めだかボックス~北斗七星の輝き~   作:kouma

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第二十二話:迷える者たち

古賀と共に軍艦塔を昇って行く時詠。

しかし、用事とはいったいなんなのだろうか?

 

「そういえば霞君」

 

「はい?」

 

「最近名瀬ちゃん見てない? いっつもすぐ消えちゃうんだけど」

 

そういえばこの時期、名瀬は善吉に付っきりなのだろう。

だから時詠は

 

「すみません、わからないです」

 

とぼけることにした。

どのみち、庶務戦で聞かされることだと。

時詠は必要以上に介入しないためにそう答えたのだ。

 

「そっか、ごめんね変な事聞いて」

 

「いえ……古賀先輩、本当に名瀬先輩のことが好きなんですね」

 

「うん! 大事な友達だもん!」

 

名瀬がいたら無表情の中でさぞ喜んでいるのだろう。

もっとも、彼女も変わりつつあるのを自覚しているのだろうが……

 

「っと、到着だね」

 

「……失礼します」

 

ガラッと戸を開ける。

と、そこにいたのは善吉と名瀬を除くメンバー全員だ。

そこには日之影や真黒、瞳もいる。

 

「やあ霞君、急にすまなかったね」

 

「いえ、黒神先輩は」

 

「ああいいよそんなの。真黒で構わないから」

 

「では……真黒先輩、今日はどうしたんですか?」

 

そういうと、皆押し黙る。

時詠は妙な感じになるが

 

「単刀直入に聞こう、霞君……君はマイナス相手にまったく臆さず話していた」

 

「!?」

 

突然の言葉に、時詠は動揺を隠そうと必死だ。

良く見ればめだかを始め他のメンバー……瞳もジッと観察するように時詠を見ている。

 

「君は一体、何をしたんだい?」

 

「……何も。普通に、目を見て、話しただけです。逆にどうして臆すのかわからないですし」

 

「本当にそうか? 俺にはお前がただのノーマルに見えなくてな」

 

「日之影先輩の言いたいことはわかりますが、俺もここまで来るのに地獄の特訓をしたので……地獄のね」

 

神様との特訓。

あれはもしかしたら、ただの下地作りだけでなくある意味このためのものではないのかと。

それによく考えればメンタルのトレーニングもあった……

 

(神様は凶化合宿に近いものをはじめから行ってた、と思うべきかな)

 

だから別に過負荷と相対しても何も感じない。

いや、思えば最初「裏の六人」と会った時も特に感じなかった……もっとも、時詠自身が彼らもアブノーマルも同じような感じで受け止めているからだろう。

 

 

 

時詠からすればアブノーマルだろうがマイナスだろうが、能力だけで見てしまえば特に差はない

 

 

 

感じられる相手からの気配も、特に気にならない。

それは時詠が彼らを転生する前から知っているため、友達になれるかもと考えていたせいかもしれない。

気持ち悪いとも感じられないし、姉の時音についてはやはり身内故に怖くなることの方が大きかった。

だが……今の時詠には、もはやそんな考えもない。

 

「皆さんが俺をどう思っていようが、関係ありません」

 

「……霞同級生」

 

「俺は普通だから、こう思ってしまう……好きなものは好き、嫌いなものは嫌いと」

 

時詠はそこでめだかを見て目を細める。

 

 

 

「だからあなたのことは正直……好きになれない」

 

「!?」

 

 

 

突然の言葉。

それに一同は驚くが

 

「何も驚くこともないでしょう?……俺は黒神会長を支持していない貴重な箱庭学園生ですし」

 

「なっ……か、霞君!? 君はそうなのか!?」

 

「阿久根先輩、最初から俺は支持していませんよ……最初から」

 

阿久根と喜界島。

二人がかなりムッとした顔になる。

しかし時詠は、めだかの全てが嫌いということはないのだが

 

「なるほどね。君の言葉の意味、わかるわ。それこそ普通だものね」

 

「はい、人吉さん。アブノーマルだとかマイナスだとか……関係ないんです、そんなものは」

 

瞳はそんな時詠の言葉に頷いていた。

時詠はめだかが嫌いだ。

別に深い意味はない……ただ、気が合わないと思えるから。

それは誰でも抱くものだと思われるが

 

