし電話に出た鬼瀬の声は……少し、元気がない。

時詠は自身の事を他の風紀委員から聞いたのかと思ったが、そうではないようだ。

 

「君のところの委員長さんが生徒会長と……ふ~ん、そりゃまた派手だね」

 

『派手所じゃないですよ……私、あれが現実の光景かって目を疑いました』

 

無理もない。

子供が蹴りだけで壁を破壊する。

特殊な装備、火薬……挙げればきりがない。

それをいともたやすく扱い、破る。

 

そんな常識では考えられない、異常(アブノーマル)な13組

 

確かにマンガでも見た時、こいつらチートだろと思っていた。

もっとも……鬼瀬も十分その域にいると言いそうになったのは秘密だ。

しかしここでは、そんなのが学園内にゴロゴロしている。

 

「……君は何ともない?」

 

『え、ええ……私は特に』

 

「そっか、よかったよ……傷ついてたらどうしようかと」

 

『ふえっ!?……あ、いえ。私は特に関わらなかったから大丈夫です』

 

そう、正直誰も関わりたくないと思うのは普通だ。

なので鬼瀬の反応も当然だろう。

 

『と、とにかく! 今後学園が荒れるかもという話ですので霞くんも気を付けてください』

 

「ああ……ありがとう。それじゃ、おやすみ」

 

『はい、おやすみなさい』

 

電話を切り、時詠は電気を消す。

確かに今後学園が荒れるのは……避けられないことだった。

翌日、時詠が学園に行くと……至るところで補修作業が行われている。

確実に生徒会長のめだか、そして……風紀委員長雲仙冥利との激闘で出来たものだろう。

マンガでは結構いろいろ破壊されているが、すぐ直る……というわけではなさそうだ。

 

もっとも、箱庭学園にいる実力者たちなら別かもしれない

 

時詠はクラスに入ると、風紀委員長が怪我をしているという噂話を聞く。

やはりめだかの勝利で終わった……と、思いたい。

 

(……風紀委員らも、あれで少しは変わるかな?)

 

結局、昨日のことで登校時に身構えていたが何もなく。

普通に登校出来たので風紀委員と事を構える学園生活、という未来はなさそうである。

昨日も帰るまでに襲撃もなく、どうやら自分にかまってる暇もないようだ。

 

(ま、昼休み以降だろうな)

 

結局HRでは、校舎が半壊してる部分についての注意のみ。

それがここでは時たまあるということなのだろう。

クラスがざわつく中、ひそひそと昨日の事件を見たという話題が出てくる。

 

「会長」

 

「風紀委員長」

 

「ならいつも通り」

 

(いや、そこはどうだろうか)

 

やはりめだかが関わる、それだけで納得されてしまうのが逆に恐ろしい。

時詠は……心の中で溜息をしつつ、授業を受けていった。

そして昼休み……時詠は、一人で食事もとらずぶらついていた。

 

「……!?」

 

突如、何かが粉砕されるかのような音。

そして……悲鳴。

 

「来たか」

 

時詠はその方向へ……だが、さすがに今回の相手は木金コンビとはレベルが違う。

手加減したとしても、どこまでいけるか。

正直、めだかもそうだが……一応同級生で、女子はあまり傷つけたくない。

となればやることは一つ。

 

「!?」

 

ある教室前に付いてみれば、そこはすでに廃墟寸前。

しかし……野次馬が多い。

そして頭部から血を流しふらついているめだか。

さらに、6個の鉄球を鎖で体に繋げているメイド服みたいな改造制服を着ている女子。

 

(13組、雲仙冥加!)

 

彼女の初登場をマンガで見た時は……驚いていた。

だが、実際目の前で見てしまうと……

 

 

 

十分化け物である

 

 

 

女子で、あの体の細さであの鉄球を振るう。

異常としかいえない。

この場合では、そうなのだろう。

と、めだかが今も口に出しているのは……数字。

それの意味は、生憎時詠も理解していないが……まずい。

 

「65754352542335457(貴様から攻撃を受ける理由がない)

 999(ゆえに)

 325235123…114!(避ける理由が…ない!)」

 

「………8974523091(そうか ならば)

 21487214!!(もう一発喰らっておけ!!)」

 

冥加の鉄球がめだかに迫るが、彼女は動かない。

いや、避けようともしない。

 

「「!?」」

 

めだかの体がズレて、鉄球が壁にめり込む。

驚いたのは冥加だけでなくめだかだった。

そして気が付けば、自分が誰かに抱えられていると。

 