「俺は嫌いな敵を排除する普通な人間ですから」

 

「霞同級生の言葉の意味は、私もわかる」

 

めだかははっきり言う。

だが時詠にとっては、彼女の言葉こそどうでもいいものだ。

 

「ま、俺は人吉……失礼、友達の危機なら駆けつけたい気分だが貴方の危機は割とどうでもいい」

 

「……」

 

「ただ、マイナスのやり方が気に入らないってだけだからね……彼らが嫌いなわけじゃない」

 

そう、あんなやり方は誰だって反発する。

時詠の姉である時音も実際は興味ないのか動いていない。

生徒会が一新されたところで、すぐにまた反発がくるだろう。

彼らはそれを理解したうえでやっているのだ。

 

「話してみれば中々面白いと思いますよ?……でも、俺はできれば彼らとも仲良くしたいなと思ってる」

 

「……霞同級生」

 

「黒神会長には、俺にできないことをやってもらいたい……俺は嫌いなものを排除するけどね」

 

それだけ言い、時詠は背を向け戸に手をかける。

 

 

 

「黒神めだかさん、貴方には……普通の俺ができないようなことを、してほしい」

 

 

 

時詠はそのまま出ていった。

ただ、言いたいことは言えた。

敵だと決めると、時詠は排除する。

できる限り避けたいが、除け者にすることだってやるかもしれない……時詠はどこにでもいる男子高生なのだから。

風紀委員としても、生徒会だろうが過負荷だろうが一方的な暴力を振るう者は敵だ。

 

だがめだかは違う

 

普通の時詠と違うのだ。

普通の善吉とも違うのだ。

 

(……俺、思えば戦ってばかりだなあ)

 

そうして校門を出た時詠。

今日は訓練は終わりなのだ……そのまま、病院へ向かう。

すでにブレーキは効かない、あとはできるとこまでやるだけ。

院内へ入るとどうやら他の風紀委員らが冥利を監視というか、抜け出さないよう巡回しているようだ。

 

「あら、霞君」

 

と、ドアから出てきたのは副委員長の呼子。

先ほどまで雲仙と話していたのだろう。

 

「どうも副委員長……雲仙先輩は」

 

「今は起きているわ、貴方も……頑張ってくださいね」

 

「……はい」

 

そうして彼女と別れる。

時詠はそのまま戸をノックし、返事が来たので中に入る。

 

「雲仙先輩」

 

中にいたのは、ベッド上でゲームをしている冥利。

冥加と鬼瀬はいないようだ。

 

「よお霞……そっちは色々大変そうだな」

 

「先輩も……どうやら抜け出す用意はできてそうですね」

 

「ケケッ、やっぱお前はわかってるな……ああ、姉ちゃんは鬼瀬ちゃんと散歩だ」

 

その言葉に時詠は目を見開く。

だが、ある意味納得だ。

 

「お前のおかげだぜ……姉ちゃん、友達ができたって喜んでるしよ」

 

時詠は二人と何度か一緒に話をしていた。

そのたび冥利が通訳なども行っていたが

 

「ボケの姉ちゃんと突っ込みの鬼瀬ちゃんでバランスいいしな」

 

「あはは……似合ってますね」

 

「会話ってほどじゃねえけど、なんとなく通じ合えるようになってきたんだろうさ……お前みたいによ」

 

冥利は不敵な笑みを浮かべたまま。

時詠は目を閉じ口元に笑みを浮かべたまま。

 

「黒神のやつはどうだ?」

 

「……正直、勝てないでしょうね」

 

「そうか……ま、今のままならってことだろ?」

 

「はい……拒絶したまま、全てが終わるなら楽ですけどね」

 

「……あいつの生徒会長としての器が試される戦いでもあるわけだ」

 

と、冥利はそのまま手にしたゲーム機を置く。

だが、彼は彼で他にも心配事があるようだ。

 

「霞、発破かけてきたんだろ?」

 

「……なんのことでしょうか?」

 

「敵に塩を送る、ってか……お前もあいつが嫌いなんだな~」

 

どうやらすべてお見通しらしい。

末恐ろしい先輩だと時詠は苦笑する。

 

「では、また」

 

「おうっ……姉ちゃんと鬼瀬ちゃんを頼むぜ」

 

「はい」

 

そう言い時詠は病室を後にする。

だが、出ていった二人はどこだろうか……と

 

「冥加さん! 病院で鉄球はだめだとあれほど」

 

「26……2849473」

 

「っ……そ、そんな可愛く小首をかしげてもだめです!」

 

いた。

やはりあの二人、ものすごく目立つ。

髪の色もそうだが……

 

 

 

鬼瀬はともかく冥加がミニサイズの鉄球をぶらさげている

 

 

 

時詠は少し頭痛を覚えたのか額を抑えた。

二人は確かに入院用の服なのだが……

 

「病院内ではお静かに」

 

「それどころでは……って、霞君!?」

 

「とき」

 

二人が気づき、こちらに駆け寄ってくる。

どうやらすっかり良くなったようだ……もっとも、秘孔を突いておいたおかげかもしれない。

原作ならまだこの二人以外にも、13組の13人は入院などをしているはずだった。

時詠が救出時に全員の秘孔を数か所突いたことは……秘密のままだったが。

 

「あはは、二人とも元気そうじゃん」

 

「……ま、まあ確かにそうですが」

 

「4843746」

 

やはり二人とも、本調子に戻ってきている。

あの震えていた姿が嘘のようだ。

 

「まあ、夏休みも始まったばかりだし。今はゆっくりした方がいいよ」

 

「霞君……でも、霞君は今一人で」

 

「鬼瀬さん、学園の方は俺に任せて……君はまず、万全の状態に戻すことだ」

 

「……はい」

 

鬼瀬もすでに冥加から聞いているのだろう。

現在の学園の状況と、時詠の立場について。

しかし

 

「とき」

 

「?」

 

「……」

 

冥加は、少し余所余所しい。

ミニ鉄球の鎖をいじりつつ、何か言おうとしているようだが

 

「が……ん、ばっ…て」

 

「!?」

 

そう言い顔を下に向けてしまう。

心なしか、顔も赤い。

 

「冥加さん、今」

 

「……まあ私と雲仙先輩が今、冥加さんを普通に話せるよう勉強してるんですよ」

 

「そっか……鬼瀬さんも、冥加さんと友達になれたんだね」

 

「ま、まあ私としても同じ風紀委員のメンバーとしてもありますけど」

 

時詠は嬉しそうに声を出し、鬼瀬は……やはりどこか嬉しそうだった。

冥加が喋れるのは相当後のことだと思ってたが、もうここまできている。

おそらく原作の入院中では触れなかった……鬼瀬の存在が、冥加を少しずつ変えてくれる。

 

(変われるんだ……誰だって、変われるんだ)

 

過負荷だって、必ず変われるはずだ。

多少の違いはあっても、いろんな出会いは……無駄にはならない。

 

「二人の応援があれば負けないさ」

 

「っ!? ま、また調子のいいことを言いますね」

 

「……82736」

 

最後の冥加のセリフ。

あきれ顔だったようにもみえ、単純とか言ったのだろうか。

そうして二人はこの後健診があるようで時詠と別れ、時詠も帰るのか冥利の病室へ挨拶するために戻った。

 

「では先輩、俺は」

 

「あ~霞、そのな」

 

と、冥利は時詠の言葉を遮る。

そのままばつが悪そうな顔で後ろ髪をかきながら口を開いた。

 

 

 

「二兎を追う者は一兎をも得ず、って知ってるか?」

 

「はい……ことわざですよね」

 

「まあそうなんだが……お前みたいなやつは二兎以外にもありそうだから精々気をつけな」

 

 

 

それだけ言い、冥利は寝るのか布団をかぶってしまう。

時詠はよくわからないが、失礼しますといい出ていく。

冥利は今後、自身の姉もそうだが……面白そうなことになりそうだと、苦笑していた。

決戦の日は近い。




いよいよ近づく生徒会戦挙。
時詠という存在がどのような影響を与えていくのか。
そしていまだ動かない時音。
何より冥利の言葉の意味とは?

ここまで読んでいいただきありがとうございました

あと……過負荷編が終わったら、番外編を予定。

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