「なっ……」

 

「激流に逆らうどころか、敢えて飲み込まれる……受け流す俺とはまた、違うやり方だね」

 

「62983696?(なんだ貴様?)」

 

めだかを抱えているのは……時詠だった。

しかしその視線は、むしろ敵意に満ちている。

 

「……会長さん、悪いけど動かないでください」

 

「なにを!?」

 

「!?」

 

めだかは時詠に手を当て押しのけようとし……時詠は突然、めだかの左胸に手刀を突き入れる。

ズブッという感じが似合いそうなその一撃。

 

「しばらく動かないでください」

 

「ぐっ……な、に、を」

 

手を抜くとめだかは体を動かせないことに気づく。

まるで全身を見えないコンクリートで固められたような……いや、全身に指令を出しても指一つ動かせない。

 

 

 

(経絡秘孔・新壇中(しんたんちゅう)……これで彼女は、俺が解かない限り動けないはず……多分だが)

 

 

 

そうして、時詠は動かなくなっためだかを抱え……廊下に飛び出す。

抱きかかえたまま、走っていったのである。

それを呆気に取られ見ていた冥加ではあったが……すぐさま後を追いかけ始めた。

無論、周りの生徒を弾き飛ばしながらである。

 

「……ここらでいいかな」

 

「お、おい……貴様っ!? 私に、何を、したのだ!?」

 

時詠は人気のない体育館裏で止まる。

ここなら暴れても構わないし……昼休みの終わり近くだ、人もいない。

だが、めだかはいまだに動かせない自身の体の事で動揺している。

 

「会長さん、この勝負俺がもらいますよ?」

 

「何を、言ってる!?」

 

「……それじゃ」

 

めだかを地面に下ろし、時詠はめだかから離れた。

そうして彼女がいない場所で……突如、上を見る。

上空から降りてくる人影……冥加だ。

 

(パンツ丸見えだな)

 

冥加は右手の鎖を振るう。

その振るわれた鎖、その先に付いている鉄球を時詠へ投げつける。

時詠はそれを見て……軽く右に避けた。

 

「!?」

 

「いきなりか……容赦がない」

 

まさか避けれるとは思っていなかったのか、冥加が驚いたような表情。

そして続けざまにドズンッドズンッと、普通の人間が落ちる音ではない。

まあ周囲の鉄球が連続で落ちるため地響きみたいなのだが……

 

「さて」

 

「413629913?(お前も13組か?)」

 

「ああ、言葉通じないのはいいさ。でもま、これならわかる?」

 

ビッと、時詠は冥加にあるものを投げた。

冥加は向かってくるそれを……何か理解し、危険でないと判断したのか手に取る。

 

「……さあ、言葉はわからなくとも俺の自己紹介はそれでいいだろ?」

 

「……628129362897(……たかがノーマルごときが)」

 

時詠は眼を細める。

冥加は、手に持ったそれを地面に叩きつけた。

開かれたままのそれは……時詠の生徒手帳。

見たのは、落とした場合すぐ誰のかがわかる本人写真付きの学年組分けの項目。

そこを見て、視覚と数字言語の彼女は時詠のことを理解し……今、確実に怒りをあらわにした。

彼女から発せられる空気が重くなっていく。

 

「俺の事はわかったようだな……」

 

「89741997530974792375(弟が話題にすら出さない無名の男が)」

 

時詠の手が、冥加にこいこいという仕草を行った。

それを見た彼女の白く細い手が、鉄球の鎖を引きちぎりそうな勢いで握る。

 

「そんなん付けてたら動きが遅くなるよ?」

 

 

時詠の右手が鉄球を指さす。

次いで、右手で自分を指さし……団扇を扇ぐのとは違い、左右に手を振る。

鉄球は俺には効かない、そういうジェスチャーだろうか。

 

「……435254(……いいだろう)

 6892037253945790362(その軽薄さ、無神経さが私には許しがたい)」

 

その仕草の意味を理解したのか、彼女の顔から表情が消えた。

いや……逆に眼の鋭さが増したのだ。

 

 

 

「7542635624314652531425!(私は軽い相手を重く潰す!)」

 

「潰せるものなら潰してみろ!」

 

 

 

二人の視線が、ぶつかりあう。

時詠と13組が……ついに、激突する。




雲仙冥加登場。
次回、彼女とのバトルがほとんどになります。
……独自の数字言語、読みにくかったら申し訳ありません。
何気にめだかへ初の秘孔、成功です。
あと……鍋島さんごめんなさい!

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。